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お金と仕事

地方の私大出身でも負けなかった就活 コロナ禍に求められる差別化

ほとんどの人が行動しない国にいるというメリット

三菱商事に新卒で入社し、『売れるネット広告社』を起業した加藤公一レオさん
三菱商事に新卒で入社し、『売れるネット広告社』を起業した加藤公一レオさん

目次

ベンチャー企業の社長をつとめる加藤公一レオさんは、地方の私立大学で「遊びまくっていた」学生生活を過ごしながら、三菱商事をはじめ大手商社、富士通、キーエンスなどから内定をもらいました。その秘密は「99%の人と違うこと」を行動してきたから。面接を「自分を売り込むマーケティング」と位置づけ、積極的に「OB訪問」で練習を重ね、志望動機をテストしてきたそうです。新型コロナウイルスの感染拡大は、22卒の就活生にも影響を与えています。そんな不透明な時代に必要な「自分を伝える技術」について、加藤さんにつづってもらいました。

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コロナで激変した「売り手市場」

22卒の学生のみなさんはもう就活を始めているだろうか。コロナショックで売り手市場が激変、一気に就職戦線が厳しくなった21卒の先輩たちを見て、「ヤバい」と危機感を募らせている方も多いと思う。

私は現在、『売れるネット広告社』というネット通販(D2C)の広告を支援するベンチャー企業を経営している。幸い業績は創業以来、右肩上がりを達成しており、広告・マーケティング業界のカンファレンスでは国内最大規模の『アドテック東京』では「人気スピーカー1位」(2012年)になるなど、実績を積み上げてきた。

ブラジルで生まれアメリカで育った私は、高校卒業後、単身日本に渡り日本の大学に入学した。その後、当時就職人気ランキング1位だった三菱商事に入社。大手広告代理店のADKを経て、2010年に『売れるネット広告社』を起業した。

今ではベンチャー企業の社長という立場だが、かつては私も一人の「就活生」だった。別に頭が良いわけではないし、学歴だって自慢できるものではないが、就活には“本気”で取り組んだおかげで、大手商社をはじめ、日本のトップ企業の数々から内定を得ることができた。

その秘訣は何だったのか。経営者として採用をする立場になった今、時代を超えて、コロナ禍での就活を余儀なくされた、みなさんのお役に立てる情報があるかもしれず、自分の経験を伝えたいと思う。

マイナビがウェブ上で開いた合同企業説明会には、昨年より9割ほど多い256社が参加。視聴を前もって予約した学生の数は、2・5倍の約6万5千人にのぼった=2020年3月1日午前、東京都文京区
マイナビがウェブ上で開いた合同企業説明会には、昨年より9割ほど多い256社が参加。視聴を前もって予約した学生の数は、2・5倍の約6万5千人にのぼった=2020年3月1日午前、東京都文京区
出典: 朝日新聞

「イケてる業界」を選ぶこと

『売れるネット広告社』の新卒採用説明会では、必ず学生のみなさんに「就活において大事なことは何だと思いますか?」と問いかけている。

学生からは、「自己分析」「熱意」など、色んな答えが返ってくる。もちろんそれらも間違いではないが、会社員としてある程度経済的に豊かな生活を送りたいのであれば、あえてフランクな表現を使うなら「イケてる業界」を選ぶことが一番大事だ。

日本というのは、はっきり言って落ち目の国である。業界天気図を見ると、ほとんどの業界が雨マーク・曇りマーク。しかも今後はコロナ禍で不況が加速するので、日本経済はさらに深刻な状況に陥る。

そんな中、落ち目の業界に入ってしまったら、どんなに能力があっても、どんなに努力をしても、年収もポストも大して上がらない。それどころか会社が倒産して路頭に迷う可能性すらある……。学生のみなさんには、「自分探し」などというキレイゴトの前に、まずはその現実を認識してほしい。

「イケてる業界」というのは時代によって変わる。みなさんの祖父母の時代は、鉄鋼や燃料などが「イケてる業界」で、そこに入れば一生安泰という時代だった。みなさんの両親の時代は、家電メーカーなどが「イケてる業界」だった。そうやって、「イケてる業界」は主役交代を繰り返している。

新日鉄八幡製鉄所であった入社式=1975年3月20日
新日鉄八幡製鉄所であった入社式=1975年3月20日
出典: 朝日新聞

もちろんどんな業界でも個人として成長し成功できる可能性はある。しかし、確率論から言えば、最盛期を過ぎた業界に入っても、「会社がどんどん大きくなって、それに応じて自分の年収やポジションもどんどん上がっていく」という“大成長”する未来が待っている可能性は低いと言わざるを得ない。

一方で、右肩上がりで成長を続けていて、今後も大きく伸びる見込みがある「イケてる業界」に入れば、「会社がどんどん大きくなって、それに応じて自分の年収やポジションもどんどん上がっていく」という“大成長”するドラマが決して夢物語ではなく、現実になる可能性が当たり前にある。(実際に、『売れるネット広告社』の社員はそんなドラマを体験している真っ最中である!!)

