MENU CLOSE

連載

#13 ネットのよこみち

「人間はぐうたらしたほうがいい」サンコーレアモノの絶対的ポリシー

コロナで生まれた〝空前の大ヒット〟

家時間が増え、ぐうたらグッズも大人気
家時間が増え、ぐうたらグッズも大人気

目次

ネット民御用達の一人用便利グッズといえば、サンコーレアモノショップだ。かゆいところに手が届く、ユニークな家電を続々投入するサンコー。「これのおかげでオフィスが移転できた」という大ヒット商品から、かすりもしなかったアイテムまで、すべての商品を貫いているのは「人間はぐうたらしたほうがいい」という絶対的なポリシーだ。経理から営業まで全社員が毎週一つのアイデアを出す〝掟〟が生む自由な発想力。「中の人」に開発の背景や、商品にかける思いを聞いた。(取材・文/吉河未布)

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

「この割り切りはアリ」

コロナ騒動が始まってから約一年が過ぎ、すっかり当たり前になった在宅勤務、巣ごもり生活。家にいる時間が長くなり、USB付き1人用こたつや、室内用テントが人気だという。一人暮らしの人にはもちろん、「家のなかでも自分の空間が欲しい」という人が注目するのだろう。

そんな中、自由な発想力をいかんなく発揮しているのがサンコーレアモノショップだ。

アップルウォッチなど、スマートウォッチが盛り上がりを見せていた2017年には、どんな腕時計でもスマートウォッチ気分を味わえる(?)ガジェット『ウォッチブル』を発売(現在は完売)。

iPhoneに届いたLINEや電話の着信を振動で知らせてくれる極小デバイスで、“スマホを見なくても通知がわかる”機能に特化したこの商品は、SNSでも〈この割り切りはアリ〉などと好反応を見せていた。

BluetoothでiPhoneと連動
BluetoothでiPhoneと連動

花粉の時期には、フード型の花粉対策グッズ『USB花粉ブロッカー』を発売。

頭からすっぽりと被ることで、全方位からの花粉をシャットアウトするフードは、前面がクリア板になっていて、視界が確保されている。

今年発売される『花粉ブロッカー3』
今年発売される『花粉ブロッカー3』

フードの上部には、USB接続できるファンを内蔵。花粉の侵入を防ぎつつ、新鮮な空気を中に取り入れ、息苦しさ問題も解決するという仕組みだ。

発売当初は、見た目の怪しさに〈どこまで本気なのか〉〈外出時には職質必至では…〉といった声もあったが、確実な需要はあったようで、今年も改良版が2月中旬から発売予定。

フェースシールドに見慣れた今となっては、そのルックスは全く違和感がないほどで、時代はどう動くかわからないものだ。

その他、1秒でイスが飛び出てくるリュック「どこでも座れるリュック」は、どこでも座ってPC作業やゲームが可能になるし、お米もおかずもこれ一台!「2段式超高速弁当箱炊飯器」は、いつでもズボラに温かいご飯が食べられる家電。

自動カップ麺メーカー「まかせ亭」に至っては、カップ麺専用という超限定用途にもかかわらず、食いついたネット民は多かった。

サンコーの広報部長のえき(つちへんに谷)氏に、開発の背景や、商品にかける思いを聞いた。

USB給電の時代を予言していた

サンコーは、2003年設立。立ち上げた山光(やまみつ)社長は、もともとPCの周辺機器を手掛けていたが、海外のおもしろガジェットを日本にも展開したいと考え、「サンコーレアモノショップ」という名前でウェブショップを作り、輸入販売をするようになった。

2005年には、自社で開発するオリジナル企画をスタート。USB経由で電源を入れるヒーター内蔵『あったかスリッパ』『あったか手袋』の初代がモデル発売されたのはこのごろだが、当時USB給電式はまだ一般的ではなく、実は「社内では反対された」とえき部長は振り返る。

「部屋にエアコンや暖房があるのに、というわけです。ただ、社長は『手足の先が冷たい人はいる』と、絶対に需要があると見ていました」(えき氏)

今やUSBで充電するものは当たり前。来るスマホ/ネット全盛時代を前に、個人のニーズにも敏感だった山光社長の読みは、ズバリ当たった。

秋葉原にあるリアルショップ
秋葉原にあるリアルショップ

「ごろ寝デスク」がかなえた夢

サンコーの基本コンセプトは、「面白くて役に立つ」。普段 “当たり前”に思っているけれど、実はもう少し簡単にできるんじゃないかというものを商品化していく。えき部長に、これまでの「メガヒット」を聞いてみた。

まずは、『仰向けごろ寝デスク』。仰向けのままPC作業ができるというもので、第一号は2005年、もう17代目にもなるロングセラーだ。

寝たままPC作業もバッチリ。在宅ワークもはかどる…?
寝たままPC作業もバッチリ。在宅ワークもはかどる…?
アタッチメントでスマホやタブレットにも対応
アタッチメントでスマホやタブレットにも対応

