IT・科学
新聞の編集者「面担」が操る三種の神器 パソコンの前で〝画を描く〟
デジタルの時代にあえてアナログ貫く理由
新聞は、各ページを1面や社会面、政治面、経済面、スポーツ面などと、語尾に「面」をつけて呼びます。
紙面はページごとに編集しますから、紙面の編集者は「面を担当する人」……略して「面担」と呼ばれているわけです。
面担の仕事は、記者が書いた記事やカメラマンが撮った写真を、システム端末を操作して紙面に載せることです。
具体的には、紙面のレイアウトを決め、それぞれの記事につく見出しを考えます。
どの記事がトップかなど、ニュースの価値判断をするのも面担の重要な役目になっています。
そうやって、それぞれの面担が担当するページをつくり、日々の新聞はできあがっています。
レイアウトを考えることを「画(え)を描く」と言っています。
紙面編集は、レイアウト用紙に鉛筆と物差しで画を描くところから始まります。いきなりコンピューターではないんですね。
画を描くのに使う、(1)レイアウト用紙、(2)鉛筆、(3)物差しは合わせて、かっこよく「三種の神器」と呼ばれています。
記事の予定行数や写真の有無などは、事前に出稿部(記者らが所属する部署)と調整します。
見出しの大きさは、ニュースの大きさによって「4段12行」「3段9行」「2段4行」などと決まりがありますので、たとえば「4段12行」の見出しでしたら、4×12で48行分のスペースが必要、というふうに紙面に占める見出しの面積を測ることができます。
ちなみに見出しは、メインの見出しを「主見出し」、主見出しに添えられたサブの見出しを「袖見出し」と呼んでいます。
見出しの文字数についても、文字の大きさによって違いますが、2段見出しの主見出しは9文字、3段見出しの主見出しは9~10文字、などと決まりがあります。
以上のように、画は、記事の予定行数や見出しの面積などをもとに、「三種の神器」を使って描くわけです。
設計図みたいなものですね。
当然、ベテランでもない限り、一発できれいな画は描き上げられません。何度も描き直すことが多々あります。
時間との勝負ですので、消しゴムは使いません。
私が教わったのは、赤鉛筆で描いて、描き直しは青鉛筆を使う、というものです。
さらに描き直す場合には読めなくなってしまうので、新しいレイアウト用紙を使うようにしています。
デジタル化が進む世の中において、なんともアナログなやり方ですが、この基本動作を身に付けていないと、紙面編集は破綻(はたん)してしまいます。
画を描かなくても、頭の中にレイアウトを浮かべられるベテランもいますが、基本的には画をしっかり描いてから、システム端末で紙面を編集しています。
「三種の神器」の一つ、物差しは「サシ」と呼ばれているのですが、普通の物差しとはちょっと違います。
形こそ、普通の物差しと同じなのですが、目盛りが違うんです。
センチやミリは測れないんですね。
朝日新聞の1ページの横幅(紙幅。記事部分)は72行あるのですが、物差しの一方はこの行数を測れる目盛り、もう一方は紙面編集で使う単位「倍」が測れる目盛りになっているんです。
紙面編集では謎の単位をいくつも使います。
「倍」のほかには、「ミルス」や「ユニット」……などがあります。
面担駆け出しの頃は、このなじみのない謎の単位の数々に、頭を悩まされます。
ちなみに「ミルス」は、資料には「ミル」の複数形で、1ミルは1000分の1インチ、つまり、0.0254ミリである、と書いてありました。
……さすがにここまでは覚えられません。
ただ、こうした細かい単位を駆使して、日々の紙面は作られています。
紙面編集の現場では、「神は細部に宿る」という言葉が受け継がれています。
新聞離れが進む世の中ですが、面担は日々、紙面の隅々にまで気を遣い、間違いのない紙面はもちろんですが、少しでも読者にわかりやすい紙面を作ろうと編集しています。
「三種の神器」を使って画を描き、デスクらと議論しながら……。
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