MENU CLOSE

感動

道具は〝自分のまつげ〟世界でも数人しかいない「珪藻アーティスト」

顕微鏡でのぞいて初めて「ほぉ」

奥修さんの珪藻アート作品=奥さん提供
奥修さんの珪藻アート作品=奥さん提供

目次

 顕微鏡の中で宝石のように輝く「珪藻アート」が人気を集めています。作品を作る難しさなどから、世界で数人しかいないと言われる珪藻アーティストの奥修さん(52)に、ミクロの世界の神秘を案内してもらいました。

【PR】指点字と手話で研究者をサポート 学術通訳の「やりがい」とは?

万華鏡のような世界

<奥修さんは、多くが0.1ミリ以下の小さな生き物「珪藻」を使ったアートを手がけています。製作するのも、鑑賞するのも顕微鏡が必要というユニークな作品です>

――顕微鏡をのぞくと、星や丸、三角などいろんな形の珪藻が、まるで万華鏡のようにキラキラと輝いていた。わぁ…きれいですね。

光って見えるのは、珪藻の殻がガラス質だからです。
珪藻というのは海や川などにいる植物プランクトンの一種で、体がガラスの殻に包まれています。
死ぬとガラスの殻だけが残ります。
ガラスですから、数十年、数千年…と長い長い時間、地層にも残ります。
ちなみに、生きている姿はこんな感じです。

生きている珪藻=奥さん提供
生きている珪藻=奥さん提供

――顕微鏡の中で茶褐色の小さな生き物がモゾモゾと動いて……生きている姿はあまり「美しい」という感じではないのですね。

 珪藻アートというのは、海や川の珪藻を含むサンプルから泥などを取り除いて、薬品や水で珪藻の殻をきれいにして、並べて作ります。
多種類の珪藻が欲しいのですが、どこの水にどんな種類のものがいるかは、その場で目で見て確認はできません。
家に持ち帰り、処理して顕微鏡でのぞいて初めて、ほぉ、こんなのがいたのかとなります。

歯ブラシで珪藻を採集する様子=奥さん提供
歯ブラシで珪藻を採集する様子=奥さん提供

文字どおり「毛先を使う」

<ミクロの世界にある宇宙を表現する珪藻アート。奥さんが道具として使うのは、意外なものでした……>

――奥さんはなぜ「珪藻アート」の世界に入ったのですか?

東京水産大学(当時)の大学院生の時に、海洋環境の研究で東京湾のプランクトンを顕微鏡でのぞいて、珪藻に魅せられました。
繊細で、彫刻のように整ったきれいな殻が大量に見えたんです。
大学院を出た後も研究を続けましたが、40歳を前に起業。
研究や教育用に珪藻を観察できるようにしたプレパラートを販売しつつ、アートにも取り組むようになりました。

ただ、自分では「究極の完成度で珪藻を並べている、光学製品を作っている」という感覚で、「アート」を意識しているわけではありません。
珪藻の形や色そのものにアートっぽさがあるのではないかと思っています。
並べながら、形に導かれるように、作品ができあがっていきます。
宝物を作っているようで、本当は売らずに全部持っていたいという気持ちもあります。

――肉眼ではただの白い砂のようにしか見えない小さな珪藻を、どうやって並べるのですか?

まつげやまゆげをシャープペンシルの先に取り付けた自作の道具を使います。
以前、知人がプレゼントしてくれたつけまつげで試してみたこともありますが、あれはコシがなくてダメでしたね。
珪藻の研究者の中には、ブタのまつ毛や歯ブラシの毛を使っている人もいると聞きます。
殻の強度はそれぞれで、つついただけで割れるものもあるので、毛先で慎重に扱います。

 ――自分のまつげやまゆげを使うなんて斬新です。

珪藻研究の世界では、「毛先を使う」というのはごく一般的なことです。
ただ、アートを作るには、物理、化学、生物、あらゆる分野の高度な知識と技術が必要です。
風が舞うと簡単に飛んでしまうので空調は使えませんし、せきやくしゃみもできないなど、いろんな制約もあります。
水辺で採集するところから考えると、大変な時間と労力がかかります。

毛先で慎重に珪藻を扱う=奥さん提供
毛先で慎重に珪藻を扱う=奥さん提供

――奥さんの作品は、月刊誌「たくさんのふしぎ」(福音館書店)で特集され、好評を受けて昨年9月に「珪藻美術館 ちいさな・ちいさな・ガラスの世界」(同)として書籍化されました。

 顕微鏡写真の質や色合い、デザインなど随所にこだわったので、子供から大人まで多くの方に楽しんで頂きたいです。
天体望遠鏡と同じように、顕微鏡でも星空のような世界がみられることを知ってもらえたらうれしいですね。

不思議な幾何学模様の珪藻アート作品=奥さん提供
不思議な幾何学模様の珪藻アート作品=奥さん提供

時を忘れて見入ってしまいそう

光を反射し虹色に輝く珪藻アートは、言葉では表現しえない美しさをたたえていました。

「どれだけでも、好きなだけ眺めてください」という奥さんのすすめに、時を忘れて見入ってしまいそうなほどの作品ばかりでした。
1つ1つの珪藻が、いつどんなところで生きていたのだろう、もしかしたら私が生まれるずっと前の時代のものかもしれない、などと思い巡らすと本当に不思議で、生命の神秘を感じます。
海苔の表面や、水道水、公園の水たまりなど水に関係する場所には必ず珪藻はいるそうで、身近なところにこんなキュートな生き物がいたなんて知りませんでした。

金子みすずの詩に出てくる「見えぬけれどもあるんだよ」、清少納言の「小さきものはみなうつくし」などの言葉がよみがえり、深く心に染みるようでした。

その本物の珪藻アートが、高崎シティギャラリー(群馬県高崎市)で開催中の「たかさき絵本フェスティバル」で鑑賞できます。
機材の関係などから、実物を一般に公開する機会はなかなかないそうです。
2月2日まで。
入場料は大人1000円、4歳以上18歳未満は500円です。

【関連リンク】珪藻のお店 ミクロワールドサービス
 
【関連リンク】「珪藻美術館について」月刊誌「たくさんのふしぎ」発行元の福音館書店のページ
たかさき絵本フェスティバルで本物の珪藻アートを展示中=NPO法人 時をつむぐ会提供
たかさき絵本フェスティバルで本物の珪藻アートを展示中=NPO法人 時をつむぐ会提供

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます