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「サステイナブルよりサバイバル」上野千鶴子さん、日本への危機感

「おっさんは利害でしか動かない」

上野千鶴子さん
上野千鶴子さん 出典: 朝日新聞

目次

SDGsの認知は高まったものの、具体的な行動まで起こせている人は、まだ少ないのが現状です。社会の第一線でSDGsに重なる活動をしてきた人は、今の状況をどう見ているのでしょうか? 社会学者として女性学を切り開いてきた上野千鶴子さんは、長時間労働の改善や女性の社会進出を進めなければ、国として現状維持すらできないと問題提起します。「ボトムアップじゃ変わらない」という上野さんに、社会の動かし方を聞きました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)

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上野千鶴子(うえの・ちづこ)
1948年、富山県生まれ。社会学者。「ナショナリズムとジェンダー」「おひとりさまの老後」など著書多数。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
 

〈SDGs(Sustainable Development Goals)〉
地球環境や経済活動、人々の暮らしが持続可能になるよう、国や企業、個人が垣根を越え、2030年までに取り組む行動計画。2015年に米ニューヨークであった「国連持続可能な開発サミット」で、193の国連加盟国の全会一致で採択された。貧困の解消や教育の改善、気候変動の対策など17分野の目標がある。各目標の下に、「各国の所得下位40%の人々に国内平均より高い所得の伸びを実現」といったより具体的な169の目標を掲げている。

〈ジェンダー〉
身体の特徴など生来の性別の違いではなく、社会的、文化的につくられた性差のこと。「男は仕事、女は家事育児」といった「男はこうあるべきだ」「女はこうあるべきだ」とする性別による役割分担も含まれる。

まず生き延びなきゃいけない

――最近、行政や団体、企業でSDGsという言葉を聞くようになりました。

デベロップメント、技術革新も入っていますから、政府や企業が反対する理由はありません。でも、「成長と発展」というそれまでの理念から、「成長」が消えて「持続可能」に変わったことは象徴的です。資源もエネルギーも有限だということがわかったから「成長」がなくなって、「持続可能な発展」に変わりました。そこは時代の変化を反映したものでしょう。

とはいえ、17項目は各方面に目配りした総花的なもので、首相の所信表明演説くらい総花的でつまりません。


――SDGs自体は「サステイナブル」にするための活動が柱になっています。

「サステイナブル」が表に出てきたということはいろんな意味で、地球の有限性を全ての人が考えざるを得なかったということなんだと思います。私は最近は「サステイナブルよりサバイバル」って言ってます。「どうやって生き延びるか」ということの方がもっと切実です。

地球規模で人口が増えグローバル化が進み人びとの往来が盛んになったことによって起きたのが今回の新型コロナウイルスのパンデミックです。「コロナ禍をどうやってサバイバルするか」が全世界の課題になりました。


――コロナ禍をサバイブするというと?
なんといってもまず生き延びなきゃいけない。「コロナ禍をサバイバルして、リアルにお目にかかれる日を待ちましょう」というのが、最近のみなさんに対する私のご挨拶です。

「SDGs」で掲げられた17のゴール
「SDGs」で掲げられた17のゴール

SDGsはボトムアップではもう限界

――コロナ禍で社会課題にも目が向くようになりましたが、多くの人がコミットして、みんなで変えていくということはできると思いますか?

SDGsの中でもジェンダー課題は、もはやボトムアップでは限界です。女性はじゅうぶんに力をつけたし変化しましたから、次は組織と男性が変わる番です。意思決定権のある人、人事の採用権のある人がトップダウンで「ジェンダーコンシャス(ジェンダーに偏りがないかへの意識)」に配慮して意思決定するしか、女性の活躍の場を増やす方法はありません。

