連載
#68 コミチ漫画コラボ
大好きな祖父との別れがオンラインに…悔しさ変えてくれた最後の教え
父親に叱られて、自宅の敷地にあった納屋に閉じ込められたときも、助けてくれるのはじいちゃんでした。泣きじゃくるシャンプーさんを「お父さんには内緒な」と背負い自宅へ戻ります。
まさに「育ての親」のような存在だったじいちゃんは、いつだって、シャンプーさんのヒーローでした。
それから月日が経った昨年秋。実家を離れ、東京で生活をしていたシャンプーさんにじいちゃんの葬儀の知らせが届きます。新型コロナの影響で一時は開催も危ぶまれただけに、胸をなで下ろしたシャンプーさん。
「GoToキャンペーン始まっているし、大丈夫そうだよね。新幹線予約して帰るようにするね」。電話口の姉にそう告げると、返ってきたのはショッキングな一言でした。
「ごめん……あのね、帰って来なくていいって……」
実家の地域では、新型コロナ感染者が出始めたころ、心ない言葉が飛び交うこともあったそうです。
当時はGoToキャンペーンにより移動の動きが出ていたとはいえ、「さすがに東京から帰ってくる親族がいたら」と姉。テレビ電話で中継をするという提案を、シャンプーさんはのみ込むしかありませんでした。
「また会えると普通に思っていた」
シャンプーさんがじいちゃんと最後に対面したのは、前年に帰省したとき。デイサービスに通っていてタイミングが合わず、シャンプーさんが戻る間際に「東京に帰るね」「あぁ、気をつけてね」とやり取りをしたぐらいでした。
「何か伝えたい事はある?」と問われ、じいちゃんに伝える最後の言葉を姉に託したシャンプーさん。部屋のテレビは、GoToトラベルを利用する予定のカップルの街頭インタビューが流れていました。
「いいなぁ……。私も……連れてってくれないかなぁ。じいちゃんにもう2度と会えないんだ」。電源を消したテレビの前で涙が止まりませんでした。
葬儀の当日。テレビ電話に会場が映し出され、式は始まりました。出席者は近くの親族に絞りながらも、たくさんの花とともに囲まれたじいちゃんの遺影。
「私よりもじいちゃんを知っている人達なんだろうな」「開催できただけでも幸せだと思わなきゃ」「私がいなくても、なんの問題も無かったや……」
画面越しに進む葬儀を見つめながら、「会いたいなんて、ただの迷惑だった」とやり場のない感情がこみ上げます。
そんな気持ちが揺れ動いたのは、ひつぎに花を入れ、最後の別れを告げる瞬間でした。眠っているかのように安らかな表情のじいちゃんに、中継を続ける姉がシャンプーさんから託された言葉を伝えます。
「じいちゃん、愛してるよ」
画面越しでも、最後のメッセージを伝えることができたシャンプーさん。
「会えるかどうかなんて、迷惑かどうかなんて関係なかった」「どんな状況でも大好きだった人に何を伝えたいかが大事だった」。対面できなかったことへの悔しさはすべて無くならなくても、じいちゃんが最後に気づかせてくれたこと。シャンプーさんにとっては、一生忘れられない別れとなりました。
「大好きだった祖父のことを知ってほしいと思って描きました。『うちのじいちゃん、こんなに格好良かったんだぞ』と自慢する気持ちで」
作品についてこう話すシャンプーさんは、フリーのデザイナーとして都内で働いています。高校卒業までいた実家では、農業を営んでいた祖父とも一緒に暮らし、多くの時間を過ごしました。
20代後半に一時実家暮らしに戻ったときも、深夜まで仕事をするシャンプーさんに「体に気をつけてよ」などと事あるごとに声をかけてくれたそうです。
大きく支えてくれた存在だっただけに、葬儀に直接参列できなかったのは「やはり、つらかった」と振り返ります。「実家は田舎なのでコロナの流行以降、東京から人を呼びづらいという事情は分かります。誰も悪くないからこそ、『行き場のない怒り』がありました」
そんな気持ちを解きほぐしたのが、祖父に伝えることができた「愛してるよ」の言葉でした。
「姉から言われたときに、ぱっと浮かんだんです。今までの感謝や色々な感情をひっくるめて言うことができました。画面越し、姉を通じてでもじいちゃんに届けられてよかったです」
祖父との思い出は、コミチで4コマ漫画にして連載しているシャンプーさん。「時間をかけてになるとは思いますが、じいちゃんとの思い出をこれからもつづっていこうと思います」
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