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こども庁の議論〝決定的に足りないこと〟権利について考えてますか?

「子ども」と「大人」は年齢で区切ることができるのでしょうか?

「子ども」と「大人」は年齢で区切ることができるのでしょうか?
「子ども」と「大人」は年齢で区切ることができるのでしょうか? 出典: pixta

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自民党が「こども庁」創設に向けて意欲を示しています。ですが、そもそも「子ども」ってなんだっけ――?法律的な定義はあるのか、また子どもにはどんな権利が保障されているのか、日本が1994年に批准した「子どもの権利条約」について詳しい、弁護士の一場順子さんに聞いたところ…今の議論に〝決定的に足りないこと〟が見えてきました。

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成長発達していく存在…「保護」と「権利」の狭間

――法律の観点からみたときに、「子ども」と「大人」は年齢で区切ることができるのでしょうか?

「現行の法律で『子ども』を年齢で定義しているものは少ないです。民法では20歳未満が『未成年』(2022年からは18歳未満)だし、児童福祉法では18歳未満が『児童』として定義されています。子ども・若者育成支援推進法に至っては、年齢の区分に関する規定はありませんが、同法に基づいて策定された『子ども・若者ビジョン』で『子ども・若者』の定義に40歳未満までを入れている施策もあります」

「そもそも子どもとは成長発達をしていく存在です。『保護』と『権利』のバランスが年齢によって変化していきます。だから、現行の法律はその目的・趣旨ごとに合わせて名称も年齢も違います」

「もしも今後『こども庁』を考えるのであれば、『子どもとは』という概念を法律で定めることが必要です」

「そもそも子どもとは成長発達をしていく存在です。『保護』と『権利』のバランスが年齢によって変化していきます」
「そもそも子どもとは成長発達をしていく存在です。『保護』と『権利』のバランスが年齢によって変化していきます」 出典:pixta

「どんな小さな子どもにも権利がある」、意識してますか?

――「『保護』と『権利』のバランスが年齢によって変化する」というお話がありました。子どもの権利を定めることで、「子ども」は定義づけられるのでしょうか。

「憲法では日本国民の人権が保障されています。対象は日本国民なので、未成年者も入ります。一方で、未成年者は原則として法律行為を自分一人でする能力がないとしているのが、民法。つまり、人権は生まれたときから保障されてはいるけれど、未成年者は結果的に賃貸借契約などの法律行為が単独ではできず、未成年者の権利には、大人の場合とは違った制約がかかると考えられています」

「ただ、日本では子どもの権利が曖昧です。現行のあらゆる法律で、『子どもとは何歳未満で、どんな権利が保障されなければならないのか』ということを、まずうたわないといけないと思います」


――権利の保障をうたう必要性があるということでしたが、「『保護』と『権利』のバランス」とおっしゃったうちの「保護」についても教えてください。

「子どもの権利が制約される背景には、『子どもには権利がある。でも保護も必要』という二律背反があります」

「その『保護』と『権利』の割合が問題だと感じています。世間では子どもは保護の対象として考えられることが多く、『どんな小さな子どもにも権利がある』というのが一般世論には浸透していないのではないでしょうか。保護の意識が強くなりすぎると、支配しようとする親も出てくるでしょう。それは虐待につながりかねません」

「もちろん、生まれたばかりの子どもは100%保護しないといけません。でも、成人に近い子どもは押さえつけず、自主性を尊重しないといけないのではないでしょうか。子どもは成長・発達している存在で、社会の中で自立していきます」

年齢で大人と線引きすることは可能?

――いままでのお話を「保護と権利」の視点から聞くと、年齢によって子どもと大人の線引きをするのは難しいように感じます。

「確かに、子どもは成長発達していく存在であって、その段階は個人でそれぞれ違います。でも線引きせざるを得ないですよね」

「というのも、それぞれの法律で定義が違うとすごく不便なんです。例えば、児童養護施設で生活してきた子を例に挙げると、児童福祉法でいう『児童』は元々18歳未満ですが、民法の『未成年者』は現状では20歳未満。18歳で措置が解除され、『一人で生きていきなさい』と言われても、その子は20歳まで家すら借りることができません。そこでできたのが自立援助ホームだったりします」

「ただ、現行の法律に関しては、目的趣旨が異なる場合には、例えば少年法のように保護を強くした方がいいものもあります。それぞれの法律の趣旨に合わせて定めて運用していくのがいいとは思っています」

「もちろん、生まれたばかりの子どもは100%保護しないといけません。でも、成人に近い子どもは…」
「もちろん、生まれたばかりの子どもは100%保護しないといけません。でも、成人に近い子どもは…」 出典:pixta

子どもの定義がなければ「絵に描いた餅」

――今の「こども庁」の議論には何が足りないと思いますか?

「こども庁の創設より先に、法律で『子どもってこういうもので、こういう権利が保障されないとならないですよ』ということを定義しないと、絵に描いた餅になってしまうのではないでしょうか。基本理念がないと、省庁をつくったって『どこに骨があるんですか?』という話です。子ども基本法とセットじゃないと意味がないと思います。その際、子どもの権利の保障が根幹にあるべきなんです」

「現状では、子どもの権利をうたっているのは児童福祉法だけ。「子ども基本法」のようなかたちで権利をうたうことができれば、赤ちゃんも17歳も子どもという前提の上に、『子どもって保護も必要だし、権利も必要だよね』と言うことができます」

「もし法律を制定しないにしても、せめて、(ユニセフが定め、日本は1994年に批准した)子どもの権利条約をベースにするとか、理念にするとかした方がいいですね」

「子どもの権利条約では以下の4原則を掲げています」

(1)生命、生存及び発達に対する権利
(2)子どもの最善の利益
(3)子どもの意見の尊重
(4)差別の禁止

「このうち『生命、生存および発達に対する権利』について、子どもは成長発達する存在だから保護が必要だけど、年齢によってそれは異なるし『子どもの最善の利益』だって、0歳の最善の利益と17歳の最善の利益は違います。そういった年齢による権利の違いについては具体的に考えていくべきでしょう」

一場順子(いちば・よりこ)弁護士。国連子どもの権利委員会への日弁連報告書の作成提出に関わるなど、子どもの権利条約に詳しい。日本ではじめて作られた民間の子どもシェルターとしてのNPO法人カリヨン子どもセンターの設立に理事として携わる。子どもを権利の主体としてとらえる子どもの権利条約の理念を日本で実現すべく、活動を続けている。
一場順子(いちば・よりこ)
弁護士。国連子どもの権利委員会への日弁連報告書の作成提出に関わるなど、子どもの権利条約に詳しい。日本ではじめて作られた民間の子どもシェルターとしてのNPO法人カリヨン子どもセンターの設立に理事として携わる。子どもを権利の主体としてとらえる子どもの権利条約の理念を日本で実現すべく、活動を続けている。

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