MENU CLOSE

WORLD

ゴミ出し「犯人」は外国人?大声に苦情…不毛な摩擦が招く生きづらさ

「もし日本人が大声で話していたら、外国人と同じように厳しく注意していたでしょうか?」

筆者の大学時代の友人、亀井志保さん作。(記事中に登場する)「ゴミ出しの犯人」だと疑われてしまった外国人女性の悲しい心境に、思いを寄せながら、描いてくれた。高校・大学時代に、アメリカや台湾など海外での生活が長かったからこそ、日本での外国人差別を見聞きする度に胸が痛む。「日本社会の中にも様々な形で『多様性』はある。身近なこととして考えてくれる人が増えたらうれしい」
筆者の大学時代の友人、亀井志保さん作。(記事中に登場する)「ゴミ出しの犯人」だと疑われてしまった外国人女性の悲しい心境に、思いを寄せながら、描いてくれた。高校・大学時代に、アメリカや台湾など海外での生活が長かったからこそ、日本での外国人差別を見聞きする度に胸が痛む。「日本社会の中にも様々な形で『多様性』はある。身近なこととして考えてくれる人が増えたらうれしい」

目次

ある日、留学生のアパートの郵便受けに入っていたゴミ出しルールの注意書き。でも後日、分別を間違えていたのは日本人の住民だとわかった――。日本独特の公共ルールやマナーに戸惑う外国人は、少なくありません。日本人側が、悪いのは外国人だと決めつけるなど、差別につながったケースもありました。共生社会は誰のためにあるのか? 外国人に優しい社会は、日本人も住みやすいはずなのに……。現場の事例から、共生社会の今を考えます。(withnews編集部・小川尭洋)

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

ゴミ出しカレンダー、自分のポストだけに

「ゴミ出しのルールはきちんと守っているのに、どうして?」

数年前にマレーシアから来日した大学院生は、今年1月、アパートで、ゴミ出しカレンダーが自分の郵便受けだけに入れられていることに、戸惑いました。
差し入れ口から見える限りでは、他の郵便受けにはカレンダーは入っていませんでした。英訳つきで、外国人だと意識して投函されているようでした。しかも、同じカレンダーは1年前にも配られていました。

町内会にたずねたところ、間違った分別で出されたゴミ袋があったため、中身を開け、所有者の住所を推測したと説明されました。
ところが、後に、ゴミの分別を間違えたのは、同じアパートの日本人の住民だったと判明したそうです。

「私は、もし悪いことをしたら直接伝えてほしいタイプなので、このような“passive aggression”(受動的攻撃行動)をされたのは、とても悲しかったです。“ルールを破る=外国人”だと決めつけないでほしい」

もし、自分の郵便受けだけに、ゴミ出しカレンダーが入っていたら・・・(写真はイメージです)
もし、自分の郵便受けだけに、ゴミ出しカレンダーが入っていたら・・・(写真はイメージです)

外国人のマナー違反への「注意」で終わらず、差別発言になっているケースもありました。

「電車内では大声で話すな。君らみたいなバカな外国人のせいでコロナが流行っているよ」
名古屋に住む大学3年生のインド人(21)は、電車でマスクをつけながら友人と談笑していた時、知らない男性から、怒鳴りつけられました。

「会話が盛り上がって、気づかないうちに大声になったのは申し訳なかったのですが、『外国人のせい』と言われたのはショックでした。もし日本人が大声で電車で話していたら、同じように厳しい口調で注意していたでしょうか?」

中国人の大声電話に怒声「何とかしろ!」

筆者も昨春、異文化の摩擦が起きた現場に居合わせました。深夜、東京都内のステーキ店に入ると、突然、中年男性の怒声が響きました。

「あのうるさいヤツを何とかしろよ!」

中年男性の視線の先には、食事をとりながら大声で電話をしている中国人の青年がいました。厨房から出てきた店員が、青年に通話を控えるよう声をかけましたが、日本語が通じていない様子でした。
中年男性は足を踏み鳴らしながら、青年に険しい視線を向けていました。不穏な空気が漂う中、青年は食事を残したまま、電話を切り、店を後にしました。

中国語が話せる筆者は、事情を説明してあげたいと思い、青年の後を追いかけました。事情を理解した青年は「怒っているような雰囲気は感じたから、店を出たんだけど、さっきは、周りが何言っているか全く分からなかった」と言いました。美容師の技術を学ぶため、数日前に来日したばかりだったそうです。

