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IT・科学

火事にあった3人が語ったこと 最初に買った便箋…声あげにくい理由

“脳みそがパッカーン”  物が燃えても、なお続く「物欲」

火事にあった下枝弘樹さんが撮った1枚=下枝さん提供
火事にあった下枝弘樹さんが撮った1枚=下枝さん提供

目次

火事にあう……。滅多にない出来事と感じる人も多いかもしれないが、毎年3万件以上の火事が発生しており、決して他人事ではない。しかし、火事にあったらどうすれば良いのか。そして、どのように再建していくかについて、有益な情報がほとんど見つからないという。そんな実情に課題意識を持つ、火事の被害にあった3人に経験を語ってもらった。(FUKKO DESIGN 木村充慶)

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火事にあった3人。左から、下枝弘樹さん、河瀬大作さん、村田正樹さん
火事にあった3人。左から、下枝弘樹さん、河瀬大作さん、村田正樹さん

 

下枝弘樹(しもえだ・ひろき)
広告プランナー。3年前に火事にあう。賃貸のマンションに奥さんと二人で住んでいた。火事当時は二人とも外出中。帰宅するとマンションの自室が燃えていたという。出火原因は不明。火事がきっかけで借りていたマンションの大家さんと関係ができ、今では公私ともに付き合いがあるという。
【関連リンク】自宅が火事になりまして|Hiroki Shimoeda|note

 

 

河瀬大作(かわせ・だいさく)
テレビプロデューサー。昨年2月に火事に自宅があう。5人家族だが、火事にあった時、夫婦ともにすでに仕事に出かけていた。自宅には子供3人がいたが、幸い全員無事だった。出火原因は不明。現在、被害のあった家を修復中で2月に再建予定。
【関連リンク】もし火事にあったなら、読んでほしい。|河瀬大作|note
 

 

村田正樹(むらた・まさき)
タップダンサー。10年前に火事にあう。賃貸の一軒家に一人で住んでいた。火事当時は自宅2階で就寝していたが、1Fの風呂場から火が上がったという。現場検証の結果、放火と言われている。今まで火事について語ってこなかったが、この出会いを通じて火事のことを話すことにしている。
【関連リンク】不思議で素敵な出会いのお話|村田正樹|note
 

“脳みそがパッカーン” 火事で変わった価値観

河瀬さん:
病気で死にかけた経験のある友達に、火事のことを話したことがありました。
火事になって、色々と考えが変わったと話したら、「河瀬さんもとうとう脳みそが“パッカーン”したんですね!」と言われました。
彼曰く、ひとは命に関わるような大事を経験すると、 脳みそが“パッカーン”となったように価値観が変化すると。
たしかに、考えなかったようなことを考えられるようになった気がしています。
そして、何より、どんな目にあっても、どうにかなるという気持ちが芽生えています。


下枝さん:
「命との駆け引き」ですよね。
ボクは火事とは別に、小さい頃、死にかけた経験があるんですよ。
だから、なんとなく「死なないから大丈夫、そう簡単には人間は死なない」という気持ちがありました。
嫁さんはそういうことがないから、たぶん結構大変だったと思います。
でも、小さい頃あった気持ちがふっと思い浮かんで、「自分は大丈夫」と思っていました。


村田さん:
ボクはすぐには価値観変わらなかった気がします。
警察の方からは「放火だから、あんまり気にしすぎないで。村田さんは悪くないよ」と声をかけてもらいました。
だけど、自分でそう話すと、言い訳がましいなと。多くの人に迷惑かけてるのに。

でも、周りのタップダンサー仲間が親身になって助けてくれました。
みんなが支えてくれて、火事の後、2~3週間休ませてもらいました。

復帰後、1回、深夜のスタジオで、爆音で大好きな音楽をかけてタップダンスを踊ったことがありました。
その時、ありとあらゆる過去にあったものがかき消された気がしています。
今まで、かっこよく踊りたいという気持ちだったのですが、踊りに対しての新しい考えが見つけられたなと。
火事があってボクのタップダンスは間違いなく変わりました。
 
1979年に撮影された国会議事堂内にある火災報知器。「火災の時ガラスを破りボタンを押す。鳴らぬ時は他の報知機へ」と説明書がある
1979年に撮影された国会議事堂内にある火災報知器。「火災の時ガラスを破りボタンを押す。鳴らぬ時は他の報知機へ」と説明書がある 出典: 朝日新聞

物が燃えても、なお続く「物欲」

下枝さん:
モノについては色々ありました。
そもそも、家財保険が全然自分の状況に対応できていませんでした。
夫婦ともに、ファッションを中心にモノが好きなんですが、
服、くつ、バックなど積み上げて試算するとトータル1500万くらいのものがありました。
500万くらいが保険で戻って来たので、単純に1000万の損失です。
自分の状況にあった保険をきちんと選ばないといけないなと。
神様がくれた壮大な断捨離と思うようになりました(笑)


村田さん:
ボクも、もともと短パン、シャツがほとんどだったが、全部燃えて服が変わりました。


河瀬さん:
ボクは家族みんなほとんどのものが燃えたのだけど、ボクのものだけ奇跡的に残っていました。
自分の書斎は1階にあって、本棚にあった本などは無事でした。
でも、いろいろ残しておくことを考えたけど、ほんとうに必要だと思われるわずかなもの以外は、ほとんど捨ててしまいました。
まさに、断捨離ですね。


下枝さん:
ただ、断捨離して物欲がなくなると思ったけど、物欲は無くならなかった(笑)。


河瀬さん:
わかる(笑)。
なんだかんだすぐに買っちゃうよね。
でも、なんとなく買うというのはやめています。良いものだけを買うというか。
ミニマリストみたいな感じになったのかもしれません。
 
