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連載

#9 金曜日の永田町

安倍さんが〝秘書さん〟のために書いた、わずか16行のメッセージ

「来年?来年の選挙には出馬をしたい」

会見で、頭を下げる安倍晋三前首相=2020年12月24日、国会内、上田幸一撮影
会見で、頭を下げる安倍晋三前首相=2020年12月24日、国会内、上田幸一撮影

目次

【金曜日の永田町(No.9) 2020.12.26】
菅義偉首相が新型コロナウイルス対策で支持率が急落するなか、今週の国会の主役は安倍晋三前首相でした。「桜を見る会前夜祭」の責任をとるどころか、次期衆院選への立候補表明までした安倍さんが資料の提出に難色を示すわけは――。朝日新聞政治部(前・新聞労連委員長)の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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「民主主義の窓口」

3年連続で100兆円を超えた新年度予算案が閣議決定された今週。国会は例年であれば、秋の臨時国会と、年明けに予算案などを審議する通常国会の谷間の時期ですが、慌ただしく人が行き交いました。

12月23・24日には、「GoToトラベル」事業を担当する国土交通委員会に、政府の分科会会長の尾身茂さんなどを招き、新型コロナウイルス対策に関する質疑が行われました。

また、12月25日には、自民党二階派の事務総長を務めていた吉川貴盛さんの事務所が置かれていた議員会館に東京地検特捜部が家宅捜索に入りました。吉川さんは、安倍政権で農林水産相を務めた時代に鶏卵業者から500万円を受け取った疑いを持たれており、12月22日に「体調不良」を理由に衆院議員を辞職しました。

そうした師走の国会で話題になっている本があります。

タイトルは『秘書の風景-継往開来-』。

衆院議員を支える秘書さんたちがつくる「衆議院秘書協議会」の発足50周年を記念した本です。衆院議長や各党の代表などが祝辞を寄せています。

「衆議院秘書協議会」の発足50周年を記念した「秘書の風景」
「衆議院秘書協議会」の発足50周年を記念した「秘書の風景」

秘書の役割を「民主主義の窓口」と表現したのは、立憲民主党代表の枝野幸男さん。議員に代わって最初に有権者の要望などに対応することが多い秘書の苦労をねぎらいながら、「国会や政治の窓口そのもの。日本の民主主義や、国民の皆さんの福祉の向上や国家の平和と発展にも、大いに貢献している」とエールを送りました。

公明党代表の山口那津男さんは、自身が初めて国会議員に当選した30年前と比較しながら、「選挙制度が大きく変わり、情報公開の流れやネット社会の発達によって、議員の秘密を扱う黒子というより、透明でオープンな政治の担い手としての役割がますます求められている」と綴っています。

国会議員の活動を支える公設秘書は1947年、日本国憲法と同時に施行された国会法によって認められました(最初の名称は「事務員」)。創設時の議論をたどると、「国会の尊厳と権威を高める」狙いがあったようです。

その後、1963年に「第2秘書」、1993年に「政策担当秘書」の制度が作られました。現在の公設秘書は国会議員1人あたり3人になります。この本には国会議員の秘書を経験した議員の一覧も載っていますが、衆院で138人、参院で43人の計181人。全国会議員のおよそ4分の1が秘書経験者です。

菅さんや安倍さんも181人の1人です。新型コロナウイルス禍で出版がずれこんだため、安倍さんが自民党を代表し、「内閣総理大臣・自由民主党総裁」の肩書でメッセージを寄せています。

「議員と秘書の関係は、お互いに高め合い、切磋琢磨し、国家国民の為の役割を全うすることです。この50周年の節目にあたり、改めて秘書の役割、責務の重大さについて共に認識することが、肝要です。今後ますます共に研鑽を積み、国政の任にあたることをお誓いし、お祝いの言葉とさせていただきます」

7党の代表のなかで最もあっさりした16行のメッセージでした。

安倍さんが「秘書の風景」に書いたメッセージの一部
安倍さんが「秘書の風景」に書いたメッセージの一部

「秘書に任せていた」

2004年3月につくられた衆院議員秘書倫理憲章には、最初にこう掲げています。

「われわれは、単に自らを採用する議員の信頼に応えるのみならず、広く主権者たる国民の信頼に値するより高い倫理観と強い義務感を銘記し、勤務の内外を問わず清廉を持して、職務を誠実に遂行するとともに、政治腐敗の根絶と政治倫理の向上に努めなければならない」

