連載
#65 #となりの外国人
「せっかく日本人と結婚したのに…」米国人の夫をドンびきさせた会話
「違う世界に来てしまった」
社員の3割が外国籍というTwitter Japanでは、国際結婚した社員たちから「異文化」とのつきあい方や、ダイバーシティーを学ぶ機会を設けています。社内勉強会をのぞいてみると、アメリカ人の男性と結婚したココさんが、夫に「ドンびき」されたエピソードを語っていました。二つの国に住んだココさんの経験から、「外国人」という壁の取っ払い方について考えます。
『外国人』のレッテルをペリッとはがして、『あなた』として見る
東京出身のココさんこと、ホルト滉子さん(26)は、高校生のとき、苦手な英語を、勉強以外の方法で克服できないかと考え、文通(ペンパル)を始めました。
専門のサイトで探した文通相手は、中国、モロッコ、韓国、イギリス、ベルギー、アメリカと6カ国にも広がりました。
メールだけではなく、旅先から絵はがきを送ったり、チョコレートを送り合ったり。おかげで英語力も上達し、大学進学を考えるときには、海外への憧れが膨らんでいました。
アメリカの美術大学に合格し、ふと、文通相手のティモシーさんの出身地が近かったなと思って連絡をしました。
「私、ミシガン州の大学に行くことになったよ」
「おお、僕が住んでいるところだ!」
「それでね、語学学校は大学付属の学校に行くことになって……」
「え、そこ、僕の大学だよ!」
偶然が重なり、友達づきあいが始まりました。気が合って、一緒にいると楽しい。4年間で友情を育み、恋人へ。別の街に就職したティモシーを追って、卒業後はデトロイトで新婚生活を送りました。
アメリカで学び、働きながら、ココさんはアメリカの暮らしやすさに魅了されていました。
高校時代までを過ごした日本の生活を振り返ると、体形をいじられたり、自分の意見を言いづらい雰囲気を感じたり。アメリカではそんな息苦しさを感じずにいられました。
これからもアメリカで暮らすつもりだったココさん。でも永住権の審査には、長い時間が必要でした。正式な結婚と証明するため、2人の出会いから結婚までのエピソードを10枚以上につづりました。
許可が下りるまで一時的に日本に戻ったココさんを、「遠距離」生活に耐えられなかったティモシーさんが追い、日本生活が始まりました。
ふたたび日本で暮らす中で、ココさんは、日本の新しい側面を見ていました。
日本では外資の広告代理店、そして現在はTwitterのグローバルビジネスマーケティングで、デザイナーとして働きます。同僚は多国籍で、世界各国に拠点を置くメンバーと意見を言い合い、オンラインでプロジェクトを動かす日々。そこではもう、日本にいるかどうかは関係がありませんでした。
「中高生までのコミュニティーで単純にジャッジしていたましたが、『日本が合っていない』というのは小さな視点にとらわれていただけだと気づきました」
ティモシーさんの目を通しても、新たな日本を発見します。
ティモシーさんはデトロイトに住んでいた時と比べて、「日本だと一本道を間違えると撃たれることとか、心配しなくていいのが素晴らしい」と喜びました。
国レベルで整えられた保険制度で、高額な医療費を心配せずに医療サービスが受けられるし、出産や育児休業での経済的支援も絶賛されました。
二つの国に住んだからこそ、お互いの良い所を学んで、2人は話し合い、これからの生活を日本で送ることを決めました。
日本の良さを再発見して始まった新生活。ですが、ティモシーさんが衝撃を受けることもありました
ココさんの知人にティモシーさんを紹介したときのこと。「家事はどうしているの?」と尋ねられました。共働きだったので、「折半してます」と答えました。
それを聞いた知人は、「ココ、なにやっているの」と突っ込み、ティモシーさんに「せっかく日本人と結婚したのに、残念だったね、ごめんね」と言いました。
ココさんも親世代の知人の言葉に、特に重く捉えず、ティモシーさんに「ごめんね~」と言って、笑いました。
そのやりとりにティモシーさんは「ドンびき」。後でティモシーさんに指摘をされて、ココさんも「そうか、えぐいことだった。私も染まっているんだな」と気づいたと言います。
日本では、性別で期待される「役割」(ジェンダーロール)があることを、ティモシーさんは時々、感じていました。
「子どもが好きだから、子どもが産まれたら『主夫』になるよ」とティモシーさんが言うと、日本の友人には「大丈夫!?」と変な顔をされることもありました。
それらの経験から、ティモシーさんは「全然違う世界に来てしまった」とショックを受けたと言います。
二つの国の文化を知ることで、学び合っているココさん夫婦。ダイバーシティーのコツを聞くと、「一人の人間として見ること」だと答えました。
それはココさん自身、海外で「外国人」だったからこそ分かることでした。
留学時代、ココさんは町にいたたった一人の日本人留学生でした。その時の経験を振り返り、ココさんは「1人の人として見られているのか、外国人として見られているのか、実は話しかけられただけでわかるんです」と明かします。
「日本ではどうなの?」
「アメリカのどこが好きなの?」
そう質問をされるたび、ココさんは「まったく違う世界の人」として見られているような、「壁」を感じました。
逆に、どんな質問なら、距離感を感じさせないのでしょうか。
「『あなたはどうなの?』だったらよかったのかも。現地の人と話すように、話しかけてほしかったんです」
今は、日本でティモシーさんも「外国人」。お互い「マイノリティー」を経験したからこそ、思い合えることがあると言います。
ココさんは自分の友人に、ティモシーを紹介するとき、こうお願いしています。「外国人というレッテルをペリッとはがして見てみて。緊張しないで、大丈夫」
ティモシーさんの日本の友達はだんだんと増えているようです。
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