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連載

#6 アフターコロナの課題

「空間除菌」用品、10年前から問題視 「売れるから作る」スパイラル

2011年11月の国民生活センターの注意喚起。
2011年11月の国民生活センターの注意喚起。

目次

コロナ禍で「売れ筋」となる空間除菌用品ですが、さまざまな問題点が指摘されています。しかし、このような商品は実は以前から販売され続けているもの。長らく効果が認められていないにも関わらず、なぜ空間除菌をうたう商品がなくならないのでしょうか?(withnews編集部・朽木誠一郎)
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10年前から続くいたちごっこ

空間除菌については、WHOや厚生労働省などの公的機関がはっきり「非推奨」としています。医薬品や医薬部外品として認められた商品はなく、したがって人の病気を防ぐ効果はうたえません。それにも関わらず「空間除菌」といういわばキャッチコピーで、“防げそう”なイメージを与えているのです。

感染症対策コンサルタントの堀成美さんは空間除菌について「不安ビジネスでもあり、人々や社会に負担を増やしているのはよくない。宣伝に惑わされず、必要な対策を実施してほしい」と指摘します。

では、このようなビジネスは新型コロナウイルスの感染が拡大した最近になって始まったものかと言えば、そうではありません。感染症の定期的な流行を背景に、空間除菌も定期的な流行を繰り返してきました。

消費者庁は2014年3月、二酸化塩素を発生させる商品を部屋に置いたり首から下げたりするだけで空間除菌が行えるとした宣伝に根拠がなく、景品表示法違反に当たるとして、17社に行政処分を下しています。この中には空間除菌用品の販売シェアの多くを占めるクレベリンを販売する大幸薬品も含まれていました。

それから6年後の2020年5月にも、消費者庁が「身につけるだけで空間のウイルスを除去」などとうたっていた販売事業者5社に対して、「合理的根拠がないおそれがある」として行政指導を行っています。

さらにさかのぼると、2011年に国民生活センターが行った調査において「二酸化塩素による部屋などの除菌をうたった商品は、様々な状況が考えられる生活空間で、どの程度の除菌効果があるのかは現状ではわからない」と結論づけられています。

厚生労働省は現在も「これまで、消毒剤の有効かつ安全な空間噴霧方法について、科学的に確認が行われた例はありません」として、同様の見解を示しています。10年に渡り問題が起き続けている様は、まさにいたちごっこです。

2021年2月現在、街を歩けば「空間除菌中」とアピールされた店舗を未だに見かけます。入場時に消毒液を全身に噴霧するイベントが定期的に出現しては問題視され、空間除菌をうたう商品がドラッグストアの棚に並び続けます。

このように、公的機関が非推奨で効果が証明されていない商品が、新型コロナウイルスの感染拡大の遥か以前から注意喚起されているのに、今もなお流行しているという現実があります。

経済合理性と消費者心理のスパイラル

では、なぜ世の中に空間除菌がはびこるのでしょうか。ここには大きく2つの理由があります。1つ目は「売れるから作る」というメーカーの経済合理性。そして、2つ目は「念には念を」という生活者の心理です。この2つが相互に作用することで、「空間除菌的なもの」が世の中に居残ってしまうといえます。

経済合理性とは、メーカーについていえば「主に自社の利益について考え、自社の利益が最大化するように常に合理的な行動を取る」という傾向。噛み砕けば「売れるものを作る」ということです。コロナ禍において「空間ごと除菌できる」ようなイメージを与えれば当然、商品の売れ行きは上がるでしょう。

警備大手のALSOKと提携して自社の空間除菌用品50万個を目標に販売(法人を対象)するとしていた大木製薬は、記者が取材中にそのプレスリリースの表現の問題点を指摘した際、松井秀正社長自ら「どうしても売れる、安易な方向に行ってしまうのは事実」と認めました。

リリースには雑貨の宣伝には使用できないはずの「新型コロナウイルス」「感染症予防」「感染対策」などの文言が盛り込まれていました。リリースは取材後に削除されました。

空間除菌用品の情報はメディアにプレスリリースや広告として掲載される場合があります。また、そうでない記事でも、例えば式典を取材した記事の写真に消毒剤の空間噴霧の様子が映り込んでいる、といった事例もあります。記者自身、情報発信をする当事者として、問題点があればそれを発信し続けなければなりません。

今度は買う側について考えます。ここで、生活者が空間除菌の効果を心から信じているか、というと、人によって程度の差はあれ、「おまじない」程度に考えている人もいるのではないでしょうか。

新型コロナウイルス対策全般についてですが、有効な対策があればそれは世界中で検証され、導入されていることでしょう。そうしてスタンダードになったのが、手洗いやうがいの励行、マスクの着用、三密を避けること、そしてワクチンなのです。そうでないものの効果のほどは、生活者も薄々わかっているはずです。

空間除菌用品は首から下げるタイプでも、置型でも、1つの商品の値段は1000〜2000円程度のものが多いです。念には念をの「おまじない」として、ついで買いをするにはぴったりでしょう。

「おまじない」を野放しにした結果

まず問題なのは、空間除菌用品には人体に有害となる危険をもたらすものもあることです。消費者庁は2020年8月に首から下げるだけで空間除菌が行えると称する商品(二酸化塩素を利用した商品)を使用中、やけどのような状態になったという事故情報が同年6~7月で少なくとも4件、消費者庁に寄せられた、と注意喚起をしました。中には、1歳児が被害を受けた事例もあるとのことでした。

そして、さらに問題なのは、効果が証明されていない商品で“対策”をした気になり、本来するべき「マスクの着用」「三密の回避」などの対策がおろそかになることです。

メーカーは「売れるから作る」、生活者は「念には念を」と買う。こうして空間除菌関連の商品は10年にも渡り居残ってきました。これは医薬品や医薬部外品でないため「病気を治したり防いだりする効果がない」にもかかわらず、「効きそう」なイメージで国内で1.5兆円とも言われる一大市場を形成している「健康食品」と同じ構図です。

効果がありそうなものにお金を費やす「おまじない」を野放しにすると、効果がないものに1.5兆円ものお金が集まってしまうというのは、経済合理性の行き着く先として非常に示唆的です。実際に、空間除菌用品を販売するメーカーの好調な業績を経済ニュースで伝え聞くことも多々あります。

このような構図から抜け出すためには、この連鎖をどちらか、あるいは両方で断ち切ることが必要です。

違法な宣伝や粗悪な作りの商品には行政指導などの直接規制によりメーカーの経済合理性に歯止めをかけることが可能ですが、前述したように、次々に新しい商品や別のメーカーの商品が生み出され、いたちごっこになっているのも事実。

やはり本質的には「売れる」というところを断つ、つまりこのような商品を「買わない」ことが解決方法になります。

「念には念を」と「おまじない」をしたくなったときはグッとこらえ、それだったらむしろ、マスクをつけたり密を避けたりといった、基本的な感染予防策を徹底するようにしてください。

そしていつか、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着く日が来たとき、身の回りにある「効果のありそうな顔をした」さまざまな商品を手に取るとき、「これって本当に効果があるのかな」と疑うクセがついていると、こうした商品に騙されることもきっとなくなるはずです。

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