「説明しなくても分かる」 同質性が影響

こうした文化摩擦を避けるにはどうすれば良いのでしょうか。多文化共生に詳しい専門家に話を聞きました。

甲南女子大学の野崎志帆教授(多文化教育論)は、ステーキ店でのケースについて「『説明しなくても分かるはずだ』という“社会の同質性”を前提にした考え方によって生まれる、異文化間のディスコミュニケーションの典型例だ」と指摘します。

「日本人は、外国人とのコミュニケーションにおいて、丁寧に説明する必要がある場面で、それをしようとせずに、相手が自分にとっての「あたりまえ」に沿った行動をとることを一方的に期待してしまう傾向にある。来日したばかりの外国の方でも、ジェスチャーや文字を交えつつ説明すれば、分かってくれる場合が多いのに、残念ですよね」

日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩さんは、国や自治体の政策の重要性を強調します。「現場の対応だけに任せるのではなく、日本人側と来日した外国人側の両方へのオリエンテーションが必要です」。

多くの文化摩擦のケースについて「『外国人はマナーが悪い』『日本人に差別された』と、互いに誤解したままになってしまう。日本人側も、どういう背景でマナーを守れていないのか、想像することも必要でしょう」と訴えます。

日本に居住している外国人に関し、現在、どのような人権問題が起きていると思うか聞いたところ、「風習や習慣等の違いが受け入れられないこと」を挙げた者の割合が41.3%と最も高く、以下、「就職・職場で不利な扱いを受けること」(30.9%)、「アパート等への入居を拒否されること」(24.6%)、「差別的な言動をされること」(22.4%)、「職場、学校等で嫌がらせやいじめを受けること」(20.6%)などの順となっている。
内閣府の世論調査

ホームステイ先で「水シャワー」 気遣ってくれた家族

かつて、筆者自身も「外国人」を経験しました。大学時代に、多民族国家のインドネシアで1週間のホームステイをした時のことです。

カレンダーには、イスラム教だけでなく、ヒンドゥー教やキリスト教などの祝祭日も、詳しく記されていることに驚きました。レストランでは、筆者が食べ方に困っていると、店員が進んで説明してくれたことが何度もありました。

また、インドネシアでは、常温の水でシャワーを浴びるのが一般的なのですが、ホストファミリーは、わざわざ鍋で水を温め、提供してくれました。筆者の戸惑う様子を見て、気遣ってくれたのでしょう。その優しさが、涙が出るほど、うれしかったのを思い出します。

様々な民族や宗教を尊重する考えがあるからこそ、こうした対応が自然と行われているのだと感じました。

外国人に優しい社会は、国籍に限らず、様々な「違い」に寛容な社会だと言えます。それは、国籍や民族に関わらず、誰もが生きやすい社会につながるのではないでしょうか。ちょっとした優しさ一つで、社会は大きく変わると思うのです。

ホームステイ先の子どもたちと写真を撮った筆者(右端、当時は大学2年生)=2012年2月、インドネシア・スマラン
ホームステイ先の子どもたちと写真を撮った筆者(右端、当時は大学2年生)=2012年2月、インドネシア・スマラン

 冒頭のイラストは、筆者の大学時代の友人、亀井志保さん作。「ゴミ出しの犯人」だと疑われてしまった外国人女性(記事の冒頭に登場)の悲しい心境に思いを寄せながら、描いてくれました。

 亀井さんは、高校・大学時代、アメリカや台湾など海外での生活が長かったからこそ、今の日本での外国人差別を見聞きする度に、胸を痛めています。「日本社会の中にも様々な形で『多様性』はある。身近なこととして考えてくれる人が増えたらうれしい」。そんな願いを、イラストに込めました。
 
  初めての留学先は、ヒスパニック系移民が多い米テキサス州ヒューストン。現地の高校で1年間過ごし、通常授業のほか、移民や留学生向けの英語の授業も受けました。誰もが平等に学べる体制に感心したといい、「日本の学校でも、外国人向けに日本語や日本文化を学ぶ授業があったら良いと思う」。
 
 日系企業の香港駐在を経て、現在は、日本マイクロソフトに勤務。IT技術は、人種や国籍、性別、年齢に関係なく、その人の未来を切り開く可能性を秘めています。共生社会の花が開くことを信じ、日々、企業の運用サポートなどにあたっています。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます