連載
#68 ○○の世論
なかなか散らない「桜」世論が求めていたものは?自民支持層のマグマ
「一区切り」のため必要なこと
新型コロナウイルスの感染拡大がとまらないなか、通常国会が始まりました。今国会の焦点の一つは、コロナ対応とともに「桜を見る会」をめぐる問題です。問題発覚から1年以上たっても、なかなか散らない「桜」。その背景を、朝日新聞の全国電話世論調査から読み解きました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
昨年の12月25日、安倍晋三前首相は衆参両院の議院運営委員会に出席しました。
安倍さんの後援会が「桜を見る会」の前日に開いた夕食会の費用の一部を負担していた問題について、首相在任時に「事務所の関与はなかった」などと何度も否定してきた安倍さんはこの日、「結果として事実に反するものがあった。改めて事実関係を説明し、答弁を正したい」と述べ、謝罪しました。
衆院調査局の調査によると、安倍さんが国会で「事務所は関与していない」「明細書は無い」「差額は補塡していない」の3点について、少なくとも118回繰り返していたことがわかっています。
国のトップでありながら、結果として国会で虚偽答弁を繰り返したことになる安倍さん。この日は、「道義的責任を痛感している」と言うものの、費用負担については「地元の第1秘書や会計責任者に任せてきた」などと自身の関与を否定しました。野党から議員辞職を促されましたが、「一議員として国家国民の期待に応えられるよう全力を尽くす」と拒みました。
野党から夕食会を開いたホテル側からの明細書などを国会に提出するよう求められても、安倍さんは「ホテルが明細書を公表することは営業上の秘密にあたるので、それを前提としたものはお出しできない」と、首相時代と同じ答弁を繰り返しました。後援会が負担した費用の原資についても、詳細は分からないままです。
「桜を見る会」をめぐる一連の問題が発覚したのは、2019年11月でした。野党が臨時国会で、「桜を見る会」の安倍さんによる「私物化」を指摘したのがきっかけでした。
そもそも「桜を見る会」は一時期をのぞいて、首相が毎春、東京・新宿御苑で主催してきました。各界で活躍する人たちを慰労し親睦を深めるのが目的で、当時の吉田茂首相が戦前に開かれていた春の「観桜会」などを参考に、1952年に始めました。ところが、安倍さんが主催するようになってからは、各界の著名人のほかに、安倍さんの地元の支援者が多く招待されていたとして、野党が安倍さんによる「桜を見る会」の「私物化」だと指摘したのです。
問題が発覚して以来、朝日新聞は世論調査で「桜」問題について聞いてきました。
安倍さんの言葉に対する不満は自民支持層でも高く、「不満のマグマ」がたまっていると言えます。
さらに、安倍さんに説明を求める自民支持層の声は、問題発覚から1年余りたった2020年12月の調査でも根強いことがわかりました。
この調査は、東京地検特捜部の捜査が続くなか、安倍さんの国会での弁明をどのような形で行うかをめぐって与野党が協議している時に行いました。自民党は当初、非公開の場での弁明を視野に入れていましたが、自民支持層でも6割が公開の場での弁明を求めていたことがわかります。
国会での弁明を終えた安倍さんは記者団に、「説明責任を果たすことができたのではないか」と話しました。さらに来年の衆院選への対応を聞かれ、「出馬して国民の信を問いたい」とさっそく意欲を示しました。
「桜」問題をめぐり、菅首相は、安倍前政権の官房長官として安倍さんの虚偽答弁をなぞっていました。そんな菅首相は朝日新聞の取材に、安倍さんの説明について「自らの立場でできる限りの説明はされたと思っている。ただ、国民の皆さんがそこは判断することだろう」と述べました。
菅首相への悪影響を懸念する自民党からは、これで一区切りという声が聞こえてきます。菅さんをはじめとする自民党と安倍さんにとっては、この問題は終わったことのようです。
一方、野党側は安倍さんの弁明では不十分だとして、ウソをつけば偽証罪に問われる証人喚問を通常国会で実現し、改めて安倍さんをただす考えです。
さらに、安倍さんの刑事責任を引きつづき問う動きもあります。
夕食会をめぐる収支を収支報告書に記載しなかった事件で、東京地検特捜部は政治団体「安倍晋三後援会」代表の公設第1秘書を略式起訴し、正式な裁判は開かれませんでした。一方、安倍さんについては、嫌疑不十分として不起訴にしました。
安倍さんの処分は不当だとして、市民団体が検察審査会に審査を申し立て、検察審査会は申し立てを受理しました。同会の代表は取材に「問題発覚後も安倍氏が事情を把握していなかったのはあまりにも不自然。関係者の聴取も十分に尽くされていない」と話しました。
安倍さんの「クリスマスの弁明」は形式上、自民支持層がのぞむ形で行われました。しかし、弁明の中身が自民支持層も納得するものだったのか、どうか。「桜」問題の散り際は、菅首相が言うまでもなく、自民支持層をはじめとした世論の動向がカギを握っていると言えそうです。
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