IT・科学
中国の「Z世代」独特なネット環境での生態は?リアルな声聞いてみた
「今年の冬休みは『合成大スイカ』という落とし穴に落ちました……」
中国の「95後」(1995年から1999年生まれの世代)、「00後」(2000年から2009年生まれの世代)と呼ばれる「Z世代」の若者たちは、ネットをどのように使いこなしているでしょうか? FacebookやTwitterやYouTubeが使えないという特殊な事情の中、日頃、中国の大学で「Z世代」に向き合う中で感じたのは、ネットが当たり前になったからこその〝冷静さ〟でした。(章蓉)
中国・浙江省で生まれた筆者は、2003年に日本に留学しジャーナリズムとメディア学を学び、新聞社のネットメディアで記者として働いた後、現在、中国の大学で教鞭を取っています。
中国の「Z世代」である「00後」は1.46億人いて、「95後」と合わせたら、2億強の人口になります。彼ら彼女らは生まれてからネット環境が身のまわりにあり、人生で使う最初の携帯はスマートフォンでした。そして2Gを経験し、今は5Gの世界に突入し、ネットの動画を当たり前のように視聴しています。
ネットによってメディア環境が変わったのは、中国でも同じです。『中国統計年鑑2020』 によると、2019年中国の新聞の部数は317億部(1日あたり8600万部)ですが、これは、2013年のピーク482億部(1日あたり1億3千万部)の約65%に落ち込んでいます。
金さん(広西チワン族自治区出身、女性、2001年生まれ)さんの家では、かつて新聞を取ったことがありましたが「それは、親の会社が新聞代を払っていたからです。親が数年前に異動し、ネットニュースほうが便利なため、それを機に新聞をやめました」。露さん(浙江省出身、女性、2002年生まれ)は、生まれてから家で新聞を取ったことがないそうです。
代わって使われているのが、様々なアプリのニュース機能です。中国の検索大手「百度(Baidu)」のニュースランキングや、テンセント社傘下のSNSである「WeChat」で見られるテンセントニュースなどが人気です。
周さん(甘粛省出身、男性、2001年生まれ)は「Baiduでニュースを知ることも多いですが、同級生のなかにはDouyin(中国版TikTok)をニュースプラットフォームとして利用している人が少なくないです」と話します。
「Douyin」では、経済、グルメ、育児など、いろいろなジャンルのコンテンツがあふれています。ニュースも豊富で、旧来のマスメディアがアカウントを持ち、「総合」「動画」「話題」などのジャンル別に分けられたニュースがずらりと並びます。
琳さん(浙江省出身、女性、2000年生まれ)は「微博(中国版ツイッター)のニュースランキングで最新ニュースをチェックしています。ニュースアプリよりも早いことが多いので」。金さんは「文字を読むより、動画を通してニュースを知ることが便利」と感じているそうです。
中国の「Z世代」にとってなくてはならないネットサービスは動画です。中でも有名なのが「bilibili」という「YouTube」に近い動画サービスです。ユーザー数3億人を誇る「bilibili」は、日本人俳優の松重豊さんやピアニストのリチャード・クレイダーマンさん、ノルウェー出身DJ、アラン・ウォーカーさんのような世界的なタレントから、テンセントなどのような有名企業まで、様々なアカウントがあり、動画のインフラとして大きな存在感があります。
露さんは、「勉強のために利用することも多いですが、面白い動画の投稿者(UP主)にも巡り合えるのが魅力です。1日1時間ぐらいは利用しています」と話します。
金さんのお気に入りは「難しい専門知識を面白く解説するUP主」です。「彼のおかげで法律の知識も増え、大学院に入るならば法学部を考えるようになりました」
「bilibili」には中国で活動していたり進出を考えている外国人のアカウントも少なくありません。琳さんは「外国人のUP主もかなりいて、外国情報の収集、そして外国語の勉強にもなりますね」と話します。
