ネットの話題
妻と民族大移動・ビールこぼされても…西武本拠の芝生、愛したファン
1979年の開場から親しまれてきたメットライフドーム(埼玉県所沢市)の外野芝生席が、今季からすべて椅子席に――。
昨年12月、そんな内容の記事を朝日新聞デジタルで配信すると、多くの反響が寄せられました。
そこでツイッター(@asahi_lions)を使い、「#私とメラド芝生席」のハッシュタグを設けて皆さんの思い出を募ると、なんと集まったのは100件超。その後、直接聞かせてくださった方々の思い出話を紹介します。(朝日新聞スポーツ部記者・井上翔太)
名古屋市の中澤岳志さん(39)は、東京都内に住んでいた子どもの頃から、西武ファン。「AKD(秋山幸二、清原和博、デストラーデ)への憧れです」
就職し、愛知県内に引っ越してからもファンは続けていましたが、結婚する前の妻(35)は「週末にテレビで野球を見ていたら、その間に寝てる」というほど、野球に興味が無かったそうです。
妻は2010年、中澤さんの誕生日プレゼントに、西武戦の観戦を提案。
ただ「西武ファンにしたい」ともくろむ中澤さんが、チケットを用意しました。
買ったのは、ファンの熱気が感じられるレフト芝生席でした。
ですが西武の攻撃で応援している最中、トラブルが起きました。
「民族大移動をしているときに、妻が転んじゃったんです」
民族大移動とは、得点のチャンスを迎えたとき、かつて所属していた清原和博さんの応援歌に合わせ、左右に歩く応援スタイルです。
芝生席の傾斜が急だったのでしょう。
妻はフェンス際まで転び、周りのファンに助けられながら、中澤さんのもとへ帰ってきました。
試合は西武が最大5点差をひっくり返し、乱打戦を制しました。
中澤さんの狙い通り、西武の攻撃時間が長くなったことで、応援するファンとの一体感が増し、その熱気は妻にも伝わったようです。
試合後はグラウンドに下りて、ノックを受けるイベントに参加。
野球の動きを体験した妻は「守備がうまい選手と、コントロールがいいピッチャーが好き」と言うようになり、今は手作りの応援うちわを作るほどになったそうです。
「#私とメラド芝生席」で目を引いたのはビールなど、紙コップに入った飲み物をこぼしたり、こぼされたりしたエピソードでした。
ただ、誰もが経験することなのか、怒られたり、怒ったりした話は、聞きませんでした。
東京都内のねーさんは2019年6月、巨人との交流戦でレフト芝生席にいたところ、後ろにいた男子大学生にビールをこぼされました。
「ちょうど守備から攻撃に切り替わるところで、立ち上がったときにカップが倒れちゃったのかなと」
敷いていたレジャーシートの下に、ビールが流れ込んできました。
だが、恐縮して謝る学生を前に、怒ることはしませんでした。
「一緒にきむさん(木村文紀選手)を応援してください!」
この試合、西武は敗れましたが、木村選手は本塁打を放ちました。
「ちょうど打球が私たちの頭を越えていったんです」
思わず男子大学生とハイタッチ。「あのとき、応援してくださいって言ってよかった」と振り返りました。
昨年11月、最後の芝生席観戦では、試合後に寝そべって友人と記念撮影をしたそうです。「あの日はテントでも立てて、ここに泊まりたかったです。プラネタリウムを見たのも、いい思い出ですね」
「#私とメラド芝生席」ではスピンオフ企画として、アンケートを行いました。
芝生席には、たとえば映画館のようなドリンクホルダーがないため、「傾斜がある中で、どうやって飲み物を固定しているのだろう」と気になったためです。
カップに入った飲み物を支えるのは?
結果がこちら。
「#私とメラド芝生席」スピンオフ企画②
— 朝日新聞ライオンズ担当 (@asahi_lions) January 4, 2021
カップに入った飲み物を支えるのは?※その他の場合は、引用RTやリプでお願いします #seibulions
481票が集まり、
マイ靴…55.9%
養生テープ…29.1%
その他、自作品など…15%
という結果が出ました。
ちなみに、「自席には何を敷くか」も尋ねたところ、結果はこうなりました。
「#私とメラド芝生席」スピンオフ企画①
— 朝日新聞ライオンズ担当 (@asahi_lions) January 4, 2021
自席に広げるのは?※その他の場合は、引用RTやリプでお願いします #seibulions
533票のうち、
レジャーシート…58.5%
バスタオル…25.3%
その他、自作品など…16.1%
レジャーシートが最も多かったですが、「シートは滑るからブランケットやタオルの方がいい」という意見も根強かったです。
「#私とメラド芝生席」には、他チームのファンからも、思い出話が届きました。
大阪市内の広島ファン・ちいちゃんは2015年の交流戦で、初めてライト芝生席に足を踏み入れました。広島と言えば、攻撃中に立ったり座ったりを繰り返す「スクワット応援」が有名です。
しかし他の球場は椅子があるのに、西武の本拠地は芝生……。
「下半身への負荷が、過去最高に強かったです」
結局「スクワット応援」を行ったのは、一回の攻撃だけ。
二回からは「無理だ」と思い、立ったまま、メガホンを振りかざすスタイルで、応援したそうです。
大阪からの参加ということで、思い出深い遠征になったようです。
「当時の外野は自由席で、開門前はゲートの前で、テープを貼って場所取りができたんです。朝、場所取りをして、近くのユリ園に行って……」
椅子席に変わることについては「寂しい気持ちもありますが、安全面からすると仕方ないのかなと思います。新型コロナが落ち着いたら、外野でもスクワット応援ができるかもしれないですね」
1979年の開場から通っているというロッテファンのあきこさんは、「ジャンプ応援」の大変さを教えてくれました。
「ジャンプすると少しずつ前に出て自分の荷物を踏むので、頑張ってその場跳びをする」
翌日はぐったり……。ロッテは黒を基調としているファンが多いため、少し動くと、自分の席が分からなくなる危険性もあるそうです。
そんなときのために「ピンクのタオルを荷物にかぶせて、目印にすることもありました」。
ロッテファンとして良く通い、よく負けました(笑)。
— あきこ (@orions3434) December 27, 2020
ジャンプすると少しずつ前に出て自分の荷物を踏むので、頑張ってその場跳びをする。
すごく疲れました。(^_^
#私とメラド芝生席
今回の企画で、開場から42シーズン分の思い出話に触れることができました。
開場時は「養生中」のため、ときに入ることができず、入れたときは寝転がることができた天然芝。
屋根がついて「西武球場」から「西武ドーム」となり、張り替えられた人工芝。
2019年シーズンからは、席取りが危ないという理由から指定席となりました。
とらえ方によっては、コロナ禍にあった2020年シーズンを除いて、ここ数年プロ野球全体の人気が膨らみ、観客動員数も伸びたことから、芝生席の役割が終わったと考えることもできます。
今後椅子席になって、どんな歴史を作り上げることになるのか。
楽しみにしています。
1/9枚