政府は「202030(20年までに指導的地位の女性比率を30%にすること)」と数値目標を掲げているのにやらない。国会もやらない、政党もやらない。これではジェンダー平等が進むわけないでしょう。私がびっくりしたのは、菅内閣の現状です。いまさら女性の閣僚というだけではニュースになりませんが、19人の閣僚のうち女性がたった2人ということは、メディアでニュースにならないのでしょうか。


――おっしゃる通りですね。ただ、ジェンダーに関係なく適材適所での任命だという意見もあると聞きました。

それが差別の根源です。その人たちが女性差別を再生産する側にいるんです。適材適所って言って、今のやり方を続けている限り、その人たちはなんの痛痒も感じないでしょう。女性の人材が目に入っていないだけでなく、育てる気もない。それでは現状は変わりません。


――現場で課題感もっている人は多いですが、中間層で止まって動かないことも多いですよね。

トップダウンで動くしかありません。ボトムアップじゃいつまで待っても進まない。「おっさん粘土層」と言われる中間管理職が問題です。最も長時間会社にいる管理職に「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」がある。その長時間労働が女性の昇進の壁になっていることは、山口一男・米シカゴ大教授(社会統計学)がはっきり指摘しています。長時間社内にしかいないから、会社の中しか知らないのでしょう。

企業のトップは外の世界を知っているから柔軟です。「おっさん粘土層」は40~50代の管理職。木村さんおいくつですか?役職は?


――34歳です。役職でいうと、課長と係長の間くらいですかね。

末端管理職ですね。「団塊オヤジ」がいなくなれば、企業は風通しが良くなると思われていました。ですが、彼らが定年で企業を去っても、企業の組織体質は変わりませんでした。「おっさん粘土層」は世代的に再生産されたとしか思えません。

第1次ベビーブーマーを「団塊の世代」と名付けた作家の堺屋太一さん=1996年8月
第1次ベビーブーマーを「団塊の世代」と名付けた作家の堺屋太一さん=1996年8月 出典: 朝日新聞

女は変わった…変わらない男主導の組織

――私もいわゆる大企業にいて、組織に対して嫌気を感じている部分もあります。そんな経緯もあって、会社とは別で復興支援のための社団法人を立ち上げました。もともと復興支援をプライベートでずっとやっていたのですが、そこで関係ができた有志のメンバーではじめました。最近はそういう、一つの社会課題を解決するための有志の組織は増えていると思います。

あなたたちの世代はそうでしょう。なぜなら、上の世代のおっさんがロールモデルにならないから。とは言っても、それに代わるロールモデルもないでしょう。


――上の世代がロールモデルにならないことがわかっている中、会社での女性の立場を変えるにはどうしたら良いのでしょう?

女の意識が低いとか、女性の努力が足りないとかさんざん言われてきました。でも、女性はとっくに変化してしまっていると私は思っています。変わっていないのは男と組織。たとえば、女性が管理職になりたがらないといいますが、これまでの管理職の働き方が問題だということは実証されて、原因もわかっています。どう変えたらいいかの答えもわかっている。それでもやらないんだから、現状維持で変えたくないと考えているとしか思えません。

意思決定権を持っている人が、その意思決定の権利を行使しないと変わらない。あるビジネスウーマンたちの集まりに行ったときに印象的な経験をしました。企業トップの男性がスピーチしたんです。強烈なスピーチだったので、今も覚えています。「あなた方は社会を変えたいと思っている人たちです。しかし、社会を変える力を持たない人たちの集まりです」と。


――会場の反応はどうだったんですか?

