IT・科学
コロナで〝青ざめる〟日本列島 3千件の記事データから見えた意識
一番〝前向き〟だった時期は?
新型コロナウイルスが出現し世界が一変した2020年が、もうすぐ終わろうとしています。感染拡大が本格化した2月から、人々の意識はどのように変化していたのか。コロナを伝えるニュースのアーカイブを元に「自然言語処理技術」と「地図表現技術」を組み合わせることで、刻々と変化していった様子が浮かび上がりました。マスク不足に戸惑いながらもまだ余裕のあった2月、感染拡大に青ざめていく3月、自粛解除でポジティブさが広がる5月……。感染者数などの数字だけでは見えてこない人々の意識を探りました。
コロナによる人々の意識の変化を可視化した「#COVID_19WordMap」は、朝日新聞社と、地図表現技術が専門のstroly社の共同プロジェクトとして11月に公開されました。
「#COVID_19WordMap」では、期間中(2020年2月から8月)に発信された新聞記事から、記事の内容を表す単語を抽出。登場回数の多い単語ほど重要度が高くなるよう設定し、それらを、記事の情報から判定した位置情報にもとづき日本地図にマッピングしています。
さらに、約3千件の見出しに、人手で「ネガ・ポジ・ニュートラル」の3つの極性を付与したデータを作成し、極性判定によって記事の内容が、前向きなものなのか、後ろ向きなものか、中立なのかが、一目でわかるよう整理されています。
例えば、感染拡大を伝える記事なら「ネガティブ」。マスクの寄付についての記事なら「ポジティブ」といったように、記事ごとに色分けを実施。「人によって感じ方が異なりそうな出来事」は「ニュートラル」とするなど、日本社会全体のムードとしてネガか、ポジかが、浮き彫りになるように調整されています。
「#COVID_19WordMap」から見えるのは、時期と場所によって刻々と変化する〝ムード〟です。
まず今年の2月。横浜港で検疫を受けるダイヤモンド・プリンセス号の状況を、日本中が固唾(かたず)を飲んで見守っていたのがこの頃です。街中から「マスク」が消え、2月下旬は「イベント中止」や交通機関の運休のニュースが相次ぎました。
未知のウイルスへの不安が広がり、急速に日常が失われていく中で、ポジティブを表すオレンジのキーワードがあった前半に比べ、後半はネガティブを表す青のキーワードへと一斉に変化しました。
3月に入ると、小中学校の一斉休校の要請により、子どもたちの生活は一変。「小中学校」「教職員」「保護者」など学校関連のキーワードがあふれたほか、休校中も受け入れを続ける「保育園」や「学童クラブ」の奮闘も伝えられました。
後半には、制約がある中で開催した「卒業式」や、「手作りマスク」などの工夫、「飲食店」への支援策など、コロナと共生していく取り組みが目立つように。また、オリンピックの延期が決まったことで「五輪延期」「パラリンピック」などのキーワードも現れました。
4月7日に緊急事態宣言が発令されると、「緊急事態宣言」「感染拡大」「経済対策」「自粛要請」など、状況の深刻さを物語るキーワードが全国を覆いました。
全国に散見される「飲食店」のキーワードを開くと、休業を強いられる飲食店の苦境や、テイクアウト・食事券の販売などの工夫でその苦境と闘う姿が伝わって来ます。
5月は、緊急事態宣言の延長などもありつつ、「小中学校(の再開)」、「休業要請(の解除)」、「支援金」などの前向きなニュースや、「アマビエ」のようにコロナに明るく向き合う現象を表すキーワードが目立ち始めました。
一方で、長引く感染拡大の影響により経営破綻(はたん)に陥るホテルや危機に直面する観光業のニュースも見られました。
6月に入っても5月のポジティブムードは継続し、心温まるキーワードが増加しました。
「気持ち」(学生らによる共同浴場の清掃ボランティア活動を伝えるニュースのキーワード)、「プレゼント」(生活に困窮する学生に自治体が米を送る支援活動を伝えるニュースのキーワード)、「全国一斉花火」(終息の願いを込めた全国の花火業者による花火打ち上げニュースのキーワード)、など、コロナ禍を乗り切るための多様な工夫・相互支援策が生まれました。
7月は、自粛要請の解除により人の移動が増加したことから、各地で感染者が増加し、日本中に「感染拡大」「感染者」の青い文字が出現。特に首都圏での感染拡大が地方に波及したことから、各地で「東京往来」「首都圏在住」のような、首都圏からの往来に警戒するキーワードが散見されました。
後半になると日本中がさらに青一色に染まり、首都圏、関西には「クラスター」の文字が目立ち始めました。
8月には「クラスター」のキーワードが首都圏、東海地方で増加したほか、九州にも波及していることが見て取れます。
また日本地図で見ると、この時期に、各地で多数のクラスター発生のニュースが伝えられていたことに驚きます。下旬には、クラスターの発生源である「医療機関」「グループホーム」「ホストクラブ」「カラオケ喫茶」などのキーワードが目立ちました。
「#COVID_19WordMap」の特徴は、「日本地図」という「面」にニュースが落とし込まれていることです。
通常の新聞紙では、1面、3面、地方面などと、新聞社のフォーマットに沿って価値判断されたものが読者に届きます。ニュースが地図を通して伝わることで、感情が刻々と変化していく様が現れ、コロナに翻弄(ほんろう)されつつもそれにあらがう生命体のような日本の総体が浮かび上がります。
「地図内の座標」と「記事で言及された地名」、「文字サイズ」と「記事の重要度」、「文字色」と「記事の極性(ネガポジ)」を連動させています。
様々な情報が組み合わさることで、地図上のどの場所で、どんな話題が、どのように語られたのか、を一目で把握することができるビジュアライゼーションを実現させています。
コロナによって外出が難しくなりテレワークが広がる一方、コミュニケーションの難しさを感じる場面も増えています。他県からの訪問者に対して心ない言葉を浴びせてしまうケースも生まれています。
「#COVID_19WordMap」を通して世の中を見ることで、誰もが不安を抱え、目の前の困難に対処しようとする姿に触れることができます。
外出を控えた生活の中で知り得なかった他の地域の出来事を知ったり、忘れかけていた出来事を思い出したりすることを通して、今まで体験したことのない「1年の振り返り」ができるかもしれません。
「#COVID_19WordMap」は今後も随時、記事情報のアップデートを行っていく予定です。
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