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今年のドカ雪を「寒気」の気持ちになって解説「日本海は熱湯風呂」
今シーズンの冬は全国各地で、大雪や暴風雪などに見舞われています。地球は温暖化しているといわれていますが、なぜこんなにも大雪になるのでしょうか。今年発生した大雪や暴風雪は一体どのようなものだったのでしょうか。「冬でも日本海は熱湯風呂みたいもので、大量の水蒸気と熱を供給します」。気象研究所の荒木健太郎さんに「寒気」の気持ちになって、解説してもらいました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)
――今シーズンは各地で大雪になりましたね。
2020年12月中旬には北陸地方等を中心に大雪となり、関越道で大規模な立ち往生が発生していました。その後も年越しに非常に強い寒気が流入し、日本海側を中心に大雪となりました。
――なんで、こんなに大雪が多かったのですか?
昨シーズンは寒気の流入が弱く、雪が記録的に少ない状況だったのですが、今シーズンはたびたび強い寒気が流入して大雪が多発していましたね。
――強い寒気が流入すると、大雪が降るんですか。
まず冬には「西高東低」の冬型の気圧配置になることが多くあります。これはご存じですか。
――言葉は知っていますが、どういうことなのかは正直知りません……
これは、日本の西側に強い寒気を伴う「シベリア高気圧」、東側に発達した低気圧があるような気圧配置のことを指しています。
――シベリア高気圧というのは、「シベリアから来る高気圧」ということですか?
「シベリアから来る高気圧」というよりは、「シベリアに中心を持つ高気圧」ということです。
――シベリアに中心を持ちながら、日本まで来るのですね。そんなに大きな高気圧なんですね。
はい、冬季はユーラシア大陸の広い範囲で地表に近い空気がとても冷えるので、シベリアを中心にした寒冷で背の低い巨大な高気圧が発達します。
――「シベリア高気圧」の寒気が冬になると日本に流入すると。
シベリア高気圧がある状況で、低気圧が日本の東側で発達すると、西高東低の冬型の気圧配置になります。そうすると、気圧の傾きが急になって、日本付近では北よりの季節風が吹くようになり、強い寒気が流入するようになります。
――低気圧も関係するんですね。東側に低気圧が発達するのはどうしてですか?
低気圧は日本海上や東シナ海などで発生していますが、冬はこの低気圧が上空の風に乗って発達しながら日本の東側に移動して、西高東低の冬型の気圧配置が強まります。
――「西高東低」から、雪はどのように発生するのでしょうか。
大陸から日本海に吹き出す寒気は非常に冷たいのですが、冬でも日本海の海面水温は5~15℃くらいあります。なので、寒気にとっては日本海は熱湯風呂みたいなもので、大量の水蒸気と熱が供給されます。
――冬でも「熱湯風呂」みたいなものなんですね。
はい。なので、日本海上で温められた空気が雲になり、上空にも寒気が入って大気の状態が不安定になっているので、積乱雲が発達するようになります。
積乱雲は夏のイメージがありますが、実は日本海側では冬に発生して雪を降らせる雲なんです。
この積乱雲が日本海側の各地に流入して雪を降らせ、山地にぶつかると雪が強まります。また、山を越える空気は乾いてしまうので、太平洋側では空っ風が吹いて良い天気になります。
――陸地にぶつかると雪が降るんですね。
積乱雲は日本海上で発達するので、雪自体は海上から降っています。ただし、山地にぶつかると地形の影響を受けて雪が強まるということがわかっています。
特に山地で大雪になるような場合を「山雪型」、海岸平野部で大雪になる場合を「里雪型」と呼んでいます。
――「山雪型」、「里雪型」、雪にもいろいろな種類があるんですね。
特に「里雪型」の大雪パターンはふだん雪の多くはない地域でも一気に雪が増えることがあるので、注意が必要です。里雪型にもいくつかパターンがあるのですが、そのなかで典型的なのが日本海寒帯気団収束帯、いわゆる「JPCZ」です。
――「JPCZ」……アイドルのグループ名みたいですね。
JPCZはJapan sea Polar airmass Convergence Zoneの略です。
朝鮮半島の付け根にある長白山脈にぶつかり、それぞれ山脈の東西を回り込んだ空気の流れが日本海上で再びぶつかります。ぶつかった空気は、下が海なので行き場をなくして、上に昇るようになります。この上昇気流によって、積乱雲が特に発達するようになるのが「JPCZ」です。衛星画像で見ると、筋状になった雪雲の中に特に発達したJPCZの雲が見られます。
――たしかに今年、テレビのニュースでもこのような雲の衛星画像をよく見ました。
はい。このJPCZが停滞することで、日本海側では短時間でたくさんの雪が降り、除雪が追い付かなくなるほどの積雪になることがあります。
――ちなみに、なんで筋状の雲になるのですか。
