グルメ
30万円の干物「リュウグウノツカイ」、記者は気づいた「もしや?」
冗談半分で商品化「まさか売れるとは」
東京・銀座の回転ずし店で、珍しい深海魚の干物が販売されている。ひょろ長いミイラのようで、長さは約2メートル、値段はなんと30万円。その魚は?お味は?そして、買い手は現れるのか――。
ホタルイカやシロエビなど、富山湾の海の幸が目玉の「廻転とやま鮨銀座」。食事を終え会計に向かうと、レジ横に不気味な骨ばった物体がぶら下がっていて、思わずのけぞった。
何だこりゃ…。
「珍しいでしょ、一緒にスマホで記念撮影してあげましょうか」と、店員さんはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
正体は、リュウグウノツカイの干物。
水深200メートル以上の深海にすんでいるが、詳しい生態はわかっていない「幻の魚」だ。
店を運営する会社の社長が一昨年、富山県内で販売されているのを見て一目ぼれし、店の名物にしようと購入したという。
東京までは運べないと言われたが、宅配業者に懇願。折れないように魚の形に発泡スチロールを沿わせ、慎重に運んでもらった。配送料は1万円かかったそうだ。
客からは「わー、すごい」と驚きの声が続出。「で、おいしいの?」と必ず聞かれるが、店員は誰も食べたことがなく、店長の長浜賢さん(38)は「購入したら最初の感想をお聞かせ下さい」と話す。
ただ、店の開店した日から1年近く店内に置いてあるため「店の看板みたいになっている。売れたら話題がなくなって困るし、正直さみしい」とこぼす。
こんな珍しい干物、一体誰が作ったんだろう。
記者は6年前、富山でダイオウイカのスルメの試食会を取材したことがあった。
もしやあの会社では……?
富山県の水産加工会社・浜常食品工業に電話すると、やはりそうだった。浜隆行専務(46)によると、一昨年、富山湾で定置網にかかったリュウグウノツカイを鮮魚店から4匹譲り受け、「食べてみたい一心で」干物にしたという。
ゼラチン質の身は水分が多くて乾きにくいため、さばいて半身にしてから乾燥機に10日ほど入れた。
食品研究所で安全性を確認してからあぶって食べてみたが「パサパサでおいしくなかった。もう作る気がしない」と浜さんは苦笑い。冗談半分で売りに出したといい、「まさか売れるとは思わなかった」。
銀座のすし屋で30万円で販売されていることを伝えると大笑いしていた。
ちなみに、6年前のダイオウイカのスルメは、乾燥させるために真イカ5千匹を干せる乾燥室を5日間使わなければならず「採算が合わない。2度と作らん」と、同社の社長が憤慨していたのを記者は覚えている。記者も味見させてもらったが、しょっぱくて全然おいしくなかった。
浜さんに当時のことを尋ねると、「でもマヨネーズをかけたら食べられなくはなかったですよ」と強がる。が、おいしいのかおいしくないのか、2択で迫ったところ「そりゃ2択なら、『おいしくない』ですよね……」。
サメの干物にも挑戦したが、なかなか乾燥せず途中で腐って失敗。180センチもある「ダイオウイカのとっくり」も作ってみたが、「忙しくて倉庫にほったらかしている」。
何でそんなものを作っているのかお尋ねしたら、「趣味です」と即答の浜さん。「エチゼンクラゲとか食べてみたものはまだある。新鮮なものが手に入ったら干物にしたい」と遊び心はまだまだ尽きないようだった。
思えば昨年はコロナ禍で、ため息ばかりついていた。生態には謎が多いと言われるリュウグウノツカイ。名前を聞くだけで、物語性を感じてしまいます。
めったに姿を見かけることがないことから「大漁の吉兆」とも言われています。そんな珍魚を前に、大の大人が、もうけ抜きに干物に取り組む姿は、明るい話題が決して多くはない中で、クスッと笑える時間を届けてくれました。
1/5枚