MENU CLOSE

話題

アメカジ聖地でパジャマをすすめられた 世にも珍しい懸賞品の古着屋

安室奈美恵さんの顔どーん「なんで買ったんだろう」が生む価値

お店の奥にあるレジにすっぽり収まる塩見さん。「入り口から僕が見えなくて、いきなり顔を出すとびっくりされます」
お店の奥にあるレジにすっぽり収まる塩見さん。「入り口から僕が見えなくて、いきなり顔を出すとびっくりされます」

目次

言わずと知れた、アメリカンカジュアル(アメカジ)を愛する若者の街、大阪・ミナミの「アメリカ村」。「ちょっと変な古着屋さんに、全国各地から古着愛好家が集まってくる」という話を小耳に挟み、不思議な世界に足を踏み入れてみました。(朝日新聞記者・宮廻潤子)

薄暗い廊下を進むと・・・・・・

雑居ビルの薄暗い廊下をおそるおそる進むと、アメカジの古着屋さんがずらり。よくよく見ると、一風変わった古着屋さんが隠れていました。

お店の名前は「古着屋十四才」。

通りに出ている看板を見つけたものの、小心者の記者(30)は怪しげなビルの雰囲気にたじろぎ、いったん入り口の前を通り過ぎてしまったほど。意を決してお店をのぞき込み、「あの、こんにちは……」と声をかけました。

店の奥にあるレジからひょっこり顔を出したのは店主の塩見大地さん(36)。1人で切り盛りしています。

「古着=アメカジ」のイメージしかなく、ファッションには疎い記者は、店に一歩足を踏み入れると、そのラインナップに驚きました。

薄暗い雑居ビルの廊下を進んで行くとお店がある
薄暗い雑居ビルの廊下を進んで行くとお店がある

懐かしい!あのテレビ番組のTシャツ

六畳間ほどのスペースに所狭しと並んでいたのは、日本の古着。かつてお茶の間を沸かせた人気テレビ番組のノベルティーTシャツに、缶コーヒーの懸賞にあたったらもらえるジャンパー、90年代アイドルのコンサート会場で売られていたであろうTシャツ……。

思わず、「どこで仕入れているの?」と聞きたくなるような代物ばかり。どうやって着たらいいのかも、どこに着ていったらいいのかもわからない世界に、ただただ圧倒されます。

「このお店は、何を扱っているんでしょうか」と聞くと、塩見さんは「うーん」としばらく悩んだ後、「ざっくり言うと80年代から2000年代の日本の古着かな」と答えてくれました。

朝の情報番組「めざましテレビ」のあのキャラクターもTシャツに
朝の情報番組「めざましテレビ」のあのキャラクターもTシャツに
スーパーマーケットでよく見かけるバナナなどフルーツのブランド「Dole」のTシャツもあります
スーパーマーケットでよく見かけるバナナなどフルーツのブランド「Dole」のTシャツもあります

CMでおなじみ、あのジャンパーも

ただ、どれもなかなかお目にかかれないものばかり。Tシャツの棚で、塩見さんの「推し」を並べてもらいました。

まずは、2018年に引退した歌手・安室奈美恵さんの顔がどーんとプリントされたシンプルな白Tシャツ。なかなかのインパクトです。他にも、ダンスボーカルグループ「SPEED」のメンバーが前面に描かれたもの。「おそらくコンサート会場で売られていたんじゃないかと思います」と塩見さん。記者も小学生の頃大好きで歌っていた懐かしの顔ぶれです。

次は、炭酸飲料の「CCレモン」のロゴがプリントされた黄色のシャツ。「こういう分かりやすいもの、いいと思いますね」。ジャケットのコーナーでは、CMでおなじみの「BOSSジャン」をチョイス。缶コーヒーを買って応募するともらえるアレですね。

ただ、記者が本物を見たのは初めて。塩見さんは「うちでは結構メジャーですね。西成でも結構見ますよ。懸賞品なのに、とってもしっかりできているんですよ。かっこつけない下町臭さもありつつ、好きですね」。

