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LGBT「会ったことない」と思う人に知ってほしい3つのデータ

出典: 『大阪市民の働き方と暮らしの多様性を共生にかんするアンケート』のサイト。

目次

LGBTなど性的マイノリティーの当事者は、自分の周りにいると思いますか? 「言われてみれば、自分もこれまで、LGBTの人と会ったことがない」とハッとした人もいるのではないでしょうか。でも、「会ったことがない=いない」は、大きな誤りです。

実際に、われわれの周りにはどれくらいの性的マイノリティーがいるのか。それを考えることで、差別をなくすきっかけになります。なぜ「自分の周りにはいない」という誤解が生まれてしまうのか。LGBTなど性的マイノリティーについて調査をおこなった、研究機関や大学の研究者らのチームの代表者に話を聞きました。(朝日新聞・朽木誠一郎)
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大阪市民調査でLGBTAは3.3%

性的マイノリティーの割合について「3.3%」という調査結果が、2019年11月に発表されました。国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおりさんが代表をつとめる「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チームが国の科学研究費助成事業の一環で行なった調査です。発表された数字にはさまざまな前提があるものの「自分の周りにはいない」ことが誤解であることを示す数字だといえます。

調査について説明します。これは、『大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート』をもとに得た結果です。この調査では、性的指向や性自認などを質問。無作為に抽出した大阪市内の18歳から59歳の1万5000人にアンケートを実施、4285人の回答(有効回収率28.6%)を集計・分析しています。

性的指向については回答者自身の認識をたずね、「ゲイ・レズビアン・同性愛者」が0.7%、「バイセクシュアル・両性愛者」が1.4%、「アセクシュアル・無性愛者」が0.8%。「決めたくない・決めていない」が5.2%、「異性愛者」は83.2%という結果でした。性自認のあり方については0.7%が「トランスジェンダー」に該当しました。

これら二つの設問をあわせて集計すると、LGBTは2.7%、アセクシュアルを含むLGBTAは3.3%という結果になりました。

研究代表者の釜野さおりさんは、今回の調査の目的を「人口全体に一般化できる形で、性的マイノリティーの当事者がどれくらいいるのかを把握し、性的マイノリティー当事者とそれ以外の人たちの心身の健康や経済状況の違いを統計的に比較することができれば、それを是正する施策を進めるための説得力のある根拠になる」と説明します。

なお、調査結果の発表後、「決めたくない・決めていない」はQ(自身の性を明確に定義していない人々)に当たるのではという指摘もありました。

この指摘に対しては、2020年3月に実施した別の調査(インターネット調査)によって、「決めたくない」には「質問の意味がわからない」人や、性自認が出生時性と同じで恋愛やセックスの相手が異性のみの人でも「自分に(「異性愛者」などの)ラベルをつけたくない」という人が含まれることを明らかにしました。これらをQと確定することはできないため、Qを調査するには今回の大阪市民調査とは別の設問を探っていく必要があります。

OECD諸国の調査では…

日本では近年、性的マイノリティーの割合について「13人に1人(7.6%)」という数字が多く使われてきました。

これは、民間の電通ダイバーシティ・ラボが2015年に実施したインターネット調査の結果がもとになっています。この調査は20〜59歳の約7万人を対象に「体の性別」「心の性別」「好きになる性別」の3つから、性的マイノリティを捉えています。

7.6%と3.3%という数字には開きがあるように思われますが、「これを単純に比較することはできません」と釜野さんは説明します。

人口に対する割合の推計には大阪市民調査のような住民基本台帳や選挙人名簿など人口全体を概ねカバーする名簿をもとにした無作為抽出による調査が必要です。電通ダイバーシティ・ラボのようなモニター型調査は調査会社にモニターとして登録している人が対象となっているため、その結果から人口全体のことを推測することはできません。また、電通ダイバーシティ・ラボの7.6%という結果には「その他」(3.8%)も含まれるため、その点も大阪市民調査の事例とは異なり、数字は大きくなるものと考えられます。

他の国ではどうなのでしょうか。2019年に発表されたOECDの『図表でみる社会2019 LGBT特集(Society at a Glance 2019 A SPOTLIGHT ON LGBT PEOPLE)』では、各国のLGBと自認する人の割合がアメリカで3.8%、イギリスで2.3%、ドイツで1.9%、フランスで1.8%、カナダで3.3%、オーストラリアで3.0%となっています。 TとAを含まない場合、大阪市民調査はOECD諸国の調査結果と近い値です。

