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「今の時代、恋愛ドラマは難しい」BSフジ亀山社長語る視聴者の変化

フジテレビ社長も歴任したヒットメーカー亀山千広・ビーエスフジ社長が語る現代の恋愛ドラマとは=丹治翔撮影
フジテレビ社長も歴任したヒットメーカー亀山千広・ビーエスフジ社長が語る現代の恋愛ドラマとは=丹治翔撮影

目次

今の時代、恋愛ドラマはなかなか難しいと思う――。そう切り出したのはフジテレビで数々のヒットドラマを手がけてきた亀山千広氏(株式会社ビーエスフジ代表取締役社長)です。テレビの世界に身を置いて約40年になるヒットメーカーが現代の恋愛ドラマに何を思うのか。ライターの我妻弘崇さんが亀山氏にインタビューをしました。

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“月9”をはじめ、数々の恋愛ドラマを生み出してきたフジテレビ
“月9”をはじめ、数々の恋愛ドラマを生み出してきたフジテレビ

恋愛が、あまりに他人事に

『相棒』、『下町ロケット』、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』、『逃げるは恥だが役に立つ』、『陸王』、『99.9 -刑事専門弁護士- SEASON II』、『半沢直樹』――。2015年以降、最高視聴率20%以上を記録した民放ドラマはたった7つしかない。

興味深いのは、純粋なラブストーリーが一つもないという点だ。最後に20%以上をはじき出したラブストーリーは、2010年、月9枠で放送された『月の恋人~Moon Lovers~』の最高視聴率22.4%までさかのぼらないと見当たらない。

たしかに、『昼顔』『カルテット』などの話題作はあった。今現在も、韓流ドラマ『愛の不時着』が大きな反響を巻き起こしている。ラブストーリーそのものが廃れているわけではないだろうが、この10年で国内の純愛ドラマが停滞している感は否めない。

かつて、“月9”は高視聴率ドラマの総本山であり、恋愛ドラマの一大生産地だった。が、今は『監察医 朝顔』、『絶対零度』、『SUITS/スーツ』など、医療系を筆頭とした職業ドラマを出荷するように。

「今の時代、恋愛ドラマはなかなか難しいと思う。恋愛が、あまりに他人事すぎるものになってしまった」

そう落ち着いた口調で、亀山氏は語る。『踊る大捜査線』のプロデューサーとして知られるが、『ロングバケーション』、『ビーチボーイズ』、『君といた夏』、『あすなろ白書』といった月9の名作ドラマを数多く手がけたプロデューサーでもある。

なぜ恋愛ドラマは受け入れられづらくなっているのか。そして、復活はあるのか。

テレビドラマを作る第一制作部、番組のラインナップを考える編成部にて、陣頭指揮をとってきたドラマ作りの炯眼の士に話を聞いた。

インタビューに答える亀山氏
インタビューに答える亀山氏

ドラマに必要な「枷(かせ)」

「ドラマって、“枷(かせ)”がなければいけない。特に、恋愛ドラマともなれば、どういう枷が障壁として存在するのかを考えなければいけません。一番わかりやすいのは、好きな人に好きになってもらえない……『片思い』という枷。恋愛ドラマを作る上で、こういった枷を考えていくわけですが、遠距離恋愛、身分格差、収入格差など、時代によって恋愛ドラマに含まれる枷が変わり、やり尽くされてきた感はあるでしょうね。大前提のテーマがある中で、その時代の一つのトレンドとして、どういう枷を作っていくかが問われる」(亀山氏、以下同)

例えば、2000年代は『やまとなでしこ』(2000年10月~12月)を皮切りに、恋愛の障害として経済力がモノを言う傾向が強まる。バブル崩壊に端を発する経済低迷期間を受け、格差の問題が浮き彫りになったことで、貧困がドラマにも影響を与えるようになった。大ヒットドラマである『花より男子』(2005年10月~12月)も、財閥御曹司と一般庶民の恋愛を描いた作品だ。

東日本大震災以降、変わった空気

ドラマは、時代の空気感を映し出す鏡のような存在でもある。ところが、根底から揺るがす出来事が起こる。「編成はものすごく苦労されたと思う」と、東日本大震災以降の世界を振り返る。

「フジテレビの柱の一つがバラエティです。当時はお昼に『笑っていいとも!』が放送されていましたが、どのタイミングから笑っていいんだろう、そんな空気感が世の中にあった」

その空気はドラマ作りにも伝播する。

「命というものを、いやおうなしに意識せざるを得なくなりました。作り手たちもそういった意識を感じ取るでしょうから、無視することができない。好き、嫌いといった感情が支配する恋愛ドラマで、命を扱うことは難しい。生きるか死ぬか、そういった状況下に恋愛が入り込む余地はあまりないですよね」

