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エンタメ

「M-1」敗者復活で漏らした本音…ぺこぱ〝身を引く〟笑いの神髄

10年かけて築いた「ツッコまないツッコミ」

ぺこぱのシュウペイ(左)と松陰寺太勇=2019年12月4日、東京都港区
ぺこぱのシュウペイ(左)と松陰寺太勇=2019年12月4日、東京都港区
出典: 朝日新聞

目次

「M-1グランプリ2019」で注目を浴びて以降、高い人気をキープするぺこぱの松陰寺太勇とシュウペイ。ネタ中のフレーズ「時を戻そう」は『2020 ユーキャン新語流行語大賞』にノミネートされ、“シュウペイポーズ”は、五木ひろし、中村倫也、あいみょんなど各界の著名人が披露して話題となった。なぜ彼らの笑いは支持され続けるのか。「ツッコまないツッコミ」の神髄について考える。(ライター・鈴木旭)

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バンドマンとギャル男

そもそもぺこぱの2人は、お笑い芸人を目指していなかった。松陰寺は高校時代からバンド活動をしており、大阪のレコーディング専門学校を経てプロのミュージシャンになろうと上京している。

しかし、メンバー募集で出会ったバンドマンたちのレベルの高さを見て挫折。そんな時、『エンタの神様』(日本テレビ系)が目に飛び込み、「オレでもイケるんじゃないか」と感じて芸人を志すようになった。(2020年2月5日に掲載された「QJWeb クイックジャパンウェブ」のインタビューより)

一方のシュウペイは、幼稚園の頃からのサッカー少年。スポーツ推薦で高校に進学するほどのレベルだったが、強豪校ゆえに周りとの実力差を感じプロを断念。同時期、ギャル男文化を象徴する雑誌『Men's egg』(大洋図書)に夢中になった。シュウペイは、たびたび日焼けサロンに通うギャル男だったのだ。


コンビ結成後の試練

2人はアルバイト先の居酒屋で出会っている。ピン芸人として活動を始めていた松陰寺が、ギャル男だったシュウペイの個性にほれ込み、半年ほど口説いて2008年にコンビを結成した。

もともとお笑いの素地がない2人は、自分たちの芸風やネタ作りに四苦八苦することになる。ネタ番組のオーディションで目立つために「人と違うことをやろう」と模索しては失敗の日々が続く。ボケとツッコミは何度も入れ替わった。また、スーツを着た時事漫才、ヒップホップ漫才、ボーイズラブ漫才と、あらゆるスタイルを試すも手応えを得られなかった。

そんな矢先にWAHAHA本舗を主催する喰始から「キミ、着物着てみたらどうだ?」とのアドバイスをもらう。実際に松陰寺が着物姿でライブに出ると、客ウケも格段によくなった。(2017年12月27日に掲載された「GYAO!トレンドニュース」のインタビューより)

その後も松陰寺は、常に「観客の目線」を意識し、“キャラ芸人”としての完成度を高めていった。


10年以上経て確立したスタイル

2015年に放送された『爆笑ファクトリーハウス笑けずり』(NHK BSプレミアム)では、すでに着物姿で漫才を披露している。とはいえ、シュウペイがツッコミで、松陰寺がボケだ。ここから改良を重ね、ボケとツッコミを入れ替えた。さらには、観客が予想するツッコミを裏切ろうと工夫を加えていった。“ツッコまないツッコミ”は、この流れで生まれている。

その成果が実り、2019年元日に放送された『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の「おもしろ荘」で優勝。ようやく彼らはスポットを浴びた。また、この番組をきっかけに話したナインティナイン・岡村隆史から「着物じゃない方がええんちゃう?」と真顔で助言されたこともあり、再度スーツ姿での漫才にシフトした。

その後、「M-1グランプリ2019」で3位という快挙を成し遂げたのは周知の通りだ。実に10年以上の時を経て、彼らのスタイルは確立したのである。


遅咲きは事務所の影響も

彼らがやや遅咲きとなったのは、事務所を転々とした影響もあるのかもしれない。活動スタート当初は「ナイスデイ」に所属していたが、その後フリーに転身。2010年から「オスカープロモーション」の所属となるも、2019年5月にバラエティー部門が閉鎖され、退所を余儀なくされてしまう。

その直後、AbemaTVの『カンニング竹山の土曜The NIGHT』に“事務所を契約解除になった芸人”として出演。番組MCのカンニング竹山の働きかけもあり、同年6月にぺこぱは「サンミュージックプロダクション」の所属となった。

もちろんブレークするのは芸人の実力によるところが大きい。しかし、事務所のバックアップによって活動が支えられているのも事実だ。事務所の主催ライブでネタを磨くことができるし、同じ事務所の枠で営業の仕事が舞い込むメリットもある。

また、バラエティーの出演交渉、誹謗中傷のケア、違う局で同じ時間帯に出演する“裏被り”のチェックなど、芸人が活動するにあたって事務所によるマネジメントは欠かせない。逆に言えば、こうしたサポート体制が整っていることで、タレントは芸事に集中できるのだ。

「オスカー」のバラエティー部門は2007年に設立され、2019年に終了している。もともとモデルや俳優のイメージが強い事務所なだけに、お笑い分野のマネジメントが難しかったのかもしれない。

いずれにしろ、ぺこぱが「サンミュージック」に移籍してすぐに「M-1グランプリ2019」で結果を出すというのも因果なものだ。複合的な要素が重なったのは事実だが、冷静に見ても「餅は餅屋」ということなのだろうか。

