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プロテイン「飲みすぎ」の罠 意外な適正量、専門家に聞く飲み方

トレーニングをする人の粉末プロテイン「飲みすぎ」の目安、種類の違いなどについて、専門家に話を聞きました(写真はイメージ)。
トレーニングをする人の粉末プロテイン「飲みすぎ」の目安、種類の違いなどについて、専門家に話を聞きました(写真はイメージ)。 出典: PIXTA

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世間は筋トレブーム。自分も始めてみたけれど「プロテインはどれくらい飲めばいい?」「いろんな種類のプロテインがあるけど自分に合うのはどれ?」など疑問が尽きない、という人も多いのではないでしょうか。

そこで、withnewsでは運動栄養学が専門で、『運動生理学(栄養科学イラストレイテッド)』(羊土社)「筋肉づくりとタンパク質」の項の著者である滋賀県立大学教授の中井直也先生を取材。筋トレをする人の悩みに答えます。(朝日新聞・朽木誠一郎)
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プロテイン「必要十分」量は?

中井先生は筋肉の原料であるたんぱく質が生物の体内でどう合成・分解されるかのメカニズムを研究しています。トレーニングをする人の疑問に、運動栄養学の原理・原則と、世界の研究結果に目を通す立場から回答してくれました。

運動後のたんぱく質摂取について「多くの研究結果から、健康な若年層が運動直後に最大のたんぱく質合成率を得るのに必要なプロテインは20〜30gというのが一般的な見解」と中井先生。ジムには明らかにそれ以上の量の粉末プロテインを飲んでいる人もいますが……。

「普段から筋トレをしている健康な若年者が全身の筋トレをした場合は20gよりも40gのホエイプロテインを摂取した方がたんぱく質合成率が上がったという報告もありますが、これはアジア人と比較して体格のいい欧米人を対象とした研究によるもの。体格や筋トレの強度なども必要量には影響しますが、総合的にみて、日本人であれば20〜30gのたんぱく質を運動後に摂取すれば十分でしょう」

重要なのは、たんぱく質摂取が多ければ多いほどいいというわけではないこと。日本では食事によるたんぱく質摂取の上限は定められていませんが、粉末プロテインなどで補う場合、必要以上のたんぱく質は肝臓で脂肪に変換され体脂肪になったり、尿素として尿中に排出されたりするため、飲み過ぎはムダになるばかりか、肝臓や腎臓に負担をかけてしまいます。

厚労省の定める『日本人の食事摂取基準(2020)』においては、18歳以上の男性のたんぱく質推定平均必要量は50g/日、推奨量は65g/日。女性はそれぞれ40gと50gです。

ただし、この量はスポーツ選手や運動習慣のある人では多くなります。2016年のカナダ栄養士会・栄養と食事のアカデミー・アメリカスポーツ医学会の共同声明によれば、このようなトレーニングをする人は体重1kgあたり1.2g〜2.0gのたんぱく質が必要。国際陸上競技連盟のガイドラインでは、激しい持久的トレーニングおよび筋トレをしている選手は1.2〜1.7g/kg体重/日、つまり一般人の1.5〜2倍のたんぱく質摂取が必要としています。

体重が70kgの男性で、筋トレに慣れている人であれば、140gまでが1日の摂取の目安です。前述したように、ムダにならない最大量があり、「ある報告では、最大のたんぱく質合成を達成できる20gのプロテインを摂取すると、3時間ほどで血中のアミノ酸濃度が元に戻ることが示されています」「つまり、プロテインを分けて摂取するときは、3時間ごとに20〜30gを摂取することが効果的と考えられます」(中井先生)。

逆に1回の最低量の目安もあり、「ある研究では、25gのホエイプロテインを1回摂取した場合と、2.5gずつ20分ごと10回に摂取した場合では前者の方が有意に合成率が高くなりました」と中井先生。分けて摂取する場合、分けすぎるのもNGと言えるでしょう。
 

