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四千頭身の秘めたギラギラ感 「第七世代後」を見据えたビジョン
“若者枠”乗り越えた先の芸人像とは?
2019年~2020年にかけて、「第七世代」を象徴する若手芸人として活躍した四千頭身の後藤拓実、都築拓紀、石橋遼大。とはいえ、昨年中盤からチョコレートプラネット、かまいたちなど「6.5世代」も注目を浴び、徐々に世代くくりの旬が過ぎ去りつつある。四千頭身をはじめとする20代の若手は、この状況にどう立ち向かうべきなのか。第七世代という〝世代くくり〟の功罪と、YouTubeやSNSなど活躍の場が広がる時代における芸人である意味とは? 3人の姿から考える。(ライター・鈴木旭)
昨年中盤まで、「第七世代」と呼ばれる若手芸人の活躍が目立った。その中で最も若くして注目を浴びたのが四千頭身だ。
とくに声を張らず飄々(ひょうひょう)とした後藤のキャラクターは、「現代の若者」を思わせる新鮮な印象を与えた。お笑いの定石である「大きな声を出せばウケる」というものとは正反対のベクトルにあったからだ。彼らの漫才は“脱力系”とも称され、「第七世代」を象徴する漫才トリオとしてバラエティーに引っ張りだことなった。
2020年の『ロンドンハーツ』や『アメトーーク!』(ともにテレビ朝日系)を振り返ると、「第七世代」と「6.5世代」の対立を扱った企画がたびたび放送されている。たとえば先輩の悩みに後輩が回答する相談ドッキリや、「6.5世代」という微妙な立ち位置の苦悩を訴えるといった内容だ。いずれも、「旬な若手に中堅芸人たちが嫉妬する構造」で笑いを誘っていた。
この対立の極致が、『爆笑問題のシンパイ賞』(前同)に「6.9世代」と自称するニューヨークの2人がゲスト出演した放送回だろう。「第七世代」の言いだしっぺである霜降り明星・せいやに「第七世代に入れてくれ!」と詰め寄ったり、「第七世代に詳しい有識者」というポジションでVTR出演したりと、泥臭く食い下がるニューヨークの姿勢が強く印象に残った。
とはいえ、これをピークとして徐々に対立構造は崩れていく。2020年の中盤から、むしろ「6.5世代」「6.9世代」が勢いを増していったのだ。
とくに話題に上がったのは、チョコレートプラネットの2人だ。『有吉の壁』(日本テレビ系)の企画で爆発的なヒットとなった「TT兄弟」に続き、昨年は「Mr.パーカーJr.」という新ネタを誕生させてCM出演を果たしている。
また、YouTubeチャンネル「チョコレートプラネット チャンネル」に2020年に大ヒットした瑛人の楽曲「香水」のMVを再現した動画を投稿すると、3498万回を超える驚異的な再生回数をたたき出した。同じように様々なタレントがパロディー動画をアップしたが、チョコレートプラネットが頭一つ抜けていることからも、注目度の高さがわかる。
また、かまいたちの躍進も目覚ましいものがあった。2020年10月から『かまいガチ』と『マッドマックスTV』(ともにテレビ朝日系)、今年から『千鳥VSかまいたち』(日本テレビ系)がスタートするなど続々とレギュラー番組を増やしている。そもそも“ポスト千鳥”との呼び声も高い2人だったが、そこに甘んじることなく着実に結果を残し続けた先のブレークと言えるだろう。
昨年の「M-1グランプリ」を見ても、「第七世代」というくくりで脚光を浴びた芸人は決勝に残っておらず、少し上の世代である30代~40代が顔をそろえている。こうした状況を受けてのことだろう。今年2月4日に放送された『アメトーーク!』の企画「今年が大事芸人2021」の中で、後藤はこんなことを口にしている。
「声が小さいじゃないですか。大きくないんで、ワードがすごい要求されるんです。なんかもう常に音量が低くされてる状態なんで。本当、M-1見てお笑いは音量だなって思ったんですよ。その、誰とは言わないんですけど、全然大したこと言ってないんですよ。考えても考えても結果が出ない人っているじゃないですか。それなんすよね、僕ら」
「僕が体を張って。もう本当に泣く泣く買ったぐらいの、金欠ぐらいの(感覚で高級車・アウディを買った)。余裕で買ったわけじゃないんですけど。『余裕で買ったぜ!』みたいのが面白いかなと思ってやったんですけど、結局、(それがフリになって)『6.5世代』のロイター版に使われるんですよ」
今夜のアメトーーク!は『今年が大事芸人2021』▽ニューヨーク&ぺこぱ&おいでやすこが&3時のヒロイン&四千頭身▽千鳥も止められない…問題だらけの大荒れ収録▽急遽、企画変更? pic.twitter.com/Yj12Pgybue
— アメトーーク!(テレビ朝日公式) (@ame__talk) February 3, 2021
そもそも漫才トリオは珍しい。「第七世代」ブームが起きる前から、すでにライブシーンで四千頭身は知られた存在だった。トリオを結成した翌年の2017年には、次世代スター発掘プロジェクト『新しい波24』(フジテレビ系)に出演。その後、スタートした『AI-TV』には、霜降り明星らとともにレギュラー出演者に抜擢(ばってき)された。
2019年に私が四千頭身に直接インタビューした中で、後藤は当時を振り返ってこんなことを口にしている。
「お笑い第七世代ってくくりは分からないですけど、20代の芸人で番組はやりたいですね。『新しい波24』の流れから霜降り明星さんとかと一緒に『AI-TV』って番組に出させていただいたんですけど、本当に楽しかったんですよ! お笑い第七世代って言葉が旬なうちに実現してほしいです」(2019年7月21日に掲載された「bizSPA!フレッシュ」のインタビューより)
