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#89 #父親のモヤモヤ

ためらいやおそれは今も……仕事と家庭の葛藤、発信続けて見えたこと

「父親のモヤモヤ」について、ジャーナリストの治部れんげさんと語り合った高橋健次郎記者。企画を続けて1年半。今思うことは――(写真はイメージです)=PIXTA
「父親のモヤモヤ」について、ジャーナリストの治部れんげさんと語り合った高橋健次郎記者。企画を続けて1年半。今思うことは――(写真はイメージです)=PIXTA

目次

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#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。

「この本を読んで良いと思ったところが二つあって」――。仕事と家庭の両立に葛藤する男性の姿を描く「#父親のモヤモヤ」企画が『妻に言えない夫の本音』として書籍化されたことを受け、ジャーナリストでジェンダー問題に詳しい治部れんげさんをお招きし「父親とジェンダー」をテーマにオンラインイベント「記者サロン」を開きました。そこで治部さんの挙げた「良いこと二つ」に、記者にはうれしさだけでなく、「ためらい」「おそれ」も含んだ感情がざわざわと湧き起こりました。
『妻に言えない夫の本音 仕事と子育てをめぐる葛藤の正体』(朝日新書)

両立をめぐり葛藤

イベントは、11月1日に開催。職場や子育てで出くわす「なぜ男が育休を取るの?」「男の子は青。女の子はピンクでしょ」といったジェンダー規範について、取材経験や私自身の体験をもとに、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)を刊行した治部さんと話し合いました。

私は共働きの妻と4歳の娘との3人暮らしです。「#父親のモヤモヤ」企画を始めたのは、昨年6月。私や同僚の葛藤が原点です。イベントでは、この点もやりとりさせて頂きました。

『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)
高橋:「仕事と家庭の両立をめぐり、私自身がモヤモヤを感じていました。仕事も家庭も低空飛行だなぁ。上司に『もっと貪欲(どんよく)になっていい』と言われたが、応えられないことに悔しい。フォローしてくれる同僚に申し訳ない。仕事が気になって、妻や娘にイライラしてしまう。そんなモヤモヤがありました」

治部:「本を拝見し、妻の立場からつっこむところがいっぱいあるかなと思って読み始めましたが、実は、とても共感しました」

「私自身がすごく男性的な働き方をしていました。ワーク・ライフ・バランスを追求しようとすると低空飛行になってしまうという話がありました。私自身も小学校6年と3年の子どもがおります。最初の子どもが生まれたのが33歳のときでした。当時は会社が永田町にありました。夕方6時くらいに3、4件取材をして会社に帰ってくると、世間の会社員は帰宅中。その様子を見て、当時の私は『みんな暇なんだなぁ』と思っていました」

「そういうとんでもない働き方だったので、子どもができて、家事や育児にコミットしようとすると仕事を減らさなくてはいけない。仕事と楽しみが一致しているような感じだったので、それを減らさなくてはならないというのは、それは非常にストレスフルでした。いま振り返るとピーク時の3割くらいしか働けていなかったのではと思います」
「記者サロン」に出演したジャーナリストの治部れんげさん(右)と高橋健次郎記者=神戸郁人撮影
「記者サロン」に出演したジャーナリストの治部れんげさん(右)と高橋健次郎記者=神戸郁人撮影

評価されて湧いた「おそれ」

そんな治部さんがイベントの中で、『妻に言えない夫の本音』について「この本を読んでいいと思ったところが二つあって」と言及してくれました。

治部:「『はじめに』で、父親のモヤモヤを語っていいのか、つまり男性優位の社会がある中で、モヤモヤしているって言っていいのかと、ためらいがあるところがすばらしいです」

評価して頂いたことに、うれしさを覚えました。同時に、「おそれ」のような感情も湧き起こりました。

『妻に言えない夫の本音』の「はじめに」には次のようなことが書いてあります。
「ワンオペ育児や負担の偏重に苦しむ多くの女性にとって、父親のモヤモヤの多くは後追いに過ぎないのだと思います。さらに言えば、性被害を告発した『#MeToo』運動によって、大学入試の点数操作、モラルハラスメントを含む家庭内暴力(DV)など、多くは女性が『被害者』となる差別や暴力に、あらためて光が当たっています。これらの背景には男性優位の社会構造があることを考えると、男性側がモヤモヤを語ることには躊躇もしました」

