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解説芸人ブレークの理由 カズレーザー・ナイツ塙の〝貴重な役割〟
玄人化する視聴者に応える「新たな戦い」
ぺこぱ、かまいたち、錦鯉・長谷川雅紀、ハナコ・岡部大など今年活躍した芸人は数多い。その中、着実に「芸人による解説」のポジションが築かれている。ここ数年で、アンガールズ・田中卓志、ナイツ・塙宣之、メイプル超合金・カズレーザーは“コメント力”によって支持を集めてきた。なぜ今、中堅芸人による解説が求められているのか。賞レースのイベント化、お笑い界の変化、SNSによる影響から“芸人による解説”の重要性について考える。(ライター・鈴木旭)
大学時代の友人・山根良顕とコンビを結成し、2002年1月にアンガールズとしてデビューした田中卓志。ネタ番組で早くから頭角を現し、その後は紅茶、コケ盆栽、バイオリン演奏といった趣味を開拓して話題を提供。あらゆるタレントと共演し、「カニのものまね」など常に新たな武器を装備しながら支持され続けてきた。
そんな田中に「解説者」のイメージが定着したのは、2017年4月からスタートした『にちようチャップリン』(テレビ東京系列・現『そろそろ にちようチャップリン』)で、スピードワゴン・井戸田潤とともに特別審査員を担い始めた頃からだろう。勝ち抜きバトルの側面を持ったネタ番組ということもあり、芸人が披露したネタについて田中が熱量をもってコメントしていく。
「ここにきて旬を迎えてる」「これを4分で表現……。無理なんですよ、本来!」「ちょっとこれ(点数が)低すぎです」など、どの言葉にも実感がこもっていて言い淀みがない。また、スタジオ観覧者とプロ目線のズレを嫌みなく伝えられるのは、そもそも持ち合わせている田中の人柄によるところが大きいだろう。
田中のこの一面にスポットが当たったことで、コメンテーターや相談役としての出演が急増。2018年4月から『バイキング』(フジテレビ系・現『バイキングMORE』)でコメンテーターを、2019年から2年連続で『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)の審査員を担当している。
また、『ゴッドタン』(前・同)では、ゲストが潜在的に抱えているであろう悩みに対し、田中が一方的に答える企画“勝手にお悩み先生”が立ち上がり、『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)では、様々なニュースに適切な表情ができるかを競い合う企画「コメンテーター表情選手権」で先生役を務めるなど、引っ張りだこの存在となった。
的確なコメントに注目が集まる半面で、必ず“いじられシロ”を見せて文化人のイメージからは距離を置く。田中はこの絶妙なバランスを保ちながら、第一線で活躍し続けている芸人と言えるだろう。
2000年4月に同じ大学の後輩・土屋伸之とナイツを結成し、『M-1グランプリ 2008』の「ヤホー漫才」で注目を浴びた塙宣之。2002年に漫才協会に入会し、2007年に史上最年少で理事に就任。2015年からは副会長を務めるなど、浅草の演芸文化に土着したスタイルで活躍している。
バラエティー番組では、浅草で活動する師匠のエピソードを紹介し、視聴者の笑いを誘うのが鉄板となっている。とくに『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で、不仲コンビとして知られる「おぼん・こぼん」にドッキリを仕掛けた企画は大きな話題となった。
吉本興業とは異なる文脈の“楽屋話”を世間に浸透させ、塙はバラエティー番組に改めて寄席の匂いを持ち込んだ。また、このことで興味を持った視聴者が演芸場に足を運ぶ起点となったに違いない。師匠を茶化しているだけのように見えるが、実のところ塙の果たしている役割は非常に大きいのだ。
2018年からは『M-1グランプリ』の審査員を務めている塙。決勝メンバーのギャロップに「『M-1』の4分の筋肉を使いきれてなかった」、霜降り明星に「圧倒的に強い人間がやっている」と評するなど、初年度から公平かつ、忖度のないコメントで高い評価を受けている。
2019年には『ゴットタン』(テレビ東京系)の「お笑いを存分に語れるバー」に出演し、M-1の歴史や歴代ファイナリストたちのネタについて持論を展開。共演者のかまいたちの2人、スピードワゴン・小沢一敬らと熱いトークを繰り広げた。同年、著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社)を発表。吉本興業が主催するM-1に対して、非吉本系の関東芸人がどう向き合うべきかを丁寧に解説したこの本は、累計発行部数10万部を突破するヒットとなった。
