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犯人は「線状降水帯」だった! 予測が難しい「集中豪雨」備えは?
お堅い〝気象用語〟をやさしく解説
最近、よく聞く「集中豪雨」という言葉ですが、実際にはどんなことが起きてるのでしょう? 2020年7月に甚大な被害を発生させた「九州豪雨」は「線状降水帯」が原因といわれています。狭い範囲で一気に雨が降る「線状降水帯」は予測が難しいとされています。今後も起きる「集中豪雨」に対して私たちは、どのような備えが必要なのか。映画『天気の子』の監修なども担当した気象研究所の荒木健太郎さんに「いちから解説」してもらいました。
荒木健太郎(あらき・けんたろう)
――「線状降水帯」って予測が難しいんですか?
はい。現状では正確な予測が難しい現象です。
そもそも「線状降水帯」のメカニズムがよくわかっていないので、そのしくみを今回の研究で調べたところです。
令和2年7月豪雨において九州で発生した9つの線状降水帯の多くで、線状降水帯の発生時・発生前に、ふつうの温帯低気圧よりも小さい「メソ低気圧」が確認されていて、線状降水帯の発生に特に関わっていることが考えられます。
線状降水帯の予測には、水蒸気の正確な観測に加えて、この「メソ低気圧」の監視・予測が有効である可能性があります。
――「メソ低気圧」……一気に難しい話になりましたね……。そもそも低気圧って、天気図にある「ぐるぐる」した輪のやつですよね?
はい、その「ぐるぐるした輪」です。ただ、天気図上では,ある程度大きな低気圧しか表さないんです。
「メソ低気圧」は「小低気圧」ともいうんですが、文字通り小さい低気圧のため、地上天気図上にも表さないことが多いんです。とはいえ、小さくても局地的に風を強めたりはするので、今回の豪雨ではそれによって水蒸気の流入量が多くなっていました。
――そうなると、見えづらい「メソ低気圧」の影響で、これからも線状降水帯による水害がいつ起こるか、わからないということですか?
現状では直前でも予測が難しい場合があるので、やはり、もしもに備えておくのが良いと思います。
――ところで、九州豪雨が起きたメカニズムをまとめたレポート、読んでみたんですが、正直、専門的すぎてわからないことが多かったです……
まず、「線状降水帯」から説明しますね。「線状降水帯」は、集中豪雨をもたらす代表的な気象現象です。
そもそも、積乱雲って知ってますか?
【関連リンク】令和2年7月豪雨における九州の記録的大雨の要因を調査」(気象研究所)
九州に甚大な水害をもたらした令和2年7月豪雨について、線状降水帯による記録的な大雨の要因を詳細に調査した気象庁気象研究所のレポート。2009年以降に九州で発生した線状降水帯と比較しながら、熊本県の球磨川流域に記録的な大雨をもたらした線状降水帯のメカニズムを紹介しています。さらに詳しい内容は荒木氏らの次の論文にも記載されている。「令和2年7月豪雨における九州の線状降水帯の発生環境場の特徴」(荒木ほか,2021,SOLA)
――聞いたことはありますが、実は詳しくは知らないです……。
積乱雲は別名「雷雲」とも呼ばれている雲で、夏には土砂降りの雷雨をもたらします。大雨や竜巻などによる災害をもたらす代表的な雲です。
「線状降水帯」は、その積乱雲が次々と生まれて並んだもので、数時間にわたって狭い範囲に大雨をもたらします。
――狭いってどれくらいなんですか?
「線状降水帯」は長さ50~300km程度、幅20~50km程度といわれています。
範囲としては数十kmくらいと考えてもらえればと思います。
線状降水帯がかかっていないところでは全く雨が降っていないけど、線状降水帯の真下では滝のような雨になっているというイメージです。
2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)や2019年の台風第19号(令和元年東日本台風)のときは、梅雨前線や台風に伴って広範囲で大雨となりましたが、線状降水帯はごく限られた地域で集中的に大雨をもたらす現象です。
――狭い範囲で一気に雨が降るのですね。ちなみに、雨の量はどれくらいなんでしょうか?
ふつうの積乱雲は寿命が30分~1時間くらいで,数十mmくらいの雨量の雨を降らせるといわれています。
しかし,「線状降水帯」の場合は新しい積乱雲が次々とやってくるので、数時間にわたって強い雨が降り続き、同じ場所ですごい雨量が増えてしまうんです。線状降水帯による集中豪雨は100mmから数百mmになることがありますが、2020年7月の球磨川流域での豪雨は線状降水帯によって600mm以上もの雨がもたらされました。
ちなみに、日本で発生する集中豪雨の約7割がこの線状降水帯によるものと考えられています。
――7割も。でも、最近になって「線状降水帯」って聞くようになったのですが、昔はそんなに多くなかったということですか?
