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連載

#10 金曜日の永田町

愛のない「緊急事態宣言」の合唱 菅さんも枝野さんも見失ったもの

ずらりと並ぶ中高年の男性たち…「政治に私たちは見えていますか。」

新党・立憲民主党の代表に選ばれ、起立してあいさつする枝野幸男氏=2020年9月10日午後2時13分、東京都千代田区、伊藤進之介撮影
新党・立憲民主党の代表に選ばれ、起立してあいさつする枝野幸男氏=2020年9月10日午後2時13分、東京都千代田区、伊藤進之介撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.10) 2021.01.04】
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、菅義偉首相が緊急事態宣言の発出検討に追い込まれました。内閣支持率が急落する状況ですが、「遅きに失した」と批判する立憲民主党の支持率も最低の水準が続く事態に――。朝日新聞政治部(前・新聞労連委員長)の南彰記者が年初の国会周辺で感じたことをつづります。

#金曜日の永田町
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21歳女子学生が市長に

年末年始、インドからびっくりするニュースが飛び込んできました。

かつてノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センさんから社会モデルを称賛されたインド南部、ケララ州。その州都・ティルバナンタプラムで、21歳の女性が市長に就任するというのです。

新市長に選ばれたアリヤ・ラジェンドランさんは大学2年生。12月に投開票された市議選で初当選したばかりでしたが、与党から市長候補に推薦されたのです。

ラジェンドランさんと一緒に政治活動に関わってきたメンバーは現地の報道に対し、「これは大きな変化の始まりです。誰もが自分たちの政治について声を上げる時が来ました」とコメント。現地の英字紙「The Indian EXPRESS」は、「今回の選挙で一緒に立ち上がった若い有権者に感謝する党の戦略」という見方を報じていました。

日本でも近年、政治や社会運動の原動力になったのは、女性や若者です。

黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年延長を正当化するような検察庁法の改正を阻止した「#検察庁法改正案に抗議します」というツイッターデモを始めたのは、笛美さんという女性会社員でした。

相次ぐ性暴力無罪判決への抗議から全国各地に広がった「フラワーデモ」は、それまで表面化してこなかった女性たちの声を可視化し、性差別がはびこる社会を揺り動かしています。

オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」では、新型コロナ禍にあった昨年1月~7月、「キャンペーン」と呼ばれる署名が日本だけで前年同時期と比べて3倍以上の2700件立ち上がりました。

「新規キャンペーン数」「賛同数」「新規ユーザー数」の三つの指標で分析したところ、日本は「Change.org」のオフィスがある19か国の中でいずれも最も増加率が高い国となりました。

日本のキャンペーンを支える遠藤まめたさんは「政治参加者は若年化が進んでいる-増えつつある日本の若者の政治参加」というタイトルをつけて、以下のように分析しています。

「若者たちは、特定の集団やイデオロギーを背景に結集するのではなく、身近で具体的な課題に対して問題意識を感じて、声をあげるほうが社会参加しやすい傾向にあるとも言われている。彼等にとっては声をあげる同世代の姿が最も刺激的であり、『自分の声に価値がある』と感じるきっかけになる」

2020年5月8日未明、笛美さんが最初に「#検察庁法改正案に抗議します」を付けたツイート。「右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法律が通ったら『正義は勝つ』なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください」と思いをつづった
2020年5月8日未明、笛美さんが最初に「#検察庁法改正案に抗議します」を付けたツイート。「右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法律が通ったら『正義は勝つ』なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください」と思いをつづった

「愛のない」緊急事態宣言という合唱

さて、今年の永田町は1月2日から大きく動き出しました。

東京都知事の小池百合子さんを先頭に、首都圏の1都3県の知事が、安倍・菅政権で新型コロナ対策を担う西村康稔担当相と面談し、緊急事態宣言の発令を求めたのです。

経済に与える影響から発令に消極的だった菅さんも、1月4日午前の年頭記者会見で「厳しい状況を踏まえ、改めてコロナ対策の強化を図っていきたい。緊急事態宣言の検討に入ります」と表明しました。

菅さんは10日前の記者会見で「今は緊急事態宣言を出すような状況ではない」と話していました。昨年12月中旬から「アナウンス効果」としての緊急事態宣言の発令を求めていた立憲民主党代表の枝野幸男さんは1月4日午後、「遅きに失した」「楽観的な見通しに基づいて判断してきていると言わざるを得ない」と菅政権の対応の遅れを批判しました。

