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連載

#29 #カミサマに満ちたセカイ

BiSHがくれた「存在証明」普通の女の子を「神」として崇める理由

「幸せな現場」に身を置き知った、人生の楽しさ

異色の6人組音楽グループ・BiSH。その歴史を観察し続けてきた、一人のファンがいます。ステージで舞い踊る彼女たちに注ぐ、熱情の源泉について、話を聞きました。
異色の6人組音楽グループ・BiSH。その歴史を観察し続けてきた、一人のファンがいます。ステージで舞い踊る彼女たちに注ぐ、熱情の源泉について、話を聞きました。 出典: きまらんどさん提供

目次

「楽器を持たないパンクバンド」と銘打ち、絶大な人気を集める6人組音楽グループ「BiSH(ビッシュ)」。結成間もない時期から彼女たちを追い続ける、一人の男性がいます。ライブ会場で撮影した写真は100万枚以上。「推しメンバー」の誕生日に、多くのファンを巻き込み、大規模な祝賀イベントまで催したことも。「僕はBiSHから『存在証明』をもらっているんです」。自らの中で、普通の女の子たちが、いかにしてステージで舞い踊る「神」となったのか? その過程を追いました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「感情の高ぶりが、空間の一部になる」

「『現場』に身を置いたときの、自分の感情の高ぶりが、空間の一部になっている気さえするんです」。BiSHメンバーたちが織りなす舞台の魅力について、ファン歴6年のきまらんどさん(仮名・40代男性)が語ります。

「現場」とは、ファンの間で使われる、ライブなどの会場を指す言葉です。BiSHの楽曲には、激しい振り付けや、独特の世界観を醸す歌詞を伴うものが少なくありません。だから、フロアは常に熱狂の渦。そのただ中で、きまらんどさんは「多幸感」を覚えてきたといいます。

BiSHの公演風景
BiSHの公演風景 出典: きまらんどさん提供

「ももクロ」と全く違う流儀に驚き

10年ほど前、知人に誘われ「ももいろクローバーZ(ももクロ)」のライブに「参戦」したのが、全ての始まりでした。チケット争奪戦の激しさ、ステージと客席の一体感。日常とかけ離れた異空間に、魅了されました。

きまらんどさんは4年ほど、ももクロに加え、同じ事務所に属するグループを追いかけました。そんな中、結成して間もないBiSHが、初のアルバムを出すと聞きつけます。2015年のことです。

東京・渋谷のCDショップで開かれたリリースイベント(リリイべ)に足を運ぶと、目を疑う光景が広がっていました。ステージが見えないほどファンがひしめき、押し合いへし合いしていたのです。観客が自席から動かず、ペンライトを振るももクロのライブとは、「流儀が違う」と感じました。

「別のリリイベ会場では、何とオムツが飛び交っていたそうです。BiSHは”Brand-new idol SHiT”(新生クソアイドル)の略。アイドルの『クソ』を片付ける者として、ファンは『清掃員』と呼ばれます。それになぞらえた行動だったんでしょうね」

「そういうお遊びが許されたり、みんなでわちゃわちゃと場を楽しんだりできる空気に、一気に引き込まれました」

会場は、ファンたちの汗と情熱に満たされる
会場は、ファンたちの汗と情熱に満たされる 出典: きまらんどさん提供

「いいな」と思えた光景を記録する

一層の深みにはまり込む、きっかけとなった出来事もあります。

BiSHのライブでは、15年当時としては珍しく、撮影が許可されていました。写真が好きだったきまらんどさんは、毎回欠かさず一眼レフの愛機を持参します。フロアで他のお客さんに押し潰されつつ、撮り続けることいくたびか。ついに、最前列でメンバーから目線をもらえたのです。

「忘れもしない、同じ年の8月15日に行われたライブでした。終了後、ツイッター上に投稿したら、メンバー本人から『いい写真を撮ってくれてありがとう』と言ってもらえたんです。とにかくうれしくて。そうした双方向性が、自分の気持ちを加速させていきました」

メモリーカードに残っているデータは、「上手(うま)い」写真だけではありません。メンバーのおかしな表情をとらえたり、一生懸命歌っている横で、靴が脱げ履き直しているメンバーを写したり。どこか親しみやすい構図のものも、少なくないのです。

1回のライブで、2000枚近く撮影する、きまらんどさん。6年間で撮ってきた写真の総数は、100万枚を超えるといいます。その情熱は、どこからわき出ているのでしょうか?

