エンタメ
最強のライブバンド「スタレビ」襲ったコロナ禍「何なんだ、これは」
配信のお金、まずはスタッフに…
音楽業界にとって試練となった1年を、2400本超のライブを行ってきた「ライブバンド」はどう向き合ったのでしょうか。今年メジャーデビュー40周年を迎えたロックバンド「スターダスト☆レビュー」。ボーカル&ギターの根本要さん(63)が、まず取り組んだのはライブ配信の売り上げをスタッフに渡すことでした。拍手のないライブを経験し、改めて見つけた音楽の価値とは? コロナ禍での気づきについて聞きました。(朝日新聞・坂本真子)
スターダスト☆レビューは1981年にアルバム「STARDUST REVUE」でデビュー。現在のメンバーは根本さん、ベースの柿沼清史さん、ドラムスの寺田正美さん、パーカッションの林“VOH”紀勝さんの4人です。今年7月には40周年記念アルバム「年中模索」を発表。これまでに2400本超のライブを行ってきた「ライブバンド」ですが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3月以降はほとんどが中止になりました。
「世界中がこういう状態なので、僕らだけが焦る必要はないけど、こんな時だからこそできるやり方もあるのでは? と、ずっと模索していましたね。音楽は、聴いてくれる人に夢や希望を感じてもらうものでしょ。だから『延期します』や『中止になりました』よりも、『何月からやります』とか暫定的でいいから前向きな言葉が必要なのでは、とかね」
さらに、音響や照明を含め音楽関係の仕事に従事する人たちを音楽業界として支援できないか。そのためにミュージシャンにできることはないか……。思いを巡らせない日はありませんでした。
「ミュージシャンたちに声をかけて、『ライブができるまで待っててくれ!』って新聞に声明を出そうと考えたけど、結局うまくいかず。それなら僕らだけでもできることから始めようと、ライブ配信をして、その収益をスタッフに配ったんです。真正面から突破できなかったとしても、ちょっと斜めからでもできることがあるんだと、学んだ年でした」
デビュー記念日の前日にあたる5月24日、都内のスタジオから、「スターダスト☆レビュー ソーシャルディスタンス☆アコースティックライブ『39年の感謝を込めて、リクエスト大作戦!』」と題した、初めてのライブ配信を無料で行いました。
「自分でも驚いたんです。だって無観客ってことは、リハーサルも本番も同じはずなのに、圧倒的に本番の方が歌も演奏も良かった。きっと配信とはいえ、届けたい思いが音に乗っているんですね。ところが、当たり前だけど演奏が終わったとき、拍手が全く聞こえない。『えー、何なんだ、これ』。自分でも状況を消化出来ず、とっさに出た言葉は『イェーイ』ですよ(笑)。拍手がないってこんなにつらいんだ、僕はこの拍手がもらいたくて懸命に歌っていたんだなと、40年歌って初めて気づきました(笑)」
9月初めには、名古屋で10周年を迎えた主催イベント「音市音座」を、無観客ライブに切り替えて配信。スターダスト☆レビューの40周年記念ツアーも延期になる中、10月からは「月イチ配信企画」として、ライブ配信を行ってきました。全力で歌い、語り続ける根本さんの熱量は、画面越しでも十分に伝わってきました。
コロナ禍で改めて注目されたライブ配信は、チケットが完売することはなく、自宅でも楽しめることなどから、大きなビジネスになる可能性が生まれています。
一方、根本さんは「1度だけの配信より、生のライブを何本もやりたい」と強調します。
「有名なアーティストのライブ配信は、世界中で何百万人が見て、何十億の収益が上がるみたいです。でも、たった1度のライブでそんなに儲かっちゃうのはどうなんだろう。僕なら、もし仮に『1度のライブで1億円儲かりますよ』と言われても、『100万円ずつでいいから100公演やらせてくれ』と言いますね(笑)。それが僕の音楽の楽しみ方。だって中学生でバンドを組んで、今も同じことをやってお金をもらえて、さらに拍手までもらえるんですよ。好きなライブなら何度でもやりたいじゃないですか(笑)」
