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連載

#64 コミチ漫画コラボ

「どうして、漫画家になろうと思ったの?」編集者の問いに私は……

誰かの一言は、原動力になります。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典: コミチ

目次

あの日が私のターニングポイントだった。そう思える日はありますか? マンガ投稿サービスを運営する「コミチ」とwithnewsがコラボし、「#わたしのターニングポイント」をテーマに作品を募集した企画で、小柳かおりさんの「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」が大賞に決まりました。

漫画家を目指して初めて出版社に持ち込んだときの、忘れられないエピソードが描かれています。誰かの一言が原動力になる。言葉の大切さを考えさせられる作品です。
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「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」

「漫画家を目指して1ヶ月 初めて出版社に持ち込みに行った」

こう始まるマンガは、作者・小柳さんの実体験です。大学を中退してフリーターになり、福岡県の実家で暮らしながら都内の出版社へ原稿を持ち込んでいました。

1回の交通費は、格安でも5万円。「月収の半分」に当たります。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


「恐れ多くも当時のわたしは…一作目でデビューできると信じていた!!!」という小柳さん。編集者にほめられてすぐにデビュー。そんな妄想が膨らみます。

冒険もののマンガを1、2話と仕上げ、日帰りで2、3社回る予定を組みました。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


最初に訪れた出版社では、偶然にも好きな漫画家の担当編集者が対応してくれました。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


パラパラとマンガをめくる編集者に、「読むスピードめっちゃ早ッ!!!」と驚く小柳さん。緊張して待っていましたが、2話目は手にとってくれません。

「そりゃそうだ 今見返せば初心者の落書きレベル」
「ペン先に慣れてもない 先はガタガタで ベタははみ出すし トーンも全部貼れてない」
「何より面白くない!!!」

今なら冷静に受け止められます。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


それでも、編集者は約1時間、小柳さんの話を聞いてくれました。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


「担当になってくれませんか!」

帰り際、小柳さんは思い切って編集者へ食らいつきました。

しかし、返答は「いまは無理だよ…」。

「でも…」と編集者は続けます。

「君なら3ヶ月で担当がつくと思う」

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


小柳さんにとって、「3ヶ月」という具体的な数字は大きな目標となり、支えとなりました。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ


その後も持ち込みを続け、漫画賞にも投稿。最初の持ち込みから3ヶ月後に担当してくれる編集者が見つかりました。

「やった!あの人が言ってくれた通りになった!」

それ以降、あの編集者に会う機会はありませんでしたが、「ウブな情熱を大きなものに育ててくれた」と振り返ります。

そして、「わたしも誰かの成長に期待して愛を持って見守れる人になりたい」と思うのでした。

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ

一日も早く漫画家に


マンガは、小柳さんが18歳のころの経験です。

高校を卒業し、一度はシアターアーツを学ぶため、アメリカの2年制カレッジに進学しました。しかし、漫画家になる夢を諦めきれず、2ヶ月で帰国。そこからは「一日も早く漫画家になりたい」という気持ちで、アルバイトをしながら毎日マンガを描き続けました。

そんな小柳さんですが、初めてマンガを描いたのは、高校3年生のときのこと。父親が4コマ雑誌で連載する漫画家で、生まれたときからマンガに囲まれていました。楽しそうに漫画の話をする父親を見て育ち、漫画家を目指すのは必然だったのかもしれません。

しかし、父親にはずっと、「漫画家にはなるな」と言われてきたそうです。

「小学生のとき、友達とやりとりをするプロフィール帳に、『将来の夢は漫画家』と書いたんです。多分それを見られたのか、あるだんらんのひとときに『漫画家になるなよ』と言われました。すごくショックだったので覚えています。今なら親の気持ちもわかるんですけど……」

【関連リンク】父とわたしの漫画日記

19歳ごろに上京して漫画家になった父親は、その後25歳ごろで一度挫折。プロデビューはしていたものの生活に困り、地元・福岡に戻ってきたそうです。

「そこからまた再投稿して連載を続けてきたので、同じことをさせたくないという気持ちがあったのだと思います。今のように漫画家の仕事が幅広くあるわけではなくて、雑誌で描く選択肢くらいしかありませんでした」

ずっと反対してきた父親でしたが、小柳さんがカレッジに進学する少し前、改めて漫画家になりたいと話すと認めてくれたと言います。

「反対されると思っていましたが、とめられないと感じたのだと思います。そんな状況でアメリカに行きましたが、『今なら(中退して日本に帰っても)許してくれるかもしれない』と思い戻ってきました」

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ

「私は大丈夫なんだ」

帰国後1ヶ月で、2話計64ページの冒険マンガを仕上げました。マンガは独学。まだペンの線もガタガタでしたが、「とにかくデビューしたい」一心で東京へ持ち込みの予定を入れました。

「あの人」には、1社目の出版社で出会いました。

約1時間の面談で、マンガを読んでくれたのは15分ほど。フィードバックは一切ありませんでした。その分、なぜ漫画家になりたいのか、どんなマンガを描きたいのか、小柳さん自身の話をたくさん聞いてくれました。

「今思えば落書きレベルだったので、いろいろ言えたと思います。でも、言われていたら現実を知ってしまってへこんでいたかもしれません。『3ヶ月で担当がつくと思う』と言われてうれしかったので、私は大丈夫なんだと思えました」

それから3ヶ月後には絵のレベルが上がり、漫画賞に入賞するようになった小柳さん。秋田書店の編集者が「担当」についてくれることが決まりました。

あの編集者がなぜ「3ヶ月」と言ったのか、真相はわかりません。しかし、小柳さんの自信につながり、背中を押してくれました。

「あの方にお会いしたのは1度きりでしたが、あなたの言った通り、3ヶ月で担当がつきましたとずっと伝えたかったんです」

小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」
小柳かおりさんのマンガ「初持ち込みで出会った編集者さんのお話」 出典:コミチ

会社員であり、漫画家でもある

初めての持ち込みから1年後、小柳さんは漫画家としてデビューしました。

しかし、「フリーターをしながら描いていたことがコンプレックスになった」こともあり、数年でマンガの道を離れ、東京の大学に進学。現在は、会計事務所で勤務しながらマンガを描いています。

以前は商業誌が中心でしたが、今ではSNSで発表したり、広告案件を受けたり、選択が広がりました。

「マンガや絵で稼げ、自由に描いて発信できるいい時代になりました。今は会社員をしながら、マンガも頑張っていきたいと思います」

小柳かおりさんのTwitter:@kaokaokaoriri

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