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連載

#19 WEB編集者の教科書

月間225億PV、Yahoo!ニュースが拡張する「編集と情報」の未来

トピックス編集からコンテンツ制作、ウェブサイトの改善まで

「Yahoo!ニュース」編集部の高橋洸佑(たかはしこうすけ)さん
「Yahoo!ニュース」編集部の高橋洸佑(たかはしこうすけ)さん

目次

WEB編集者の教科書
【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

情報発信の場が紙からデジタルに移り、「編集者」が担う仕事も多種多様になっています。新聞社や雑誌社、テレビ局などはウェブでも積極的な情報発信をしており、ウェブ発の人気媒体も多数あります。また、プラットフォームやEC企業がオリジナルコンテンツを制作するのも一般的になりました。

情報が人々に届くまでの流れの中には、どこに編集者がいて、どんな仕事をしているのでしょうか。Yahoo!ニュース、編集プロダクション・ノオトとの合同企画『WEB編集者の教科書』プロジェクト。第19回にお話を聞くのは、国内最大級のニュースプラットフォーム「Yahoo!ニュース」編集部から高橋洸佑さんと涌井瑞希さん、井上芙優さんの3名。1日に配信される約6000本ものニュースのなかから100本をピックアップする「Yahoo!ニュース トピックス編集」をはじめ、Yahoo!ニュースならではの仕事に迫ります。拡張し続ける編集の意味、そして編集者の未来とは?(取材・執筆=有馬ゆえ、編集=鬼頭佳代/ノオト))

「Yahoo!ニュース」における「編集」の仕事
・公共性と社会的関心の高いニュースを合議制で選ぶ
・切り口をチューニングしてニッチなネタを広く伝える
・今ある資源を生かして「ニュースの届け方」を作る

24時間体制で1日6000本のニュースをウォッチ

2020年4月、月間ページビュー(PV)が過去最高の225億PVを記録した日本最大級のプラットフォーム「Yahoo!ニュース」。新聞・通信社、雑誌、TVなど600以上のメディアによる記事や映像、また個人の書き手が執筆する記事と、多種多様なニュースが1日約6000本配信されています。

Yahoo!ニュースの編集部に在籍する編集者は、25人。その主な仕事は、トップページに掲載される「Yahoo!ニュース トピックス」を編集する、「トピックス編集」です。シフトによる交代制で、1日約6000本のニュースを24時間くまなくウォッチし、Yahoo!ニュース トピックスとして100本あまりを選び出します。

Yahoo!ニュース トピックスはPC版では8本、アプリでは6本掲載されている
Yahoo!ニュース トピックスはPC版では8本、アプリでは6本掲載されている 出典:Yahoo!ニュース

「トピックス編集では、記事の選定は個々で行いますが、掲載するかどうかは合議のうえで決定します。シフトに入った4~5人の編集者のそれぞれが『公共性』と『社会的関心』の面から取り上げるべきニュースを選び、Slack上で報告。異論があった場合は議論をして、掲載するか否かを決めています」(高橋さん)

2015年ヤフー株式会社に新卒で入社した高橋さん。以降、Yahoo!ニュース トピックス編集として勤務。ミレニアル世代向けの企画などにも携わる=栃久保誠撮影
2015年ヤフー株式会社に新卒で入社した高橋さん。以降、Yahoo!ニュース トピックス編集として勤務。ミレニアル世代向けの企画などにも携わる=栃久保誠撮影

掲載にふさわしいと判断されれば、ニュースにつける13文字の見出しを考え、「ココがポイント」としてウェブ上の関連情報を要約して付記。社内の専用ツールで入稿後、別の編集部員による校正を経て、公開に至ります。

校正の際、担当者は誤字脱字だけでなく、誤読を招かないようにと見出しや「ココがポイント」で引用する情報の妥当性もチェック。編集部全体で、どのニュースをどういった形で伝えるのがより良いか、常に検討しています。

「1つのニュースのセレクトから編集、掲載までにかかる時間は、長くても30分程度でしょうか。どのニュースを取りあげるか考えたり、他の編集者の選んだニュースをチェックしたり、校正をしたりと、業務時間はバタバタと過ぎていきますね」(高橋さん)