世論調査でも、「緊急事態宣言を出すべきだ」という意見が強まっています。枝野さんの一連の打ち出しは、そうした世論をくみ取りながら、菅政権の失敗を印象づける効果を生んでいます。

医療現場が逼迫するなか、なんとか感染拡大を抑えたいという思いはよくわかります。ただ、スローガンのように「緊急事態宣言」や「補償とセット」という言葉が飛び交っていますが、補償などの具体的な中身や先行きはほとんど語られていません。

これは枝野さんや小池さんに限りません。

要領を得なかった菅さんの記者会見を含めて、一人一人の生活に大きな影響を及ぼす恐れがあるのに、政治のパワーゲームのなかで、「緊急事態宣言」という言葉が政治の世界で踊っている状態なのです。

こうした政治状況を憂える自治体の首長が年末につぶやいていた言葉が思い浮かびました。

「愛のない言葉だよな、それだけでは」

東京・世田谷で、福祉や教育などの社会的インフラの継続と感染拡大防止を両立するため、「社会的検査」と呼ばれるPCR検査の充実策などに取り組む保坂展人区長の言葉です。

記者会見で社会的検査の説明をする保坂展人区長=2020年10月15日
記者会見で社会的検査の説明をする保坂展人区長=2020年10月15日 出典: 朝日新聞

「立憲民主党の社会党化」

菅さんは4日の記者会見で、9月に任期満了を迎える自民党総裁選への対応を問われましたが、「まだ総裁選挙って先の話だと思っている。まずは目の前のこうした課題に一つ一つしっかり取り組んでいくことが大事だ」と方向性を示すことはありませんでした。

携帯電話料金の値下げなどをアピールしましたが、国民の最大の関心事であるコロナ対策でつまずき、内閣支持率が急落しています。

安倍晋三前首相の「桜を見る会」をめぐる問題など、「政治とカネ」をめぐる問題も噴出し、政治への不満・不信は高まっています。

今年は衆院選、東京都議選などの大型選挙が予定されており、自民党内からは、都議選、衆院選で惨敗して、政権交代を許した2009年の麻生内閣と重ね合わせる声も上がっています。

しかし、昨年12月20日に配信された保坂さん主宰のオンラインスクールで、政治学者の中島岳志さんは、2009年との違いを次のように指摘していました。
「あのころは、民主党に対する政権交代の期待があって、自民党の内閣が批判されればされるほど、民主党の支持率がぐんとあがっていた。拮抗状態があった。いま全然ありません。政権交代というもの、野党第一党に対する期待が地に落ちている状態ということになっているわけです」

中島さんは、2017年衆院選で立憲民主党を立ち上げた枝野さんを評価し、「今後の日本政治の行方が枝野さんにかかっているといっても過言ではありません」と期待を寄せていた一人です。

「野党を読む」と題した連載の中では、「安定的な信頼と支持を国民から得るためには、立憲民主党結成時の熱狂に頼っていてはいけません。自民党に対して魅力的で現実的な『オルタナティブな選択肢』を提示できるかどうかが、これからの勝負でしょう」(2019年5月5日付、WEBRONZA)と書いていました。

【関連リンク】中島岳志の「野党を読む」(1)枝野幸男 - 中島岳志|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

その中島さんが、「万年野党」や「3分の1野党」などと揶揄されていたかつての野党第一党である社会党(現・社民党)になぞらえて、「立憲民主党の社会党化」というフリップを掲げたのです。「社会党の方が、支持率が良かった。(社会党化というと)社会党に失礼かもしれませんが」とも付け加えていました。

実際、立憲民主党の直近の政党支持率は5%。国民民主党の大部分との合流を果たしたにもかかわらず、野党第一党としては最低の水準が続いています。党内の議員やスタッフと話しても、閉塞感が漂っています。

社会党臨時全国大会で党首として最後のあいさつをする土井たか子委員長(中央)=1991年7月30日、東京都千代田区一ツ橋2丁目の日本教育会館
社会党臨時全国大会で党首として最後のあいさつをする土井たか子委員長(中央)=1991年7月30日、東京都千代田区一ツ橋2丁目の日本教育会館 出典: 朝日新聞

