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お金と仕事

「会社も悩んでいる」大人の発達障害、就活生が気をつけるべきこと

学生時代は気づかなかったのに…の理由

社会人になって初めて気づく人もいるという「大人の発達障害」。就活する時から気をつけるべきことは? ※画像はイメージです
社会人になって初めて気づく人もいるという「大人の発達障害」。就活する時から気をつけるべきことは? ※画像はイメージです

目次

最近ではその存在が知られつつある「大人の発達障害」ですが、当事者や、当事者と一緒に働く人にとっては、課題が多いのも事実です。中には、社会に出て初めて「発達障害」に直面する人もいます。就活を控えた大学生は、何に気をつければいいのでしょうか。NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)代表の広野ゆいさんに話を聞きました。(大学生ライター・髙田陽一郎)

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NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)代表の広野ゆいさん
NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)代表の広野ゆいさん 出典: 広野ゆいさん提供

就活の学生も不安な「大人の発達障害」

NPO法人DDACは、サロン(当事者グループ)の活動を通して、大人の発達障害を持つ人が、周囲の無理解などによって起きる二次障害を克服し、より良い生活を送ることを目指しています。同法人の代表である広野さんは、この活動を通して得た様々なエピソードや工夫について全国各地で講演をしています。


――そもそも「大人の発達障害」に悩む人は、なぜ社会に出る前に発達障害であることに気がつけないんでしょうか?

広野: 理由として、まず、発達障害っていうのがとってもわかりにくい障害であることが挙げられます。大人の発達障害に悩む人たちのほとんどは、学生時代から発達に凸凹を持っていても、うつ病などの適応障害を引き起こしていないから自分の特性に気づけないんです。最近では、障害状態であるかどうかということとその人に凸凹の特性があるかどうかは分けて考えるようになってきています。


――学校と職場では何が違うのでしょう?

広野: 例えばASD(自閉スペクトラム症)の傾向がある人はシングルタスク(単一課題)が得意なんですよね。学校の勉強は一人で出来る作業だから、自分のペースで延々と頑張り続けることができるわけです。それでいい成績取ると周りがちょっと許してくれたり認められたりするわけです。

でも就職するとやっぱり人と共同して、指示されたことを的確に受け取って実行しなきゃいけない。行間を読んだりしてあいまいな指示を仲間とこなしていくマルチタスク(複数課題)なんですね。その途端にもう全然分からなってしまって、でアウトとなってしまうんです。


――就職を控えている学生としては、とても不安になります。今はたまたま環境に恵まれているから大学でうまくいっているけど、会社に入ったらそういう失敗をするのかもしれない。しかも凸凹が自分ではどのくらいあるかわからないから、会社でうまく働けるかどうかが想像もできない。

広野: そこは、事前にどういう会社なのかという情報を集める必要があります。給料なども大事ですけれど、働きやすさなどを含め、自分の特性に合っているかどうか調べるというのはとっても大事ですね。

NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)のホームぺージ
NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)のホームぺージ 出典:https://www.adhd-west.net/

「合理的配慮」ができない会社

――2016年に障害者差別解消法が制定されたことにより、企業は申し出があった人に対し、仕事がしやすくなるような合理的配慮を一緒に考えてあげなくてはならなくなりました。それでも現状では、たまたま良い社長に巡り合えるかどうかで左右される、という話をよく聞きます。

広野: そうなんです。合理的配慮できない人が多いのも事実です。でもそれって日本特有の問題だと思うんですよね。障害っていう言葉に対するイメージの悪さとか。障害を違いとして受け入れていく世界的な流れと逆行して、日本人は昔から障害のある人は何もできないから助けてあげなきゃいけない可哀想な人たちと考えがちです。

だから障害って聞くと日本人はびっくりしちゃうんですよね。本当は配慮といっても大げさなことじゃないんですけど、それがものすごく大ごとに受け取られちゃいますよね


――もし自分が発達障害だった場合、合理的配慮をしてもらうために必要だとしても、将来、職場でカミングアウトできるか、自信がないです……。実際みなさんどのようにカミングアウトされているんですか?