コロナ禍で全社員のリモートワークを推奨するヤフーは、訪問時も人影がなかった。Yahoo!ニュース編集部も自宅から作業を行っている。=栃久保誠撮影
コロナ禍で全社員のリモートワークを推奨するヤフーは、訪問時も人影がなかった。Yahoo!ニュース編集部も自宅から作業を行っている。=栃久保誠撮影

Yahoo!ニュースの強みを生かしたコンテンツ作りとは

Yahoo!ニュースの特徴は、日本最大規模のユーザーを抱えていること。巨大なニュースプラットフォームの編集者が日々の業務で培っているのは、情報の価値判断能力だと井上芙優さんは指摘します。

「トピックス編集は、日本中のユーザーに向けて届けるニュースを選び、わかりやすく伝えるのが目的。日々、ニュースの価値を判断して選び、見出しと関連情報を編集していかに届けるかを試行錯誤し、そのフィードバックがデータとして明確にわかる。そのため、全国のユーザーが何に興味・関心を持ち、どうしたらニュースを受け取ってもらいやすいのか、肌で覚えることができるのです」(井上さん)

日本中のユーザーが何を求めているのかを知っているのは、Yahoo!ニュースの大きな強み。Yahoo!ニュースオリジナルのコンテンツ制作にも、それは生かされています。

Yahoo!ニュースでは、他のプラットフォーマーとの差別化を図るため、2015年からオリジナルコンテンツを展開している。
Yahoo!ニュースでは、他のプラットフォーマーとの差別化を図るため、2015年からオリジナルコンテンツを展開している。 出典:特集 - Yahoo!ニュース

例えば、ニュースを配信される媒体社とタッグを組んでオリジナルコンテンツを作る「共同企画」。編集権は媒体社が持ち、Yahoo!ニュースは企画作りのパートナーとして参加します。

「共同企画では、パートナー媒体の特性や目的、課題に合わせて、より多くのYahoo!ニュースユーザーに届けるにはどうすればいいかを考えるのが仕事です。ユーザー属性ごとの数字的なデータ、あるいは編集者が日頃から抱えている問題意識を提示しつつ、企画の切り口や見出しの表現を提案します」(高橋さん)

=栃久保誠撮影
=栃久保誠撮影

例えば、静岡新聞との共同企画では、「駿河湾産サクラエビの記録的不漁」というテーマを全国に届けることが目的に掲げられました。単なる一海産物の不漁にとどまらず、環境汚染や不法投棄、水利権問題にまで話が及ぶトピックです。

しかし、熱心に取材を続ける静岡新聞の思いとは裏腹に、地域内でしか議論が行われないという課題がありました。Yahoo!ニュース編集部では、全国的には県内ほどにはサクラエビが知られていないことなどを指摘し、より広く伝わるためにキーワードを説明することから始めたらどうかといった提案を行いました。

また、30~40代の女性読者からあつく支持されている雑誌『レタスクラブ』との共同企画では、年齢、性別を越えて家事にまつわる固定観念からの「解放」を目指し、「#ねばからの解放』をテーマに掲げました。

出典:Yahoo!ニュースの読みもの - レタスクラブ

「『レタスクラブ』と打ち合わせを進めるなかで、そもそも家事の従事者とされている女性読者以外の層に情報を届け、広く社会全体で考えることが重要ではないかと思いました。そこで、記事の内容は読者に向けつつも、企画テーマを年齢や性別の異なるユーザーにも刺さるワードで作るなど、検索データを元に企画初期の段階から提案をしていきました」(高橋さん)

ユーザー属性に関する知見は、Yahoo!ニュース内の課題解決にも生かされています。それが、平成初期生まれのミレニアル世代をターゲットにした取り組み「ミレニアル・プロジェクト」。

現在、Yahoo!ニュースの主なユーザー層は30~40代です。同プロジェクトでは、若年層ユーザーの掘り起こしという長年の課題に取り組みつつ、既存の読者にも愛される記事作りが目標。編集者は企画、編集の業務を担い、Yahoo!ニュースの独自コンテンツとして配信しています。

=栃久保誠撮影
=栃久保誠撮影

「特に世代ごとに興味関心が細分化される傾向があるエンタメジャンルで、広い世代に向けてどんな記事作りができるかを模索していくことになりました」(高橋さん)

企画作りのヒントとなったのは、見出し作りを通して知った「読まれる記事」の特徴でした。記事の語り手(だれが)と語られる内容(何を語るか)の掛け合わせに意外性があるほど、記事は多くの人に届くのです。