私自身、起業する際には「イケてる業界」にこだわった。ネット通販(D2C)は1990年代からずっと右肩上がりで成長を続けているし、ネット広告費は2019年にテレビ広告費を上回り、国内でナンバーワンの媒体になった。これらの「ネット通販(D2C)」×「ネット広告」というイケてる分野をガッチャンコして生まれたのが、『売れるネット広告社』である。

一例として挙げたが、これから伸びる業界は、「ネット通販(D2C)」と「ネット広告」だけに限らない。就職活動においては、自分がやりたいことを考えるのも大事だが、いかに「イケてる業界」を見つけるかということも超大事なのである!

就活とは「マーケティング活動」

はっきり言って、日本の学生は「金太郎飴」だ。日本の就活生は、みんな同じような服装をして、面接ではみんな同じようなことを言う。

ただそれはみなさんのせいではない。ずっとインプットばかりの教育を受けてきて、協調性や謙虚さを教えられてきたのに、就活になったらいきなり「さあ、アウトプットしてください!」「自分をアピールしてください!」と言われても戸惑うのは当たり前である。

学校では、「あなたはあなたのままでいい」と教えられたかもしれないが「オンリーワンでいい」なんていうのは単なるキレイゴトだと言わざるを得ない。特殊技能があれば別だが、どんな会社であってもしゃべりが下手な人よりはしゃべりが上手な人のほうが歓迎されるし、暗くてネガティブな人よりは明るくてポジティブな人のほうが歓迎される。それが社会の現実である。

ズバリ言ってしまうと、就活とは「自分自身を企業に売り込むマーケティング活動」である。会社員の生涯年収は約2億円と言われる。企業からみれば、ある意味、みなさんは「2億円の商品」なのである。営業の仕事をやったことがなくても、2億円の商品を売ることが簡単ではないことぐらいはわかると思う。

だからこそ、成功させるためには就活を「自分自身を企業に売り込むマーケティング活動」ととらえ、戦略的にプランニングし、全力で取り組むことが大事なのだ。

世の中にはあらゆる商品があるが、ぶっちゃけ大差はない。なのに売れる商品と売れない商品があるのはなぜだろうか。

その答えは「マーケティング=伝え方」にある。つまり、売れる商品は「マーケティング=伝え方」がうまく、他の商品と“差別化”できているから売れているのだ。

みなさんも、就活においては“差別化”を念頭に「What to Say(何を伝えるか?)」「How to Say(どのように伝えるか?)」を徹底的にプランニングすることを意識しよう。

「Zoom」を使ってオンライン合同企業説明会に参加した学生=2020年5月8日、札幌市北区
「Zoom」を使ってオンライン合同企業説明会に参加した学生=2020年5月8日、札幌市北区
出典: 朝日新聞

差別化に最も有効なのが「OB訪問」

就活において、「What to Say(何を伝えるか?)」「How to Say(どのように伝えるか?)」で“差別化”するために最も有効なのが、実は「OB訪問」である。

私は新卒で三菱商事に入社したが、それ以外にも三井物産・丸紅・富士通・JTB・キーエンス・ADKなど、日本を代表する大手企業の数々から内定をもらうことができた。アホだったので筆記試験で落ちたことはあるが、面接では落ちたことがない(笑)。

何が言いたいかというと、東京ではほとんど知られていない地方の私大出身の私が、日本のトップ企業の数々から内定を得ることができた理由は、「OB訪問」を徹底してやったからである。

就活生時代、福岡から何度も上京して、56人のOBに会いに行った。「OB訪問」で私がやっていたのが、自己PR・志望動機のプレゼンである。

ネット広告業界には、複数の広告クリエーティブを同じ条件で露出し、最も売れる広告クリエーティブを選定する【A/Bテスト】という手法がある。当時の私は、【A/Bテスト】という概念は知らなかったが、知らず知らずのうちに「OB訪問」で【A/Bテスト】を行っていたのである。

まずは複数のパターンの自己PR・志望動機を作って、先輩AにはAパターンの自己PR・志望動機をぶつけ、先輩BにはBパターンの自己PR・志望動機をぶつけ、先輩CにCパターンの自己PR・志望動機をぶつける……ということを繰り返していく。その結果、反応が悪かったものを捨てて、反応が良かった自己PR・志望動機だけを残し、新しいパターンの自己PR・志望動機を追加して、さらに次のOBにぶつけていくのだ。

最初に訪問したOBには「お前、うちの会社100%落ちるよ!自己PR・志望動機がダメだし、何よりもプレゼンが下手すぎ」と言われてしまった。今、自分で振り返っても、当時はゴミみたいな自己PR・志望動機だったと思う。ところがOB訪問を繰り返すうちにどんどん自己PR・志望動機が磨かれていき、40人を超えたころにはどんな商社でも受かるような自己PR・志望動機が出来上がっていたのである。

加藤さんは福岡から何度も上京して56人のOBに会いに行ったという=画像はイメージです
加藤さんは福岡から何度も上京して56人のOBに会いに行ったという=画像はイメージです