今年2020年4月からはYouTubeチャンネル『ナイツ塙の自由時間』をスタート。若手芸人や一般人の書いた漫才ネタを、塙が“ガチ添削”する動画も話題となった。塙の分析は、あくまでも「漫才」および「M-1」に向けられたものであり、ネタづくりの職人技を思わせる。
何よりも「心底漫才が好き」という思いが伝わってくるからこそ、見る者に“野暮さ”を感じさせないのだろう。
前述の2人と、まるで毛色の異なる芸人がメイプル超合金・カズレーザーだ。2012年8月に安藤なつとコンビを結成。2015年、『M-1グランプリ』の決勝に進出し、「ここWi-Fi飛んでんな」などのキラーフレーズで一気に全国区の人気者となった。
バラエティー番組に露出し始めた当初こそコンビでの活動が目立ったが、比較的早い段階から別々に出演することも多かった。そもそもカズレーザーは、ストレートな物言い、バイセクシュアル、趣味は読書・画集鑑賞と、タレントとして強いカードをいくつも持っていた。
こうした個性が明らかになるにつれ、トークバラエティー、教養バラエティー、クイズ番組など、あらゆるジャンルで引っ張りだこになっていく。およそ芸人らしくない、ニュートラルな姿勢こそが支持されたのだ。
2019年からは『情報プレゼンター とくダネ!』(フジテレビ系)の火曜(現在は火曜・金曜)レギュラーに抜擢され、『サンデージャポン』(TBS系)にゲスト出演した際の発言がたびたび反響を呼ぶなど、カズレーザーのコメントは日を追うごとに影響力を増している。
今年10月には、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)の「ガセネタに惑わされないための授業」に先生役で出演。この解説と分析が評価され、「ギャラクシー賞」テレビ部門の月間賞を受賞。さらに12月からは、すべてを図で解説する冠番組『カズレーザーの図図図~秒で腑に落ちる鬼まとめ~』(テレビ東京系)がスタートするなど、その勢いはとどまることを知らない。
しかし、当人はいたって冷静だ。2020年12月21日に掲載された「東洋経済オンライン」のインタビューで、芸能界における自身のポジションについてこんなことを語っている。
「たまたまそこにあったいすに座らせてもらっただけだから。誰かに『ちょっとどいて』って言われたら、どくしかないですよ。そもそも、自分が作ったいすじゃないし、もともと他人のいすじゃないですか。『自分の代わりはいない』って考えが、いちばんよくないと思うんです」
“こうあるべき”という固定概念を持たず、「もともと他人のいす」と達観しつつも、求められた場所では最大限の力を発揮する。これを体現できるのは、カズレーザーという芸人の特殊さによるところが大きいだろう。
そのほか、アイドルから芸人まで独自の目線で切り取る平成ノブシコブシ・徳井健太、『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)内の企画「M-1答え合わせ」で鋭い分析を示したNON STYLE・石田明など、解説に定評のある芸人は少なくない。
さらには2019年以降、芸人のYouTubeチャンネルが急増し、M-1決勝の前後に何かしらのコメント動画を投稿するのが珍しくなくなった。つまり、ほとんど視聴者とコミュニケーションするように芸人は漫才やコントを解説するようになったと言える。
芸人による解説は、語ることそのものがエンタメとなり、物事を共有する楽しさを倍増させる。ここに需要があるのだと思う。
爆笑問題・太田光、ダウンタウン・松本人志など、かねてよりラジオ番組で持論を述べることはあった。ただ、アラフォー世代の中堅芸人がネタや芸を解説する風潮は2017年~2018年あたりから起きている。これは大きな賞レースが世間でイベント化したこと、そしてお笑い界の体質が変化したことによるところが大きい。
平成ノブシコブシ・吉村崇は、フリーランスのテレビディレクター・三谷三四郎氏のYouTubeチャンネル『街録ch』に出演した際、昔と今のお笑い界の違いについてこう語っている。
この動画の中で吉村は、「官僚が天下を取る時代もあります」と前向きな発言もしている。まだまだ水面下での戦いは終わっていないということだろう。
お笑い界の変化だけでなく、SNSの普及によって「視聴者の玄人化」「情報の見える化」「一般投稿者のコメント力の拡大」が進んだ。その過程で中堅芸人の「コメンテーター」「賞レースの審査員」「解説」というポジションがリンクしていったと考えられる。
“お笑い”というエンタメが国民的な人気をキープし続ける中で、視聴者のハンドルを切る「解説」の役割は、今後さらに重要なものになっていくのかもしれない。
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