MENU CLOSE

エンタメ

「M-1」で5位、ニューヨークが取り戻した〝毒気〟 追い風は動画から

苦い経験を〝かわいげ〟に変えた努力

ニューヨークの嶋佐和也(左)と屋敷裕政=2019年12月4日、東京都港区
ニューヨークの嶋佐和也(左)と屋敷裕政=2019年12月4日、東京都港区
出典: 朝日新聞

目次

2020年、ジワジワと露出を増やし続けたニューヨークの嶋佐和也と屋敷裕政。先日行われた「M-1グランプリ」では5位、「キングオブコント」では準優勝と今年は賞レースでも結果を残している。彼らの実力は早くから認められていたが、なぜここ最近で活躍が目立つのだろうか。何度も“ネクストブレーク”とささやかれ、時代に翻弄されながらもチャンスをつかんだ彼らの軌跡をたどる。(ライター・鈴木旭)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」

M-1グランプリで5位

「M-1グランプリ2020」では、ニューヨークらしい毒気のあるネタを披露した。

嶋佐がちょっとしたエピソードを話す中で「道に落ちていた1万円札をパクる」「生レバーを出す店で仲間と飲む」「道端で用を足す」といった細かな犯罪が表面化し、不信感をあらわにツッコむ屋敷。ところが、後半で「マッチングアプリで出会った人妻とのデートの帰りに選挙で投票する」「転売したチケットのお金を募金する」といった“ちぐはぐな倫理観”が露呈し、カオス状態となって笑いが増幅していくというネタだった。

結果はオズワルドと並んで5位だったが、本来の実力を発揮できたのではないだろうか。

昨年、同大会で「ラブソング」という大衆受けするネタを見せ、ニューヨークは最下位となった。2019年はテレビで健在ぶりをアピールする貴重な場所だっただけに、“置きにいった”のだと思う。なぜそこで“毒気”を封印する必要があったのか。そこを紐解いていくと、いかに彼らが時代に左右されたコンビかがわかる。

早くから頭角を現したニューヨーク

ニューヨークの結成は2010年。大学卒業後、テレビ制作会社に就職したものの“芸人になりたい”と方向転換した屋敷は2009年にNSC東京校に入学する。翌年、在学中に出会った嶋佐とコンビを組んだ。

2人は比較的早くから頭角を現している。2012年10月、無名の若手芸人から未来のテレビスターを発掘するべくスタートした番組『ロケットライブ』(フジテレビ系)に出演し、2013年4月からは後身番組『バチバチエレキテる』の選抜メンバーに起用された。

主要メンバーはニューヨークのほか、うしろシティ、プリマ旦那、デニス、ラブレターズ、ベイビーギャング(EXITのツッコミ、りんたろー。の元コンビ)。MCによゐこ・濱口優を据え、若手らしいロケ企画、コントを軸として放送されたが半年足らずで終了してしまう。その後、ネット番組として不定期に配信されたが、地上波に戻ることなく尻すぼみとなってしまった。

それまでもフジテレビは、この手の“若手発掘系”の番組に力を入れていた。しかし、『はねるのトびら』以降、どれも長寿番組にはつながっていない。この事実を踏まえてのことか、2020年10月に放送された『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』(テレビ東京系)の中で嶋佐は「(『バチバチエレキテる』が終了しても)意外と冷静でしたね」「1年かけてオーディションして半年で終わった」と自虐を交えて語っている。

ネタが称賛されるもブレークできず

一方でニューヨークは、2013年から単独ライブをスタートさせ着実に力をつけていく。コンビを組んだ当初はオーソドックスなネタをつくっていたが、3、4年目あたりから“偏見ネタ”とも称される独自のスタイルを確立した。そのきっかけについて、屋敷はこう語っている。

「嶋佐の同級生が文化祭で、『Dragon Ash歌いたい!』って言って、急に土下座してたっていう話を聞いて、ネタ全然できん時、「じゃあ、あん時のあれネタにせえへんか」と言って実際にやったらすごいウケたんですよ。だから、本当に思っていることとかをツッコミの感じで言えばウケたりするんや、みたいなところからです」(2019年1月5日に掲載された「ザテレビジョン」公式サイトのインタビューより)

2014年に「ABCお笑いグランプリ」の決勝に進出、2015年にTBSラジオのお笑い番組「マイナビLaughter Night」のグランドチャンピオンに輝くなど、実績を積んでいく。2016年3月からは『ニューヨークのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)がスタートするなど、再度“ネクストブレーク”との声が上がるも人気が爆発することはなかった。

同年8月、大阪(なんばグランド花月)では初となる単独ライブを実施。ひたむきな活動の中で、新たなチャレンジは続いた。

「ニコ生」の特番で炎上し謝罪

くすぶり続けたことが災いしてか、2017年12月に大目玉を食らう出来事が起きた。ライブ動画配信サイト「ニコニコ生放送(ニコ生)」のクリスマス特番にニューヨークの2人が出演した際、共演者の1人を激怒させてしまったのだ。

