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連載

#14 金曜日の永田町

最終日に復活した「お答えを控える」 菅さんが答弁できなかったもの

「こういう時ぐらい、こういうお金を使うの、やめたらどうですか」

衆院本会議で特措法改正案の質疑で立憲民主党の長妻昭元厚労相に問いかけられる菅義偉首相=2021年1月29日午後1時39分、恵原弘太郎撮影
衆院本会議で特措法改正案の質疑で立憲民主党の長妻昭元厚労相に問いかけられる菅義偉首相=2021年1月29日午後1時39分、恵原弘太郎撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.14) 2021.01.31】
新型コロナウイルス対策の遅れを指摘され、菅義偉首相は4日間の予算委員会の審議で、「答弁を控える」という答弁スタイルを改め、野党の質問にお詫びや「受け止める」という言葉を重ねました。しかし、最終日になって「控える」が復活。菅さんが答弁できなかったものは――。朝日新聞政治部(前・新聞労連委員長)の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

#金曜日の永田町
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統計で見えない90万人

1月29日、コロナの影響を受けた2020年の雇用情勢のデータが発表されました。

一つは、厚生労働省が発表した「有効求人倍率」。求職者1人あたりに何件の求人があるかを示す数字ですが、2020年の平均は1.18倍。前年より0.42ポイントの下落でした。オイルショック後の1975年の0.59ポイント下落に次ぐ、45年ぶりの下落幅です。

もう一つは、総務省が発表した「完全失業率」。前年より0.4ポイント悪化し、2.8%になりました。失業率の悪化は、リーマン・ショックがあった2009年以来、11年ぶりでした。

統計上の数字も悪化していますが、「完全失業者」に含まれるのは、調査が実施された週に仕事がない人が対象です。

今週の国会では、公式の統計に表れないデータが話題になりました。

野村総合研究所が1月19日に公表した「コロナでシフト減のパート・アルバイト女性を対象とした調査結果の報告」です。

昨年12月に全国の20~59歳の女性でパート・アルバイト就業者の約5万6千人を対象にインターネットでアンケート調査を行った結果、4人に1人がコロナの影響でシフトが減らされ、そのうち4割がコロナ前と比べて5割以上もシフトを減らされていたのです。

「シフト5割以上減」かつ「休業手当なし」の人を「実質的失業者」と定義したところ、12月時点で90万人にのぼると推計されました。この「実質的失業者」は、一般的に政府の統計上の「失業者」や「休業者」には含まれません。「実質的失業者」を加味した女性の「実質的な失業率」は、女性の完全失業率が2.3%だった昨年11月でも、5.2%に上ると分析しています。

29日の夜には、総合サポートユニオンが中心となり、「コロナ緊急事態でも、非正規はテレワークさせない、非正規は休業手当なし、非正規は雇い止め。非正規差別が猛威をふるっている状況を変える」(青木耕太郎共同代表)と呼びかけ、「#非正規差別を許さない」のツイッターデモとオンライン集会が行われました。

解雇・雇い止めについての相談や申告などを受け付けているハローワークの窓口=東京都渋谷区、藤原伸雄撮影
解雇・雇い止めについての相談や申告などを受け付けているハローワークの窓口=東京都渋谷区、藤原伸雄撮影 出典: 朝日新聞

異例の面会

「今、日本には総理大臣は菅義偉、1人しかおりません。菅総理、しっかりしてください。そして頑張ってください」

新型コロナ対応で新たに罰則を設ける特別措置法と感染症法の審議が始まった29日の衆院本会議では、立憲民主党副代表の長妻昭さんが、菅さんへの激励で質問を締めくくりました。

本会議後には、立憲の川内博史さんが、休業支援金を受け取れない大企業の非正規労働者やシングルマザーら6人と一緒に官邸を訪れ、菅さんと面会しました。

面会のきっかけになったのは、1月26日の衆院予算委員会での川内さんの質問です。

川内さんが野村総研の試算に触れ、「なんとか救わないといけないですよね。救えるのは、総理しかいないんですよ。私がどれだけ『何かやりたいです』って言っても、私に何の権限もないですよ」と吐露。「緊急事態宣言で時短要請が出ているから、働く時間が短くなって、賃金はめちゃ減るわけです。緊急事態の影響なんです。こういう人たちを救えるのは総理しかいないんです。何とか方策を考えると、ここでご発言いただけないですか」と菅さんに求めました。