8月30日、東京の日比谷野外音楽堂で、約半年ぶりの有観客ライブを行いました。「密」を避けるため、観客は通常の半数での開催でしたが、充実していたと言います。
「やっぱりお客さんがいてくれてこそのライブですよ。コロナ禍の中で、あの日のお客さんの空気感は一生ものでしょう。本当に、皆さん気をつけて楽しんでくれたと思います。『コール・アンド・ノー・レスポンス』でも十分満足できました。ライブって、クリエイトする人の思いとそれを楽しむ人の思いのキャッチボールなんです。僕にとっては、伝えられる相手がいて初めてできあがるものだし、おそらく聴いてくれる人がいなかったら歌えないと思います。それでも、コロナ対策でいろいろな制限がある中での初めての経験。だからこそ一緒に乗り越えようと、よけいに客席とステージが同じ温度で楽しめたんでしょうね。それは配信で見てくれた人も同じだと思うんです。スタレビは本当にお客さんに愛されている、幸せなバンドですよ」
来年1月から予定している全国ツアーも、収容人数は通常の半分。「僕らみたいな空席ありきで日本中を回るバンドで、初の〝完売ツアー〟になるかもしれないですね」と笑います。
「僕はいつもスターダスト☆レビューのライブの空気を作っているのはお客さんだと思っているし、だからメンバー紹介の最後に『バックコーラスとダンサーはお前らだ。We are スターダスト☆レビュー』と、必ず言ってきました。僕らのライブは僕らだけでは作れないんです。思い起こせば、デビューした頃から今のようなバンドを目標にしていたわけじゃありません。何度も何度もライブをやるうちに、いつの間にか、こういう空気感が楽しめるようになったんです。お客さんがスタレビを育て、スタレビがお客さんを育てたんでしょうね」
インタビューでも、ライブと同じようにエネルギッシュに語る根本さんですが、11月に出した新曲「はっきりしようぜ」の話題になると、「今は世の中に笑顔が見えないんです」と悲しそうな表情に。これはテレビドラマの主題歌として作られた曲ですが、コロナ禍で気持ちが沈みがちな中で、「這いつくばっても/笑える日が来る」と力強く歌っています。
「音楽は共存のアイテムになると思うんです。見ず知らずの人をつなげたり、思いを共有したり、人の気持ちを和らげたりすることもできる。大切なのは相手の気持ちや痛みを知ることで、それが世の中を熟成させると信じています。だから、お互いがわかり合うために言いたいことを言って、譲歩していこうよ、というのが、この曲の1番のテーマです」
これまでも「木蘭(もくれん)の涙」「夢伝説」「今夜だけきっと」など、長く愛される曲を生み出してきたスターダスト☆レビュー。バンドでの演奏だけでなく、メンバー全員によるア・カペラ(無伴奏)コーラスも聴かせます。
「僕らはライブで育ってきたバンドです。ア・カペラにしても、デビューしたころはライブでやるような人はいなかったけど、自分たちのやりたい音楽を、こう感じて欲しい、こうやったらうまく伝わるかもと、ずっと考えながら作ってきました。だから、聴く人の理解を超えた難解な音楽を作ったこともないし、逆にひたすらわかりやすいだけの音楽を作ったこともない。孤高とかカリスマとかがアーティストを位置づける大事な要素と思われるかもしれないけど、僕らはそんなことより誰でも楽しめる音楽、ミドル・オブ・ザ・ロードというか、その音楽の中に自分たちの信念をしっかり込めて作ってきた自信はあります」
デビュー後の40年を改めて振り返ると、20年目に自分たちの音楽事務所を設立したことが大きかったそうです。