事務所移籍のきっかけをつくったカンニング竹山
事務所移籍のきっかけをつくったカンニング竹山
出典: 朝日新聞

柔軟なキャラクターと対応力

何と言ってもぺこぱの強みは、幅広い層から支持されるキャラクターにある。

2019年~2020年に盛り上がりを見せた「第七世代」の波に乗り、彼らは『お笑いG7サミット』(日本テレビ系)、『Do8』(フジテレビ系)といった20代中心のバラエティーで活躍。ぺこぱの2人はいずれも30代だが、「フレッシュさ」「ポジティブさ」を感じる芸風からか違和感がなかった。

この件について松陰寺は、2020年7月4日に放送された『カンニング竹山の土曜The NIGHT』の中で「(「第七世代」の定義は)年齢、芸歴的な問題もあるんですが、入れる人って世間から第七世代の『チケット』をもらえるんです」と前向きな発言をしている。持ち前のキャラクターを生かしつつ、自分より若手へのリスペクトも忘れない。誰も損をすることのない白眉のコメントだ。

一方で、2021年1月30日放送の音楽特番『これが定番!世代別ベストソング ミュージックジェネレーション』(フジテレビ・関西テレビ系)に顔を見せ、50代のさまぁ~ず、20代の“みちょぱ”こと池田美優らの間に入って世代の架け橋となるトークも担っている。好感度の高さでキャスティングされた部分もあるだろうが、実際に幅広い世代を意識したトークが秀逸だった。

また、ここ最近の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)では、狩野英孝扮する「50TA」に対抗して、松陰寺が公式ライバル「50PA」としての活動をスタート。それぞれが新曲を発表し、視聴者投票によって勝ち負けを決める“楽曲バトル”で番組を盛り上げた。

彼らの活躍から見えてくるのは、年齢やジャンルを超えた対応力だ。番組の意向や共演者に合わせて、最大限のパフォーマンスを発揮する。また、番組によっては30代らしく落ち着いた姿が見ていて頼もしい。いずれも下積み時代の経験値が今に生きているのだろう。

「お笑い第七世代」の代表格「霜降り明星」のせいや(左)と粗品
「お笑い第七世代」の代表格「霜降り明星」のせいや(左)と粗品
出典: 朝日新聞

まったく違う将来像を描くコンビ

コンビでまったく違う将来像を描いているのも面白い。シュウペイは、ネプチューン・原田泰造のようにドラマや映画に出演する俳優としてキャリアを重ねたいと考えているようだ。

2021年1月12日に放送された『ロンドンハーツ』の「芸人未来予想図」の中でシュウペイは、「お笑い始める時に、『申し訳ないですけど、そういうの(俳優業)もやりたいから芸人を踏み台にしてオレはやるよ』って(松陰寺に)言ったの」と語っている。

相方である松陰寺の目標は、世界情勢、政治、経済問題などを扱う報道番組のMCだ。2021年2月14日に放送された『サンデー・ジャポン』(TBS系)で、休養中の爆笑問題・田中裕二の代役としてMCを務めた松陰寺はこんなことを口にしている。

「今やっぱそういう(芸人は政治的な発言をしないほうがいいという)反対意見はあると思うんですけど。なんか『こうあるべきだ』じゃなくて、『こういう意見もあるよね? こういう意見もあるよね? じゃその議論を戦わせて、みんなで同じ方向、前を向けていけたらな』とか。議論を戦わせることすらいけないって風潮は、ちょっと僕はやっぱり寂しいなと思っちゃいます」

“キャラ芸人”としてブレークし、高い好感度を誇るぺこぱ。しかし、2人はそこに甘んじることなく、それぞれが別ジャンルでのステップアップを目指している。何かに挑戦する姿勢は、誰しも応援したくなるものだ。そんなストーリーをごく自然に生み出せるのも、彼らの魅力につながっているのかもしれない。

時代の風潮を体現する笑い

2021年1月23日に放送された『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)を見て、私はすっかりぺこぱの2人を信用してしまった。というのも、「M-1グランプリ2020」の敗者復活戦で落選し、「ホッとした」と口にしていたからだ。

私も当日の放送を見ていたが、会場のウケはいまいちだった。しかし、視聴者投票によって上位3組に残り、最終的に落選となった。この状況にもっとも違和感を抱いたのは、当事者である彼ら自身だった。

「すげぇスベったなと思ったんですけど、知名度だけで3位まで残っちゃったんですよ」

「もし僕らが敗者復活で選ばれてたら、絶対炎上してただろうなと思って。だから、(敗者復活が)インディアンスってなった時、ちょっとだけホッとしたんですよ」

「お客さんもみんな『ぺこぱはスベってたのに3位に残ってるな』ってわかってたと思うんですよね」(すべて2021年1月23日放送の『さんまのお笑い向上委員会』ぺこぱ・松陰寺太勇の発言より)

よく考えれば松陰寺の「ツッコまないツッコミ」は、“身を引くこと”を前提としたツッコミだ。このスタンスは、同時代的な何かを象徴しているように思う。

たとえば昨今のコロナ禍で、健全な者であるほど周囲を気遣う機会が増えた。ソーシャルディスタンスを確保し、マスクを着用する。これはマナーというよりも、ウイルス感染によって相手を重症化させないための手段だ。つまり、まずは周囲を優先させることが相互理解であり、良好な関係性を築くということが目に見える形で露呈した。

ぺこぱの芸風は、そんな今の風潮と非常にフィットしている。見ている者が不快感を覚えない最大公約数を、彼らはバラエティーの世界で体現しているのかもしれない。

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