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大阪市民調査では、性的マイノリティーであるLGBTAの当事者に該当する人が「3.3%」いた一方、社会全体では「自分の周りにいない」と思う人が少なくありません。その理由の一つは性的マイノリティーへの誤解や偏見に由来する、カミングアウトの難しさです。

2019年の全国調査では、近所の人や同僚が同性愛者である場合は約3割が嫌悪感を抱くと回答、自分の子どもの場合は約6割に達しました。当事者にとって「打ち明けられない」社会は、どのような苦しみをもたらしているのでしょうか。最近になって親にカミングアウトした当事者の話を聞きました。(朝日新聞・朽木誠一郎)
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当事者を孤独にする「雰囲気」

「世の中とLGBTの接点をつくる」クリエイティブチーム『やる気あり美』編集長でゲイの太田尚樹さんは、現在は自身がゲイであることをオープンにしてメディアなどでも発信をしています。しかし、社会人になって働き始めても長らくは、周囲に自分がゲイであることは明かさなかったと言います。

「就職した企業は当時、挨拶みたいに『どう最近、女の子と遊んでる?』って聞かれるような体育会系の雰囲気のところでした。もちろん、悪気があったわけではないと思いますが、僕はそれが苦手で。ウソをつくのが得意じゃないんです。聞かれたような意味で女の子と遊ぶことはないから『いや、遊んでないです』って答える。そうすると『太田は真面目なヤツだな』って言われちゃうんですよ。別にそういうわけでもないんですけどね(笑)」

職場の飲み会で振られる話題は「彼女はいる?」「どんな人がタイプなの?」。当然、正直に伝えることはできず、誤魔化すしかありません。「あの環境で、自分がゲイであることを明かすことはできなかった」と振り返る太田さん。しかし、周りの人に隠し事を続けたまま生活することの心理的負担は太田さんにとって「絶望的だった」と言います。

「仕事をする上で、同僚とうまくやるためだとか、なんだかんだ“愛嬌”って大事じゃないですか。だけど僕は『どんな子がタイプなの?』とかプライベートなことを聞かれる度に口籠ってしまう。“よそよそしい”と思われてしまうんです。するとどんどん『真面目なヤツ』とばかり言われるようになって、上司に可愛がられている同期と比べてしまって、悔しかったです。これがずっと続くのかと思うと途方に暮れました」

誤魔化したり、場合によってはウソをついたりしながら、人に大きな隠し事をし続ける生活。「この地獄を生きるしかないのか」――ある日ついに限界が来て仕事を休職、その後、退職しました。

「もちろん、ゲイであることを隠し続けても大丈夫な人もいます。ただ僕はもともとウソをつくのが苦手ということもあり、細かいウソをずっとつき続けなければいけないストレスに耐えられなくなった。それに、やっぱり自分のことをちゃんと知ってほしいと思って。そうじゃない状況って、すごく孤独なので」

「単純じゃない」カミングアウト

太田さんはカミングアウトをすることを「世界線が変わること」だと表現します。「カミングアウトした方が良くなるとか悪くなるとか、そんな単純な話じゃないんです。ずっと隠して生きてきたことを、明日から隠さずに生きるというのは、コインの裏表のように生活も人生もガラッと変わってしまうこと。どちらが上とか下ではないです。だから、誰かに勧められることじゃない」(太田さん)。太田さん自身も、家族へのカミングアウトをしたのは最近になってからでした。

「カミングアウトにも段階があって、始めは本当に信頼している友達に。そこから少しずつ伝えてきました。僕の場合、家族はむしろ後ですね。今は、自分がゲイであることをオープンにしていますが、それも20代で悩んで悩んで、やっと決めたことでした。僕は悩み抜いた先で、『自分が恥ずかしい人間だ』とは思えなかった。だから、言うことにしました。今はカミングアウトによって起きる良いことも残念なことも、楽しんじゃってますね」

太田さんが悩んだのは“普通”の価値観とのズレだったと言います。もともとは「『家を建てて、子どもと犬がいて』みたいな生活」が「人生のゴール」だったのに、そこにたどり着けないことがわかってしまったから。「生きていき方がわからなくなってしまった」20代を経て、「新しい生き方」を自らの手で作っていくきっかけになったのが『やる気あり美』の活動でした。

自分がゲイであることを「ない方がよかったけど、あってよかった経験。結果的に、今の自分を作ったから」と表現する太田さん。ただし、「人によりますけどね」とも。「僕の友達のゲイに『自分がゲイってわかったとき、どう思った?』って聞いたことがあるんです。僕のときはわりと絶望したんですけど、その彼は『んー、オッケー!』って思ったと(笑)。ゲイだからとひと括りにはできないので」

それでも「自分の周りにはいないけど…」

太田さんは現在、企業のLGBT研修の講師をすることもあります。講義後の反応で時折、言われるのが「自分の周りにはいないので、勉強になりました」「うちの職場にはいませんが、注意するようにします」といった感想だそうです。太田さんはこれらに引っかかるものがあると言います。

「もちろん『いるのかもしれませんが』と付け加えて、『勉強になりました』『注意するようにします』とコメントをくださる方もいるんですが、明らかに不愉快そうに『自分の周りにはいないので』と言ってくる方もいます。

そういう方には、もしかすると『自分が“普通”だ』という自信があるのかもしれません。だけどそういう方が思う“普通”は『周りのみんなも(自分と)一緒だと思うから』という認識に由来する“普通”で、ある意味で『無個性なこと』なんですよね。『無個性、すなわち普通』というのはよく考えてみると変なことじゃないですか。個性やマイノリティー性は誰しもが持っていますから」

太田さんは「とは言え、好意的な人の方が多い」「セクシャリティーをオープンにするようになって驚いたのは、いろんな友人がこれまで隠していた話を僕にするようになってくれたことです」と続けます。

「あらためて『誰にでも事情があるんだ』と思うようになりました。セクシャリティーは事情というより性質ですが、多くの人が“普通”という鎖で、これ以上自分のことも、誰かのことも縛りつけたくないんだと思います。『一緒に自分も自由になりたい』そう願っている人もいるのではないでしょうか。

もし、どうしても『LGBTは周りにいない』と思いたい人には『いると思っても、大丈夫だよ』と言いたいですね。“普通”が社会を幸せにするのではなくて、LGBTが社会を不幸にするのでもなくて、本当はいろんな背景をもったみんなの夢や希望や愛情が社会を変えていくので、安心してください、と言いたいです」
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