連載
#75 ○○の世論
ワクチン「接種したい人」ほど支持率が高め…政権浮上の切り札に?
「すぐに受けたい」層が握る菅内閣の行方

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#75 ○○の世論
「すぐに受けたい」層が握る菅内閣の行方
○○の世論 朝日新聞世論調査部
共同編集記者新型コロナウイルス対策の切り札と期待されているワクチン接種が医療従事者を対象に先行して始まりました。ワクチン接種について聞いた朝日新聞の全国電話世論調査を分析し、ワクチン接種が支持率低迷にあえぐ菅内閣をも救う切り札になるのかを探りました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
国内初となる新型コロナウイルスのワクチン接種は2月17日、医療従事者への先行接種から始まりました。全国100カ所の医療機関の計約4万人が受ける予定です。このうち2万人を健康調査の対象とし、この間に副反応などの情報を集めます。
朝日新聞は先行接種が始まる前に2度、ワクチン接種について、次のように聞きました。
ワクチン接種を「しばらく様子を見たい」は、1月調査で70%だったのが、2月調査でも62%にのぼっています。ワクチン接種に二の足を踏む世論がうかがえます。
一方、ワクチン接種を「すぐに受けたい」は1月調査の21%から、2月調査の29%に増えました。2月に入り、ワクチン接種の内容や日程が1月より具体的になったことが影響しているようです。
次に、性別や年代別の意識をみてみます。
男女とも「すぐに受けたい」が1月調査より2月調査で増えた点は同じですが、男性のほうが女性よりも「すぐに受けたい」が多く、2月調査で男性は36%、女性は23%でした。
2月調査では、30代以外のすべての年代で「すぐに受けたい」が1月調査よりも増えました。とくに70歳以上で29%から40%に増加しました。重症化リスクが高いとされる高齢層ほど、「すぐに受けたい」が多いようです。
「しばらく様子を見たい」は、50代以下で60%以上だったのに対し、60代は56%、70歳以上は51%でした。
2020年9月に65%の高支持率でスタートした菅内閣は支持率の低迷に頭を悩ませています。2月の支持率は1月の33%から横ばいの34%でした。
支持率急落の原因はまさに、新型コロナ対応です。緊急事態宣言を出すタイミングなどが「後手」「場当たり的」などと批判を浴びました。そんな国民の不満や不安を和らげてくれると菅政権が期待するのが、ワクチン接種です。
ワクチン接種を「すぐに受けたい」、「しばらく様子を見たい」、「受けたくない」と答えた人について、菅内閣の支持率と不支持率を比べると、次のようになりました。
全体では支持率34%が不支持率43%を下回りました。
ところが、ワクチン接種を「すぐに受けたい」と答えた人では、支持率44%が不支持率35%を上回りました。「しばらく様子を見たい」と答えた人では、支持率が30%と全体よりやや低く、「受けたくない」は支持率32%、不支持率ともに45%で、全体の内閣支持率34%、不支持率43%とほぼ同じ傾向でした。
世論調査をみるかぎり、ワクチン接種が世論をなだめる効果を発揮し始めていると言えそうです。
政府は当初、4万人への接種に続き、医療従事者(約370万人)、65歳以上の高齢者(約3600万人)の順に接種を進める予定にしていました。高齢者をはじめとした幅広い住民の接種は4月以降に開始する考えでした。
ワクチンの優先接種が始まった直後、菅首相は接種が行われている病院を視察し、記者団に「一日も早く全国の皆さんにお届けをしたい。安心して接種することができるように、情報を速やかに公開、発信したい」と語りました。
ただ今回のワクチン接種は、海外製のワクチンがいつ、どのぐらい届くのかといった不確定要素のある事業です。
欧州連合(EU)から輸入するワクチンはすでに日本に届き始めていますが、政府が配分を明確にできているのは1人2回の計算で、医療従事者向けは約117万人分、高齢者向けは約55万人分にとどまります(2月25日現在)。
かたや、優先的に接種する医療従事者の人数は、当初見込みの約370万人から増える見通しです。政府関係者によると、500万人近くになるということです。
当初の見込みよりも優先接種の対象となる医療従事者が増えることになったため、4月から始める予定だった高齢者の接種計画への影響は避けられない状況になっています。政府は、高齢者向けの接種を4月12日から段階的に始める方針を示しており、医療従事者向けと同時並行に進めていく見通しです。
早くも想定外の事態に直面しているワクチン接種。はたして、菅内閣はワクチン接種を「すぐに受けたい」という声に応えられるのでしょうか。新型コロナ対策の切り札は、菅内閣の支持率をも左右することになりそうです。
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