「おじさん政治」から抜け出せるか

「政治に私たちは見えていますか。」

枝野さんは昨年10月の臨時国会で、ある大学生の言葉から代表質問を始めました。

前回の緊急事態宣言時に、収入源だったアルバイトの仕事を失った学生から投げかけられた言葉と言います。

そして、枝野さんは「コロナの影響を受け、新自由主義的な社会のあり方が、本当に正しいのかが突きつけられています。

立憲民主党は、一人一人の命と暮らしを守るために、目先の効率性だけにとらわれず、人を幸せにする経済を目指します。新自由主義にかわる新しい選択肢として、政治が責任を持って支え合いの役割を果たす共生社会の実現を目指します」と訴えました。

しかし、訴えに共鳴してくれる人を増やすには、具体的で身近に感じられる課題を打ち出し、その課題解決に向けたプロジェクト(政策)を実践する場を創っていくことが必要です。

「若者たちは、特定の集団やイデオロギーを背景に結集するのではなく、身近で具体的な課題に対して問題意識を感じて声をあげるほうが社会参加しやすい」という遠藤さんの分析を思い出して欲しいのです。

PCR検査の拡充だけでなく、菅政権が進めるデジタル社会に対抗するように、市民・利用者の目線に立った「デジタル・デモクラシー」の推進に向けた研究も始めている世田谷は、その候補の一つでしょう。

根室市で街頭演説をする立憲民主党の枝野幸男代表=2020年11月1日、松尾一郎撮影
根室市で街頭演説をする立憲民主党の枝野幸男代表=2020年11月1日、松尾一郎撮影 出典: 朝日新聞

社民党国会議員時代に与党も野党も経験した保坂さんが進めている街づくりのプロジェクトには、党派を超えた研究者や若手起業家などが集っていることも財産です。

国会議員は自治体の首長や議員を「格下」に見る傾向がありますが、コロナ禍で存在感を増す自治体と連携し、一緒になって新しい社会を創っていく取り組みが必要です。

もう一つは布陣です。

社会党は1994年に野党第一党の座を失いますが、その直前に躍進を遂げた時期がありました。土井たか子さんが党首だった時代です。

1986年、主要政党で初めての女性トップになり、女性・市民との連携を大切にした土井さんはブームを起こし、1989年の参院選では自民党を上回る46議席、比例区で1968万票を獲得し、参院の自民党過半数割れに追い込みました。

特に20代後半から30代前半の支持を集め、1989年9月の政党支持率は33%に。1990年の衆院選でも議席を50以上伸ばしました。その過程では、のちに千葉県知事になる堂本暁子さんなどの女性を国会に送り込みました。

その後、国会内の駆け引きに長けた田辺誠さんが党首になりましたが、1992年参院選では比例区で798万票と3年前の半分以下に激減。1993年衆院選でも、日本新党、新党さきがけなどの新党ブームのなかで埋没し、非自民連立政権の誕生という歴史的転換点において、主導的な役割を発揮することができず、その後、分裂を繰り返していくことになりました。

土井さんをサポートしていた保坂さんは、「政治の言葉が輝いていくためには布陣、人事が大切なんです。土井さんの時代は『市民に根ざした政治をするんだ』ということで躍進した。ところが、1991年の統一地方選で議席が伸びなかった後、老獪な男性幹部たちが責任論を言い出し、マッチョな政治、おじさん政治が復活してしまった」と振り返っていました。

枝野さんは29歳で立候補した1993年衆院選で、社会党候補が当選を重ねていた「指定席」を奪い、日本新党から初当選しました。しかし、いまの立憲民主党を見ていると、1993年当時の社会党のイメージと重なってくるのです。

たとえば、代表、幹事長、国会対策委員長、政調会長、選挙対策委員長と、自民党と同様に、中高年の男性がずらりと並んでいる立憲民主党が訴える「ジェンダー平等」の言葉に、どれだけの輝きがあるでしょうか。比例上位に女性や若者の候補をずらりと並べて、積極的に国政に送り込んでいくような熱意のあるプランも示されていません。

社会の課題を浮き彫りにした新型コロナという試練を乗り越えて、どのように新しい時代を切り開いていくのか。日本政治が問われる1年です。

「政治に私たちは見えていますか。」

枝野さんこそが、この学生の言葉をもう一度かみしめる必要があると思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《今週の永田町》
1月7日(木)政府が新型コロナ対策本部を開き、緊急事態宣言を発出決定へ/衆参両院の議院運営委員会で、加藤官房長官が1月18日の通常国会召集を伝える

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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