「嫌悪感」20代でも3割だった調査

なお、性的マイノリティーが「自分の周りにいる・いない」という認識については、釜野さんも参加した2015年の全国意識調査(広島修道大学 河口和也 代表)があります。この調査では、職場の同僚、親しい友人、親戚や家族に性的マイノリティーがいると認識している人は全体でみても、性別でみても5〜6%でした。

これは住民基本台帳をもとにした無作為抽出の調査で、全国130地点の20歳から79歳までの戸籍上の男女を対象にし、アンケートを2600人に配布して1259人から回答があった(回収率48.4%)ものです。

若い人の方が「いる」という割合が多く、「同性愛者」「性別を変えた人(あるいはそうしようと考えている人)」のどちらか一方でも「いる」と回答した人は20代と30代では10%を超えていましたが、50代以上では2〜3%でした。

どちらも「いない」とした割合は20代では32.6%、30代では40%台で半数に満たないものの、60代では61.3%、70代では4分の3で、60代以上と50代以下の間に大きな差があることがわかっています。

また、2015年の調査では、身近な人のうち近所の人や同僚などの他人が同性愛者の場合には約40%、性別を変えた人の場合には30%台が嫌悪感を示しました。自分の子どもの場合は、同性愛者でも性別を変えた人でも、約70%が嫌悪感を示しました。

単純な比較はNG、調査には難しさも

大阪市民調査では、LGBTAの当事者が3.3%いるということがわかりました。2015年の全国調査では、年齢によって性的マイノリティーが「自分の周りにいる・いない」の数字に開きがあることもわかりました。

ただし、このような調査には限界があります。まず、大阪市民調査は18歳から59歳を対象におこなったもので、大阪市の全年齢層を含む人口、日本の18歳から59歳人口、日本の全人口等に一般化できるものではないこと。それを徐々に可能とするために、釜野さんのチームはさらなる研究を準備しているそうです。

また、無作為抽出によるアンケート自体の難しさもあります。無作為に抽出した人々から調査への協力を得ることは容易ではありません。「回答しなかった人の状況は知りようがなく、性的指向や性自認に関するアンケートであれば、それらの設問に正直に回答すべきか迷った人が、回答しなかったか、実際とは異なる回答をした可能性もあります」と釜野さんは説明します。

2015年の全国意識調査についても、11月29日に発表予定の2019年の調査結果では変化し、どの年齢層でも「いない」の割合は減少、40代では「いる」が7%から15%に、50代では2%から8%になっている、とのことでした。また、嫌悪感を示す割合についても、「職場の同僚が同性愛者だったら、嫌だ、またはどちらかといえば嫌だ」という割合は、2015年では42%でしたが、2019年では28%まで減少したそうです。

釜野さんは「そもそも、人々の性的指向や性別は複雑で、『ここまでが〇〇でここからが△△』というように簡単に定義できるものでもありません」「性的マイノリティーにかんする数字は『このように測定したらこれくらい』のように、すべて条件つきです。だからこそ、信頼できる調査を積み重ねて、全体を把握していく必要があります。今回の大阪市民調査はそのスタートではありますが、その結果の3.3%という数字や、海外の事例は性的マイノリティーが『周りにいない』とは言えないことの一つの根拠になるかと思います」と話します。

「周りにいない」の暴力性

まず大事なのは、調査によって数字を正確に把握すること。その上で、様々なデータは、性的マイノリティーが「周りにいない」と思うことが誤解であり、それが当事者を苦しめている、という問題の存在を示しています。

身近な人に性的マイノリティーがいるとわかった場合、「嫌悪感」を示す人が一定数いる社会で、当事者がそう簡単に「自分が性的マイノリティーであること」を明かせない事情は想像に難くありません。「自分の周りにいない」という主旨の発言は「自分が打ち明けられていない」ということと裏表であるとも言えます。また、性的マイノリティーであることを「打ち明けるべきこと」と扱う考え方自体にも問題があるでしょう。

大阪市民調査でわかった3.3%という結果。大阪市について言えば、オフィスのフロアに100人の同僚がいるとして、約3人は性的マイノリティーであると考えることができます。この数字がいつか日本の全国規模の調査によって変動したとしても、OECD諸国の全国調査の結果をみる限り、少なくとも人が20年30年と生きる中で、性的マイノリティーが周りにいなかったと考えるのは無理があるでしょう。

自分の身の周りにも「いる」性的マイノリティーの人たち。それを「いない」と判断して顧みない姿勢はある種、多数派であるがゆえの暴力性をはらんでいます。

「自分には打ち明けづらい悩みがあるのかもしれない」と思える想像力は、家庭の問題や心身の健康などにおいても、その重要性は変わりません。その割合が何%であれ、たしかにこの社会で誰かを生きやすくしてくれるはずです。

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