広野: カミングアウトの仕方っていうのがすごく大事なんですよね。だからカミングアウトしやすい環境が必要だけど、今のところ、整っているところはまだ珍しいと言わざるを得ません。だからまず一番わかってくれそうな人、上司や産業カウンセラーに言ってみることが多いです。

また、伝え方も大事です。まず、「自分はこれがすごく苦手なんです」とか「こういうタイプなんです」と伝える。それで受け入れられたらそれでいい。でも、「努力しろ」とか「もっと頑張れ」と言われてしまったら、「実はこういう風に診断されてまして」という風にもっていくのがいいです。


――それでも、失敗したら心が折れちゃいますよね。

広野: 実際、〝一か八か〟という面は否めません。

障害者差別解消法と県条例施行を記念して宇都宮市内で実施されたパレード=2016年4月1日
障害者差別解消法と県条例施行を記念して宇都宮市内で実施されたパレード=2016年4月1日 出典: 朝日新聞

会社側も悩んでいる

広野: 逆に本人が気づいてなくても周りが「絶対、この人は発達障害でしょう」と思っていて、それをどう本人に伝えたらいいのかで悩むことも多くあります。


――会社側も悩んでいるんですね。

広野: 会社としてはこういう配慮がほしいって言ってくれればやるんだけど、その本人が「自分は違います」と言われるとできないってことがあって、それで会社の人の方が悩んでいるということがありますね。


――そんな時に会社ができることって何がありますか?

広野: そういう場合の対応について会社が準備できていたら、別に診断がなくてもできることはあります。


――発達障害の人に配慮するのではなくて、最初から配慮が含まれた環境対応があれば良いと?

広野: そうですね。例えばLD(学習障害)で文字がなかなか読めない人のために大きめのフォントを使ったマニュアルを作ると、外国人で日本語を習い始めたばかりの人にも使いやすかったり、老眼の高齢者も見やかったりするわけですよね。

他にも、スケジュールをすぐ忘れちゃう人や納期を守れない人がいた会社で、ネット上で予定表をみんなで見られるようにして、それを共有する時間を作るようにしたら声をかけ合ったり、スケジュールを見て大変そうな人を手伝おうとしたり、会社全体がいい雰囲気になったという事例もあります。

多様性を認めれば生産性も上がる

――発達障害に限らず色んな特徴を持った人が働きやすい職場を作る視点が大事なんですね。

広野: そのきっかけに発達障害がなればいいなと思います。「こういう人がいるんだったら、こうしたらいいね」という意識は、練習が必要なんですね。だから「こういう人、来ちゃった、困るからもうやめてもらおう」ではなく、「そういう人がいるんだったらこうしようか」と考えられる人をもっと増やさなきゃいけない。


――そうすれば職場がどんどん多様化しますね。

広野: 実際、海外の事例では、多様性がある職場の方が生産性が高くなるというデータがあります。もちろん、その分ストレスがかかる面もあるけれど、より高いパフォーマンスが出てくる。

海外だとコアタイムだけそこにいたらいいみたいな仕事も増えていますしね、遅刻っていうもの自体がなくなってきています。今そういうやっぱり多様性を受け入れるということが企業の一つの価値の指標にもなりつつあります。


――創造的な職場が大人の発達障害の方を助けるんですね。

広野: 本当にそうなんですよ。発達障害を解決しようとするとみんな障害を軽くするとか、本人に頑張らせる方向にいく。でも本当に変えるべきなのは環境の方だろうと私はいつも思っています。

就活で必要なことって?――取材を終えて

筆者の父も軽度の発達障害で、同じような問題に苦しんでいます。自分も就職後に「大人の発達障害」になってしまわないか。私自身、不安な気持ちがあります。

広野さんの話を聞きながら思ったのは、自分の人生を決める「就職活動」で一番考えるべき重要なことは何なのか、ということです。

やりたいことや、年収も大事です。でも、自分らしさを発揮して働くことができるか、職場環境について、もっと真剣に考えてみるべきはないでしょうか。

就職してからなぜか失敗を繰り返すようになり、うつ病といった適応障害を引き起こしてしまう。その可能性は、誰にでもあります。

勉強という「シングルタスク」の世界では気づきにくい「大人の発達障害」について、「マルチタスク」の世界に飛び立つ前の就活時点から考えることは、重要です。

働きやすさや職場環境、会社の支援制度などを自分ごととして見ていく姿勢が求められます。

同時に、それは企業の評価にもつながるような流れを作っていかなければいけません。

多様な特徴や考えを持った人が働きやすい職場になること。それは、変化の激しい時代において、多くの企業にとってもメリットになるのだから。

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