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IT・科学

富士山麓に、おびただしい「動物の死」 交通事故現場を3Dで表現

3Dの富士山のまわりに鹿やタヌキのアイコンが浮かび上がる不思議なサイト。回転やズームもできるデジタル地球儀は「動物交通事故死」を記録したものです。

富士山「動物交通事故死」マップの画面。交通事故にあった動物が次々と現れる
富士山「動物交通事故死」マップの画面。交通事故にあった動物が次々と現れる 出典: 富士山「動物交通事故死」マップ

 3Dの富士山のまわりに鹿やタヌキのアイコンが浮かび上がる不思議なサイト。回転やズームもできるデジタル地球儀は「野生動物の交通事故死」を記録したものです。地元の研究者が集めた記録を、データの可視化に取り組む専門家が形にしました。

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関連リンク:富士山「動物交通事故死」マップ

1年半で177件を確認

 山梨・静岡両県の富士山麓(さんろく)では、早朝、車を走らせていると、車にひかれた動物たちと道路で出くわすことは珍しくありません。昨年11月までの1年半の間に、野生動物の交通事故死が、確認できただけで177件起きていました。

 交通事故死を調べたのは、山梨県富士河口湖町の環境保全団体「富士山アウトドアミュージアム」です。ミュージアム主宰の舟津宏昭さん(42)らが午前5時ごろから毎日のようにパトロールに出かけ、両県の国道138、139、469号とその周辺の県道などを車で回り、交通事故に遭った動物の種類、場所、動物の状態などを記録しました。

 2014年5月29日~2015年11月13日の間で、最も多かったのはニホンジカの44件でした。次に多かったのがタヌキで26件、冬はテン(13件)も目立ちました。

車にひかれたアナグマを調べる舟津さん=2015年6月23日午前5時10分、富士宮市の国道139号
車にひかれたアナグマを調べる舟津さん=2015年6月23日午前5時10分、富士宮市の国道139号

「ユーザーの想像力を喚起」

 舟津さんのデータをデジタル地球儀にしたのは、首都大学東京准教授の渡邉英徳さんです。

 渡邉さんは、これまでに、広島の原爆被爆者や、東日本大震災の被災者の証言、東京五輪の過去の写真などをデジタル地球儀と組み合わせるプロジェクトを手がけてきました。今回、舟津さんのデータには動物の種類と発見した日付、そして発見した場所のデータがそろっていることに注目し、デジタル地球儀作りを進めました。

広島の被爆者の証言をデジタル地球儀に落とし込んだ「ヒロシマ・アーカイブ」=首都大学東京・渡邉英徳研究室提供
広島の被爆者の証言をデジタル地球儀に落とし込んだ「ヒロシマ・アーカイブ」=首都大学東京・渡邉英徳研究室提供 出典:ヒロシマ・アーカイブ

 デジタル地球儀と組み合わせる効果とは何か? 渡邉さんは、ユーザーの想像力を呼び起こすことができると言います。

 「動物たちが事故に遭っているのは平地が多い。食糧を求めて山から降りてきているのだろうか、などと、想像が広がる。そこから、実際の状況について、より詳しく調べはじめるユーザもいるはずです」

 加えて、富士山という有名なエリアである効果も大きいそうです。

 「誰もが遠景で記憶している富士山麓だが、ズームインすると、きめ細やかな起伏のなかに『人の営み』が挟み込まれていることに気づきます。そういった、自然界に『挿入』された人の営みが、動物たちの暮らしに影響を与えていることにも、考えを巡らせることができるはずです」

首都大学東京准教授の渡邉英徳さん
首都大学東京准教授の渡邉英徳さん 出典: 朝日新聞

「その人ならではの発見がある」

 一方の舟津さん。デジタル地球儀について「データの新しい見方を提示してくれる」と話します。

 デジタル地球儀は、視点を変えたり、データの地域や時期を絞った見方ができます。画面上の操作で、季節による変化や多発地域の様子をユーザーが調べることができ、「その人ならではの発見がある」と話しています。

 舟津さんは2013年の富士山の世界文化遺産登録で観光客が増え、レンタカーが動物と衝突したり、車にひかれた動物を避けようとして事故に遭ったりするのを耳にすることが増えました。

 地域住民なら動物が飛び出してきやすい場所をある程度知っていますが、観光客は同じようにはいきません。「野生動物と共生するため、動物が頻繁に横断する時間帯や場所を人間側が知らなくてはならない。せっかくの観光旅行が後味の悪いものにならないためにも」と話しています。

富士山「動物交通事故死」マップには、ストリートビューと連動した機能も
富士山「動物交通事故死」マップには、ストリートビューと連動した機能も 出典:富士山「動物交通事故死」マップ

オープンデータで開発しやすく

 今回のプロジェクトは、他の開発者がデータを活用しやすくなるようオープンデータとして公開されています。

 渡邉さんは、その狙いについて「他の開発者がさまざまなアプリケーションに組み込むことができ、労力をかけて集めたデータをいかせる場所が広がります」と強調します。

 舟津さんは「たくさんの人に見てもらい、まず現状を知って欲しい。そして私では考えつかなかったデータ利用方法が生まれることを願っています」と語っています。

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