連載
#14 ネットのよこみち
コロナで「自宅警備員」の人たちに異変「リア充」への復讐が始まった
人と話さないことへの「負い目なくなる」
新型コロナがあれやこれやの騒動に発展してから、はや1年。それまで「当たり前」とされてきたさまざまな「常識」が、あっちこっちで覆されました。在宅勤務、密回避はその代表的な生活様式。人が集まるような場所はことごとく封鎖、あるいは人数制限、ソーシャルディスタンスの徹底が求められるようになりました。そこで気になるのが「自宅警備員」の人たちです。「リア充」と対比され続けた「自宅警備員」に起きたのは「奇跡の逆襲」でした。(吉河未布)
昨年の緊急事態宣言前後、「おうち時間」というワードをよく目にした。「料理・お菓子作り」「DIY」「英語の勉強」等々、「とにかく家での時間を“充実”させる」ためのアイデアやグッズが溢れたのは記憶に新しい。
Googleトレンドを見てみると、昨年3月21日まで「おうち時間」がGoogleで検索された回数はほぼゼロ。しかし緊急事態宣言が出される直前である3月22日~28日の一週間で急上昇するとともに、ピークに達した。続いてのヤマは緊急事態宣言中の4月26日~5月2日だ。
ピークの指標を100とするとそれ以降右肩下がりで、6月半ばには一桁台にまで激減。その後現在まで、多少検索度合いが上がってもピークに比べれば1割程度と、人々がすっかり「おうち時間」の楽しみ方を学習した(飽きた?)ことがうかがえる。
ところで、ネットには「自宅警備員」というスラングがある。定職を持ったり持たなかったりしつつ、生活時間のほとんどを家で過ごしているネットユーザーで、PCばかりいじっている自らの存在意義を〈家を守る立派な仕事をしている〉とユーモラスに表現したものだ。
発祥起源は明確でないが、2ちゃんねる(2ch.net)の過去ログをたどると、遡ること2006年10月31日に「自宅警備員になった友人」というスレッドがあり、深夜勤務が主、住み込みで3食付きなどという“資格”が提案されていた。
この「自宅警備員」という言葉が登場するや、当時の2ちゃんねる民の間で大ブレイク。思い思いに「自宅警備員の憩いの広場」「自宅警備員連絡日誌」など、自宅警備員をテーマにしたスレッドを立ち上げ、のんべんだらりと集った。
初期の頃は、
など、ゆるりとそれぞれの状況を報告し合ったり、警備員仲間をねぎらったりする投稿で大賑わい。ちなみに2006年は4月にSkypeの登録ユーザーが1億を突破、7月には2004年にサービスインしたmixi会員が500万を突破、12月にニコニコ動画(仮)が開設された年だ。
Googleトレンドを見ても2007年にブレイクしていることがわかるが、同年は、この言葉が「ちゃんねるぼっくす」が手がけた「2007 2ちゃんねるTシャツ」に採用されたり、「よく見かけるけど意味がわからないインターネット用語ランキング」(gooランキング)には14位に登場したりと、一気に市民権を得ていく。そして勢いにのったまま、「ネット流行語大賞2007」(未来検索ブラジル発表、候補募集&ユーザー投票により決定。投票総数は3,723票)では7位を獲得した。
「自宅警備員」と時期を同じくしてネット上に誕生した単語に「リア充」がある。
「リア充」が前出「ネット流行語大賞」(2007年)で21位、2011年には女子中高生ケータイ流行語大賞を受賞するなど、世代を超えて広く浸透する一方で、「自宅警備員」ワールド特有だったまったり感溢れる投稿はじわじわ減少し、「ニート」であることの悲哀を切々とつづる声や、「リア充」だけが正義じゃないやい、といった嘆きが目立つようになっていった。
そしてコロナ騒動が勃発した。
これまで、「リア充」の広まりに押され、なんとなく外で(たくさんの)人と繋がってワイワイ(イチャイチャ)する「リア充」こそが目指す(べき)ものであり、家で一人でネットをしているなんてモッタイナイとされがちな(気がする)雰囲気に、引け目を感じる必要がなくなったのだ。
「在宅」「ネットばっか」「人と会わない・話さない」ことがヨシとされる奇跡の価値観の到来に、
といった声が次々にあがった。これで堂々と家でネットができる!
「自宅警備員」初出の頃から考えると、スマートフォンとSNSが加速度的に普及し、「ネットをする」ことが当たり前になった現代。「休みの日には一日中ゲーム三昧」「動画三昧」と公言するタレントも珍しくなくなった。時間の問題だったかもしれないとはいえ、〈新しい生活様式〉とは、つまり「自宅警備員」と「リア充」のミゾが埋まった生活のことでもある。
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