「20年間、本当に大事に育ててもらい、いろんな人たちにお世話になり、結局スタッフに言われたヒット曲は出せなかったけど、そろそろ俺たちのやり方でやってもいいかと思って独立しました。それからの20年は、以前にもまして自分たちでいろんなライブを企画できるようになり、ありがたいことに全国の都道府県を毎年回れるようになりました。未だに決して有名なバンドとは言えないけど(笑)、ありがたいことにそのお客さんたちがアルバムを聴いてくれて、ライブにも来てくれることによって、僕らは生計を立てられてます(笑)。それこそが僕の音楽の理想だったわけですよ。ヒット曲によって、チケットを買えない人がたくさん出たり、音楽以外の雑音が出てくるなら、『それはなくても良いのでは?』と。例えば30人しか入れないレストランに、50人の客が並んで20人を待たせるより、毎回30人がうまく埋まってくれるほうがお互いのストレスもないですよね。身の丈というか、今のスタレビは僕にとっての理想形です」
2001年8月にデビュー20周年を記念して静岡県で開催した「つま恋100曲ライブ~日本全国味めぐり~お食事券付」では、101曲を演奏しました。「24時間で最も多く演奏したバンド」としてギネス世界記録に認定されています。
「あの日は10時間のライブだったので、お弁当付き(笑)。なんと1万5千人が同じお弁当を食べたんですよ。ギネスにはそっちを申請しておくべきだったかもしれないですね(笑)。横浜の崎陽軒さんが1万5千個そろえてくれて、温かいまま運んできてくれたんです。それを1列に数百人いるお客さんに端から回してもらって。そんなコンサートないですよ。途中でスタッフから『暑さでお弁当が劣化する』と言われて。みんなライブを見てるからお弁当食べないんですよ(笑)。だからステージで曲にのせて『もう、とにかく弁当を開けろ、箸を割れ(笑)』と呼びかけて。1万5千人が同時に同じ弁当を食ったというのは、ギネスものでしょう。あのときの崎陽軒さんには本当に感謝してます。ほかでは同じ弁当はそろえられないと断られましたからね。幸せな思い出です」
毎年春から夏に行われる野外ライブツアー「楽園音楽祭」では、開場時に気温が高いと、根本さんが自ら影アナで水分補給を呼びかけたり、2000年のミレニアムの年に名古屋で行った年越しライブでは、終演後に初詣ができるように「スタ☆レビ神社」を会場に設けたり。また、65歳以上の「シニア割引」と25歳以下の「ジュニア割引」を設けてライブ会場で千円ずつキャッシュバックするのは、スタ☆レビのライブでは恒例です。ただし、残念ながらこの企画は、「三密」を避けるため、次回のツアーでは中止になるそうです。
「面白いかも、と思うことはとりあえずやってみる。失敗してもそれで経験値が上がるし、何よりちゃんとお客さんに説明して謝れば、失敗じゃなくなるのかな、とも思います。ステージと客席の温度差を感じないライブをめざして、例えばチケット代も自分たちの適正価格をちゃんと見つけて、過剰な利益を生まないように、制作費と僕らのギャラの中で、ちゃんと利潤が生まれるように工夫していけばいいんです」
2018年6月、根本さんは脳梗塞で入院しました。幸い初期の軽い症状だったことから、まもなく復帰しましたが、体調に不安はないのでしょうか。
「元気ですよ。今健康のためにやっているのは、ウオーキングぐらい。ご隠居のお散歩みたいで、それぐらいですね。僕は音楽をやっていて疲れたことは一度もないんですよ。ほかのミュージシャンたちから『嘘だろ』と言われるけど、僕にとってのライブはひたすら楽しい時間で、疲れたことは一度もないです。決して手を抜いてるわけじゃないですよ(笑)」
「僕はいま63歳。尊敬すべき大先輩、小田和正さんは10歳上。憧れますね、あの声は。70代でああいう声を出せるなら、僕なりの出し方でもう10年ぐらいは歌えるかな、と思っています。何よりモチベーションですね。自分たちが『面白い』と思えるものをまだまだ見つけたいし、今のうちにできることは全部やっておきたいです。あり得ないけど、もし僕がステージで『きついなぁ』と思ったら、演奏時間を短くするかなぁ。毎日やりたいから、本数は減らさないでしょうね。風邪を引いても『今日はめったに聴けないこの声で聴いてください』と、1曲増やす方なんで(笑)」
1/11枚