おみそ汁をよく見ていると上昇する部分と下降する部分ができているのがわかりますが、寒気吹き出し時の日本海も同じような状況になっているんです。風が吹くことで上昇気流と下降気流の列ができます。この上昇気流の列上で雪雲が発達したものが筋状の雲の正体です。
――大雪のときは、かなり前からニュースで注意喚起の報道がされていました。
日本海側の大雪には西高東低の気圧配置や寒気の流入が重要なので、降雪量の正確な予測にはまだ課題はあるものの、大雪になるかどうかはある程度精度よく予測することができます。そのため、上手く気象情報を活用すれば、適切に大雪に備えることができます。
――なるほど。関東では何度か雪予報だったのに降らなかったですよね。関東の雪の予報は難しいんですかね。
関東の雪の予報は現在の技術では非常に難しいというのが現状で、大雪の予報が出ていても雨になったり、雨の予報だったのに雪が降ったりということはままあります。
なので、高精度な予測のためにまずは実態解明の研究を進めています。
――関東の雪は日本海側とは違うんですね。
関東などの太平洋側では、「南岸低気圧」と呼ばれる本州の南岸を通過する低気圧に伴って雪が降るということが知られています。
このとき雪を降らせる雲は、低気圧から広がった「乱層雲」という雲です。
――「乱層雲」。日本海側の雪を降らせる「積乱雲」とは別なのですね。
はい。日本海側では雷雲とも呼ばれる積乱雲が局地的に雪を降らせます。これに対して、関東に雪を降らせる乱層雲は低気圧や前線の北側によく発生する雲で、広い範囲に雪を降らせ、通常は雷は発生しません。
――乱層雲だから、関東の雪は予測が難しいんですか?
雲の種類よりも、雪が降るかどうかには、地上付近の気温が重要です。気温が高ければ降ってきた雪が途中で雨になり、気温が低くなれば雪が降ります。
――気温によるのですね。それだと予報は簡単そうな気もするのですが。
関東は気温がそもそも高いので、少しの気温の違いで雪か雨かも変わってきます。関東で気温がどのくらい低くなるかは、関東の地形や低気圧の発達度合い・進路、低気圧からどのくらい乱層雲が広がるか、雲の中でどのような雪が成長してどのくらい降ってくるのか…これらが相互に作用をしているため非常に複雑です。
関東の雪を正確に予測するにはこれらを全て正確に予測する必要があるのですが、現状では雪雲の特性をはじめわかっていないことも多いため、予測が難しいのです。
――以前、低気圧が八丈島の北か南かで雨か雪が変わると気象予報士のひとが言っていたような気がします。
これまで経験的に、南岸低気圧の進路が八丈島の北なら関東には暖かい空気が流入して雨になり,南なら暖かい空気の影響を受けずに雪になると予報現場ではいわれていました。
しかし、以前私が予報の現場にいたときも、その経験則に当てはまらないケースが多かったのです。そこでちゃんと統計的に解析をしたところ、進路だけでは関東で雨が降るか雪が降るかは決まらず、広い範囲での寒気がどのくらい強いかや、関東の地形の影響などが重要だということがわかってきました。
――そもそも、温暖化しているといわれているのに、なんでこんなに雪が降るんですか?
日本海側の大雪には、強い寒気が流入することが重要です。
地球温暖化で積雪は減るといわれていますが、温暖化により温かい海から大量の水蒸気と熱が供給され、JPCZが強まりやすくなります。そのため、日本海側では内陸部で「ドカ雪」が増えるという研究があります。
――今年もその影響だと。
それは詳しく調べないとわかりません。
今シーズンは低気圧が次々とやってきて強い寒気を引き込んだので、日本海側を中心に大雪や暴風雪が多く発生しました。
また、特に12月は日本海の海面水温が平年よりも数℃高く、これが大雪に影響した可能性があります。
――なるほど。今シーズンは暴風雪という言葉もよく聞いています。大雪と暴風雪の違いは?
大雪は、降雪や積雪によって住家等の被害や交通障害などの災害をもたらす雪のことです。
一方、暴風雪は、視界が白一色になるホワイトアウトになったり、吹きだまりができて立ち往生するなどの災害をもたらす雪を伴う暴風のことです。
――関東側では暴風雪をあまり聞きませんが、日本海側では暴風雪が発生したとよくニュースで聞きました。さきほどの「積乱雲」と「乱層雲」の雲の種類の違いによるものなんですか。
いえ、雲の種類の違いではないです。暴風雪は雪を伴った暴風のことなので、南岸低気圧の影響で風が強まれば暴風雪になることもあります。また、暴風雪になるからといって必ずしも大雪になるというわけではなく、もたらされる災害の種類が違ってきます。
――そうすると、大雪と暴風雪はしっかり区別して対策をしないといけないのですね。
はい、雪国の方はよく理解していると思いますが、関東などの太平洋側の方は気をつけておくのがよいと思います。気象庁の発表する防災情報や、テレビの解説などで「大雪」「暴風雪」のワードを聞いたら、それぞれにあわせてしっかりと備えておくことが重要です。
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