ネットの話題
キモかわ路線で大成功!オオサンショウウオこんにゃくがバズる理由
食卓に届ける「笑いとサプライズ」
私たちにとって身近な食べ物が、SNS上で絶大な反響を呼んでいます。それは、希少動物・オオサンショウウオの形をしたこんにゃく。発売以降、幾度となく関連画像が拡散され、「キモかわ」な姿を人目にさらしているのです。食卓に「ほっこり」を届け、生産が追いつかなくなるほどの人気を集めた、ヒット商品の魅力に迫りました。(withnews編集部・神戸郁人)
今月6日、複数枚の画像がツイートされました。国の特別天然記念物に指定されている、世界最大級の両生類・オオサンショウウオを模したこんにゃくが写っています。
全体的に灰色で、ところどころに海藻由来の黒い粒が浮いている点は、市販のこんにゃくと同じ。目を引くのが、真っ平らな胴体から伸びる、4本の足と尻尾です。丸っこく、ずんぐりむっくりとしたフォルムが、見る人に何とも言えない印象を残します。
鍋の中で、野菜と一緒に煮られている様子は、岩場を泳ぐオオサンショウウオそっくり。眺めていると、ぷるんとした感触まで伝わってくるような、リアルな仕上がりです。
「こんにゃくは苦手だが、食べてみたい」「可愛すぎて、調理するのに罪悪感を抱く」。コメント欄には様々な感想が連なり、18万超の「いいね」が集まったほか、リツイートも2万9千回を超えています。
母から天然記念物が届いたので、とりあえず煮込んでみる pic.twitter.com/OBSPTmbdll
— ものり/Monoli (@Hakusi_Katei) December 6, 2020
インパクト絶大な、この商品。名前は、そのものずばり「オオサンショウウオこんにゃく」といいます。製造・販売元企業の「藤利(ふじとし)食品」(広島市佐伯区)によると、ラインナップは大(全長約17センチ)と小(同8センチ)の2種類です。
伊藤剛社長(50)によると、同区湯来町地域にある、広島県立湯来南高校の生徒が発案しました。
地場食材を使った特産品作りを通じ、古里のPRを行う家庭クラブのメンバーたちは2016年、新商品の検討を始めます。そこで古くからこんにゃくの名産地として知られ、域内の河川に、希少種のオオサンショウウオが生息する点に着目。これらの要素を掛け合わせようと考えたのです。
オオサンショウウオについて研究する科学部の生徒と連携し、動物園に実物を観察に行くなどして、イメージを膨らませたメンバーたち。アイデアを形にするため、2016年初夏頃、こんにゃく作りが専門の藤利食品に協力を申し入れました。伊藤さんは相談を受けた当時の感想を、次のように語ります。
「僕たちには思いもよらない発想。子供の頃、地元の水内川(みのちかわ)という場所で、オオサンショウウオを見たこともあり、親しみを抱きました。一般受けしづらいモチーフかもしれないけれど、ぜひ力になりたいと感じました」
生産に用いる型は、湯来南高校側が、広島市立広島工業高校(広島市南区)に製作を依頼。まな板などにも使用されるプラスチック製で、指の一本一本までかたどった特注品です。
さらに、藤利食品の知見も生かされました。オオサンショウウオの皮膚は、黒や焦げ茶の斑点と、白っぽい部分が、まだら模様を描いています。体色を再現するため、海藻由来の粒を通常よりも増やした上で、シシャモやニシンの卵を混ぜ込んだのです。
この製法は、伊藤さんの父で、同社の初代社長・利彦さん(故人)が編み出したもの。かつて地元の旅館に勤め、板前として腕を振るった利彦さんは、独自色の強い商品開発に尽力。魚卵入りで、プチプチとした食感が特長の「子持ちこんにゃく」を生み出します。
伊藤さんは、このときの技術を、オオサンショウウオこんにゃく作りに応用したのです。
2017年9月の販売開始当初は、地域の産直市を中心に商品を展開しました。やがて、SNS上に関連画像が出回るように。奇抜な外見が注目を集め、昨夏以降、たびたび「バズ」を巻き起こします。各種メディアにも取り上げられ、一躍、全国区の知名度を得ました。
ネット上で話題をさらうたび、同社には通販サイトを経由し、オオサンショウウオこんにゃくの注文が大量に舞い込みます。多いときで一日に100~150個ほど受注するといいますから、すさまじい人気ぶりです。
ただ、「生産量を増やすのは厳しい」と伊藤さんは打ち明けます。
液状のこんにゃくと魚卵を混ぜたり、型に流し込んだりするタイミングは、素材や外気の状態次第で変化。また、こんにゃくを型から取り出す際、指の部分などが千切れないようピンセットを用いるなど、各工程で繊細な作業が求められます。そのため人力に頼らざるを得ず、機械化は困難なのだそうです。
同社では現在、大小合わせて約160個の型を保有しています。その数を超えて生産することはできず、注文から発送まで1~3カ月程度かかることも。それでも「気長に待ちます」と、快く応じてくれるお客さんは少なくありません。
伊藤さんいわく「肌感覚だが、関東圏からの問い合わせが多い」。環境省によると、オオサンショウウオの主な生息地は、岐阜県以西の本州や四国、九州の一部河川域。「もしかしたら本物の個体を見たことがない人たちが、その貴重さを商品に重ねているのかもしれませんね」
オオサンショウウオこんにゃくは、新型コロナウイルスが流行する今、同社の経営をも支えています。
全国に緊急事態宣言が発令された今年4~5月、主な取引先である、旅館やサービスエリア内の小売店の多くが休業。卸先の大半を一時的に失い、売り上げは前年同期比で半分ほどまで落ち込んでしまいました。
その後、需要は回復傾向にあるものの、年末にかけての受注状況は芳しくないそうです。だからこそ、予約が相次ぐオオサンショウウオこんにゃくは、ますます存在感を高めています。
それだけではありません。「ウイルスの影響で大変な中でも、ほっこりさせてもらいました」などのメッセージが、購入した人たちから届いているのです。
「毎日の食卓に、ちょっとした笑いと、サプライズをもらたしてくれる。そんな存在として認知されているのかもしれません」
「実は先日、弊社のスタッフから『商品を2個ほどほしい』と言われたんです。聞けば『最近夫婦の会話が少ないので、話題づくりのためお皿に並べたい』と。精神的な豊かさを提供するという、今までになかったこんにゃくの役割を、象徴するエピソードと感じます」
ところで、気になるのが、生産者おすすめの食べ方です。伊藤さんによれば、オーソドックスなのは、鍋の具材に潜ませる方法。もう一つが「鉄板焼き」だといいます。油を絡ませてから熱を加えると、はじけて飛び上がるので、見た目にも楽しいそうです。
オリジナリティーとユーモアあふれる商品を、世に送り出した伊藤さん。世間からの反響について改めて尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。
「全ては、アイデアを寄せてくれた高校生や、父が残した技術、そしてこんにゃくを愛して下さるお客様のおかげです。独自路線ではありますが、引き続き『キモかわシリーズ』という方向性で、戦略を練っていきたいですね」
「今後とも、いただいたご縁とご恩に、少しでも報いられればと思います」
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