現象としては同じようなものが昔から報告されています。
増えているか減っているかといった統計は、「線状降水帯」を議論できる雨量のデータがないのでよくわかっていないんです。
――そういった現象を表す言葉はなかったのですか?
停滞性の「レインバンド」という言葉で表現されることが多かったですし、現在でも様々な呼ばれ方をしています。「スコールライン」というのがアメリカでよくある現象で、移動する線状の雨域なのですが、そのひとつの形態として分類されることもあります。
――気象用語って、解説してもらわないとなかなかわかりづらいですね。気象庁の言葉ってなぜこんな堅い言い方をするんすか……? 例えば、「令和2年7月豪雨」は「九州豪雨」とかじゃだめなのですか?
豪雨は著しい災害が発生した顕著な大雨現象のことを指していて、気象庁が命名しています。
「令和2年7月豪雨」では,九州以外に岐阜県・長野県や山形県でも大雨になったので,一連の豪雨ということで命名されていると理解しています。
硬い言い方になってしまうのは、色々な地域の事情を鑑みなければならない行政の視点があるからかもしれませんね。
――九州豪雨の「線状降水帯」のレポートには、どういうことが書かれているんでしょうか?
2020年の令和2年7月豪雨で九州に記録的大雨が起こった理由を調べたものになります。
熊本県を流れる球磨川流域にも「線状降水帯」が発生して、記録的な大雨がもたらされていました。
この線状降水帯は、先ほど説明した「メソ低気圧」が梅雨前線上に発生して九州に接近し、大気下層で極めて多量の水蒸気が流入して発生していたことがわかりました。
――すいません、そもそも梅雨前線ってどういうものなんでしょうか?
空気の塊を「気団」というのですが、性質が違う気団の境目を「前線」と言います。
梅雨前線は春から盛夏への季節の移行期に、日本から中国大陸付近に現れる停滞前線のことです。今回は梅雨前線の南側にたくさんの水蒸気を含む空気の流れ(大気の川)があって、さらにそこに「メソ低気圧」が接近したことで風が強まって、多量の水蒸気が九州に流入して線状降水帯が発生しました。
――水蒸気が流入するというのがいまいちわからないのですが……。
テレビで「大気の状態が不安定」っていうときがあるじゃないですか。
そのときに「南から暖かく湿った空気が流入して」とか「上空に寒気が流入して」という理由もあわせて説明されると思うんですが、たくさんの水蒸気を含む湿った空気が流入すると大気の状態が不安定になって、積乱雲が発生しやすい状況になるんです。
――水蒸気が入るというのは、海や川、陸上の水分が水蒸気になっていくということなんですか?
海から流入してくるものが圧倒的に多いです。
海上を吹いている空気が、暖かい海面から水蒸気を蓄えてやってくるんです。
熱いおみそ汁の表面近くの空気が、たくさん水蒸気をもらってすごい湿って、湯気(雲)ができるようなイメージです.
――なるほど、積乱雲はおみそ汁の湯気のようなものなのですね。よくわかりました。ちなみに、そのほかにも九州の豪雨での特徴はあるのでしょうか?
球磨川流域の「線状降水帯」では、多量の水蒸気が流入したほか、上空にも寒気が流入して、非常に不安定な大気の状態になっていました。
このせいで近年の豪雨の中でも「最も背の高い積乱雲」が線状降水帯をつくっていたんです。
――「背が高い積乱雲」が「線状降水帯」をつくると、より被害が大きくなるのですか?
積乱雲の背の高さは、大気の不安定度の目安にはなります。
降水量とも関係している可能性がありますが、詳しいことはわかっていないのでこれから調べるつもりです。
――予測が難しいという「線状降水帯」ですが、僕らは何に気をつければいいのでしょう?
まずは日頃からの大雨への備えが重要です。
その上で、ひとたび線状降水帯が発生すると急激に状況が悪化することがあるので、最新の気象情報や避難情報を確認して命を守る行動が必要になると思います。
――「日頃の備え」ってよく聞くんですが、具体的にはどんなことなのでしょう?
豪雨の場合にはハザードマップで水害のリスクを確認の上、ご家族の状況なども踏まえて、自分にあった避難方法を考えておくと安心です。
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