1978年の消火器。左から、あわ消火器、粉末消火器、強化液消火器の代表的な3種類
1978年の消火器。左から、あわ消火器、粉末消火器、強化液消火器の代表的な3種類 出典: 朝日新聞

被害者と支援者をつなぐメニューの必要性

下枝さん:
そういえば、一番最初に買ったのは便箋でした。
火事の後、やっぱりいろいろな人に迷惑をかけているなという気持ちが強くなり、
その圧力に耐えられなくて、マンションの住民宛に手紙を書いたんです。
それでその便箋に手書きで書いて、それをコピーして全部屋のポストにいれました。
火事の後は現場検証があったり、役所に行ったり、やることがあって、意外に時間がなかったので……。

しかし、一人の方から、直接来て説明してほしいと、逆に手紙をもらった。
周囲への被害自体はあまりなかったと思っていたのですが、やっぱり匂いがくさくて、洗濯物干せないなど色々な問題はあったのです。
最初は何を言われるのか怖かったのですが、お話したら理解をしてくれる良い方でした。
ちゃんと話さないとダメだなと感じました。
なので、その後、避難を余儀なくされたフロアの人に直接謝りにいきました。
古いマンションだったからなのか、昔から住んでいる方が多いところでした。
そしてみんな優しかった。「あなたが悪いわけじゃないし、お互い様だから」と言ってくれました。
その時は泣きました。


河瀬さん:
そうだよね、ボクも周りの人が大変でしたねと声をかけてもらえることが多かったです。
落ち着いた後、改めて挨拶に行ったんですが、みんな優しく対応してくれました。
どこか違うところに引っ越すことも考えていましたが、やっぱりここに住むのかなと思いました。


村田さん:
火事にあった人の助けとなる情報は少ないですよね。


下枝さん:
なかなか声をあげにくい事情がありますしね。
ボクはnoteとか書いてますが、火事は自身だけでなく、家族、何より近所などへの被害などもあり、被害にあったことを声に出せない理由もわかります。


河瀬さん:
でも困っている人はたくさんいるよね。
火事にあった人がお願いできる、わかりやすい“メニュー”があったらいいですよね。
ボクは周りに助けてくれる人がいたので、それで色々なメニューをつくってくれました。
ボクを応援してくれるFacebookグループを作ってくれたり、燃えてしまった家電を買い直すためのamazonのほしい物リストを用意してくれたり、資金を援助してくれるための口座を開設してくれたり。
助かるメニューを見せられるのはいいなと思います。


下枝さん:
正直、助けてもらいたいことと合致しない支援も少なからず、ありますもんね……。
国技館で行われた消防訓練で放水する元横綱の大乃国親方(右)と千代の富士の陣幕親方ら=1991年9月6日
国技館で行われた消防訓練で放水する元横綱の大乃国親方(右)と千代の富士の陣幕親方ら=1991年9月6日 出典: 朝日新聞

声を上げられないから、有益な情報がない

――仲間以外で、火事で助けてくれる人っていないのですかね?

下枝さん:
役所の福祉の職員や社協の人が来てくださり、毛布やタオルなどはいただきました。
福祉職員とか社協のことは正直どんなことしているか知らなかったのですが、しっかり情報は連携しているんだなと思いました(笑)。


河瀬さん:
ゴミの回収は自分たちでやらなければいけなかったので、実費が掛かったりして大変でした。


下枝さん:
ボクの住む自治体はゴミの回収をある程度やってくれました。
でも、そのような支援制度の違いもわからないですよね。
次に住む場所を探すことになったら絶対気にします。


河瀬さん:
それでいうと、一時避難する場所も大変でした。
家族が5人もいると、ホテル住まいは費用的にも大変なので、最終的にはAirbnbの部屋にしました。
でも、ネットで調べても、「エアビーが安いし家具とか揃ってていいよ」とかはどこにも書いてない。


下枝さん:
でも、Airbnbだと保険がおりないかもですね。
ボクの保険の場合、高くてもホテルならお金を出してくれると説明がありました。


河瀬さん:
やっぱり声を上げられないから、そういう有益な情報がないですよね。
僕らで火事の人を助けることやりたいですね。「一般社団法人カジ」みたいな(笑)。


下枝さん:
何かちゃんとやりたいですよね。
本当に火事は情報がないから。また、今度会って、ちゃんとやりましょう!


村田さん:
いいですね、また近いうちにあってやりましょう。
 
1959年に撮影された出初め式、江戸消防記念会の面々がマトイを持って参加した
1959年に撮影された出初め式、江戸消防記念会の面々がマトイを持って参加した
出典: 朝日新聞

被害者が加害者にもなるのが火事――鼎談を終えて

ひとえに火事の被害といっても、状況によって様々な問題があるが、再建するための情報が少ないことなど、共通して抱える課題も多いと感じた。

ただし、村田さんのように、一人一人が声を上げづらい実情があるだけに、その課題が簡単に解決できない難しさは伝わってきた。

筆者が関わっている復興支援の場合、自然災害に対して多くの人は被害者になるが、火事の場合、周りに被害を広げた場合、加害者にもなってしまう。

だからこそ、一人で抱えることはとても難しいと感じた。話に出ていた「一般社団法人カジ」のように間に入って助けたり、助けるための情報を集めたり発信したりする組織があることはこれからの火事被害においてとても価値があるはずだ。私もできることがあればぜひ手伝っていきたいと思う。

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