実際、2020年に入って『お笑いG7サミット』(日本テレビ系)、『Do8』(フジテレビ系)など、主に20代の芸人による番組が放送されている。また、2019年10月にスタートした『爆笑問題のシンパイ賞!!』(現『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞!!』・テレビ朝日系)では、四千頭身ら「第七世代」のメンバーがロケを敢行して評判を呼んだ。
一方で、『マツコ&有吉 かりそめ天国』(前同)では、後藤の家族が出演するほのぼのとした企画が人気を博し、たびたび放送されている。まさに世代くくりでも個人でもスポットが当たる活躍ぶりだ。普段は元気だが時折見せる気弱さで笑いを誘う都築、トリオ内でのポジショニングに悩みつつ、ここぞという場面で本音を吐露する石橋も面白い。バラエティーを通してメンバーの個性も花開いたと言えるだろう。
ネタも独自のセンスを感じさせる。三者三様の個性を生かしながら、ちょっとした言葉遊びをモチーフとしたネタ、突然始まるWEB広告を取り入れたネタなど、現代の若者らしい着眼点が新鮮だ。
ただ、だからこそ彼らの中で、この“若者らしさ”が壁となっているのかもしれない。その象徴である「第七世代」がピークを過ぎた危機感を、今まさに肌で感じているのではないだろうか。
「第七世代」の波が起きる少し前まで、どちらかというと遅咲きの芸人にスポットが当たる傾向があった。2012年の「キングオブコント」でバイきんぐが、2016年の「R-1ぐらんぷり」でハリウッドザコシショウが、2017年の同大会でアキラ100%が優勝。「M-1グランプリ」も、中堅に差し掛かった芸人が結果を残している。
だからこそ、20代を主とする「第七世代」は久々のインパクトがあった。2018年に賞レースで優勝した霜降り明星、ハナコを筆頭に、四千頭身、かが屋、宮下草薙、EXITといった個性豊かなメンバーがそろったのもブームに拍車を掛けたことだろう。
ポジティブな見方をすれば、若手芸人を「第七世代」とくくったことでお笑い界に新陳代謝を起こしたと言える。具体的には、それまで若手らしい企画が少なかったところに、次世代のスターが登場してバラエティーに新鮮さを与えた。また、デジタルネイティブ世代の芸人が多いことから、テレビとSNSとの親和性を高めたのも間違いないだろう。
一方で、若い世代の番組が増えたものの、いまいち従来型の枠から抜け切れていないという課題もある。コンプライアンス重視という観点から、挑戦できない企画もあるだろう。
メディアが多様化し、やりたい企画はYouTubeチャンネルで実行できる選択肢も生まれた。芸人の絶対数が増え、かつてのように「天下を取ってやろう」という姿勢でお笑いの世界に飛び込む若手が少なくなったこともある。
こうした中で、圧倒的な熱量がテレビに集まりにくくなったのかもしれない。
先述の『アメトーーク!』の中で、都築は「(バラエティーの収録は)ビビっちゃうんで、ちょうどいい普通のこと言って最後逃げてっちゃうんですよね。(パンサーの)尾形(貴弘)さんとか(ジャングルポケットの)斉藤(慎二)さんとかは、どっちかじゃないですか。思い切ってやって、その場で爆笑するか、スベり切るか。(自分は)もうそれすらもできない」ともらしていた。
YouTubeチャンネルを開設していても、30代の芸人はバラエティーに対する熱量が高く、共演者とのつながりや経験値もある。同じ土壌で競うのだとしたら、若手が引け目を感じてしまうのは必然と言えるだろう。
後藤はほのぼのとした芸風とは裏腹に上昇志向が強い。タワーマンションに住み、愛車のアウディを走らせて現場へと向かうライフスタイル。 また、賞レース、YouTube、バラエティーすべてに対して結果を求める。堅実な芸人が多い中で、今はちょっと珍しいタイプに当てはまるのかもしれない。
しかし、だからこそ第一線で活躍できているのではないか。どんな仕事もそうだが、一度チャンスをつかんだからといって持続的な成功が保障されるわけではない。むしろ、チャンスを得た後のほうが長くしんどいものだ。いかに周囲の期待に応え、裏切りつつステップアップできるかが問われることになるからだ。
芸人の世界においても、そんなプレッシャーに負けない高い熱量が求められる。それは、先人たちを見ていても明らかだ。現在でも活躍するタモリ、ビートたけし、明石家さんまらは、視聴者の知らないところで圧倒的な情報量を吸収し、番組でアウトプットしている。
「第二世代」「ビッグ3」としてくくられたりもするが、あくまでもバラエティーを盛り上げるキャッチフレーズで、それぞれが個別に脚光を浴びたのは周知の事実だ。世代を問わず、それが健全なスタンスなのだと思う。
また、才気あふれるタレントによって人気番組が誕生していった経緯もある。『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系)、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)、『踊る!さんま御殿!!』(前同)といった番組は、メインMCなくしては考えられない番組だ。プレーヤーこそ番組の肝なのである。
「目立ちたい」「稼ぎたい」という目的であれば、今なら芸人ではなくYouTuberを目指すだろう。では、芸人である意味がどこにあるのか。
後藤の姿勢から伝わってくるのは、一過性のブームの中の1組ではなく、芸人単体として高みを目指したいという意識だ。
多様性が広がる中で、目指すビジョンと熱量が問われている。四千頭身の3人はいずれも20代前半だ。まだまだ今後の伸びしろに期待している。
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