「下手か、上手かを気にするより、自分が見て『いいな』と思えた光景を記録したいんです。極端な話、目の前にいる観客の手しか写っていなくたっていい。それはそれで、ライブの写真として成立しますから。自分にとっては、観ることと撮ることが一体なんです」

ライブ中、メンバーの靴が脱げてしまった場面をパシャリ
ライブ中、メンバーの靴が脱げてしまった場面をパシャリ 出典: きまらんどさん提供

キャパ250人のライブで流した涙

では、肝心の音楽については、どう感じているのでしょうか? 尋ねてみると「間違いなく、曲が好きだから追いかけ続けている。とにかく、感情が揺さぶられるのがたまりません」「でも、それ以上に、現場が幸せなんですよ」

そのことを象徴するようなイベントがありました。

18年5月22日、「TO THE END」と題したワンマンライブが、横浜アリーナで開かれました。1万2千人の観衆が集った、過去最大級の催し。全プログラムが終わって間もなく、岩手県宮古市で、4日後に公演することが発表されたのです。

横浜アリーナでのライブ中の一幕
横浜アリーナでのライブ中の一幕 出典: きまらんどさん提供

宮古市の会場は、定員わずか250人のライブハウスでした。きまらんどさんは清掃員仲間と、すぐさま現地へと向かうための計画を立てます。他のファンたちも、レンタカーを予約したり、そこに便乗を願い出たりと、大騒ぎです。

「チケットを取る、交通手段を確保する、(遠方のライブに参加する)遠征のため仕事を休む。会場にたどり着くまでに、様々なストーリーが生まれました。参戦した一人ひとりが、普段とは比較にならないほどの思い入れを持てたと思います」

「そのせいか、ライブ中、ものすごい感情の爆発が起こりました。本当に不思議なんですが、僕も顔見知りのファンも、全員が終始泣いていたんです。メンバーも、ステージ上で涙を流していて。自分の思いが外部まで伝わり、周りの人の思いと混ざり合って増幅し、また自分に戻ってくる。そんな状況でした」

宮古市でのライブ中の一幕
宮古市でのライブ中の一幕 出典: きまらんどさん提供

「好き」という共通言語だけで他人とつながる

ライブハウスを満たす、自他の区別がなくなるかのような、情念の海。そのただ中でおぼれているとき、きまらんどさんは、ある種の「救い」を得たといいます。

「推しにぶつける愛、そこにいる自分自身への愛、そして推しが自分たちに向けてくれる愛。それら全てが混然一体になっている、と感じました。そのこと自体に、救済されるような気持ちになれたんです。推しが大好きなのは間違いない。一方で、現場に集まった何百人ものファンと愛情を共有し、かつ推しにも捧げることは、僕自身のためにもなります」

「そしてライブ中にメンバーから指をさされたり、仲間が楽しそうにしている表情を見たりするなどして、通じ合えた感覚が持てたなら、なお幸せになれます。自分が、確かにそこにいた。『空気』ではなかった。生きているのだ、と実感できるからです」

こうした感覚の共有により、会場に集結した、あらゆる人々とつながれたとも語ります。

高校生、大学生、企業の社長。警察官に風俗店経営者、芸人や医師……。これまで出会ったファンは、肩書も人生背景も一様ではありません。それでも、あらゆる違いを越え、同じ方角を向き、肩を組める仲間になれたのだそうです。

名前さえ知らない相手と、「好き」という共通言語だけで、何年にもわたってつながれる。そんな体験を経る中で、いつの間にか他人の粗より、長所を探すようになりました。

「様々な理由から、ファン同士衝突することはあります。ただ、ポジティブな感情で過ごせる機会の方が、圧倒的に多い。いい方向に、人生観を変えてもらったと思いますね」

宮古市でのライブ開始前に採られた写真。ファンたちの期待感が伝わってくる。
宮古市でのライブ開始前に採られた写真。ファンたちの期待感が伝わってくる。 出典: きまらんどさん提供

「愛されすぎて…」メンバーの喜びが爆発

こうした感謝の念を、意外な形で表現した経験もありました。

アイドルファンの間には、推しの誕生日を盛大に祝う文化が共有されています。清掃員の世界も例にもれません。きまらんどさんは17年、BiSHメンバーのアイナ・ジ・エンドさんのため、ある「サプライズ」を企画しました。

「当時、アイナさんを推す人たちと、『THEENDER(ジエンダ―)』というグループを組織していました。全員で話し合い、彼女の誕生日である12月27日に、アドトラックを走らせることにしたんです」

