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IT・科学

斎木陽平さんが、Clubhouseでゲイをカミングアウトするまで

「まだこの場所つかっていい?」取材後に流れた穏やかな空気

ゲイであることをカミングアウトした斎木陽平さんに公開取材をしたClubhouseの「room」
ゲイであることをカミングアウトした斎木陽平さんに公開取材をしたClubhouseの「room」

目次

先日、ゲイであることをカミングアウトする瞬間を目の当たりにした。場所はClubhouse。涙声で、今までの自分の想いをぶつけ、他のスピーカーが鼻水をすすりながら優しく聞いている空気が伝わってきて、思わず聞き入ってしまった。Clubhouseは、音声で複数人とトークできる、シンプルに言えばそれだけのアプリだ。それなのに、なぜ、カミングアウトする場所としてClubhouseを選んだのか。そこには「話を聞いてくれている。そばにいてくれる」そんな魅力があるという。これまでのネットにはない、Clubhouseの可能性とは何か。あらためて、Clubhouseで公開取材をした。(時事YouTuber・たかまつなな)

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涙ながらにカミングアウトをしてた

斎木陽平さんは、『Loohcs高等学院』の発起人で、AO推薦入試専門塾『Loohcs志塾』塾長をしている。また『高校生未来会議』の発起人でもあり、『18歳選挙権実現運動』では、その精力的な活動によって政治や社会問題に関心がある人の中では有名人だ。そして、何かと世間を騒がせている。それは、斎木陽平さんが安倍晋三さんの親戚であるのも1つの理由だ。

そんな斎木さんが、自身がゲイであることをカミングアウトしたのは2月1日の正午だった。

ここ最近ClubHouseが流行を始めた。そして、ClubHouseを開けば、社会問題を語るルーム(=場所)で必ずといっていいほど斎木さんが、その場を仕切っていた。

でも、その日、力強く話すいつもの斎木さんの声はなかった。涙ながらに何かを語っていた。途中から聞いていたのだが、どうやらゲイであることをカミングアウトされている様子だった。そして、文字通り”泣き喚きながら”過去の苦悩を赤裸々に語っていた。

斎木さんは、AO入試で「政治家になりたい」と志望理由書(就活の際のエントリシートのようなものに相当)に書いて慶応大に合格した。

AO入試の出願書類の一つである自己推薦書(就活時の自己PRに相当)には、親戚である安倍晋三さんが登場している。受験時代に、入試のためにも、将来のためにも、政治家の話を直接聞く機会が欲しいと両親に話すと、「なら地元の安倍晋三さんに相談してみる?」と言われ、第一次安倍政権退任後であった安倍さんに会うことができたそうだ。自己推薦書には、安倍さんとの2ショット写真がバッチリと掲載されている。

でも彼は、その経験こそが重圧やプレッシャーとなっていたと赤裸々に語っていた。

「自分が政治家になるからには、憧れの安倍さんが所属する自民党から出るものだと思った。自分がゲイだとバレたら、自民党からは出馬しにくいのではないか。不安になり、絶対に隠さないといけないと思い続けていた」という。

AO入試の自己推薦書に掲載れた安倍さんとの2ショット写真
AO入試の自己推薦書に掲載れた安倍さんとの2ショット写真

ぼろぼろになり、家族に告げる

斎木さんは、17歳の時に、親友を好きになったということも話してくれていた。その前まではずっと女性に恋をしていたため、何度も、「なんで自分が」と信じられなかったし、その人のことを忘れようとすればするほど、辛くなった。

意を決して、親友に告白したら、「付き合うことはできないけど、よかったらこのまま友達でいてくれたら嬉しい」と、自分の気持ちを優しく受け入れてくれたそうだ。

でも、それを斎木さんが世間に公表することはなかった。中高時代、女性のような話し方をする男子生徒がおり、そのしぐさを理由にいじめられていた。「自分も止める勇気がなく、同調圧力に流されて、自分自身もからかってしまった」という。ゲイということは受け入れられない、教育現場の段階から刷り込まれたと感じたという。

だから、自分がゲイであることは隠し続けた。「大学時代はずっと童貞キャラを演じていました。楽なんですよ」と話した。

大学生は恋愛話が多く、避けては通れない。しかも、斎木さんはイケメンだ。イケメンだけど、会社経営に夢中で童貞というキャラを演じていた。次第に年齢を重ね、童貞キャラを演じるのも難しくなり、親にも「あの子かわいいし、どう?」と言われたりするようになるのが、たとえ冗談であっても辛かったという。

親に「結婚はまだ?」と言われる度に、「なんで一番大切な人に、一番辛いことを聞かれないといけないんだろう」と苦しんだ。「死にたいとずっと思っていた」とも明かしてくれた。

