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SEALDsとは何だったのか?「大半が年配の方でした…」デモ後の人生
政治に参加する「余裕がない」現実
若者の政治離れ。そう言われる近年ですが、政治と若者が脚光をあびた時期がありました。2015年、安全保障関連法案などへの反対運動の中心には若者がいました。彼らや彼女らと同年代の記者(26)は、遠くからあの盛り上がりを眺めていた一人。なぜ運動にかかわり、今は何を思うのか。渦中にいた人に話を聞きました。(朝日新聞和歌山総局記者・滝沢貴大)
デモが盛り上がった2015年、記者はSEALDsの中心メンバーたちと同じ大学に通っていました。休日に彼らのデモに鉢合わせたこともあります。しかし、当時はどこか人ごとのように一連のニュースを見ていたように思います。むしろ、彼らのデモを「パフォーマンス過多だ」と決めつけ、どこか冷めて見ていた部分もありました。今となっては、もっと自分ごととしてニュースに向き合うべきだったと感じています。
同じ頃、和歌山大に通っていた服部涼平さん(27)は2015年9月、「SEALDs KANSAI」に参加しました。
「当時は大学3回生。ゼミが始まり、戦時の障害者の待遇などについて学んでいました。そこに安全保障関連法の話が出てきて、1人でデモに行くようになりました。7月の衆院での強行採決に問題意識を持ち、『ここで何もしなくていいのか』と思いました」
服部涼平(はっとり・りょうへい)
服部さんは、主に大阪や和歌山でのデモに参加し、時には東京にも行きました。2015年9月に安全保障関連法が成立した後、他大学の人から声をかけられ、「SEALDs KANSAI」に加わりました。
「デモに参加して感じたのは若者の少なさです。『若者がデモに参加した2015年』という切り取り方をされることもありますが、実際は大半が年配の方でした。学生は時間的にも金銭的にも余裕がないのは大きいと思います」
大半の人が年配だった……。そう聞いて、たしかにそうだと思いました。自分もそうですし、周りにデモに参加している学生もいなかったと思います。政治に若者の意見を反映するために、若者こそ声を上げるべきだと今となっては感じています。
しかし、服部さんの活動はそれだけで終わりませんでした。
服部さんは、SEALDs解散後、大学内で研究会を立ち上げました。
「『元SEALDs KANSAI』ということにあまりこだわりたくありません。そこで出会って刺激を受けた人は多いし、そのつながりは今でも大切にしています。でも、『SEALDs』は『緊急行動』なので、居場所になってはいけないと感じます」
服部さんの「居場所になってはいけない」という言葉。それを聞いた時、SEALDsに参加していた皆さんが、それぞれ『今声を上げないといけない』という問題意識を持って活動していたということを再確認しました。服部さんは、「SEALDsは、あのときだからこそ必要だった『祭り』のようなもの」と言います。
「解散後は、自分たちの生活圏で運動を切りひらいていくことが求められると考えるようになり、2017年春に学内で『社会科学研究会』を立ち上げました。安保法案以外の、たとえば地元の課題なども扱う必要があると感じていたからです。立ち上げ当時は10人くらいで学習会やシンポジウムを開いていました」
服部さんが立ち上げた「社会科学研究会」は、その後、後輩に引き継がれ、人数も20人くらいに増えているそうです。
「研究会での活動の方が、自分たちの生活圏の中でやっている分、時間を重ねて一緒に勉強でき、充実していたと感じます」
当時、「SEALDs」として活動した同年代に人たちは、その後、どのような人生を歩んだのでしょうか。服部さん大学卒業後、教諭として働いています。
「今は、埼玉県の学校で国語科の教諭をしています。安保法案の一件を通して、とことん本を読むくせがつきました。安保法案の問題は、自衛権だけではなく、憲法や教育にもつながります。教育のあり方や理念などを土台に据え、考えながら学校という場で働くのは楽しいです」
教諭になった服部さんは「若者が社会問題への関心を失ったのではなく、社会問題へ関心を持てないような社会に変わった」と強調します。
「若者の社会問題や政治への関心が高まらないのは、学生の主体性の問題ではなく、社会状況の問題だと思います。政治の話をしても『どうせ変わらないし』とネガティブな方向になってしまう。政治を『汚い』ものだと捉えている若者が多いように感じます。しかも、ややこしい。政治離れと言いますが、日本社会では政治が近づきがたいものになっているということだと思います。投票率も決して高いとは言えませんよね」
政治は「汚い」という服部さんの指摘。それを聞いて、私は、たしかにそうだと感じました。自分が中高生や大学生だったときも、どこか政治について話すと場に波を立ててしまうのではと思い、周囲の人とも政治の話題を持ち出すのを無意識に避けていたように思います。服部さんはさらに、「余裕がない」若者の現状があると訴えます。
「単位を取らないといけないのはもちろん、アルバイトも忙しい。時間がなさ過ぎるのは問題です。和歌山大では昨年、コロナ禍を受け、学費軽減の署名運動が起こりました。運動を担った学生には、当事者じゃない人も多かったと聞きました。本当にお金に困っている人たちは、運動に参加する余裕がない。『余裕ある自分たちが声をあげないと』という心持ちだったといいます」
服部さんの訴えに私は、はっとさせられました。学生時代、親や祖父母からの支援を受けられた自分は恵まれていましたが、学費や生活費を捻出するため、日々アルバイトに追われていた知人を何人も知っています。生活に困難を抱えていても、その原因を社会や政治に見いだし、活動するだけの余裕がない。これは「政治への関心低下」の一因だと感じます。
一方で、服部さんは、新型コロナウイルスによって生まれた変化も感じているそうです。
「一番印象的だったのは、『#検察庁法改正案に抗議します』というハッシュタグがツイッターでトレンド入りしたこと。かなりの人々が関心を示したのは、おそらく外出自粛で家にいて、しっかりニュースを追いかけることができたから」
だからこそ、服部さんは政治や社会問題などに関心を抱くには、余裕が必要だと説きます。
「『かつての日常』とは忙しすぎる日常。政治や社会問題に関心を持つには、時間を確保しないといけない。もっと余裕がある社会を作っていかないといけないのではないでしょうか」
「SEALDs」での経験を自分なりに昇華し、日々の生活に取り込んでいる服部さん。私自信、余裕がない当事者に代わり、彼らの心の叫びをすくい取れるような記者にならねばと思いをあらたにしました。
安全保障関連法と「SEALDs」らによるデモ
2015年、当時の安倍政権が集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法の成立を目指すと、これに反対するデモが全国で起きた。中でも、大学生らでつくる「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)」の活動は注目を集めた。
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