本番前になぜ練習をしないのか

しかも、「OB訪問」には自己PR・志望動機が磨かれるよりも100倍良いことがある。それは、社会人と話し慣れることでプレゼンの練習ができることだ。

打ちっぱなしの練習をせずにいきなりゴルフコースに出る人はいないが、就活ではなぜか、ほとんどの学生がろくに練習もせずにいきなり本番の面接を迎えるため、緊張してつまらない話しかできない。ほとんどの学生は社会人と話し慣れていないし、日本の学生はインプット教育ばかり受けているから、プレゼンの訓練ができていない。「OB訪問」は社会人と話し慣れるための最高の機会なのである。

三菱商事の最終面接では、他の学生は東大・早稲田・慶応という顔ぶれで、東京では誰も知らないような地方の大学の学生は私だけだった。他の学生は私より頭は良かったと思うが、見るからに社会人と話し慣れておらず、緊張しておどおどしていた。しかし、56人の社会人を相手にプレゼンの練習をしてきた私は、「私のビジョンについて語らせてください!」と堂々とプレゼンをすることができた。その成果が、面接を受けた会社すべてからの内定という結果である。

今、コロナ禍で就活もどんどんオンライン化している。大企業の場合、説明会から内定までをオンラインで完結させている会社も少なくないし、「OB訪問」という文化も廃れてきているかもしれない。

就活のオンライン化により、世の中の学生がどんどん社会人と会う機会をなくしているからこそ、ガンガン「OB訪問」をやってリアルで社会人と会っている学生は、他の学生に圧倒的な差をつけることができる。こんなときだからこそ、ガンガン人に会いに行こう。

リクルートスーツに身を包み、大手企業の筆記試験会場を後にする就活生ら=2015年8月1日、福岡市中央区
リクルートスーツに身を包み、大手企業の筆記試験会場を後にする就活生ら=2015年8月1日、福岡市中央区

一発逆転できる最大のチャンス

私は、就活はある意味最後の逆転のチャンスだと考えている。私は帰国子女枠で大学に入学し、大学在学中もろくに勉強せず遊んでばかりだったが、就活に本気を出したことで三菱商事というトップ企業に入ることができた。

みなさんのなかには学歴コンプレックスを抱えている人もいるかもしれないが、就活の頑張り次第で、自分より偏差値の高い学生を超えることができるのだ。

一生年収400万円のままなのか、30代で1000万円稼ぐのか、いずれ会社が倒産するのか、年々年収が上がっていくのか……「人生で一番頑張った瞬間」を就活にすると、人生が変わる。これまでの学歴に満足していなかったとしても、一発逆転できる。

もちろん、人生の価値というのはお金だけではない。でも、あなたがこれからの人生で「経済」にそれなりに重きを置くのであれば、就活には本気で、死ぬ気で取り組んでほしいと思う。

「人生で一番頑張った瞬間」を就活にすると……=画像はイメージです
「人生で一番頑張った瞬間」を就活にすると……=画像はイメージです

「99%の人と違うことをすること」

最後に、就活の究極の裏技を教えよう。それは、勝手に自分を売り込むことだ。日本には約170万社の法人企業があるが、そのうち新卒を募集している会社はごく一部である。

世の中の学生は新卒を募集している会社だけに応募するから、競争率が高くてなかなか内定が取れないのだ。たとえば、本当に広告業界に行きたいなら、あらゆる広告会社の社長宛てに熱い手紙とともに履歴書を送ればいい。

学生から履歴書を送られた社長は、「この学生、募集もしてないのに履歴書送ってきやがって。生意気だな~。」と思うだろうか。いや、むしろ「いまどき草食の学生が多いのに、行動力のある若者だな。よし、一度会ってみよう!」と思うはずである。

たまたま若手がほしい会社に当たれば、競争率ゼロで一発内定だ。非常識な結果を得るには、非常識に動くことが大事なのである。

結局、就活だけに限らず、人生の勝利学は「世の中の99%の人と違うことをすること」に尽きる。私は、通販(D2C)会社向けにセミナーをやったり、就活生向けに会社説明会をやったりしているので、色んな人に向けて話す機会があるが、実際にセミナーや説明会で聞いた内容を行動に移す人はたった1割だ。アンケートでは「勉強になった」「自分も行動したい」と書くのに、結局9割の人は行動に移さないのである。

これまでの45年間の人生を振り返ると、カチンとくる人がいるかもしれないが「人生なんて超楽勝♪」と思う。それはとにかく行動してきたからだ。しょせん、日本人の行動率は1割。日本というのはほとんどの人が行動しない国なので、圧倒的な行動をすればすぐにトップに駆け上がることができる。

この瞬間から、「みんながしないから自分もしない」ではなく、「みんながしないから自分はする」に、思考をシフトしよう。ほとんどの人が行動しない国にいるということは、ライバルが少ないということなので、みなさんはある意味ラッキーだ!

行動さえ徹底すれば人生は楽勝だし、本気で念じて行動すれば夢や目標はかなう。若い学生のみなさんには、ガンガン行動して、ガンガン人と会って大きな未来をつかんでほしいと思う。

【関連リンク】就活ポッドキャスト 朝日新聞 ニュースの使い方 - 朝日新聞ポッドキャスト

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