えき氏によれば、最初はまさかの木製。熱暴走を防ぐためにファンをつけるなど改良に改良を重ね、現在はアルミ素材で軽量化を実現、タブレットやスマホにも対応している。仰向け時だけでなく座っている時の読書テーブルなど、その用途は幅広い。

天板の角度は自由自在、高さは6段階に調節可能
天板の角度は自由自在、高さは6段階に調節可能

発売当時はスマホはまだなく、PCでネットを見ていた時代。

えき氏いわく、「人間はぐうたらしたい生き物。とにかく楽にネットを見たいという発想から生まれた商品」だという。ゴロゴロしながらネットをしたい人は想像以上に多かったようで、えき氏は「正直、売れました」と笑う。

仰向けとは反対に、うつぶせ寝で使うクッションも現在4代目。高さが変わるクッションに穴が開いていて、そこにうつぶせの状態で顔をはめ込むと、寝ながら読書やネット、ゲームが楽しめる。初代には穴がなく、漫画や本を読むことを想定して作られていた。うつぶせ時、クッションを抱えて本を読む人がいることから着想した商品だ。

快適過ぎて、時間が過ぎるのを忘れてしまいそう
快適過ぎて、時間が過ぎるのを忘れてしまいそう

スマホや動画配信サービスが普及すると、ぐうたらしながら映画や動画を見たいという人はますます増加。仰向け用にもうつぶせ用にも新たな需要が生まれ、長年愛されている。

自分のデスクでご飯を炊く

コロナ禍、ネットショッピングをする人が増えるなか、サンコー商品は巣ごもり需要にピッタリ合致していた。

キッチン系で人気があったのは、コードレス電動包丁『エレクトリックナイフ Slim』や『2段式超高速弁当箱炊飯器』、自動カップ麺メーカー『まかせ亭』などだった。

食パンはもちろん、変形パン、ホールケーキもこの通り
食パンはもちろん、変形パン、ホールケーキもこの通り

『エレクトリックナイフ Slim』は、食パン、サンドイッチ、ケーキ、シュークリーム、ローストビーフなど、きれいに切るのが難しいものを、スパッと美しく切ることができる電動ナイフ。家時間でホームベーカリーやスイーツ作りに必要な道具が売れたが、それに伴って熱い視線を集めたという。

最短15分でご飯が炊け、おかずと同時調理ができる『2段式超高速弁当箱炊飯器』は、2019年12月に初代『弁当箱炊飯器』を発売して以来8万3千台を売り上げるヒット商品だ。

「弁当箱」ではあるが、むしろ自宅での需要大。1合まで炊飯可能
「弁当箱」ではあるが、むしろ自宅での需要大。1合まで炊飯可能

「キッチンじゃないとご飯が炊けない」という常識を覆し、職場やリビングでご飯を炊き、そのまま食べられるという画期的なこの商品。炊きたてご飯と同時におかずも出来上がったらもっといいということで、『2段式-』が誕生した。

とはいえ、基本は「短時間でおいしくご飯を炊く」ことがミッション。

「製品自体は中国で作っているんですが、日本のお米と水を使って、熱の伝わり方などを研究して、何度も何度も試作を繰り返しました」(えき氏)というこだわりの商品は、「洗い物が楽」「食べたい分だけすぐに炊ける」「出張にも便利」などと評判を呼んだ。

コロナ禍にあっても「おかずはウーバーイーツやテイクアウト、お米だけは炊きたいという人は多かったようです。ポータブル電源で動くので、車中泊の時に便利と、男性にも人気がありました」と、えき氏は手応えを語る。

「ちょっと欲しくなる」カップ麺メーカー

2019年11月の発売当初から話題だったのは、自動カップ麺メーカー『まかせ亭』。

カップ麺をセットし、スイッチを入れて水を入れ、タイマーを設定すると、自動でお湯が沸き、カップ麺にそのお湯が注がれるとともにフタが閉まり、タイマーで出来上がりを知らせてくれるという“全自動”のカップ麺メーカー。

お湯が湧くのを見張り、こぼさないように注ぐという作業から解放され、待っている間に所定時間が過ぎて麺が伸びるということもない。

コーヒーメーカーからヒントを得たカップ麺メーカー
コーヒーメーカーからヒントを得たカップ麺メーカー

一見ジョークグッズのようだが、なんとも機能的。スタイリッシュなデザインも相まって、「ちょっと欲しい」と思わず心がくすぐられる。

家にいる時間がたくさんできると、カップ麺を作る時間くらいは余裕がありそうなのに、むしろ逆。テレビやネット、ゲームに漫画にアニメに読書に大忙しで、カップ麺を見張っているヒマもない、のだ。

コロナ禍で生まれた空前の大ヒット

実際、家時間を楽にするグッズは売れており、『仰向けごろ寝デスク』はコロナ禍になってから売り上げが1.7倍にも伸びたという。そんななか、コロナ禍で売れた意外なものは、『ネッククーラーNeo』だ。