みんな絶句していました。その通りですから。会場にいるのは意欲はあっても地位の低い若い女性たちでした。男女雇用機会均等法も、女性活躍法も、男並みに働けば、男並みに処遇してやるというもので、働き方のルールを変えようとはしなかったですから。


――…………。

このままでは巨艦日本丸沈没、となるでしょう。サステナビリティというのは持続可能性、つまり現状維持ですが、それすら、変わらないままでは維持できないと思っています。

たとえば、日本のGDPは2位から3位に落ちましたが、まだGDP大国とは言えますから、その状態をなんとか持ちこたえられればよいと多くの人は思っているようです。人口小国になっても、一人当たりGDPが高ければ豊かと言えますが、日本の一人当たりのGDPは世界で25位。つまり長時間労働なのに生産性の低い、生産性小国になっています。

これでは人口小国でも一人当たりGDPの高いシンガポールのような社会になるというシナリオも可能性がありません。なのに、なぜこんなに危機感がないんでしょう、不思議でしょうがない。本当に危機に直面して変わらなきゃと思った時には手遅れじゃないかと、心配です。

衆院本会議場傍聴席で、男女雇用機会均等法案の審議を熱心に聞く女性たち=1984年6月26日
衆院本会議場傍聴席で、男女雇用機会均等法案の審議を熱心に聞く女性たち=1984年6月26日

おっさんは利害でしか動かない

――どうやったら、意識は変わるのですかね。

現状維持で痛痒を感じない人たちを変えるのは難しい。ある地方の女性議員から面白い話を聞かせてもらいました。女性議員のいない議会の議長に「女性がいないことをどう思いますか」というインタビューをしたら、「何の問題も感じない」という答えが返ってきたそうです(笑)。正直ですね。

従来通りのやり方で、従来通りおっさんたちだけでものごとを決めて、自分たちはなんの問題も感じない。その通りだと思います。「なんで女性を増やさなきゃいけないのか」という理由もわからないでしょう。


――そういう人たちは説得できないのですか?

男を論理的な生きものだと思ったことはありません。論理で人を説得することができていたら、社会はもっと早く変わっているでしょう。男は論理ではなく利害で動きます。企業に対して説得する場合には「女性(の活躍の場)を増やすと儲かりますよ」です。実証研究の成果が次々に上がって、事実女性を活用した企業の業績も利益率も高いことが証明されています。


――さっきの地方の議会のような場合はどうですか?

企業には経済合理性がありますから、「儲かりまっせ」で説得できますが、議会は経済活動の組織じゃないので、「儲かりまっせ」では説得できません。それどころか女性は定数の決まった議員ポストを脅かす脅威になるでしょう。


――彼らみたいな人はどうやったら変えられるのでしょうか?

正義と公正さだけでなく、彼らの利害、つまり有権者が変わることですね。やはり国民が変わらないと政治は変わりません。わたしには女性議員を増やす妙案があるのですが。議員をパート職にして名誉と特権を剥奪すれば、結果として男たちが退出して女性が増えると思います。どこかの自治体がそういう議会改革をやらないかしら。

森山真弓前文部大臣(右)を見送る赤松良子新文部大臣。文部省大臣室で行われた憲政史上初となる「女性から女性へ」の新旧大臣の事務引き継ぎ式=1993年8月
森山真弓前文部大臣(右)を見送る赤松良子新文部大臣。文部省大臣室で行われた憲政史上初となる「女性から女性へ」の新旧大臣の事務引き継ぎ式=1993年8月 出典: 朝日新聞

「家族のように」違和感から当事者の言葉を導く

――上野さんは課題を見つける上で、何よりも現場を大事にしていますね。

介護の現場で調査研究をしていますが、良心的で質の高い介護をしているところほど、自分たちの介護を「家族のような介護」という言葉で表現する傾向があります。私は現場では当事者の発言を尊重するので、「いま『家族のような介護』とおっしゃいましたよね? それはどういう意味ですか?」と食いさがります。

そうすると、色んな答えが返ってきますが、「それだと、家族介護が一番良いということですよね。家族じゃないあなたが家族に代わって介護するのは家族介護の代用品。本来ならば家族の介護を受けるのが一番幸せなのに、それができないから、たまたま家族の代わりをやっているということになりますね。自分の介護に、そんなプライドがなくていいんですか」と言うんです。


