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連載

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#6 金曜日の永田町

菅さんが会見で浮かべた笑み…パワハラ化する政治 遮断の言葉111回

対立じゃなく「恫喝」だった学術会議

会見する菅義偉首相=2020年12月4日午後6時7分、首相官邸、恵原弘太郎撮影
会見する菅義偉首相=2020年12月4日午後6時7分、首相官邸、恵原弘太郎撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.6) 2020.12.05】
安倍晋三前首相や自民党幹部に関連した東京地検特捜部の捜査が次々と報じられ、菅自民党に「黒い霧」がたちこめた1週間。そんななか、初めての臨時国会を終えた菅義偉首相が思わず浮かべた笑みに記者が感じたものは――。朝日新聞政治部(前・新聞労連委員長)の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

#金曜日の永田町
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「黒い霧」と「値下げの菅」

12月4日の金曜日。菅さんにとって初めてとなる臨時国会が事実上閉会しました。

「終息の見通しが立っていればまだしも、感染拡大の可能性が極めて高いという専門家の報告を聞くと、国会がここで閉会して、冬休みを取るわけにはいかない」

野党(立憲民主、共産、国民民主、社民の4党)はこの日午前、年末まで会期延長を求める動議を提出しましたが、与党の反対で否決されました。

与野党の攻防の本丸は、「桜を見る会」の前日に後援会が開いた夕食会の費用を補塡していた疑いで、東京地検特捜部から聴取要請された安倍さんです。

1年間にわたる国会での「虚偽答弁」を指摘する野党は、安倍さんの国会招致を求めていたからです。午後になって、閉会手続きが行われた国会に姿を現した安倍さんの周りには、報道陣と警護の人だかりができました。

今週は、鶏卵業者から大臣時代に計500万円の現金を受け取った疑いを報じられた吉川貴盛・元農林水産相が、健康上の問題を理由にして、自民党の選挙対策委員長代行などの役職を辞職する事態も起きました。

吉川さんは菅さんと同じ1996年の衆院選で初当選し、今年9月の総裁選では菅陣営の事務局長を務めた人です。

4日夜、2カ月半ぶりに官邸で記者会見を開いた菅さんは、政権与党に立ちこめる「黒い霧」を払いのけるように、「これまでお約束した改革については、できるものからすぐ着手し、結果を出して成果を実感していただきたい」と言って、不妊治療への助成拡大や携帯電話料金値下げの実績をアピールしました。

特に「一つの節目」と力を込めたのは、前日、NTTドコモが割安プランを発表した携帯料金の値下げです。

「今回、大手のうちの1社が、大容量プランについて、2年前に比べて7割安い20ギガで2980円という料金プランをメインブランドの中で実現するとの発表がありました。本格的な競争に向けて一つの節目を迎えたと思います」

携帯料金の値下げは、菅さんが官房長官時代、「4割値下げする余地がある」と打ち上げた肝いりの政策です。菅さんはこれまでもNHK受信料値下げや東京湾アクアラインのETC料金値下げを仕掛け、公明党が求めた消費税の軽減税率導入を後押しするなど、「値下げ」に強いこだわりがあります。

菅さんは「本当の改革はこれからです。個々人の料金負担が本当に下がっているのか、サブブランドに移行する場合の手数料など、残された障害がないか見ていきながら、必要に応じて更なる対応を採っていきたい」と訴えました。

会見する菅義偉首相=2020年12月4日午後6時4分、首相官邸、恵原弘太郎撮影
会見する菅義偉首相=2020年12月4日午後6時4分、首相官邸、恵原弘太郎撮影 出典: 朝日新聞

記者会見で浮かべた笑み

この日の記者会見で、菅さんが思わず笑みを浮かべたのは、日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した問題でした。

多くの学会から任命拒否撤回を求める声明が出ていることを指摘され、「これほどまで反発が広がると思っていたのかどうか。また、これほどまでアカデミズムのほうが反発しているということに関してどう思われているか」と記者に問われて、次のように答えた場面です。

「これで大きくなるかどうかということでありますけれども、私は、かなり(大きく)なるのではないかなというふうには思っていました」

ああ、菅さんはここで笑みを浮かべてしまうのか……。

任命拒否問題が発覚した直後に読んだブログを思い出しました。ウネリウネラさんの「これってハラスメントでは?日本学術会議事件」です。

10月11日付のブログには、こう綴られていました。

《新聞やテレビを眺めていると、なんとなく政権と学者たちとの「対立」とか、「攻防」とかいう印象をもつかもしれません。政治家と大学教授。偉い人たち同士が対等な立場でけんかしたり、論争したりしているイメージです。(中略)でも、本当は少し違うと思うのです。これは、“横綱同士ががっぷり四つで組んだ相撲”とは似て非なるもの。近いものを探せば、“上司が部下に対して行う、一方的なハラスメント”だと思います。》
これってハラスメントでは?「日本学術会議事件」2 – ウネリウネラ

(1)推薦リストに入れた新会員を任命しない

(2)任命を拒む理由も説明しない

(3)「おかしい」と声を上げたら、こんどは行革の対象に入れて「会議のあり方自体を見直す」などと恫喝される

(ウネリウネラさんのブログを元に作成)

労働問題を取材してきたブログの筆者は、そうした展開の末に、任命を拒まれた側が「『私の何かが相手を怒らせたらしい』と自分の“悪いところ”探しをせざるを得なくなってきます」と分析。

