お金と仕事
売り上げ減った企業に〝困窮家庭〟を救ってもらうというカラクリ
コロナで「困っている」を掛け合わせる
新型コロナウイルスにより、様々な社会問題が発生しています。でもマイナス同士を掛け合わせてプラスに出来るのがSDGsイノベーション。収入が減って食費に苦労する家庭と、外出禁止で売り上げが減ったお店。両者を掛け合わせることで、困り事をプラスに転換できるのです。今回はコロナによる課題を上手く掛け合わせて解消する方法を考えてみます。
今回注目する課題は主に二つ。
一つはコロナ不況によって困窮に陥る家庭が増えたこと。ご存じの通り飲食や旅行業界を中心に多くの人が職を失っています。そしてそのような大人の困窮は、彼らのこども達にも当然影響します。具のない袋麺ばかりを毎日食べるようになった家庭など、育ち盛りに十分な栄養を得られない子ども達の話も以前より多く聞くようになりました。
もう一つは飲食店やホテルを中心に売れていた高品質な食材の買い手がつかず無駄になっていること。これはコロナが落ち着くまでは当面続きそうです。
一方は食料を必要としていて、もう一方は食料を必要としてくれる人を必要としている。それなら両者を生産者から買い取ってこども達に振舞えば両方解決ですね。
問題はお金をどうするかです。石油王が巨額の寄付をしてくれれば早いのですが、知り合いに石油王もいないのでそんな奇跡は期待できません。そこで企業が寄付をしたくなるような工夫として目を付けたのが「企業版ふるさと納税」です。
個人版ふるさと納税はご存じの方も多いかもしれません。個人が自治体に寄付すると寄付額に応じて美味しい特産物を送ってもらえたりする制度ですね。税制優遇も受けられるので実質2,000円で山ほど高級食材をもらってる人もいます。
企業版は少し違います。癒着を防ぐため、企業版ふるさと納税では寄付した企業が自治体から直接的に見返りを得てはいけません。そのかわり寄付額の最大9割分の税制優遇が受けられることになっています。100万円寄付して90万円分の税制優遇を受けられれば100万円の寄付が実質10万円でできるイメージですね。
多くの自治体が企業版ふるさと納税を募集しています。でも企業から見たら100万円だろうと10万円だろうと外部にお金を払うことに変わりはありません。10万円であっても見返りのない社会貢献に稟議を通すのは至難の業です。CSR担当がどんなに社会貢献をしたいと思っていても気持ちだけでは会社のお金は動かせません。寄付の稟議を通すための建前として企業メリットが必要になってくるのが企業版ふるさと納税の課題になっています。
ここでコロナで深刻化した2つの課題解消法を思い出してください。誰かが買い取って子ども達に提供してくれれば2つとも即解決でしたね。そんな石油王みたいなことを企業がやってくれたら生産者や子ども達はメッチャ嬉しいですよね?それをちゃんと伝える方法があれば企業側も「イメージアップ」というメリットを間接的に得られるはずです。
そこで思い出したのが、寄付をしてくれた生産者や企業に対して感謝するこども食堂の方々です。
私は食材の寄付を申し出てくれる企業の方々と全国のこども食堂をマッチングしてきたのですが、寄付をした企業はいつもメチャクチャ感謝されます。こども食堂の運営者も子ども達に寄付者のことを話してくれるので、その企業は子ども達の心に残ります。
中にはわざわざ御礼のメールや手紙を送る運営者や子ども達もいます。普通の広告を1億円打っても企業が感謝されるかどうかわかりませんが、特産物を送る時に「誰からの寄付か」を伝えるだけで企業のカッコいい一面を伝えられるのです。この建前があれば稟議を通せるCSR担当の方もいるのではないでしょうか?
思考実験ばかりしていても仕方ないので、自治体でふるさと納税担当の方に聞いてみました。
最初に声をかけたのは北海道の猿払村さんです。聞けば村の特産物であるホタテの需要が細って困っているとのこと。国内での消費低迷に加え、盛んに行われていた海外への輸出が激減しているそうです。
制度の導入なので長期戦覚悟で提案してからわずか30時間。企業版ふるさと納税を原資にホタテを購入して全国のこども食堂に送る形式ができることになりました。スーパー公務員のお役所仕事は爆速です。
配送するホタテの段ボールにECサイトのチラシを封入しておけば食堂の運営者は次回以降“お礼買い”をしてくれる人もいるかもしれません。自治体側としては新たな販路拡大にもつながるんですね。どうせチラシを入れるなら寄付企業からの「いっぱい食べてね!」の手紙も入れられるようにしましょう。直接的でなくても、遠くの自治体や企業から気にかけてくれる大人が存在すること。一部のこども達にはそれが生きる上で重要な心の支えになるからです。
いろんな課題を掛け合わせた結果をまとめるとこうなります。
・自治体⇒特産物が売れてPRにもなる & 若い世代の関係人口を創出できる
・こども達⇒コロナ禍の中でもしっかりしたものを食べられる
・企業⇒税制優遇を絡めて自社のファンを開拓
なお、この制度は猿払村の他にもいくつかの自治体でも検討いただいています。近い将来、こども食堂運営側が、必要な食材をいくつかの自治体の特産物からチョイスできる形にする予定です。
コロナで生まれた課題同士も、かけ合わせれば”生産者とこども達のサポートが自社PRにもなる仕組”に昇華出来るのです。
次回は更に自動販売機やプロスポーツを掛け合わせていきますので、自分だったらどのような仕組を作るか考えてみてくださいね。
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