東日本大震災が番組づくりに与えた影響について語る亀山氏
東日本大震災が番組づくりに与えた影響について語る亀山氏

長続きしない感情とネットとの相性

亀山氏は、脚本家である故・野沢尚氏との対談で「感情は長続きしない」と語っている。この点も大きいと付言する。

「恋愛ドラマって、A男がB子に思いを寄せているとしたら、1クール分、視聴者の興味を引き続けないといけない。初回で告白して付き合ったらお話にならない(笑)。好きって言わせるためにドラマを作っているわけで、本来、長続きしない感情を無理やり長続きさせるのが恋愛ドラマ」

だからこそ枷が必要なわけで、感情の機微を描くならミステリーやサスペンスなどの方が適しているとも付け加える。とりわけ3.11以降の世界で、無理やり感情を長続きさせる恋愛ドラマは、どうしても嘘くさく映る。約100分で完結する映画なら鑑賞に堪えることができても、約10話続くテレビドラマで、「好き」を持続させるのは難しいだろう。

さらには、「ネットの評判や反応もドラマ作りに影響を及ぼす」と亀山氏。『踊る大捜査線 THE MOVIE』は、当時、発展途上にあったインターネットの声によって、劇場版の制作に踏み切ったと明かす。

「niftyの中にドラマフォーラムというサイトがあったのですが、知人から『最終話(『青島刑事よ永遠に』)の翌日はサイトがパンクするよ。それくらい盛り上がっている』と聞きました。過去にパンクしたことがあるのは、エヴァンゲリオンぐらいだと。エヴァの盛り上がりを考慮すると、ネットのコアファンは大きな可能性を秘めていて、視聴率の1割でも映画館に来てくれれば大ヒットになるのではないかと考えた」

niftyのドラマフォーラムがなければ、『THE MOVIE』は作られていなかったかもしれないとは……。

「今は、SNSでドラマについてつぶやく人も多い。『犯人はあいつなんじゃないか?』、そういった楽しみ方が珍しくない中で、恋愛ドラマをネット的に楽しむことは、他のジャンルのドラマに比べると相性が悪いところがある。そういった観点から考えても、今の時代に恋愛ドラマをヒットさせるのは簡単ではない」

「他のジャンルに比べると恋愛ドラマはネットとの相性が悪いところがある」と亀山氏
「他のジャンルに比べると恋愛ドラマはネットとの相性が悪いところがある」と亀山氏

「ドラマみたいな恋」に感情移入できない

現在、BSフジは『恋愛マルシェ』という今の時代の恋愛について語る恋愛心理バラエティーを放送している。その背景も紐解くと、恋愛をドラマコンテンツ化することの難しさがより分かる。

「『恋愛マルシェ』は、前身番組である『ビニールハウス~恋愛促成栽培~』の後を継ぐ形でスタートしました。『ビニールハウス~恋愛促成栽培~』の開始当初は、美男美女の恋愛リアリティーショー『テラスハウス』が注目を集めていた一方で、現実は少子化・未婚率の上昇など、いわゆる『草食化』が進行していて、もう少しシンプルに恋愛そのものについて語る番組を作れないかと思っていた。そこで理想形である『テラスハウス』へ出荷する前の段階――という意味で、『ビニールハウス~恋愛促成栽培~』と名付け、放送を開始したんですよね」

ドラマみたいな恋をする時代はとうの昔に過ぎ去り、かといって恋愛リアリティーショーのような「高嶺の花」にはなりきれない。「そもそも恋愛をする意味って何?」、そこからかみ砕かないと恋愛に関心を持ってくれないのではないか、そんな思いがあったと明かす。ドラマで描かれる恋愛はもちろん、恋愛そのものが「他人事」になりすぎている、と。

BSフジで放送中の『恋愛マルシェ』は恋愛心理バラエティーとなっている=BSフジ提供
BSフジで放送中の『恋愛マルシェ』は恋愛心理バラエティーとなっている=BSフジ提供

「僕らがドラマを作っていた頃って、視聴者自身、上手くはいかないかもしれないけど恋愛はしていたと思うんですよ。彼氏がいない、何をやってもうまくいかない主人公がいたとしても、それって何かしらはしているわけで、その喜怒哀楽に感情移入する視聴者が多かった。ところが、今はそういうわけにはいかない。今の子たちは僕らのときより、もっと真剣なんだと思います。真剣だからこそ、傷つきたくないという言葉が出てくる」