オススメの1着を聞いていると、レジの真上にひっかけてある真っ赤なアウターが目に入りました。思わず「これ、何ですか?」と聞きました。半世紀以上、日曜日の夕方のお茶の間を沸かせてきたテレビ番組「笑点」と、飲料大手「サントリー」のコラボ企画の懸賞品とのこと。

塩見さんは「このシリーズはすごく名作ぞろい。ヒッピー風のデザインで、でも笑点。コンセプトわからないんですけど、そこがいい」とお気に入りの様子です。

安室奈美恵さんのプリントTシャツ
安室奈美恵さんのプリントTシャツ
懸賞で当たる「BOSSジャン」。右側は「アーミータイプで、作りがしっかりしている」そうです
懸賞で当たる「BOSSジャン」。右側は「アーミータイプで、作りがしっかりしている」そうです
背面には「Shoten」の文字がありますが、「笑点」だとはなかなか分かりません
背面には「Shoten」の文字がありますが、「笑点」だとはなかなか分かりません
襟元はふかふかのファー素材。とても暖かそうな1着でした
襟元はふかふかのファー素材。とても暖かそうな1着でした

パジャマは「外し」の一着?

最後のオススメは「パジャマのセットアップですかね」。「(パジャマってセットアップって言うのか……)」と心の中でツッコミつつ、かなり着こなすのが難しそうな一着です。

「パジャマがおしゃれなの?」と思うかもしれませんが、実はパジャマをファッションに取り入れるのは古着の世界では珍しいことではないそう。アメリカのロックバンド「ニルヴァーナ」のカート・コバーンが90年代、アメカジにパジャマを合わせたことから人気が出たのだといいます。

塩見さんは「日本におけるテキスタイルとしてかっこいい」と満足げです。「普通のデニムパンツに『外し』として羽織るとかどうですか」と提案いただきましたが、やはり小心者の記者は「寝ぼけてパジャマのまま出てきたと思われそう……」とかなり不安。

そんな不安を伝えると、まさにそこが塩見さんのこだわりポイントなのだそうです。他人から見てどう思われるかではなく、「自分が着て楽しいもの」を着る。「これで電車に乗れるかな?というギリギリのラインを狙うのが好きなんです」と、むしろ周囲の反応さえも楽しむという、おしゃれ上級者の返しでした。

「これなんかいいと思いますよ」とオススメのパジャマを手にする塩見さん
「これなんかいいと思いますよ」とオススメのパジャマを手にする塩見さん

愛用品は「近鉄バファローズ」の野球帽

アメカジから方向転換したのも、理由がありました。

高校生のとき、曲を聴いて好きになった日本のロックバンド「ザ・ブルーハーツ」の映像を、友達に借りたビデオテープで初めて見たときのこと。「ステテコにボロボロのジーンズ。丸坊主で足元は雪駄で歌うヒロトを見て、衝撃を受けました」と話します。

それまではアメカジの王道、「ジーンズにスカジャン」スタイルだったのが、新たな道が開けた瞬間でした。ただ、実際に日本の古着を集め始めたのは7~8年前。「アメカジはもっと奥が深いけれど」と前置きしつつ、「幅に限界を感じた」といいます。確かにかっこいいんだけれど、「これ着たら、誰でもかっこよくなれるよな……」と感じてしまったのです。

時を同じくして、出会ったのが近鉄バファローズの野球帽。ある古着屋さんで偶然出会ったといいます。「大阪のシンボル『太陽の塔』も手がけた、あの岡本太郎さんがデザインしたものだと知り、かっこいい!と一目惚れしました」この野球帽は大のお気に入りで、塩見さんのトレードマークのようになっています。

近鉄バファローズの野球帽を持つ塩見さん。ちなみに、「バファローズのファンではないです」
近鉄バファローズの野球帽を持つ塩見さん。ちなみに、「バファローズのファンではないです」

お店のワッペンはなぜかインドで

現在は、店のオリジナル商品作りに力を入れている塩見さん。自らデザインした店のロゴマークのワッペンがレジ前の棚に並びます。

「手縫いなので厚みがあり、時間とともに風合いが変わっていくのが楽しめると思いますよ」とオススメしてくれました。一つ一つ手作りであることに驚くと、「実はこのワッペン、インドで作っているんです」とワールドワイドな回答にさらにびっくり。

