連載
#66 #となりの外国人
インド人と付き合ったら…実家で受けた質問に「かなり厳しめにきた」
入籍してわかった「本当の理由」
社員の3割が外国籍というTwitter Japan。ダイバーシティーについて開かれる勉強会をのぞいてみると、国際結婚した社員たちが「異文化」とのつきあい方を語り合っていました。登壇者の一人、エリさんは夫がインド出身。彼の実家にあいさつに行った時に受けた衝撃からは、その後の、会社や社会生活にも影響する学びがあったそうです。
カルチャーショックは、事前に備えることで『楽しみ』に変えていく
エリさんこと、堀川恵理さん(30)はTwitter顧客対応チームの社員です。夫のアノージさんは南インド出身。「やっぱり、カレーばっかり食べてるの? ってよく聞かれますけど、家庭の食卓でインド料理がでるのは週1~2回です」
二人の出会いは、5年前、日本の共通の友人宅でした。各国料理を持ち寄った食事会。
インド人と聞くと、「カレー」や「ターバン」など、湧き出るイメージがありますが、エリさんは「あまり国籍は意識しなかったですね」と答えました。
アノージさんは、多様な人が暮らすシンガポールで学び、自然と誰とでも関われるような人でした。エリさんも、オーストラリアやイギリスで学び、アメリカでも働いたなど、海外で「外国人」になった経験があるからかもしれません。アノージさんの第一印象は、「見た目や国籍で人を見ない人」「そこにひかれたのかもしれません」とエリさんは語ります。
二人の間にあったのは、国籍や文化の違いではなく、人としての敬意でした。
順調に交際をしていたエリさんが、初めて「インド」の文化に触れたのは、2017年でした。アノージさんとインド旅行に行った時、彼の実家に寄りました。エリさんはまだ「遊びに行く」ぐらいの気持ちだったところ、面食らってしまいます。
アノージさんのご両親からの「質問攻め」。「エリさんの両親の職業や年収」、「エリさんの職歴と年収」、「納税額」、「信仰」など……。込み入った質問が次々に降りかかってきました。
「よく思われていないのかな、かなり厳しめにきたな、と思いました」
それでも結局、アノージさんが家族を説得して、翌年、入籍しました。結婚が決まると一転して、エリさんは、驚くほどあたたかく、迎えられました。
「お母さんは私を娘のように思ってくれて、サリーやアクセサリーを用意してくれたりしました。親戚も『エリ、エリ』と家族同然に扱ってくれて。結婚後は『嫁姑問題』とかがある日本の方が緊張するんじゃないかなと思うぐらいです」
「質問攻め」の件の誤解が解けたのは、入籍も結婚式も終わった後のことでした。
インド人の女友達に「国際結婚大変じゃなかった?」と聞かれて、初めて夫の家に行ったときの戸惑いを話したエリさん。すると、女友達は「そんなの当たり前じゃん」と笑い飛ばしました。
最近は自由恋愛、国際結婚も増えているインドですが、特に彼の出身地では、お見合い結婚が主流。カーストや、宗教、食への信条。お互いの家から「バイオ(履歴書)」を送りあい、マッチングし、家族が結婚相手を決めるのに大きく介入します。
「インドでは、あれは、普通のことだったんだ」とわかり、もやもやしていたものがとけたエリさん。一方で、「インドの結婚について、事前に知っておけばよかった。知っていれば、カルチャーショックは軽減できただろうし、逆に『きたきた!』って楽しめたのかもしれないと思うんです」
この反省から、今もエリさんは、ほかの文化出身の人と話すときは、事前にその国のことを調べていくようにしているそうです。
「その国のお祭りや、風土、食べ物。ネットで見るだけでも、たくさんの情報があります。文化を知っていれば、カルチャーショックも楽しめる気がします」
「もし私が履歴書を送っていたら、私と夫はマッチングしなかったはず」と笑うエリさん。
でも、実際に夫婦になって生活で困ることは、あまりないといいます。
シーフードを食べないアノージさんですが、エリさんが寿司が食べたい時は、それを尊重して隣でラーメンを食べてくれるそうで、「差し障りなくやっています」。
夫婦生活に支障がない一方で、エリさんが今まで気づかなかったような、日本で外国人が暮らすときの「困りごと」が見えるようになりました。
銀行や病院、税金など、生活に必要な手続きで、夫の長いフルネームは、記入欄に書ききれないことがあります。仕方なくミドルネームを省くと、今度は「IDとマッチしない」と、別の身分証明ではじかれてしまう「負の連鎖」に陥ります。
聞けば気づける「困りごと」。それでも、困っている人の声を聞くまで、マジョリティにとって当たり前になっている風景の問題には気づけません。
「ダイバーシティーは対話から深まる」という意味を実感しました。
国籍ではなく人として向き合うことで伴侶と出会い、「カルチャーショック」は受ける前に知識を持つことで「楽しみ」に切り替えてきたエリさん。
もしまちなかで「外国人」を見かけたとき、どんな行動をすると、もっといい社会になるか、聞いてみました。
「日本語が話せないかもしれない人には、話しかけづらいですよね。私も知らない人に声をかけるのはハードルが高いです。でも、もしその人が困っていたら、『外国人だから』、ということじゃなくて、人として助けられるといいなと思います。今って、ほかの人に声をかけること自体ためらわれる雰囲気がありませんか。『伝わらないかも』という不安を超えて、気軽に助け合える社会は、国籍関係なく、暮らしやすいと思います」
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