ジエンダ―の中には、広告系のサラリーマンや、YouTuberのマネージャーなどが含まれていました。そうした人々を中心に、権利関係の調整を依頼。運送系企業に勤める仲間から、トラックの借り方を教えてもらうなど、グループの人材力をフル活用しました。

トラックにあしらう写真は、アイナさんを撮影してきたカメラマンと交渉し、提供を受けます。更に、ファン一人ひとりのスナップも募りました。縮小したものを並べ、遠目から眺めると、アイナさんの画像に見える、モザイクアートとして構成するためです。

アイナ・ジ・エンドさんの誕生日を祝うため、本人の画像があしらわれたアドトラック。つぶさに見ると、ファンの顔写真が寄り集まってできている。
アイナ・ジ・エンドさんの誕生日を祝うため、本人の画像があしらわれたアドトラック。つぶさに見ると、ファンの顔写真が寄り集まってできている。 出典: きまらんどさん提供

そして、当日の午前10時。ファン同士で出し合った、約100万円で借り上げたトラックが、東京・渋谷駅周辺を走り出しました。

「AiNA HAPPY BiRTHDAY」。そう書かれた幌(ほろ)を撮影した人々が、ほどなくツイッター上に画像をアップし始めます。ジエンダー側が、「#アイナ生誕2017」のハッシュタグ付きで投稿・拡散するよう呼びかけると、大きな盛り上がりを見せました。

「ねぇやばぃ」「愛されすぎて怖いよー」「ありがとう」。この取り組みに、アイナさんはツイッター上で喜びを爆発させました。更に渋谷の街頭に現れ、自らトラックの写真を撮影したのです。

「みんなで愛情を結晶させられたからこその、奇跡的な結果でした。チームとして同じ方向を向き、アイナさん本人も、こちらを信じてくれていた。そんな状況がなければ、決してなし得なかっただろうと思っています」

渋谷駅周辺を走るアドトラック。ツイッター上には、関連画像が次々と投稿された。
渋谷駅周辺を走るアドトラック。ツイッター上には、関連画像が次々と投稿された。 出典: きまらんどさん提供

「素晴らしき人生、ぶちかましていくのさ」

しかし、ファンとメンバーの関係性を、なぜそこまで信じ抜けるのでしょうか? きまらんどさんは、BiSHに所属するセントチヒロ・チッチさんの言葉を引きました。

「『フロアの清掃員も含めてBiSHなんだ。清掃員がいなければBiSHじゃない。合わせてひとつ。あなたたちがいるから、私たちはBiSHでいられる』。彼女は、常々そう言います。これまで参加したライブを思い起こすと、とてもセールストークとは捉えられないんですね」

「ライブって、みんなが愛情を伝え合う場だと思うんです。だからメンバーも清掃員も関係なく、信頼感に満たされる。現場の空気を分かち合ってきた人たちは、同じように思っているんじゃないでしょうか」

それだけ入れ込める背景には、BiSHを草創期から見守り続けてきたという事情もあります。

メンバーたちが、ステージ慣れしていない頃から見て取れた、粗削りな生命力。現場に通うたびに抱いた、何かが生まれそうな「わくわく感」。それらに導かれるように、成長ストーリーを追う……。いわば、一人ひとりの人生に伴走する面白さに、魅入られてきたのです。

「大好きなグループを応援すると、メンバーの生き様が他人事じゃなく、自分事になっていく。その意識が広く共有されれば、個人の存在証明が、みんなの存在証明になる。結果的に、一個の幸せが百倍、千倍に増幅されます」

「だから彼女たちには、人に夢を見せる『スペシャル』な存在であってほしい。言い方を変えれば、『神』に近い存在であってほしい。そう思ってしまうんです」

きまらんどさんは、現場に参加する喜びを知ることで、「人生は生きるだけの価値がある、楽しいもの」と考えられるようになった、と言います。これからも、その気持ちを保てそうですか――。最後に尋ねると、こう答えてくれました。

「もし仮にBiSHが解散して、ライブに行かなくなったとしても、この気持ちは消えないでしょう。世の中は、面白い物事や人にあふれている。アイドルファンという趣味から得た、最も大きな学びです。知らないまま終わっちゃうわけにはいかない。希望は、なくならないんじゃないでしょうか」

「そして、その希望は、きっと無根拠でいい。僕は思うんです。『生きてさえいりゃ、楽しいことがある。素晴らしき人生、ぶちかましていくのさ』って」

変顔をするメンバーたちの写真も、いとおしい記録の一つだ
変顔をするメンバーたちの写真も、いとおしい記録の一つだ 出典: きまらんどさん提供

【連載・#カミサマに満ちたセカイ】
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