1年半「#父親のモヤモヤ」という企画を続け、メールだけで500本ほどのご意見を頂いています。励ましも共感もある一方で、女性が負う社会全体の「負担の偏重」を訴える声も少なくありません。返す刀の矛先が記事の登場人物に向かうこともあります。

個別のケースを見ていくことも大切だと思います。ただ、そうした気持ちが湧き起こることは否定しません。むしろ、当然の反応だと思います。社会的に女性が負う困難と個別ケースで男性が抱えるモヤモヤとの間で、「父親の葛藤は語ることを許されるのか」という「おそれ」にも似た問いが、常に生じています。そうした感情は生々しく、治部さんに評価頂いたことで、刺激されて湧いたのだと思います。

ジャーナリストの治部れんげさん=神戸郁人撮影
ジャーナリストの治部れんげさん=神戸郁人撮影

「稼ぐ責任」負うのは

もう一つ。治部さんが良いと挙げてくれた点があります。

それは子育てや家事を半分以上担う男性の話を引き合いに出してのことでした。男性は共働きの妻から「稼ぐ責任」を求められていると感じる一方で、度々妻が「仕事を辞めたい」ともらすことに対し違和感を覚えていました。

治部さんは男性が女性から「稼ぐ責任」を求められる点について触れたことを評価してくれました。

治部:「ここで問われているのは、女性側の稼ぐことへの責任意識です。女性の経済力はあがり、事実上は家計をシェアしていたり、家を買ったときにローンを共同名義にしていたりしていると思います。男性に『何で働いているんですか』と聞くと、ほとんど『お金を稼ぐため』『家族を食べさせるため』と答えます。女性は、家族を食べさせていく責任感をどこまでもっているんでしょう、と思うことはあります。つまり、有償労働の意味付けが男女で、まだずれています」

「そのことは、当然、男性が家庭のことをやる時にもあらわれてくると思うので、男性が家事や育児を当然義務としてしっかりやる意識に変えていくことと、女性が家計責任を担うことはトレードオフ。女性にとっては厳しいかもしれないが、一緒に変わっていくべきなのではないかと思っております」

高橋:「トレードオフというお話。私も、そうなのかなと思う一方で、社会構造的には非常な男女のアンバランスがあるなかで、どこまで言っていいのかという悩みがあります」
高橋健次郎記者=神戸郁人撮影
高橋健次郎記者=神戸郁人撮影

「ためらい」や「おそれ」抱きながら

父親のモヤモヤの中には、経済力いわば「稼得責任」を負うことに由来するものも散見されます。これは、男性が求められがちとされているものです。繰り返しになりますが、しかし、個人が「男らしさ」ゆえの葛藤を吐露した時に、社会的な男女格差の問題の中で、聞き入れてもらえるだろうか、言えなくなってしまうケースもあるのではないか、という問題意識は、企画当初から持ち続けています。

「ためらい」や「おそれ」は変わらずあります。それでも、現時点で思うことは『妻に言えない夫の本音』の「はじめに」でも触れました。この思いを持って、引き続き書いていきたいと思います。

「父親が、そうした困難を『再発見』し、問題の解決に取り組み、子育てを社会における正当な評価のもとに位置づけることで、生き方をより柔軟に選び取ることができる社会になるのだと思います」
<#父親のモヤモヤ・オンラインオフ会を開きます>
12月12日(土)10時より、父親を対象にしたオンラインオフ会を開きます。
テーマは「2020年を振り返る/我が家の『育休』『家事分担』」です。
父親同士、2020年のモヤモヤやうまくいったことを振り返ってみませんか?
詳細はコチラ(https://que.digital.asahi.com/question/11003179)をご覧ください。

父親のリアルな声、お寄せください

記事の感想や体験談を募ります。いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。
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