そのような秘書会の努力を揺るがす事件が起きました。12月24日、安倍さんの公設第1秘書が政治資金規正法違反の罪で略式起訴され、罰金100万円を命じられたのです。

安倍さんの後援会がホテルで開いた夕食会「桜を見る会前夜祭」について、参加者から会費として集めた収入と、ホテルに支払った支出を、政治資金収支報告書に記載していなかった罪です。東京地検特捜部の調べでは、時効などにかからなかった2016~19年の4年間だけでも、計3022万円分の収支の記載がなく、会費収入では足りなかった計708万円を安倍さん側が補塡(ほてん)していたことが明らかになりました。

政治資金規正法で毎年、政治資金の収支を公開するよう義務づけているのは、国民が政治家や政治団体の活動をきちんとチェックできるようにするためのルールです。

ところが、国のトップとして最もルールを守る立場にある安倍さんの政治団体が、2013~19年にかけて毎年開かれてきた「桜を見る会前夜祭」の収支を記載していないため、昨年11月以降、国会で問題になってきました。

「会場入り口の受付で事務所職員が1人5千円を集金し、集金した現金をその場でホテル側に渡していた」
「後援会としての収入、支出は一切ないので、政治資金収支報告書への記載は必要ない」
「事務所側が補塡をしたという事実は全くない」

安倍さんはこのように国会答弁で主張してきましたが、市民の告発を受けて東京地検特捜部が捜査をした結果、誤りが裏付けられたのです。この問題で安倍政権が行った事実に反する答弁は、衆院調査局の調べでは、少なくとも118回に上ります。

「桜を見る会」をめぐる問題について審議された衆院予算委で答弁する安倍晋三首相(当時)=2020年2月5日、岩下毅撮影
「桜を見る会」をめぐる問題について審議された衆院予算委で答弁する安倍晋三首相(当時)=2020年2月5日、岩下毅撮影 出典: 朝日新聞

答弁の不自然さを野党議員は国会で指摘してきましたが、安倍さんは「私がここで話しているのがまさに真実です」と強調。「私がウソをついているというのであれば、ウソをついているということを説明するのはそちら側ではないのか」と逆切れまでしていました。

最初の国会答弁から1年以上。秘書の略式起訴を受けて、24日午後6時から記者会見を開いた安倍さんは、「深く、深く反省するとともに、国民の皆様に心からおわび申し上げます」と謝罪。補塡の事実も認め、その原資については、「私的なものに支出するため、事務所に預けていた手持ち資金」と説明しました。

では、なぜ、自分の私費にもかかわらず、補塡に気がつかなかったのでしょうか。

また、なぜ、国会から再三、確認するよう求められていたのに、きちんと事実関係を調べなかったのでしょうか。

安倍さんの説明によると、起訴された「公設第1秘書」のほか、東京事務所の私設秘書と「退職した前任者」の少なくとも3人がかかわっていました。しかし、安倍さんは「責任者に任せていた」と説明し、「事務所に幾度も確認したが、(秘書が)私に真実を述べることができなかったということでありました」と、自分は把握していなかったという認識を繰り返しました。

「事務所に幾度も確認をし、当時の私の知る限りの、認識の限りの御答弁をさせていただいたつもりであります。しかしながら、結果としてこれらの答弁の中には事実に反するものがございました」

国会で積み上がった「虚偽答弁」の原因は秘書――。

そのような構図になり、公設第1秘書と東京の私設秘書は24日付で安倍事務所を退職しました。

会見で、説明する安倍晋三前首相=2020年12月24日、国会内、上田幸一撮影
会見で、説明する安倍晋三前首相=2020年12月24日、国会内、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

明細書提出を拒むわけ

安倍さんは翌25日、衆参両院の議院運営委員会で一連の経緯について謝罪をしました。

「政治とカネ」の問題をめぐり、首相経験者が退任後に、国会で説明するのは、日本歯科医師連盟からのヤミ献金問題をめぐる2004年の橋本龍太郎さん以来です。特に今回は、言葉の信頼によって成り立っている国会を壊す「虚偽答弁」も重ねており、野党側が「議員辞職に値する」と訴える重大な問題です。事実に反する答弁が繰り返された予算委員会の部屋で、議長、副議長も立ち会うなかで行われました。

記者会見で「国民から見て一点の曇りもないように、透明性を確保していくために、私自身が責任を持って徹底をしていく」と約束した安倍さんに対して、野党議員は主に三つの対応を求めました。

