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「芸歴は噓をつかない」ゆりやん優勝に見る「R-1」のレベル

「一番ネタを楽しんでいるのは自分」という強さ

「R-1グランプリ2021」王者のゆりやんレトリィバァ=関西テレビ提供
「R-1グランプリ2021」王者のゆりやんレトリィバァ=関西テレビ提供

目次

昨年から一新した「R-1グランプリ2021」。今大会は新人戦となり、フレッシュなメンバー10名が決勝に進出。優勝したゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん)の微妙なニュアンスをつかんだキャラが光った。フリップ芸の拡張と新たな可能性、演技派コント師たちの魅力。あらためて感じたのは「芸歴や経験は嘘をつかない」という実感だった。番組の慌ただしさを含め、改めてどんな大会だったのかを振り返ってみたい。(ライター・鈴木旭)

「新人戦」へとリニューアル

大幅なリニューアルが施された今大会。名称は「R-1ぐらんぷり」から「R-1グランプリ」とカタカナ表記になり、出場資格は「芸歴10年以内」に変更。司会は雨上がり決死隊(昨年は蛍原徹と粗品)から霜降り明星へとバトンタッチし、審査員もマヂカルラブリー・野田クリスタルら大半が初の審査員を務めた。

そのほかブロック制が廃止されるなど細かな変更点もあったが、大きな変化は「新人戦」へとシフトしたことだ。当然のことながら、決勝に残ったメンバーもフレッシュだった。敗者復活で勝ち上がったマツモトクラブ、ゆりやん以外の8人が同大会初の決勝進出。期待と不安が入り混じる思いで見ていたが、軒並み落ち着いてネタを披露していたように思う。

とはいえ、やはり芸歴や経験は嘘をつかない。自分の持ち味を見つめてきた時間が、しっかりネタの強度に反映していると感じた。

「ちゃうねん」に細やかなニュアンス

ファイナルステージへと駒を進め、芸歴8年目で見事優勝したゆりやん。2017年に「NHK上方漫才コンテスト」で優勝、女性芸人日本一を決める「THE W」で初代女王となるなど、その実力は知られたところだ。

披露した2本のうち、私はファーストステージの「オフィスを舞台にノリツッコミを繰り返すネタ」に彼女らしさを感じた。架空の部下からはじまり、観葉植物、ポールハンガー、ロッカーなどの心情を読み取って口にしながら、そのたびに「ちゃうねん」とツッコミを入れる。この「ちゃうねん」のトーンが絶妙なのだ。声を張るわけでもなく、かと言って小さいわけでもない。「こんな人いるなぁ」と思わせるリアリティーがあるのだ。

ゆりやんには極端なキャラで笑わせるネタもあるが、こうした微妙な特徴をつかんだものも少なくない。古い日本映画に登場する女優の言い回し、吉本興業の新人マネージャーあるある、番組のリハーサルでADが言いそうなことなど、細やかなニュアンスの再現性に長けている。

また、賞レースだからといって無理に笑いを大きくする構成を組んでいない。あくまでも、そのキャラが自然に起こした過程の中で笑いどころをつくっている。そこが、今大会に出場したどの芸人とも違うところだと思う。大会にしろ、ネタ番組にしろ、「一番ネタを楽しんでいるのは自分だ」という思いが伝わってくるのだ。

大舞台で伸び伸びと演じられるのは、結果に対する期待や不安よりも、気持ちの新鮮さが上回っているからではないだろうか。

ゆりやんレトリィバァ=東京・新宿、嶋田達也撮影
ゆりやんレトリィバァ=東京・新宿、嶋田達也撮影
出典: 朝日新聞

フリップ芸の拡張と新たな可能性

フリップ芸は、もはやピン芸のスタンダードと言える。今大会でも決勝メンバーの半分にあたる5人がフリップを使用するネタだった。

その中で準優勝を果たしたのが、今大会がラストイヤーのZAZYだ。大きな4面のフリップを使い分け、それぞれ違ったテーマで絵の躍動感に合わせたリズムネタを展開していく。最終的に4つのリズムが重なり合って唄を歌いあげた後、紙面上に「なんそれ!」という文字が現れるという何ともシュールなネタだ。