ホエイ・ソイ・カゼインの違い

たんぱく質には「ホエイ」「ソイ」「カゼイン」などの種類があります。ホエイとカゼインは牛乳が材料、ソイは大豆が材料です。大きく動物性と植物性に分かれるたんぱく質ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

「食品に含まれる必須アミノ酸のバランスを示す指標をアミノ酸スコアと呼びます。必須アミノ酸とは、体内では合成できないが必要不可欠なアミノ酸で、食事から摂取できないと不足してしまいます。不足すれば成長が阻害されたり、欠乏症になったりすることも。

動物性のたんぱく質の特徴はアミノ酸スコアが高いことです。というのも、植物性たんぱく質は特定の必須アミノ酸含有量が低いことがあります。例えば大豆たんぱく質にはメチオニンとシステインがやや少ない。一方、精白米はこれらのアミノ酸を多く含みますが、リジンは少ない。リジンは逆に、大豆に多く含まれる。そのため、植物性たんぱく質を食事で摂取するときは、組み合わせによって補うことにより、必須アミノ酸含有量の低さをカバーできます。

食事の場合、動物性たんぱく質はアミノ酸スコアは高いのですが、脂質が多いことがあるため、その点には注意が必要です」

スポーツショップやドラッグストアでは、粉末プロテインも「ホエイ」「ソイ」「カゼイン」の種類別に販売されています。この場合、どんな違いが生じるのでしょうか。中井先生に尋ねてみました。

「同じ材料からできていても、ホエイは水に溶けやすいのですが、カゼインは溶けにくい。この性質により、ホエイは血中アミノ酸濃度の上昇が速く、したがってたんぱく合成率も高くなります。

一方、即効性には乏しいカゼインですが、たんぱく質の分解の方を抑制する効果はホエイより高いとされています。カゼインは吸収が緩やかなので、長時間に渡って血中アミノ酸濃度の上昇を維持できることがわかっています。

筋トレ後、短時間のタンパク質合成率は、ホエイ、ソイ、カゼインの順に高いとの報告があります。ただし、長期間にわたって筋力や筋肥大に差がでるかはわかりません。運動直後は吸収の速いホエイプロテインがスタンダードかと思います」
 

プロテイン「寝る前に」は?

粉末プロテイン、特にカゼインのプロテインを寝る前に飲む人もいますが、これは効果的なのでしょうか。中井先生はやや懐疑的です。

「睡眠中のノンレム睡眠(深い睡眠)、特に最初(入眠1時間後)は成長ホルモンがもっとも強く分泌され、血中濃度が高まることがわかっています。そのため、睡眠前に十分なたんぱく質を摂取してあることは、睡眠中のたんぱく質合成に有利になるでしょう。

ただし睡眠前の粉末プロテインのみの摂取は筋トレ後の摂取に比べて効果は小さく、睡眠前の多量のカロリー摂取はカロリー過多による体脂肪蓄積や消化器への負担につながります。粉末プロテインよりは、たんぱく質の豊富な食事をしっかり摂取して、寝ている間にそれがゆるやかに消化される方が望ましいでしょう」

このような理由から「睡眠」も筋トレの効果を最大限に発揮するためには大切な要素であることがわかります。深い睡眠をとり、成長ホルモンがもっとも強く分泌されるタイミングを逃さないようにしましょう。

粉末プロテイン摂取のタイミングとして「運動前」を挙げるメーカーもありますが、これも注意が必要です。運動の直前に粉末プロテインを摂取すると、それを消化・吸収するために消化吸収器官に血流が配分されます。しかし、運動中に血流が配分されてほしいのは全身の筋肉です。

このことから、運動前の粉末プロテイン摂取は運動のパフォーマンスを下げると考えられるため、現実的には運動後の摂取が望ましい、ということになります。結局のところ、基本は運動後の粉末プロテイン摂取、その後しっかりたんぱく質が豊富な食事摂取、ということになりそうです。
 

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