2018年、斎木さんは、追い詰められ、ぼろぼろになった。生活が荒れた姿を見た親から「なんでこんなことになっちゃったの?」と問い詰められ、決意した訳でもなく偶発的に、「ゲイなんだ」と、言わざるをえない状況で話したのだ。完全に受け入れてもらうには時間が必要だったが、最終的に家族は全面的に受け入れてくれた。

斎木さんが家族にカミングアウトした年にもらったクリスマスカードには、「これからは、1人で抱え込まずに家族がいつでもついてるって忘れないでね」などと書かれていた。

最近では、政治家の中でも多様性の大切さを説く人が増えている。一方で、「権力を得るためにパフォーマンスとして言っているだけではないか」という反発も生まれている。私も、そのような批判をした一人だ。

斎木さんは、そんな状況に対して、自分の辛い経験も含めた「原体験」(思い)をきちんと自分の言葉で説明したいと思うようになったという。また、塾の代表として日々の授業の中で生徒に対しては「本音を語らなければだめだ」と指導しているのに、自分は本音を話せていないことにも苦しんだそうだ。

クリスマスカードに書かれていた家族(兄:斎木佑輔さん)のメッセージ
クリスマスカードに書かれていた家族(兄:斎木佑輔さん)のメッセージ

私は、斎木さんのことが苦手だった

私が斎木さんに出会ったのは、今から9年前の高校生の頃だった。

AO入試で慶応大に入った斎木さんは、自分でAO入試の塾を立ち上げた。18歳だった私は、いろんな塾を試す中で、斎木さんが立ち上げた塾も体験していた。

斎木さんの自分のマンションに、生徒は3人。結局、私は塾には入らなかった。今では『Loohcs志塾(旧AO義塾)』は会社として40人の従業員を抱えるようになったが、当時は学生がやっているということで、運営体制に不安を感じてしまったからだ。

しかし、斎木さんは、芸人たかまつななが少し有名になると塾の合格実績に私を強引に加えようとしたり、私のことを卒業生だと宣伝したりした。斎木さんを塾業界の同業他社の一つが訴えようとした時も、「新しい挑戦に批判はつきもの」と言わんばかりに平気な顔をしている斎木さんに違和感をおぼえた。

名前を勝手に使われたこともあり、正直、公開取材をする前までの私は、斎木さんのことが苦手だった。それは、彼が政治家を目指し、社会問題にどう向き合っているか、その背景や想いが見えず、権力を得るため、目立つために手段を選ばすにやっているように見えたからだ。

もちろん、卒業生の中には、斎木さんに指導してもらったことにとても感謝している人もいる。「自分の背中で教えてくれる指導者で、生徒と対等な立場で接してくれた」「ずっと刺激し合える信頼できる仲間と出会える場所だった」などと卒業生は語る。

それでも、Clubhouseでは、「またこの人は目立ちたいのか」と感じてしまい、私は、「正直関わりたくないけど、関心のある領域が近いから仕方ないか」と割り切ったつもりで一緒に議論に付き合ったりしていた。

『Loohcs志塾』のホームページ
『Loohcs志塾』のホームページ
出典:https://aogijuku.com/

嫌いだった理由が斎木さんを苦しめていた

でも、斎木さんの葛藤、カミングアウトに家族が消極的だった話などを聞きながら、その苦悩の背景にある問題に気づかされた。

日本社会は、古い。私は、その人のセクシュアリティについて、それでどうだとか特に何も思わない。それは東京にいるからかもしれない。でも、それが山口県の小さな地域では違うのかもしれない。

「政治家になる」と宣言して大学に合格した斎木さんは、「早く結果を残さないといけない、手段を選ばずに有名になろう、早く何者かにならなければ」と思い焦っていた。話を聞いて、私が斎木さんを苦手な理由、嫌いだった理由こそが、斎木さんを苦しめていた根源だったと気づき反省した。

自分だって、会社を立ち上げた時、お金がなくて困った。手段と目的を混同し、有名になれれば何だっていいと思っていた時もあった。今だって小さな会社を経営し、人数が少ない中、正直、コンプライアンスについて不安になる時はある。

Clubhouseで、あまりにも本音を語る斎木さんの姿に感動した。「私は斎木さんのこと、好きになりました。敵から味方になりました!! いつでも連絡ください!」と思わず連絡した。

そして、いつの間にか取材をさせてもらうことになり、「せっかくだからClubhouseでの公開取材にしよう」ということになった。

安倍さんは理解してくれますか?