現在インドに住む、小中学校時代の同級生が現地の人たちに依頼してワッペンを手作りし、船便で日本に送っているのだそう。塩見さんは「なんだかよくわからないけど、おもしろそうだなって」と笑顔。今後、さらに商品の種類を増やしていくつもりです。

レジ前に並ぶオリジナルワッペン。手作りのため、一つ一つ微妙にロゴの形が違います
レジ前に並ぶオリジナルワッペン。手作りのため、一つ一つ微妙にロゴの形が違います
インドでワッペンを手作りしている様子=塩見さん提供
インドでワッペンを手作りしている様子=塩見さん提供

「なんで買ったんだろう」が生む価値

そもそも、アメカジを含め、古着とは全く縁のない人生を送ってきた記者には、まさに「新たな世界の入り口」でした。

大量生産される新品の既製品を身につければ、流行に乗ることはできますが、裏を返せば「周りの人との差別化」ができないことでもあります。ファッションやおしゃれは、単に着飾ることではなくて、自分をどう表現するかというとてもアートな営みであることを実感しました。

さすがにパジャマを羽織って外出する勇気はまだ持てていませんが、「パジャマは家の中でのみ着るもの」という自分の中の固定観念に気づきました。まっさらな目で見て、「パジャマとジーンズ、いいんじゃない?」という発想はなかなかできることではありません。

日本でもはや市民権を得たとも言えるアメカジは、塩見さんによると近年東南アジアでも人気が出ているのだといいます。

塩見さんが「日本の古着」という未開拓の領域に踏み込んだのは、新品の既製品ファッションからアメカジの世界に入ったときの初心を忘れていないからなんだと、取材を通して納得しました。

塩見さんは、買ってきたなんの変哲もないTシャツに油性ペンで好きな漢字をいっぱい書いたり、お気に入りのワッペンを縫い付けたりするなど、リメイクも楽しんできたと聞きました。やはり、誰ともかぶらない自分だけのファッションへの情熱が根底にあるのでしょう。

記者にオススメの一着を探してくれる塩見さん
記者にオススメの一着を探してくれる塩見さん

塩見さんのお店に置いてあるものは、一見すると売り物になるのか不安になる商品ばかり。どこの家庭の押し入れにも眠っていそうです。

「なんで自分は中学生のときにこんなもの買ったんだろう」
「なんであんなに缶コーヒーを買って応募したんだろう」

そう思ってしまうような、「ちょっとダサくて着られないな」というものも、年月を経た今、立派な古着として、ひそかに新たな価値を生み出しているのです。

古着は、その時々の時代を映すものでもあります。どんなテレビ番組や歌手、タレントが人気だったか、手に取るように分かります。

記者も、幼い頃大好きな歌手のCDをレンタルしてカセットテープに録音し、家族とドライブ中にかけて楽しんでいたことや、テレビの前で曲の振り付けをまねしながら歌っていたことを思い出しました。

また、懸賞品からは、どんなデザインやフレーズ、商品が好まれていたのかも想像できるでしょう。

取材を終え、自分のクローゼットが気になって開けてみました。数年ごとに転勤してきたため、引っ越しの際に服を処分することが多いのですが、捨てられなかったものが結構残っていました。

大学生の時に、試合に向けて部活の仲間で作ったTシャツやチームのロゴ入りのスウェット、自転車をこいで通学した高校時代、冬の冷たい雨や風から守ってくれた校章入りのウィンドブレーカー、富士山に登頂したときにノリで買った「I LOVE 富士山」のTシャツ・・・・・・。

塩見さんのお店に並べてあっても何の違和感もない品々です。手にとってみても、やはり外に着ていくのには抵抗があります。ただ、今度処分のタイミングがあっても、「残しておきたいな」という気持ちが出てきました。それこそ、古着としてリユースしてもらうこともできるかもしれません。

まだまだ自分で着こなすのは難しいですが、価値を認めてくれる人に渡っていくのも「悪くないな」と感じられるようになった取材でした。

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます