連載
#89 #父親のモヤモヤ
ためらいやおそれは今も……仕事と家庭の葛藤、発信続けて見えたこと

朝日新聞社では、「男らしさ」をテーマにアンケートを実施しています。ご意見をお聞かせください。
https://www.asahi.com/opinion/forum/(12月7日14時締切です)
両立をめぐり葛藤
イベントは、11月1日に開催。職場や子育てで出くわす「なぜ男が育休を取るの?」「男の子は青。女の子はピンクでしょ」といったジェンダー規範について、取材経験や私自身の体験をもとに、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)を刊行した治部さんと話し合いました。
私は共働きの妻と4歳の娘との3人暮らしです。「#父親のモヤモヤ」企画を始めたのは、昨年6月。私や同僚の葛藤が原点です。イベントでは、この点もやりとりさせて頂きました。

治部:「本を拝見し、妻の立場からつっこむところがいっぱいあるかなと思って読み始めましたが、実は、とても共感しました」
「私自身がすごく男性的な働き方をしていました。ワーク・ライフ・バランスを追求しようとすると低空飛行になってしまうという話がありました。私自身も小学校6年と3年の子どもがおります。最初の子どもが生まれたのが33歳のときでした。当時は会社が永田町にありました。夕方6時くらいに3、4件取材をして会社に帰ってくると、世間の会社員は帰宅中。その様子を見て、当時の私は『みんな暇なんだなぁ』と思っていました」
「そういうとんでもない働き方だったので、子どもができて、家事や育児にコミットしようとすると仕事を減らさなくてはいけない。仕事と楽しみが一致しているような感じだったので、それを減らさなくてはならないというのは、それは非常にストレスフルでした。いま振り返るとピーク時の3割くらいしか働けていなかったのではと思います」

評価されて湧いた「おそれ」
治部:「『はじめに』で、父親のモヤモヤを語っていいのか、つまり男性優位の社会がある中で、モヤモヤしているって言っていいのかと、ためらいがあるところがすばらしいです」
評価して頂いたことに、うれしさを覚えました。同時に、「おそれ」のような感情も湧き起こりました。
『妻に言えない夫の本音』の「はじめに」には次のようなことが書いてあります。
1年半「#父親のモヤモヤ」という企画を続け、メールだけで500本ほどのご意見を頂いています。励ましも共感もある一方で、女性が負う社会全体の「負担の偏重」を訴える声も少なくありません。返す刀の矛先が記事の登場人物に向かうこともあります。
個別のケースを見ていくことも大切だと思います。ただ、そうした気持ちが湧き起こることは否定しません。むしろ、当然の反応だと思います。社会的に女性が負う困難と個別ケースで男性が抱えるモヤモヤとの間で、「父親の葛藤は語ることを許されるのか」という「おそれ」にも似た問いが、常に生じています。そうした感情は生々しく、治部さんに評価頂いたことで、刺激されて湧いたのだと思います。

「稼ぐ責任」負うのは
それは子育てや家事を半分以上担う男性の話を引き合いに出してのことでした。男性は共働きの妻から「稼ぐ責任」を求められていると感じる一方で、度々妻が「仕事を辞めたい」ともらすことに対し違和感を覚えていました。
治部さんは男性が女性から「稼ぐ責任」を求められる点について触れたことを評価してくれました。
治部:「ここで問われているのは、女性側の稼ぐことへの責任意識です。女性の経済力はあがり、事実上は家計をシェアしていたり、家を買ったときにローンを共同名義にしていたりしていると思います。男性に『何で働いているんですか』と聞くと、ほとんど『お金を稼ぐため』『家族を食べさせるため』と答えます。女性は、家族を食べさせていく責任感をどこまでもっているんでしょう、と思うことはあります。つまり、有償労働の意味付けが男女で、まだずれています」
「そのことは、当然、男性が家庭のことをやる時にもあらわれてくると思うので、男性が家事や育児を当然義務としてしっかりやる意識に変えていくことと、女性が家計責任を担うことはトレードオフ。女性にとっては厳しいかもしれないが、一緒に変わっていくべきなのではないかと思っております」
高橋:「トレードオフというお話。私も、そうなのかなと思う一方で、社会構造的には非常な男女のアンバランスがあるなかで、どこまで言っていいのかという悩みがあります」

「ためらい」や「おそれ」抱きながら
父親のモヤモヤの中には、経済力いわば「稼得責任」を負うことに由来するものも散見されます。これは、男性が求められがちとされているものです。繰り返しになりますが、しかし、個人が「男らしさ」ゆえの葛藤を吐露した時に、社会的な男女格差の問題の中で、聞き入れてもらえるだろうか、言えなくなってしまうケースもあるのではないか、という問題意識は、企画当初から持ち続けています。
「ためらい」や「おそれ」は変わらずあります。それでも、現時点で思うことは『妻に言えない夫の本音』の「はじめに」でも触れました。この思いを持って、引き続き書いていきたいと思います。
12月12日(土)10時より、父親を対象にしたオンラインオフ会を開きます。
テーマは「2020年を振り返る/我が家の『育休』『家事分担』」です。
父親同士、2020年のモヤモヤやうまくいったことを振り返ってみませんか?
詳細はコチラ(https://que.digital.asahi.com/question/11003179)をご覧ください。
父親のリアルな声、お寄せください

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。