出典:水嶋ヒロはいま何をしてるのか?――表舞台から姿を「消した」理由、バッシング、家族を語る(Yahoo!ニュース 特集)

「水嶋ヒロはいま何をしてるのか?――表舞台から姿を『消した』理由、バッシング、家族を語る」ならば、若い世代の興味をひく水嶋ヒロという取材対象に、既存ユーザーの興味をひく「家族」「経営」といったテーマを掛け合わせ、数々のヒット記事を生んでいます。主に「語り手」に惹かれるミレニアル世代と、主にテーマに惹かれる30代、40代のユーザーのどちらにも響く記事を実現していったのです。

「届け方を作る」という新しい編集のかたち

Yahoo!ニュース編集部には、トピックス編集以外の職務に当たるメンバーもいます。ニュース企画部の涌井瑞希さんは、トピックス編集で培ったスキルを生かし、ウェブページ改善のディレクションに従事。「情報の届け方を作ることも編集の仕事の一つ」だと話します。

出典:Yahoo!ニュース

「直近では、見出しをクリックすると表示される『ココがポイント』の改善を行いました。トピックス編集の際、編集者はここに記事の関連情報をまとめますが、テキストリンクだけでなく、Q&A形式で掲載したり、関連記事の図版などを掲載したりできるように変更し、伝わりやすさの向上を目指しました」(涌井さん)

そのほか、Yahoo!ニュースの一機能である「みんなの意見」も「ココがポイント」へ掲載可能に。トピックスの関連した問いに対する回答をグラフで表示できるようになりました。

「トピックス編集では『よりよい選択のきっかけとなるニュースを早くわかりやすく届ける』をコアバリューに、有益なニュースを硬軟織り交ぜてピックアップしています。ただ、政治経済など難しいニュースはどうしても伝わりづらい。『ココがポイント』で補足情報を追加し、理解を手助けできればという狙いがあります」(涌井さん)

コロナ禍では、「みんなの意見」を活用した特集サイト「私たちはコロナとどう暮らす」を開設し、不安が広がる中にも希望が見いだせるような企画を打ち出しました。コロナ禍のニュース体験はネガティブなものになりがちですが、ポジティブに暮らすためのヒントとなる記事を提供しています。

出典:私たちはコロナとどう暮らす

「ユーザーに寄り添うべく、取り上げる内容は『みんなの意見』で、一つひとつ声を募りながら設定していきました。リアルタイムに状況が変化するテーマだったので、ユーザーの声から生まれた記事を公開する際は、そのテーマに関連する『みんなの意見』をあらためて集め、その結果を付記することもありました」(涌井さん)

ヤフーという大企業で編集者が働くメリット

現在、25人が在籍するYahoo!ニュース編集部。中途採用で入社したメンバーは20人ほどで、そのバックグラウンドは新聞社や通信社、テレビ局、テレビの制作会社、映像系の制作会社などのメディア関連が大半だそうです。

=栃久保誠撮影
=栃久保誠撮影

2012年に時事通信社から転職した井上芙優さんも、その一人。動機となったのは、「ニュースを読者にきちんと届けられる場に行きたい」という思いでした。

「前職では、現場取材をして記事を書く記者職にやりがいを感じる一方、若者のニュース体験の場が紙からインターネットに移行していく渦中で戸惑ってもいました。いくらいい記事でも、読者に届き、次なるアクションにつながらないと意味がないのではと思い悩んでいたのです」(井上さん)

他方で、新卒でYahoo!ニュース編集部に入った高橋さん、涌井さんも、多くの人にリーチできることを魅力に感じ、入社を志望したそう。さらに井上さんは、紙とウェブの違いもさることながら、ウェブ業界の大企業で編集者として働くメリットも感じています。

「Yahoo!ニュースというプラットフォームは、ヤフーという多様なサービス、媒体を抱える大きな会社のなかで、編集だけでなくエンジニアやデザイナー、営業など、さまざまな職種が関わり合いながら作られています。かなり特殊ですが、編集者として多くのチャンスに出合える環境だなと感じます」(井上さん)

=栃久保誠撮影
=栃久保誠撮影

この環境が編集者の幅を広げるだけにとどまらず、思わぬ未来を運びます。井上さんは2020年4月、Yahoo!ニュースとは別のコンテンツ制作の部署へ、サービスマネージャーとして異動しました。