公開取材の第一声は、「たかまつさんには悪いことをしたね」と上述の卒業生として宣伝等をしてしまったことへの謝罪だった。

もちろん、斎木さんが過去にやったことは褒められたことではない。だけど、許すことも必要だし、手をとって一緒に社会を変えていく仲間だとも思った。そして、またもし斎木さんが焦るあまりに、目的を見失ってしまったとしたら、心から怒ったりすることができる仲間でありたいと思った。

そして何よりも私は何と”皮肉なことか”と強く思った。斎木さんは、安倍晋三の親戚だからといつも何かと目立ってしまっていた。安倍晋三の親戚だから特別扱いを受けて成果をあげているんだ、と批判されていた。でも、実際は、そのことが重圧や誤解になっていた。

「ゲイであるとカミングアウトすることは、自民党から出馬することの足枷になるのではないか」と感じ、死にたいとまで自分を追い詰めてしまった斎木さん。こういう人を政治が救えなくてどうするのか、一番強い立場にいるような人をここまで苦しめる今の日本の政治ってなんだろうという怒りが沸いた。

斎木さんは、自分がゲイであることや、カミングアウトにまつわる悩みを安倍晋三さんに話したことはないと言う。

「話したら、理解してもらえないですかね?」と私が聞くと、意外な答えがかえってきた。

「安倍さんは難病を抱え、それを誰にも言えない時期が長かったと思う。彼はきっと僕の苦しみを絶対にわかってくれると思う」と。

斎木さんは、Clubhouseの良さを対話ができることだと熱弁する。政治の中では、まだまだLGBTQについての理解が遅い。ぜひ古い家族観を大切にする自民党の〝先生方〟と対話してほしい。

斎木さんは、政治家に今はなりたいとは思っておらず、自身の経営する事業を通じて世の中を良い方向に変えていきたいのだそうだ。そして、それがカミングアウトしていいと思う一つの理由にもなったという。そう思わせてしまうような社会でいいのだろうか。

斎木さんが家族からもらったクリスマスカード
斎木さんが家族からもらったクリスマスカード

「まだこの場所つかっていい?」

Clubhouseは、斎木さんにとって大切なコミュニケーションの場だ。斎木さんがカミングアウトしようと思ったのは、同じような境遇の人がClubhouseでカミングアウトしたり、堂々とLGBTQを公言する年下の学生と直接対話し、勇気づけられたからだという。

Clubhouseは、社会的強者とされるような起業家がたくさんいて、Androidの人は参加できず、芸能人のroomに大挙するするように人が集まり、「格差を助長している」「一方通行だ」「なんだか面白くない」と思う人はいると思う。先行して流行しているアメリカでは、Clubhouse内での差別的発言といった問題も既に起き始めているそうだ。

でも、私は、この感動の瞬間を他ならぬ「Clubhouse」で目の当たりにすることができた。Clubhouseの特徴は、いろんな人が出入り自由であり、アーカイブが残らないため、音声で気軽に話せる。音声のみなので、カメラがないため、メイクしていなくても、ベッドで寝転びながらでも参加できる。コメントやチャットのようなテキストや参加人数を気にしなくいいインターフェイスである。

公開取材を終え、斎木さんに「まだこの場所つかっていい?」と言われたので「もちろん、どうぞ」と伝えた。

私はミュートして、しばらく聞いていた。同じ悩みをもつ人、LGBTQの人が自分の思いを吐露していた。同じ気持ち、悩みをもつ人が悩みを打ち明けられ、その一つ一つの声に斎木さんは耳を傾けていた。自分1人ではないと思える場、それがそのroomに流れていた空気だったのだ。深夜24時30分に始めた公開取材を、私は朝の4時頃に離脱したが、数百人の人がまだそのroomを聞き続け、当事者たちは語り続けていた。

斎木さんは、カミングアウトでなぜ、Clubhouseという場を選んだのか。それは、親友の後押しが大きくあったからだった。

「聞いている人のアイコンの中にあった親友の姿が『一緒にいるよ。そばにいるよ』って手を繋いでもらってた感覚があった」と、斎木さんは話す。

誰が聴いているか見えることで、「あの人もいる」と思えて、「みんなに耳を傾けて貰えている感覚」が生み出されるのだという。

「自分の活躍を応援してくれているんだ。自分の話を聞いてくれるんだ。そばにいてくれるんだ。それが心地よくて、Clubhouseでカミングアウトできました」

家にいるしかない。繋がれないけど、繋がりたい。家で1人で寝れない。そんな時に、すっと入れる居場所がある。出入り自由。こういう温かい場が広がり、誰かの痛みを分かち合えたらいいなと思った。

「苦しんでいる人の声が簡単に聞けて、共感の言葉をやりとりできて、それをリスナーも一緒にきける」それこそがClubhouseの究極の醍醐味であると斎木さんは熱弁する。

ClubHouseは「格差を助長するメディア」なのか、それとも「分断を癒す対話のメディア」なのか。斎木さんの言葉を借りれば、それは「ユーザー1人1人がどう活用していくかの”選択”」なのかもしれない。

※Clubhouseは原則として、Clubhouse内の話を公開することは禁止である。今回は、斎木さんの許可を得た上で、ご本人と関係者に記事のための確認をしてもらい公開している。

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