番組の企画は「【ニコめし】独りでも寂しくない!聖夜のクリスマス飯!!」。クリスマスイブを1人で過ごす人向けに、手軽に作れるレシピを紹介するというものだ。ここに「ニコニコ動画」で料理動画を配信するユーザー「パンツマン」こと神崎嘉宏氏が迎えられ、実際にキッチンで調理しオリジナルレシピを披露した。

料理をつくる過程で、ニューヨークは神崎氏の言動にツッコみ始める。深夜バラエティーのような“ノリ”をまっとうしたのだろうが、これに神崎氏は苛立ち始めた。沸点がピークに達したのは、神崎氏が人参を輪切りにし始めたシーンだ。決して手際がよいとは言えない包丁さばきを見たニューヨークの2人が、笑い交じりで「遅ぇ~!!」とつつき始めると、神崎氏は「お前がやれよ!」と声を上げて怒りをあらわにした。その後、嶋佐がなだめるような対応を見せたが、最後まで神崎氏の不満気な表情は変わらなかった。

番組終了後、SNS上でニューヨークに対する批判が殺到。2人はそれぞれのツイッターで「先日の【ニコめし】でパンツマンさんに不快な思いをさせてしまいましたこと、お詫び申し上げます」との謝罪文を発表する事態となった。この重い空気を引きずるように、翌2018年は大きな成果を残せない年となってしまった。

「ニューラジオ」を起点に追い風吹く

2018年末、「M-1グランプリ」で霜降り明星が史上最年少で優勝を果たす。その勢いは翌2019年の「お笑い第七世代」というブームにもつながっていく。EXIT、宮下草薙、かが屋など、若手が次々と台頭する中で、以前にも増してテレビでのニューヨークの立ち位置は危うくなった。

しかし、それまでと違ったのは2人が「自分たちのフィールド」を準備していたことだ。2019年1月からYouTubeチャンネル「ニューヨーク Official Channel」を立ち上げ、コンスタントに動画を投稿し始めた。とくに同チャンネル内のラジオ番組「ニューラジオ」は、後に多くの芸人が同じ形式でスタートさせている画期的なコンテンツとなった。

ちなみに、「ニューラジオ」を始めたきっかけは、さらば青春の光・森田哲矢のアドバイスによるものだったらしい。ある取材で私は森田本人から、「『ニューラジオ』の発端って僕の助言でもあるんですよ。『地上波のラジオなんて、YouTubeの生配信と聞いてる人数そんな変わらんぞ。お前らYouTubeでやったら?』って確実に言いましたから」と聞いたことがある。

いずれにしろ、テレビだけでなく自力でコンテンツを発信し、ニューヨークは地道にファンを獲得していった。昨年の「M-1グランプリ」で毒気のあるネタを披露できなかったのは、先述した過去の失敗と、第七世代に代表される「仲良し」「誰も傷つけない」という流れを受けてのことだろう。結果的に最下位となったニューヨークだが、むしろこの経験をポジティブなエネルギーへと変えていった。

とくに吉本興業の劇場が全公演中止となった2020年3月2日~25日までの約3週間は、「ニューラジオ」に毎日ゲストの芸人を招いてトークする試みを実施(1日だけ仕事の都合で後輩芸人が代役した回あり)。コロナ禍でYouTube需要が高まる中、彼らは視聴者から称賛を浴びる対象となった。現時点でチャンネル登録者数は約16万人。ネットの世界でも着実に支持を集めている。

そんな勢いもあってか、今年の「キングオブコント」では持ち味を生かしたネタで準優勝という結果を残した。テレビでも露出が増え、今度こそ本当の追い風が吹き始めている。


ニューヨークの魅力は「挑戦し続ける姿勢」

2010年代は、SNSの普及が芸人の活動に大きな影響を与えた。とくにニューヨークは、テレビスターにあこがれた最後の世代だろうし、デジタルネイティブの若手からも追撃をくらった不遇のコンビだ。変化に対応するため、きっと相当な苦労があったことだろう。

しかし、そんな苦い経験も含めて2人の芸風となった。「第七世代に入りたい」「人気YouTuberと知り合いたい」と懇願する泥臭さは、芸人らしい“かわいげ”を感じさせる。また余計なプライドを捨て、YouTubeというホームグラウンドを持ったことが自信につながっていると思う。

残念ながら今年の「M-1グランプリ」では優勝を逃したが、可能であればぜひ来年も出場してほしい。これまでも挑戦し続ける姿勢こそ、ニューヨークの魅力につながってきたからだ。賞レースを1つの糧として、今後さらに飛躍していく彼らに期待したい。

関連記事

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます