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妻と民族大移動・ビールこぼされても…西武本拠の芝生、愛したファン

メットライフドームの外野芝生席で応援する西武ファン=2018年10月21日
メットライフドームの外野芝生席で応援する西武ファン=2018年10月21日 出典: 朝日新聞社

目次

1979年の開場から親しまれてきたメットライフドーム(埼玉県所沢市)の外野芝生席が、今季からすべて椅子席に――。
昨年12月、そんな内容の記事を朝日新聞デジタルで配信すると、多くの反響が寄せられました。

そこでツイッター(@asahi_lions)を使い、「#私とメラド芝生席」のハッシュタグを設けて皆さんの思い出を募ると、なんと集まったのは100件超。その後、直接聞かせてくださった方々の思い出話を紹介します。(朝日新聞スポーツ部記者・井上翔太)

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【関連記事】西武本拠の外野が全いす席に 芝生42年間の歴史に幕

妻、見事西武ファンに

名古屋市の中澤岳志さん(39)は、東京都内に住んでいた子どもの頃から、西武ファン。「AKD(秋山幸二、清原和博、デストラーデ)への憧れです」

就職し、愛知県内に引っ越してからもファンは続けていましたが、結婚する前の妻(35)は「週末にテレビで野球を見ていたら、その間に寝てる」というほど、野球に興味が無かったそうです。

妻は2010年、中澤さんの誕生日プレゼントに、西武戦の観戦を提案。
ただ「西武ファンにしたい」ともくろむ中澤さんが、チケットを用意しました。
買ったのは、ファンの熱気が感じられるレフト芝生席でした。

旗を振りながら応援する西武ファン=2018年10月20日
旗を振りながら応援する西武ファン=2018年10月20日 出典: 朝日新聞社

ですが西武の攻撃で応援している最中、トラブルが起きました。

「民族大移動をしているときに、妻が転んじゃったんです」

民族大移動とは、得点のチャンスを迎えたとき、かつて所属していた清原和博さんの応援歌に合わせ、左右に歩く応援スタイルです。
芝生席の傾斜が急だったのでしょう。

妻はフェンス際まで転び、周りのファンに助けられながら、中澤さんのもとへ帰ってきました。

今は「守備がうまい選手、制球がいい投手が好き」

試合は西武が最大5点差をひっくり返し、乱打戦を制しました。

中澤さんの狙い通り、西武の攻撃時間が長くなったことで、応援するファンとの一体感が増し、その熱気は妻にも伝わったようです。

試合後はグラウンドに下りて、ノックを受けるイベントに参加。
野球の動きを体験した妻は「守備がうまい選手と、コントロールがいいピッチャーが好き」と言うようになり、今は手作りの応援うちわを作るほどになったそうです。

2019年から外野芝生席は指定席になった=2019年4月2日
2019年から外野芝生席は指定席になった=2019年4月2日 出典: 朝日新聞社

飲み物をこぼし、こぼされた

「#私とメラド芝生席」で目を引いたのはビールなど、紙コップに入った飲み物をこぼしたり、こぼされたりしたエピソードでした。
ただ、誰もが経験することなのか、怒られたり、怒ったりした話は、聞きませんでした。

東京都内のねーさんは2019年6月、巨人との交流戦でレフト芝生席にいたところ、後ろにいた男子大学生にビールをこぼされました。

「ちょうど守備から攻撃に切り替わるところで、立ち上がったときにカップが倒れちゃったのかなと」

敷いていたレジャーシートの下に、ビールが流れ込んできました。
だが、恐縮して謝る学生を前に、怒ることはしませんでした。

「一緒にきむさん(木村文紀選手)を応援してください!」

木村文紀選手=2020年10月17日
木村文紀選手=2020年10月17日

この試合、西武は敗れましたが、木村選手は本塁打を放ちました。

「ちょうど打球が私たちの頭を越えていったんです」

思わず男子大学生とハイタッチ。「あのとき、応援してくださいって言ってよかった」と振り返りました。

昨年11月、最後の芝生席観戦では、試合後に寝そべって友人と記念撮影をしたそうです。「あの日はテントでも立てて、ここに泊まりたかったです。プラネタリウムを見たのも、いい思い出ですね」

飲み物固定は養生テープで? それともマイシューズ?

「#私とメラド芝生席」ではスピンオフ企画として、アンケートを行いました。

芝生席には、たとえば映画館のようなドリンクホルダーがないため、「傾斜がある中で、どうやって飲み物を固定しているのだろう」と気になったためです。

カップに入った飲み物を支えるのは?
結果がこちら。

481票が集まり、

マイ靴…55.9%
養生テープ…29.1%
その他、自作品など…15%

という結果が出ました。

試しにビール向けの紙コップを靴に入れてみました。なかなかの安定感
試しにビール向けの紙コップを靴に入れてみました。なかなかの安定感

敷くのはシート? バスタオル?

ちなみに、「自席には何を敷くか」も尋ねたところ、結果はこうなりました。

533票のうち、

レジャーシート…58.5%
バスタオル…25.3%
その他、自作品など…16.1%

レジャーシートが最も多かったですが、「シートは滑るからブランケットやタオルの方がいい」という意見も根強かったです。

スクワット応援断念、「翌日ぐったり」

「#私とメラド芝生席」には、他チームのファンからも、思い出話が届きました。

大阪市内の広島ファン・ちいちゃんは2015年の交流戦で、初めてライト芝生席に足を踏み入れました。広島と言えば、攻撃中に立ったり座ったりを繰り返す「スクワット応援」が有名です。

しかし他の球場は椅子があるのに、西武の本拠地は芝生……。

「下半身への負荷が、過去最高に強かったです」

結局「スクワット応援」を行ったのは、一回の攻撃だけ。
二回からは「無理だ」と思い、立ったまま、メガホンを振りかざすスタイルで、応援したそうです。

ライト芝生席で応援する広島ファン
ライト芝生席で応援する広島ファン 出典: ちいちゃん提供

大阪からの参加ということで、思い出深い遠征になったようです。

「当時の外野は自由席で、開門前はゲートの前で、テープを貼って場所取りができたんです。朝、場所取りをして、近くのユリ園に行って……」

椅子席に変わることについては「寂しい気持ちもありますが、安全面からすると仕方ないのかなと思います。新型コロナが落ち着いたら、外野でもスクワット応援ができるかもしれないですね」

1979年の開場から通っているというロッテファンのあきこさんは、「ジャンプ応援」の大変さを教えてくれました。

「ジャンプすると少しずつ前に出て自分の荷物を踏むので、頑張ってその場跳びをする」

翌日はぐったり……。ロッテは黒を基調としているファンが多いため、少し動くと、自分の席が分からなくなる危険性もあるそうです。

そんなときのために「ピンクのタオルを荷物にかぶせて、目印にすることもありました」。

芝生席終幕の背景に、プロ野球人気?

今回の企画で、開場から42シーズン分の思い出話に触れることができました。

開場時は「養生中」のため、ときに入ることができず、入れたときは寝転がることができた天然芝。

屋根がついて「西武球場」から「西武ドーム」となり、張り替えられた人工芝。

2019年シーズンからは、席取りが危ないという理由から指定席となりました。

とらえ方によっては、コロナ禍にあった2020年シーズンを除いて、ここ数年プロ野球全体の人気が膨らみ、観客動員数も伸びたことから、芝生席の役割が終わったと考えることもできます。

今後椅子席になって、どんな歴史を作り上げることになるのか。
楽しみにしています。

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