「手元の生活資金にお困りの方については、1人当たり最大140万円の緊急小口資金などを用意し、昨年来140万件、合わせて5000億円を超える利用があります。所得が減っている方々は返済を免除する特例もあります。住居確保給付金についても2度目の支給ができるように致しております。重層的にネットワークを用意して、支援をさせていただきたいというふうに思います」

このように官僚が用意した答弁書を読み上げた菅さんに対し、川内さんは再考を促しました。

「総理、もう融資はもう借りちゃってんですよ、緊急小口融資とか、総合支援資金とか。それで、こういう状況になって困っているので、ぜひお会いいただいて、彼ら・彼女らの今の状況をしっかり把握しようということはここでお約束いただけませんか」

すると、菅さんが紙を読まず、「ええ、それはさせていただきます」と応じたのです。委員会室に「おー」と声が上がりました。

面会で直接当事者から状況を聞いた菅さんは「今ある制度を含めて、何らか検討する」と答えたようです。

コロナ対策の遅れから内閣支持率が下落している菅さんは、1月25日から4日間の第3次補正予算案の審議中、昨秋の臨時国会で多用していた「答弁を控えます」という遮断型の答弁をほぼ封印。野党の指摘に対し、「受け止める」という言葉を重ね、15回も「申し訳ない」とお詫びしました。

コロナによって困窮している当事者らと、菅義偉首相の面談を終え会見する立憲民主党の川内博史衆議院議員=2021年1月29日午後6時6分、首相官邸、恵原弘太郎撮影
コロナによって困窮している当事者らと、菅義偉首相の面談を終え会見する立憲民主党の川内博史衆議院議員=2021年1月29日午後6時6分、首相官邸、恵原弘太郎撮影 出典: 朝日新聞

「総理」と迫られても答弁しなかったこと

そうした菅さんが、質問者に求められても、一切答弁に応じなかった場面がありました。

補正予算案審議の最終日となった1月28日の午後。参院予算委員会で、日本維新の会の石井苗子さんが、憲法の規定をもとに休業や時短の要請に応じた事業者に対する補償を求める質問をしたときです。

憲法29条は、1項で「財産権は、これを侵してはならない」と原則が掲げられ、3項で「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定されています。

石井さんはこの規定をもとに、「休業や時短に対する支援金は、緊急事態宣言下では一律6万円とされていますが、営業損失の穴埋めをするには、到底足りないという悲鳴をあげる飲食店の事例も多く出ています。なぜ憲法29条3項の損失補償の対象とならないのか。その理由を総理にお答えいただきます」と菅さんに答弁を求めました。

菅さんは一瞬、手を挙げましたが、すぐさまコロナ対応を担当する西村康稔経済再生相を指さしました。

代わりに答弁に立った西村さんは「まず憲法12条におきまして、『国民は(憲法が保障する)自由及び権利を濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ』とされております。国民の命を守るため感染拡大を押さえていくという公共の福祉のために、強制力を有する措置を用意する法的整理は可能。そして補償についてはですね、法制定時におきましても、休業等を要請したとしても、事業活動に内在する制約であることから、憲法29条3項の損失補償の対象とはならないものと整理をされております」と答弁。「ただ、何もしないということではなくて、補償に近い支援を行っていく」として、大企業にも店舗ごとに1日6万円の支援を行うことなどを挙げ、「規模に応じた支援」と説明しました。

