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後輩芸人が慕う「カッコいい先輩」代表格の3人「信頼しかない」
クセのあるキャラに光、地下芸人に対応できる懐の深さ
「M-1グランプリ2020」で優勝を果たしたマヂカルラブリーの影響もあり、若手芸人だけでなく“地下芸人”と称されるクセのある芸人の露出が増えている。そんな面々を温かく見守るのが、くりぃむしちゅー・有田哲平、南海キャンディーズ・山里亮太、メイプル超合金・カズレーザーだ。彼らはなぜ後輩たちから慕われるのか。三者三様の魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)
フジテレビ系列の『ボキャブラ天国』シリーズで注目を浴び、今もなお第一線で活躍するくりぃむしちゅー・有田哲平。コンビでは教養バラエティー、クイズバラエティーといったゴールデン帯の王道を歩みつつ、ピンではマニア向けの番組を中心に独自路線を進む芸人だ。
とくに『有田ジェネレーション』(TBS系)では、今後が期待される若手だけでなく、“アングラ芸人”と称されるインパクトの強い芸人にもスポットを当て続けている。
ボケの感覚がズレていること自体が滑稽さを生む桐野安生、リズムに合わせてテーマに則したトークを展開するもBGMに翻弄されてほとんど何も伝わらないゴスケ、あらかじめ録音したBGMとセリフに合わせて口パクで踊るタカマッチなど、地上波ギリギリの芸人ばかりだ。
とはいえ、この混沌とした空気感こそが有田ワールドを構築している。一つの物差しで測らず、いろんなタイプの芸人を対比させることで個性を浮き上がらせているのだろう。
これは暗に「ライブシーンにはどれほど常軌を逸した芸人がいるか」「いかに頭角を現す芸人が質の高いネタを作っているか」を視聴者に提示している。そのうえで、出演した芸人がほかの番組でもスポットが当たるよう“取扱説明書”を見せているのだ。
実際、自身の番組『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)にも『有田ジェネレーション』のレギュラー陣(アングラ芸人を含む)をたびたび登場させている。昨年、その中の一人である納言・薄幸に私が直接インタビューした際、有田に対する気持ちをこう語っていた。
「『有田ジェネレーション』のレギュラーが決まって、すぐに『脱力タイムズ』に出させてもらったのも本当に優しいし。もちろん、ほかにも頼りになる先輩はいるんですけど、有田さんは〝力を持っている〟ので(笑)。番組でちゃんと納言を紹介してくれたりすると、『あ、本当に面白いと思ってくれてるんだな』って感じるじゃないですか。目に見えて番組の出演が決まったりするし、こっちとしては信頼しかないですよ」(2020年5月7日に掲載された「CRAFTWORKS」のインタビュー記事より)
そのほかのネタ番組と決定的に違うのは、有田が若手やアングラ芸人を面白がりつつ成長を見守っているところだ。若手時代の有田は、『ボキャブラ天国』で幅広い個性を持った芸人たちと切磋琢磨してきた。そんな環境を守るため、『有田ジェネレーション』を継続しているのかもしれない。
現在、朝の情報番組からトークバラエティー、クイズ番組まで幅広く活躍する南海キャンディーズ・山里亮太。アイドルやプロレスにも造詣が深く、数年前にはたびたびイベントに登場していたオールラウンダーだ。
後輩に対する面倒見もよく、多くの芸人から慕われている。2019年6月に行われた女優・蒼井優との結婚記者会見では、お笑いトリオGAGの宮戸洋行を司会に起用して話題となった。少しでも後輩にスポットがあたるよう気を回したのだろう。
今年の『ぐるナイ おもしろ荘』(日本テレビ系)で優勝したお笑いコンビ、ダイヤモンド・小野竜輔は、上京するきっかけに山里の存在があったという。私が直接インタビューした中で、こんなことを語っている。
「僕がまだ22歳とかの頃に、東京で一度だけ南海キャンディーズ・山里亮太さんと飲ませていただいたことがあったんです。そこで山里さんから『若い時は東京目指してもいいんじゃない?』と言われて、上京を後押ししてもらったところはあります」(2021年2月28日に掲載された「FRIDAYデジタル」のインタビュー記事より)