――家族以上にプロフェッショナルなことをやっているんですもんね。

そのとおりです。だから、「あなたたちは家族にはできないプロの介護をやっているのだから、そのことに誇りをもってください」と、私はずっと言ってきました。


――インタビューしながら整理して言語化していくんですね。

最初はちゃんと否定しないで聞くんです。でも引っかかるんですよ。それを「ちょっと待ってください、いま『家族のような』とおっしゃいましたよね。どういう意味ですか」と。


――1回受け止めた上で自分の言葉にする

当事者の言葉で語ってもらうということです。おもしろい経験がありました。あるユニークな介護事業所の経営者が、「そういえば、わたしら、家族にできん介護をやっとるわね」と。すかさず「どんな介護ですか」とさらに食いさがると、出てきた答えが「やさしくなれること」。名答でした(笑)。
 

1990年、街頭で話を聞く上野千鶴子さん
1990年、街頭で話を聞く上野千鶴子さん 出典: 朝日新聞

言葉にならないメッセージを読み取る

――私も被災地の現場によく行くのですが、被災者の言葉からボトルネックになっている課題を見つけるのも大変です。

あなたみたいにヨソから来たひとだと、おまえは何しにきたと思われるでしょう。私たち社会学者もそうです。当事者から「おまえは何しにきた。支援者ヅラして何ができるんだ」と言われます。その問いに立ち向かわなければなりません。


――ご出演された「情熱大陸」で、上野さんが介護の現場で高齢者の手をさすりながら話を聞いているところは共感しました。言葉で話しづらい人でも、そうすることで信頼されるし、気持ちが汲み取れて、現場がみえてくる気がします。

そういうところを見ていただいてありがとうございます。言語にならないメッセージ、メタメッセージ、パラリンギスティックメッセージ(言語を超えたメッセージ、つまり言葉だけでなく表情やくしぐさなど様々な情報の組み合わせたメッセージ)ですね。当事者は言葉じゃなく、言葉にならないメタメッセージを読んでいます。この人は本気かどうか、と。だから、彼らはだませません。誤魔化せないです。

Zoomを通じてインタビューに答える上野さん
Zoomを通じてインタビューに答える上野さん

「儲かりまっせ」という視点――インタビューを終えて

「サステナブルじゃなくサバイバル」。今のSDGsに対してパンチある言葉を放った上野さん。「変わらないと現状維持(持続可能)すら難しい」ことを切実に語ってくれました。サステナブルという言葉がある種「バズワード化」していますが、国を左右する本質的な課題でもあります。ジェンダーをはじめとしてSDGsをとりまく様々な課題に対して、しっかり向き合い、行動しなければいけないと発破をかけてくれました。

SDGsの行動を推進することの大きな価値として、投資に繋がることもあります。社会的価値がある活動を行うことが、SDGsというツールを使うことでビジネスになります。そう言った意味で、「『儲かりまっせ』で人を動かせる」というのは大事な視点です。他方で、まだまだSDGsが普及していないため、現状だと大きなお金は動きづらい側面もあります。私も被災地支援を行う中で様々な企業の方々と話す機会がありますが、SDGsにつながる活動をしている、社会的な価値があることをやっている(=CSR活動)、ということだけではお金はなかなか動きづらいと感じます。だからこそ、SDGsというツールを使うだけでなく、支援がビジネスに直結すること(=CSV活動)も必要だと感じます。

課題に向き合うときのポイントとして、「言葉にならないメッセージを読み取ること」の重要性も教えてくれました。社会課題において、本質的な問題は社会的に恵まれない人たちに埋もれていることが多いです。私も被災地の現場に行くと、そのことは痛感します。そのような人たちを助けることはもちろん、自ら発信する機会がない人たちの課題の本質を掴む上でも、言葉にならないメッセージを読み取る力が必要になると感じました。

社会の大きな課題から、現場での対応の仕方まで様々な気づきを与えてくれた上野さん。「総花的に語られるSDGs」において、本質的に課題に向き合う方法を教えてくれました。

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