「現実から逃げる手段の一つになっています」というのは周さんです。 「リラックスできるプラスな一面もあるけど、時間が無駄になってしまうマイナスな部分もある」と冷徹に分析しています。
Twitterが使えない中国で人気のSNSは「微信(WeChat)」です。「WeChat」は、ツイッター、ライン、インスタグラムの総合体と言われ、ユーザー数は11億人を超えています。
露さんは「WeChatとメッセンジャーアプリの『QQ』は欠かせないSNSです。毎日使い、友人とつながっています」と話します。
金さんは「ネット上で興味があるタグを検索し仲間を見つけています。情報を得ることだけでなく、議論する場にもなっていて、興味がないニュースであっても人々の反応を知るためにコメントを読むことがよくあります」。
琳さんは同級生とのつながりにSNSを活用しています。「高校卒業後、知り合いや同級生はバラバラになることが多いですが、SNSでみんなつながっています。いまは休みも学期中も関係なく、仲のいい友人と毎日チャットをしていますよ」。
ネットサービスと切っても切り離せない中国の「Z世代」にとって、心配なのが健康面への影響です。『中国青少年網絡協会』の調べではネット依存症になっているZ世代は2400万人にも達しているそうです。
金さんが気にするのも健康です。「まずは体への影響。長くスマホを使っていると、頸椎と目が悪くなります。最近ではネット詐欺も横行していますね」
周さんは、スマホの使用時間を制限するアプリを入れています。「ネットにどんどん時間が吸い取られるような気がして。アプリに時間管理設定をして、定時になったら、強制的にシャットダウンすることにしています」
特に要注意なのがゲームです。中国で一番、人気のあるスマホゲームは「王者栄耀」です。三国志や古代ギリシャなど史実をテーマにした世界でオンライン上の仲間と一緒に攻略するスタイルが魅力です。
2021年に人気が出たのは、「合成大スイカ」という、果物でスイカを合成するゲームです。「テトリス」と似ており、時間つぶしに最適なゲームです。琳さんは、「ネットゲームは時間がかかり、数日間、そのゲームに縛られることがよくあります」と明かします。「今年の冬休みは、『合成大スイカ』という落とし穴に落ちてしまいました……」。
最近では、ネットを通じた〝監視〟を気にする声も大きくなっています。ビッグデータの時代、ネットの行動履歴が記録されることに不安を覚えている人が増えています。
琳さんも「ネットの持つ圧倒的な監視性が気がかりです」と話します。
露さんが気にするのは、ネットの「リコメント(推薦)」機能の行きすぎです。
「芸能人のスキャンダルを一度でも読んでしまったら、それ以降、どんなアプリを起動しても関連情報が出てしまいます。興味がなく、ぜんぜん読みたくなくても、情報がどんどん押し付けられます……。また、タオバオで何かの商品を検索したら、その後、タオバオだけでなく、ほかのアプリからも関連商品をどんどん『推薦』されます。友達とSNSで何気なく話した商品も、その後『推薦』されるのは、好きではありません」
中国の「Z世代」と話していて感じるのは、ネットネイティブで育ってきたからこそ、ネットの良いところ、悪いところを冷静に観察している面があることです。ネットが当たり前であるからこそ、それはあくまでも道具であり使う人次第で変わってくることも自覚しています。
中国のネットは、日本や西欧諸国と異なり、独特な生態系を構築しています。FacebookやTwitterやYouTubeの代わりに、WeChat、Weibo、Bilibili、QQなどが発達しています。しかし中国のネット生態系の中で生活しているZ世代は、けっして閉鎖的な世界に閉じこもっているわけでなく、SNSを通して知識を得たり、とくに海外の投稿者を経由して留学するための資料を収集したりして、「外の世界」を確認し、自分の「位置」を理性的に分析したりもしています。
中国の「Z世代」は、独自のネット環境の中、〝外の情報〟を柔軟に取り入れネットワークを広げているようです。
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