山里は、大学時代にNSC大阪校に通ってお笑いの世界へと飛び込んだ。同期には、在学中にNHK上方漫才コンテスト最優秀賞を受賞したキングコングがいる。山里だけでなく、同期の芸人にとって屈辱的なスタートだったのは間違いないだろう。
駆け出し時代から山里は必死でお笑いを分析し、面白いと感じたフレーズをメモに書き留め続けたそうだ。そんな経験があるからこそ、日の目を見ない芸人たちの背中を押すのかもしれない。
深夜帯から始まった『深夜に発見!新shock感〜一度おためしください〜』(テレビ東京系・現『あるある発見バラエティ 新shock感 それな!って言わせて』を含む)には、一般には知名度の低い芸人たちが続々と登場している。
男性ブランコ、フレンチぶるといった若手だけでなく、サイキック芸人のKICK☆、「地下の帝王」とも称される虹の黄昏など、年齢や個性も幅広い。さすがにキャスティングに口を挟むことはないだろうが、「山里なら何とかしてくれる」というスタッフたちからの信頼があってこそ成立する企画だ。
ここ最近、“地下芸人”と呼ばれる芸人たちの露出が増えているのは、山里のような懐の深い芸人がいるからだと思えてならない。
高学歴・博識というキャラもあり、「クイズ王」「コメンテーター」のイメージが強いメイプル超合金・カズレーザー。「M-1グランプリ2015」の決勝で存在感を示して以降、バラエティーや情報番組で引っ張りだことなった。
とはいえ、もともとは地下ライブに出ていた芸人だ。マヂカルラブリー、ザ・ギース、マツモトクラブなどと同じように、コンビ結成間もなくはほとんど観客のいない中でネタを披露していた。2017年末に『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系・当時は『金曜★ロンドンハーツ』)内の企画をきっかけにカズレーザーの弟子となったフランスピアノ・なかがわりょうは、その点を含めて魅力を感じているようだ。
「めちゃめちゃマジメに考えてる方なんですよ。でも、一見そうは見えないじゃないですか。努力とか考えてるところを出さない」「カズレーザーさんって、もともと地下ライブに出てたような人なんです。そこから一気にドンッてメディアに出たから、そういう部分もカッコいいなって」(2018年4月1日に掲載された拙サイト「不滅のライティングブルース」のインタビュー記事より)
まさに若手のあこがれ的な存在と言えるが、当の本人は実にひょうひょうとしていて身軽なスタンスを崩さない。
「(タレント活動をしていて)正直、お金もらえなくても別にいいというか。みんなで草野球やってるのと、今楽しさあんまり変わらないんでホントに」「オレ、だって肩書き『お笑い芸人』だって思ってないですもん。あんまり言わないです。だって、ネタも全然やってませんし、今の若手の子のほうがたぶん面白いと思ってますし……(「何者か?」を問われて)無職です(笑)」(2021年2月22日に投稿されたYouTubeチャンネル『新R25インタビューチャンネル』の動画「なぜカズレーザーはひたすらに「頑張らなくていい」と主張するのか?」内での発言より)
昨年と変わりがなければ、私生活では若手を含む4人で同居中だ。また、LINEで知り合いの若手たちを誘い、食事をおごったりクイズで盛り上がったりといった日常を送っているらしい。古い先輩・後輩の関係性ではなく、「楽しいから一緒にいる」という感覚で接しているのだ。
カズレーザーがたびたび口にする「飽きたらやめればいい」「しんどいなら逃げればいい」という考え方は、若手芸人だけでなく視聴者の心も楽にしてくれる。きっと売れない時代であっても、「楽しい」という気持ちを最優先に生きてきたのだろう。この軽妙さが、若手から慕われる所以なのだと思う。
ここで紹介した3人は、1990年代、2000年代、2010年代と時代をまたいで頭角を現した芸人だ。もちろん、そもそものタイプの違いはあるが、キャリアや時代によっても後輩に対するスタンスが異なっているのが興味深い。
共通して伝わってくるのは、年齢を重ねても「お笑いの世界が楽しくて仕方がない」ということだ。昨今、SNSをうまく活用すれば個人でも活躍できる時代だが、こうした芸人のつながりはなくなってほしくないものだ。
今後、若手との関係性の変化がお笑い界にどう影響を与えていくのか。2020年代にも注目したい。
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