ファイナルステージでは、紙をまとめるクリップを外し忘れるというアクシデントもあったが、会場のウケは一番だったのではないだろうか。フリップ芸とリズムネタという持ち味を生かし、うまくスケールアップさせていたように思う。

個人的に新鮮だったのが、芸歴8年目の森本サイダーのネタだ。登場シーンでは、「出会い系アプリでやり取りしている相手と今里駅で待ち合わせする男」という寸劇を演じ、一度はけてフリップを持って戻ってくる。

その後、「みなさん、今のコント見てどう思いましたか?」と観客に問いかけ、フリップをめくりながら「容姿を含めた寸劇の不完全さにツッコミを入れる(厳密には「そこじゃなく、ちゃんとコントを見てくれ!」と嘆く)」という内容だった。ある意味で“禁じ手”と言えるが、こんな角度のメタ構造を持ったネタは見たことがない。

あと一歩のところでファイナルに届かなかったが、間違いなくフリップ芸の可能性を広げたと言えるだろう。


対照的な演技派コント師

今大会の3位になった、かが屋・賀屋壮也は芸歴6年目。そもそも演技派のコント師として知られており、コンビではネタ番組やYouTubeチャンネル、ライブでとにかくネタを披露し続けてきた。相方・加賀翔の休養中もピンで『東京 BABY BOYS 9』(テレビ朝日系)に出演し、番組関連のコントライブも盛り上げている。こうした着実な活動によって、実力を発揮したと言えるだろう。

とくに一本目のネタは秀逸だった。電車が発車するアナウンスの後、舞台袖から汗だくのサラリーマンが走ってきて倒れる。息を切らせながら上司に遅刻する旨を報告し、背負ったバッグの中身を見ると缶コーヒーで原稿が濡れている……など、焦ることでさらなる焦りを生んで笑わせるネタだった。

ネタの中では、焦りを「息の粗さ」で表現する。また、気持ちを落ち着かせようと音楽を聴こうとしてイヤフォンの線が絡まるといった場面にもほとんど言葉はない。余計な説明がなく、視覚でわからせるところにうまさを感じる。人間描写で笑わせるという意味では、やはり若手の中で頭一つ抜けているだろう。

もう一人、演劇的なネタを見せたのが「R-1」決勝の常連であるマツモトクラブだ。とはいえ、ナレーションをメインに話が展開するところは賀屋と大きく異なる。叙情的なBGMとナレーション、この中で演じられるマツモトクラブの世界観は唯一無二だ。

毎回そうだが、賞レースではなく単独ライブでじっくり見たいと思わせる魅力がある。最初に振った伏線を回収し、最後は少しズラして笑わせる構成も巧みだ。「R-1」のラストイヤーで結果は出ず残念だったが、今後も彼独自のネタをつくり続けてほしい。

フレッシュでエッジの効いた大会

何かと一新された大会で、番組そのものの課題は少なくなかった。審査員のコメントが途中からなくなり、霜降り明星の2人も慌ただしい空気を察しながら司会を進行していた。ゆりやんの優勝が決まり、改めて一本目のネタを見るというのも間延びした感は否めない。こうした点については今後に期待したい。

ただ、決勝メンバーのレベルは決して低いものではなかった。辛らつな意見もあるようだが、私は若手らしくフレッシュでエッジの効いたネタが多かったと感じた。リニューアルして新人戦を軸に据えたのだから、中堅やベテランのような安定感や力量を求めるのはお門違いだ。ぜひそんな声に屈せず、大会の審査員は新たな才能の芽を評価していただきたい。

とはいえ、「R-1」と「THE W」はつくづく不思議な大会だ。「ピン芸」と「女性芸人」という枠だけで、ジャンルの制限はない。ただでさえ難しい笑いの甲乙に、さらにもう一つ乗っかっている。システムとして整理されているとは言い難いが、かつては『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)も同じような趣旨だった。

今大会から再びアマチュアの出場が認められ、エントリー数は昨年の2532名から2746名へと増えているそうだ。ポジティブに考えるなら、どんな形であれ面白ければ脚光を浴びるということか。

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