連載
#1 #コミュ力社会がしんどい
「あのさ、帰れば?」同僚の言葉に戦慄…コミュ障と闘う漫画家の半生
「人間が嫌い、でも寂しい」
「コミュ障の、人間嫌いです」。ゆめのさんは自らの性格について、そう表現します。
雑談が苦手。会食の場で、他の人と同じタイミングで笑えない。お店のスタッフに話しかけるのがつらい。人と顔を合わせると、何だか気疲れする……。繊細な性格が災いし、そこはかとない生きづらさを、身にまとわせながら暮らしてきました。
保育園に通っていた頃に、兆しは出ていました。家族と普通にしゃべれるのに、友達の前では黙ってしまう子どもだったのです。成長するにつれ、状況は悪化するばかり。中学校時代には、うまくクラスになじめず、不登校も経験しました。
高校に進学すると、何とか生活リズムを整え、学校に通えるようになります。そして接客業のアルバイトを始めたことで、他人と交わることへの抵抗感が、少しずつ薄まっていきました。
ある日のことです。ゆめのさんは、バイト先の同僚から、カラオケに誘われます。「オールしよ~!」。思いも寄らない声がけに、胸を高鳴らせて参加しました。
ところが。仲良しグループが盛り上がる一方、全く輪に入ることができません。部屋の隅っこで、ぽつんとたたずむばかりです。その様子を見かねたのでしょうか。ゆめのさんをカラオケに誘った同僚が、衝撃的な言葉を発しました。
「あのさ、帰れば?」
「あ、はい」。泣きながら自転車をこぎ、帰路につくゆめのさん。満天の星空の下、大声で本音を叫びます。
「みんなみんな、嫌いだー!」
人間関係に絶望しながらも、何とか現実と折り合ううち、いつの間にか30代になっていました。その過程で、心を許せる、何人かの友人と知り合えたことも。誰かから拒絶されたという、苦い記憶は消えないけれど、段々と前に進んでいる感覚も抱けています。
コミュ障の悩みは、いつまで続くのか。もしかしたら今の性格のまま、40代・50代を迎えてしまうかもしれない――。未来への不安を抱きつつ、かすかな希望を込めて、ゆめのさんはこんな言葉で漫画を締めくくりました。
「おばあちゃんになる頃には、コミュ障を卒業して、世話好きな明るいおばあちゃんになりたいものです」
幼少期からの付き合いである、コミュニケーションにまつわる悩み。ゆめのさんは他人を嫌いつつ、人生に欠かせない存在として、上手に付き合おうと努力してきたそうです。
「30代にもなったら、コミュ障から卒業できるだろうと漠然と思っていたんです。でも、全然でした。コミュ力ってすぐに衰えるから、毎日の絶え間ない努力が必要ですよね。難しい……」
「人間関係の煩わしさは、誰もが抱えるものです。人付き合いなんて煩わしいだけ。傷つくくらいなら、関わらない方がいい。でも一人では生きていけないし、寂しい。人とうまく交流したい……。そんな気持ちが、自分の中に渦巻いている気がします」
ゆめのさん自身、まだ最適解を見つけられたわけではありません。それでも、日々もがいていく中で、状況を好転させるヒントを得たい。そのような気持ちで、漫画を描いていると教えてくれました。
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