「ドラマってフィクションだからさ」が通用しない時代。トレンディドラマ華やかなりし頃、1992年6月号の『広告批評』の中で、『東京ラブストーリー』や『カルテット』を手掛けた脚本家・坂元裕二氏は、「トレンディドラマは地面から5センチ分の夢をみる」と綴っている。現実からかけ離れてもいけない。空を飛ぶ人の話でも、地べたを歩いている人の話でもなく、5センチ分の非現実と夢を持っている人の話。「いま、この時代を生きている僕の同世代が見られる夢というのは、せいぜいそのくらいだと思う」とも。

時代は下り、いまや1センチ分ほどの夢すら、恋愛ドラマに求めることが難しくなっているのかもしれない。「『ありえない』となったら感情移入しようがない。等身大すぎるというか」と、亀山氏は微苦笑する。

「いま流行っているラブソングの歌詞を聴いていると、とてもそう感じるんですよね。現実的に見える範囲で、歌詞が描かれているというか。『LA・LA・LA LOVE SONG』は、「星が見えない夜」を「宇宙が見えない夜」という言い回しで表現している。宇宙まで行ってしまっている(笑)。リアルな歌詞は、心に響きやすいかもしれないけど、モノの見方を狭くしてしまうことでもあると思うんです。リアルであることを大事にしすぎると、そこしか感情移入できなってしまう。恋愛リアリティショーが支持を集めるのも自明の理だと思う」

「今の子たちは僕らのときより、もっと真剣」。現代の恋愛について、そう語る亀山氏
「今の子たちは僕らのときより、もっと真剣」。現代の恋愛について、そう語る亀山氏

大きな嘘はついていい

輪をかけて、新型コロナウイルスが流行している。恋愛どころではない、そんな声が聞こえてくる。このまま恋愛ドラマは、沈みゆく船になるのか? 

「10代に向けた恋愛ドラマは、アイドルや若手俳優を主人公にして、映画という形でコンテンツ化されている。40代を過ぎると、不倫を含めた大人の恋愛事情をモチーフにした恋愛ドラマが定期的に作られている。問題は、本来であればもっとも恋愛を楽しめるはずの20代、30代に向けた恋愛ドラマコンテンツが少ないということ。ヒットさせるのは難しいと思う一方で、作り手にとっても視聴者にとっても、とてももったいないことだと思うんですよね」

「大きな嘘は死ぬほどつけ、小さな嘘はついてはいけない」。そう亀山氏はアドバイスをおくる。

「小さな嘘って、しらけさせるだけです。でも、ドラマを作る上で、大きな嘘はあっていい。ところが、今は大きな嘘もつかず、かといって小さな嘘もつけない。ものすごく中途半端な嘘しかつかない恋愛ドラマが多いように感じます。これでは視聴者にすぐ見破られてしまう。『踊る大捜査線』なんて、大きな嘘の中で成り立っている。パトカーを使用するときに上司の印鑑が必要なんて規則はない(笑)。あれは、警察官にも事務職があるということを分かってほしくてやった演出」

いつの時代も、タイムリープ系の恋愛ドラマ・映画が人気を博すが、「大きな嘘の設定の中でもハートに嘘がなければ面白い」から。そう言われると、なるほど、妙に納得してしまう。

「恋に興味がないんだったら、そういうドラマがあっても全然いい。『私、全然恋愛に興味ないんです』と言っていた子が、ある日突然運命の出会いをして、その瞬間から恋に狂う――そういうストーリーだったら分かるんですよ。その狂いっぷりを面白おかしく描けばいい。ところが、『恋をするのが怖い』という点を描くから訳が分からなくなる。興味がないんだから怖くなるはずがない。中途半端な嘘になってしまう。怖がっている人って、恋に興味がある人のはずなんですから」

そもそも感情は長持ちしない。手練手管でハートの嘘を吐き続けるから、恋愛ドラマが低迷している。のだとしたら、一刻も早く、「嘘でしょ!?」と突っ込めるくらい気持ちに嘘のない、そんな国産恋愛ドラマの登場が待ち遠しい。

亀山千広

1956年、静岡県生まれ。株式会社ビーエスフジ 代表取締役社長
早稲田大学在学中に、映画監督・五所平之助の書生を務め、映画製作を経験する。1980年フジテレビ入社後、編成部および第一制作部を経て、編成制作局局長に。代表的なドラマプロデュース作品に、「ロングバケーション」「ビーチボーイズ」「踊る大捜査線」など。2003年よりフジテレビ映画事業局長として、「踊る大捜査線」シリーズをはじめ「海猿」シリーズ、三谷幸喜監督作品、「テルマエ・ロマエ」などの製作を手がける。2013年同社代表取締役社長、2017年より現職。

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