「自分がマネジメントの仕事まで経験できるなんて、前職では想像もしていませんでした。編集スキルを生かして別部署で組織作りをしたり、人事や採用をしたり、サービスを作ったりと、多様なキャリアパスを描けるのが新鮮です。ニュースの切り口や見せ方、伝え方についての知見は、Yahoo!ニュース以外のコンテンツづくりにも役立っています。また、ユーザーに何かを届けるという意味では、組織や人、お金を編むことも、広義の『編集』なのかもしれません」(井上さん)

現在、井上さんは育休中。4月時点ですでに妊娠がわかっていましたが、「途中で抜けることになるけれど、異動してみませんか」と告げられ、驚いたそうです。ライフイベントが当然あるものとして受け止められている労働環境は、マスコミ業界、ウェブ業界ではまだまだ珍しく、ヤフーという体力のある企業ならではといえるでしょう。

「多忙なことが当たり前だったメディア業界ですが、多様な働き方が実践されていくなかで新しい基準を作っていけたらいいですね。子育てをしながらキャリアを積むという意味でも、編集者の未来を開拓できたらと考えています」(井上さん)

「届ける」を追究して拡大する「編集」のフィールド

=栃久保誠撮影
=栃久保誠撮影

日本におけるインターネットニュースの歴史のなかで、ずっとトップを走り続けてきたYahoo!ニュース。もともと災害に備えて国内に複数拠点を持っていましたが、コロナ禍では完全リモートワークへ移行し、働き方にも変化が生まれました。

一方で、編集者としてのマインドに変化はないと高橋さん、涌井さんは明かします。現役でYahoo!ニュースに関わるお二人は、今後どのように編集の仕事に取り組んで行こうと考えているのでしょうか。

「今、あらゆるニュースにおいて、ユーザーの興味関心が細分化しているのを感じます。とはいえ、Yahoo!ニュース トピックスは良くも悪くも多くの人に届いてしまう場所。その価値を前向きに捉え、『より広く届ける』を突き詰めていきたいですね」(高橋さん)

ユーザーデータという資源もさらに有効活用していきたい、と高橋さん。今後は数字的なデータを用いて編集業務を行えるよう、編集以外の職種とのより細かな連携も視野に入れていると話します。

「特に、検索で得たデータの分析は、まだまだ手つかずになっています。あるワードで検索をした人たちが、実はこういうことにも関心があるといった傾向を導き出し、共同企画などに生かしたいですね」(高橋さん)

=栃久保誠撮影
=栃久保誠撮影

他方で、涌井さんは「届け方を作る」という視点で、編集という仕事の幅を広げることに意欲を見せます。

「ディレクションスキルの向上はもちろん、編集部での経験を生かしてディレクションのできる人材を育成したり、ともに制作をしてくれるエンジニアやデザイナーを増やしたりしながら、より幅広い業務に携わっていきたいです」(涌井さん)。

アプリの新しい機能を作る場合、機能の名称や説明文、ストアでの紹介文など、ユーザーに届けるために重要な言葉の仕事はたくさん存在します。どれも「より深く届ける」意味では欠かせない役割です。

初めは、世にあふれる数多くのニュースをピックアップし、目の前のユーザーにただ届けることが仕事だったYahoo!ニュース編集部。そこで得た経験やデータを生かして行われてきたのは、埋もれがちなニュースの価値を上げること、そしてより多くのユーザーにより広く、深く届けることです。

価値ある情報が届くべき人たちのもとへ届き、理解される。日本で最大的規模のユーザーを抱えながら、この普遍的な命題に多角的に取り組んできた編集者たちは、この先「編集」をどのように拡張していくのか。その未来は、編集者の道しるべになっていくのかもしれません。

「Yahoo!ニュース」編集部の教え
・公共性と社会的関心の高いニュースを合議制で選ぶ
・切り口をチューニングしてニッチなネタを広く伝える
・今ある資源を生かして「ニュースの届け方」を作る

 

さまざまなジャンルのメディアや会社で活躍する、WEB編集者へのインタビューを通して、WEBメディアをとりまく環境を整理し、現代の“WEB編集者像”やキャリアの可能性を探ります。Yahoo!ニュース、ノオトとの合同企画です。毎週水曜日配信。

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