「私には今回の日本学術会議事件が、政権によるハラスメントに見えます。公然と嫌がらせをしながら、一方的にコミュニケーションを遮断する――。それは対等な関係に立った『対立』や『けんか』などではなく、ハラスメントだと思うのです」と指摘していました。

日本学術会議の任命拒否問題に抗議し、国会議事堂の前に集まった市民ら=2020年11月3日、東京都千代田区永田町1丁目
日本学術会議の任命拒否問題に抗議し、国会議事堂の前に集まった市民ら=2020年11月3日、東京都千代田区永田町1丁目 出典: 朝日新聞

レッテル貼りの末、独立要求

学術会議の任命拒否問題をめぐる臨時国会での政府の説明は、まさにその通りの展開でした。

菅さんは、「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りがみられることも踏まえ、多様性が大事であることを念頭に、私が任命権者として判断を行った」と繰り返しました。

しかし、実際には学術会議はジェンダーバランスの見直しなど、「多様性」を確保する改革が政府よりも進んでいます。

しかも、今回、任命拒否された6人には「女性」「私立大学」「(若手にあたる)50代前半」の研究者が含まれており、「多様性」に合うような推薦者が外されています。

こうした矛盾を指摘され、具体的な説明が求められましたが、菅さんは「個々人の任命の理由はお答えを差し控える」と応じませんでした。

菅さんは「推薦前の調整が働かず、結果として推薦された者の中に任命に至らなかった者が生じた」と述べ、政府との「事前調整」が必要だという認識を示しました。

学術会議の会長を務めた京都大前総長の山極寿一さんが、朝日新聞の取材に次のように証言しているにもかかわらず、です。

2018年に学術会議が推す候補者案に官邸が難色を示して欠員補充が見送られた時から、官邸に面会を申し出ても「来る必要はないし、理由も答えない」と断られ、6人を任命拒否された今回の人事をめぐっても面会を断られた、というのが山極さんの説明でした。

菅さんを支える自民党の議員は、テレビ中継された衆院予算委員会の質疑で「日本学術会議はその質が非常に低い」「『解体してしまえ』という声まで聞いている」と学術会議への攻撃を展開しました。

自民党幹部からは「学術会議は中国の千人計画に積極的に協力しています」といった根拠のないレッテルを貼られ、「反日組織」という情報がネット上で広まりました。

そして、世論調査で、菅さんの説明には納得しないが、任命拒否は「妥当だ」と考える人が増えてきた臨時国会終盤の11月26日。科学技術担当大臣の井上信治さんが、「学術会議の役割を果たすため、しっかり組織のあり方も見直してもらいたい」と学術会議に要請。非政府組織や民間団体といった国から独立した機関としてのあり方を検討するよう求めたのです。

予算案や法律案をつくって国会に提出する立場の政府が考えるのではなく、そうした権限のない学術会議にボールを投げているのがポイントです。

こうした要求に向き合っていたら、学術会議は「自分の悪いところ」探しに追われ、機能停止に陥るか、政府の「人事介入」を認めるなどの大幅な譲歩をせざるをえなくなるでしょう。

日本学術会議会員の任命問題で共同声明を発表する学会代表ら=2020年11月6日午前10時42分、東京都千代田区の日本記者クラブ、北野隆一撮影
日本学術会議会員の任命問題で共同声明を発表する学会代表ら=2020年11月6日午前10時42分、東京都千代田区の日本記者クラブ、北野隆一撮影 出典: 朝日新聞

「抵抗力がなくなった末の独裁」

厚生労働省のホームページに、どんな行為がパワハラにあたるか、チェックするサイトがあります。

□ 同僚の前で、無能扱いする
□ 陰口を言い、悪い噂を流した
□ 達成不可能なノルマを与える
□ 挨拶しても無視され、会話さえしてもらえない
□ 「役立たず」「給料泥棒」と言う

これらをチェックすると、それぞれ「精神的攻撃型」「人間関係からの切り離し型」「過大な要求型」のパワハラという判定結果が出てきます。

本来民間が決める携帯電話の料金値下げをめぐっても、「国に携帯料金を決める権利はない」と政府に異を唱えた携帯電話会社のトップが今週、政府の会議で陳謝するという出来事が起きました。

この会社は菅さんの首相就任後に低料金プランを発表。当初は政府から一定の評価を受けていたようですが、先月後半になると、総務大臣から「メインブランドでは全く新しいプランが発表されていないのが問題」「羊頭狗肉」などと強い言葉で批判を浴びせられていました。

自民党などで国会議員を務めたベテラン政治家の一人は、いまの政治状況について、こう案じていました。

「組織のなかに抵抗力がなくなっていくと独裁になっていくんだよな」

独裁に陥らせないための国会の質疑でも、この臨時国会で政府が「答弁(答え、コメント、説明)を控える」「答える立場にない」「答えるべきじゃない」といった言葉を数えると、菅さんだけで111回もありました。

なにか、パワハラ化する政治に慣らされていないでしょうか。年明けの通常国会を見据え、ベテラン政治家の言葉をかみしめているところです。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《来週の永田町》
12月8日(火)政府が追加経済対策を閣議決定
12月9日(水)・10日(木)衆参両院の厚生労働委員会で新型コロナ対策について閉会中審査
12月11日(金)全国各地でフラワーデモ(東京はオンライン開催)

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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