「明細書の提出」「領収書の提出」「不記載の動機の確認」です。

ところが、安倍さんはこの期に及んで、いろいろな理由をつけて対応しませんでした。

夕食会の費用をどれぐらい安倍さん側が補塡していたかがわかる「明細書」については、「ホテルは営業上の秘密で出さない立場だ」と拒否しました。

ホテルと契約していた主体がわかる領収書の提出については「検討します」と口にしたものの、「どのような宛先になっているのか」と問われると、「どのような宛先になっているかは承知していない」と言葉を濁しました。

また、「2013年は収支報告書に記載があるが、なぜ14年以降多額の補填を不記載にしたのか」と事前に確認を求められていましたが、安倍さんは担当していた元事務所職員が検察の捜査対象となったことで、「代理人と話をしたが、接触を図るべきではないと考えており、答えられないということだった」と答弁。「話を聞くことができないので、勝手に申し上げることができない」と主張しました。

安倍さんは「検察の判断は変わらないから、隠す必要はない」と言いながら、なぜこうした対応になるのでしょうか。
野党議員の見立てを総合すると次のようになります。

安倍さんは25日の国会で、野党側の指摘に対し、「私は何か利益を供与して選挙で当選しなければならないという立場では全くない。今まで9回選挙を戦ってきたところでございますが、毎回地元の皆さまが大変頑張っていただいた結果で、もう常に圧倒的な勝利を与えていただいているところでございまして、利益を供与して票を集めようということは露ほども考えていない」と反論しました。

しかし、公職選挙法というルールを逸脱した有権者へのサービスが行われていたとすれば、公正な選挙とは言えません。明細書などの証拠が出そろうと、公設第1秘書の刑事責任で決着させた検察の判断を超えて、安倍さんの責任が重く問われる可能性があるのです。

安倍晋三前首相の地元事務所=2020年12月24日、山口県下関市、貞松慎二郎撮影
安倍晋三前首相の地元事務所=2020年12月24日、山口県下関市、貞松慎二郎撮影 出典: 朝日新聞

森友の成功体験

一連の質疑を見終わって、私が思い浮かべたのは、2018年の森友学園問題をめぐる公文書改ざん事件です。

安倍さんの妻・昭恵さんが名誉校長に就任し、教育勅語を教える小学校を開校しようとした森友学園への国有地払い下げをめぐり、国会で問題になった後、財務省が昭恵さんに関する記述などを交渉記録から削る改ざんをして、安倍政権は1年以上にわたって事実に反する国会答弁を少なくとも139回重ねました。

そして、朝日新聞のスクープで改ざんが発覚した後も、安倍さんや財務相の麻生太郎さんは「(改ざんは)知らなかった」として、「組織を立て直す責任」を理由に職にとどまりました。

そして、安倍政権・菅政権はいまだに真相解明のカギとなる「2014年4月28日」の交渉記録などを開示していません。何より、改ざんで虚偽答弁を重ねている間に衆院選を行い、安倍政権は勝利を収めました。それがいまの自民党の議席です。

安倍さんは12月25日の国会で、野党から「議員辞職」を迫られながらも、「深い反省の上に立った本当の意味で国民から信頼され、議員として国家国民に対してその責任を果たしていくことができるよう全力を尽くしていきたい」と再び責任論をすりかえました。

そして、2時間超の質疑を終えて、国会を後にするとき、記者から「来年の選挙には出馬するのか」と問われると、「来年?来年の選挙には出馬をし、国民の信を問いたいという風に思っています」と次期衆院選への立候補まで表明しました。

朝刊への出稿作業が一段落して、夜の報道番組をチェックしようとテレビをつけたら、延々とクリスマスソングが流れていました。

テレビ朝日の「報道ステーション」も、TBSの「ニュース23」も年内の放送は24日の木曜日で終了。安倍さんのニュースを報じる枠がありません。与党が年末に駆け込みで行った「25日」には、こうした意味もあったのかもしれません。

ウソに振り回されている国会を立て直すには、与野党を超えて議員1人1人が自覚するとともに、議会制民主主義を支える秘書や官僚の自律を担保していくことが必要です。年明けの通常国会に向けて、メディアのあり方も含めて、じっくり考えていきたいと思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《来週の永田町》
12月28日(月)国の観光支援策「GoToトラベル」が全国一斉に停止
12月30日(水)東京証券取引所で1年間の取引を締めくくる大納会

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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