「私が質問しているのは12条じゃなくて、なぜ29条3項の補償の対象とならないのかという理由です」

納得いかない石井さんは菅さんに答弁を求めました。

「特措法改正案で休業や時短の命令も可能になり、違反には過料を科され、まさに強制的措置になりつつあります。休業や時短が強制的な措置になるとしたら、協力した飲食店にはやはり損失補償をすべきということになると考えます。現在一律(6万円)の協力金では憲法の趣旨に沿ったものとは言えません。可能な限り、憲法の趣旨に沿って営業の損失を補填する措置を講ずるべきだと思いますが、総理、どう思われますか。最後にお願いいたします」

8分間の質問時間のなかで、石井さんは6回も「総理」という言葉を出して、菅さんに答弁を求め続けましたが、菅さんは一度も取り合わず。西村さんが「補償ということは行いませんけれども、しっかりと支援を行っていきたい」といって、終わりました。

持続化給付金のホームページ
持続化給付金のホームページ 出典:https://www.jizokuka-kyufu.jp/

1日307万円の機密費

法律家のなかでも、財産権を保障する29条を根拠に減収を補償するのは難しいとみる人が少なくありません。「損失補償の対象とはならない」という西村さんの答弁は、最高裁の判例などをもとに組み立てられたものです。また、「一律の金額を給付する方が、早く支援を届けることができる」というメリットも語られてきました。

しかし、それは財政負担が膨らむことを避けたい政府を支える理屈でもありました。コロナ禍の影響が長期化するなか、自助も限界に近づき、とりわけ非正規労働者などが厳しい状況にさらされています。

石井さんと同じ1月28日午後の参院予算委員会で、コロナ対策などについて質問した共産党の小池晃さんは、最後に官邸中枢の税金の使い方について問いただしました。官房長官室に金庫が置かれ、使途を明らかにしていない「官房機密費」についてです。

小池さんは、菅さんが安倍政権の官房長官時代に、総額95億円の官房機密費のうち、官房長官本人に支出された「政策推進費」が86億8000万円に上ることを指摘。「1日307万円です。何に使ったんですか」と菅さんに問いただしました。

「国の機密保持上その使途等は明らかにすることが適当でない性格の経費として使用されてきており、その個別具体的な使途に関するお尋ねについてはお答えを一切控えさせていただいているところです。いずれにしろ、国民の不信を招くことのないよう適切な適正な執行に努めているところです」

菅さんは「お答えを控える」と言い始めると、小池さんはさらに具体的な証拠を突きつけました。情報公開請求で入手した受け払い簿をもとに、昨年9月1日から16日の間に4820万円の「政策推進費」が使われたことを指摘。「菅総理、あなたは9月1日の翌日に総裁選に出馬表明しました。そして、9月16日、総理に就任した。総裁選に全力を集中していたときにあなたは官房機密費、何に使ったんですか。これは総裁選のために使ったといわれても仕方がないんじゃないですか」と追及しました。

「そのようなことは一切ありません」
「じゃあ、何に使ったんですか」

すると、菅さんの後を継いだ加藤勝信官房長官が代わりに答弁に立ち、「政府全体としてはその時に抱える課題について対応しているわけでありますから、当然そうしたことに対して使用されてきたということです」と述べました。

「国民には自助を押し付けて、自分は莫大な公助を受けてきたのは、あなたじゃありませんか。既得権益を打破するどころか、既得権益にどっぷりつかっている税金の使い方を絶対許すわけにはいかない」

小池さんは「こういう時ぐらい、こういうお金を使うの、やめたらどうですか」と菅さんに改善を求めて、質問を締めくくりました。

要請に従わない人に罰金を科す法改正を目指すなか、自粛を要請している側の与党の幹部が、緊急事態宣言中に深夜まで銀座のクラブに行っていたことが報じられるなど、この危機において政治不信が広がっています。

緊急事態宣言の延長も避けられない状況になるなか、菅さんには、困っている人への支援に全力を挙げるとともに、自らを律するより一層の努力が必要なのではないでしょうか。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《来週の永田町》
2月1日(月)新型コロナ対応で罰則などを新たに設ける特別措置法・感染症法改正案を衆院内閣委員会で審議。自民、立憲、公明などの賛成多数で、3日にも成立の見通し。
2月4日(木)衆院予算委員会で、新年度予算案の審議入り予定

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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