えき氏が「サンコー史上、空前の大ヒットです。これのおかげでオフィスが移転できたくらい」という同商品は、首の太い血管を冷やせば体全体が涼しくなるというメカニズムを利用したもので、首にかけるだけで、最大20時間体を冷やしてくれるウェアラブルツール(10,000mAhモバイルバッテリー使用時)。

ヘッドホンみたいで普通にカッコいい
ヘッドホンみたいで普通にカッコいい

外出時に便利なアイテムかと思いきや、家でも車内でも手軽に涼しくなれると評判が評判を呼び、夏のマスク生活でも口元の暑さを軽減できると話題になった結果、24万台も売れた。これはサンコーがこれまで輸入品合わせて4600品ほど販売したなかで、ダントツだという。

昨年秋に移転したばかりのピカピカなオフィス
昨年秋に移転したばかりのピカピカなオフィス

企画から最短で3カ月で発売も

ヒット商品が生まれる企画の背景はどうなっているのか。

「現在、社員は全部で35名いるんですが、その全員が毎週一つは企画を出すという社内ルールがあるんです。経理でも営業でも、全部署が対象です。それぞれが社内のアイデア掲示板に、こういった悩みを解決するものとしてこういうものはどうかとか、単純にこういう困りごとを解決できないかという相談とか。

それを掲示板担当スタッフがジャッジして、毎週賞が付与されます。さらに、より面白そうなものは、商品企画部に回され、そのニーズをかなえるためにはどうしたらいいのか、どういうものが必要かなどをディスカッションします」(えき氏)

またサンコーは、商品を企画する部署、技術を担当する部署、デザインを担当する部署など、ものづくりに関わる全員が社員なので、スピード感が強み。だからこそ、改良版も素早く対応できる。企画から商品化まで、最短で3カ月で発売したものもあるという。

広報部長のえき氏
広報部長のえき氏

「あれもこれもと機能をつけない」

『まかせ亭』を見るとよくわかるが、心がけているのは、「いろんな機能をつけない」ことだ。

「あれもこれもと機能をつけると、商品のもつ良さが薄まっちゃうので、いちばん大事なところを大切にする。あえてシンプルな設計にしています。機能を増やせば増やすほど操作方法も部品もややこしくなって値段も上がっちゃうので、なるべく安く、目的のニーズを直球でかなえることを大切にということです。ただ、見た目の美しさにはかなりこだわるようにしています」(えき氏)

ちなみに、ヒット商品の裏で、かすりもしなかったものももちろんある。

自然の風を目指し、2代目まで出たが現在は完売
自然の風を目指し、2代目まで出たが現在は完売

「2015年くらいだったかな、電動うちわを出したんです。普通の扇風機の風では気持ちわるくなっちゃう人もいるということから、やっぱりうちわの風がいいのではと。そんなうちわを、電動であおいでくれるものがあったらいいのではないかという発想です。目指したのは自然の風で、向きとか強さとか、卓上サイズで自信をもって売り出したんだけども、こだわり方をまちがえちゃったみたい(笑)」

指先にスタイラスポイントがついている『指のび~る』
指先にスタイラスポイントがついている『指のび~る』

「あとは、『指のび~る』というものもありました。これは2014年のスマホが大型化したタイミングで、片手で操作するのは大変だという声があったことから、じゃあ指が伸びたらいいなと。親指が1.5センチ伸びるものだったんですが、指のリアルさにこだわってしまって……リアルすぎたんですね。時々、こだわり方をまちがえちゃうんです(笑)」(えき氏)

「ジョークグッズではない」

失敗してもいい、というのは大手家電メーカーにはない圧倒的な強みだろう。

「サンコーはメーカーでもあり、小売りでもある。ネット通販と直営店舗があって、価格設定も自由にできる。いろんな商品にチャレンジでき、誰の意見もきかずに売り切ることができます。産地直売のようなものです。

開発商品のほかに、輸入商品も扱っていますが、おもしろいだけで終わっちゃう商品はありません。必ず役に立つ部分がないと販売しないんです。その役に立つ部分が多少ニッチなのものでも、誰かの役に立つことには変わらない。だから、ジョークグッズではないんです」(えき氏)

サンコーが輸入販売している卓上食器洗い乾燥機は「家電批評オブ・ザ・イヤー2020」を受賞
サンコーが輸入販売している卓上食器洗い乾燥機は「家電批評オブ・ザ・イヤー2020」を受賞

輸入商品は調達部が取り扱い、電化製品など、海外仕様になっているものはサンコー側で日本仕様にしている。

「人間はぐうたらしたほうがいい。ぐうたらって、究極の楽ですよね。楽をするのがキライな人って、あまりいないでしょ。なるべく疲れないほうがいいじゃない」というえき氏。今後ますますぐうたらできるズボラ商品に、ワクワクしかない。

面白くて役に立つものの追求を続けるサンコー
面白くて役に立つものの追求を続けるサンコー

連載 ネットのよこみち

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます