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連載

#6 30歳独身、無職。本屋さんになる。

私がビジネス書を読まなくなった理由、心地よい読後感より大事なこと

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

目次

30歳独身、無職。本屋さんになる。
新型コロナウイルスが私たちの生活に大きな影響を与えた2020年。起業と会社員のパラレルキャリアを歩んでいた森本萌乃さん(30)は、人生初の「無職」を経験しました。「2020年、思ったよりツラくない?」とぶっちゃけながらも、書店主になる夢に向け、現在はオンライン書店のオープンを目指し全力疾走中です。コロナ後に起こったこと、考えたこと、行動に移したこと……。現在進行形の森本さんの今をつづったコラム「30歳独身、無職。本屋さんになる。」。第6話は、ビジネス書からのインプットをやめ、物語の世界で学んだこと。不要不急な活動を制限されたなかで光を見せた物語の力についてです。
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今年、コロナで本は売れた!

コロナの影響でおうち時間が増えたからか、単にやることがなくなったからか、本の売り上げは今年増加しています。全国出版協会・出版科学研究所によると、今年上半期の紙と電子版を合わせた本と雑誌の売り上げは、昨年同期に比べ2.6%増えました。

かと言って、これを契機に本が売れ、書店には明るい未来が待っているのかというとそういう訳ではもちろんなく。動画時代の到来と反比例するように、日本の読書人口や書店はじわじわと減り続け、読書は窮地に立たされています。

そんな時代に正しく背を向くように、私はもうすぐ書店を開きます。

書店主への憧れはコロナ以前から抱いていた夢ですが、その夢を現実へと突き動かしたのは、間違いなく2020年という時代が関係していると思います。

今年7月に閉店した静岡市の戸田書店静岡本店。書店調査会社のアルメディア(東京)によると、書店数は2000年の2万1654軒から18年には1万2026軒に減った=宮川純一撮影
今年7月に閉店した静岡市の戸田書店静岡本店。書店調査会社のアルメディア(東京)によると、書店数は2000年の2万1654軒から18年には1万2026軒に減った=宮川純一撮影 出典: 朝日新聞

私がビジネス書を読まない理由

少し話はそれますが、私は2013年に広告代理店で社会人としてのキャリアをスタートさせて以来、会社や立場は変われど自分のことを「プランナー」と名乗っています。

プランナーの仕事は、企画とローンチの繰り返し。

楽しい瞬間は、企画を思いついたときと世に出すときだけで、そのほかの準備はほとんど不安と孤独でいっぱいなのですが、毎度ローンチを迎える度に懲りずに新しい企画に取り掛かる自分のことが結構気に入っているので、自身の職業を「プランナー」と呼ぶことに決めました。

プランナーとして少しだけ自信が持てるようになったきっかけは明確で、あることをやめたからです。

ビジネス書を読むのをやめました。

心地よい読後感に感じた危険信号

ビジネス書や自己研鑽の本って、読み終わった後ものすごく気持ちよくなりませんか?笑

すでに実績を残した著者が、自身の経験を丁寧に体系立てて書いてくれて、おまけにコツも教えてくれる。著者の知識や実績に励まされて、明日から何かできそうな気がする……。

この「心地よい読後感」こそが私には危険信号でした。

自分は何もしていないのに、誰かの成功を共有してもらっただけでその体験が自分のもののようになる感覚。
何も生み出していない私がこのままビジネス書に触れ続けると、「ぽさ」しか生まない気がしました。

私はプランナーとして、「まだ感じたことのない気持ち」「言葉ならない感情」にもっともっと向き合いたい。

ビジネス書のインプットは、娯楽として割り切れる人にはいいけれど、私には時に強烈すぎて思考やアイディアごと引っ張られてしまうと気付きました。
以来、明確に学びたいテーマや誰かの推薦がない限り、極力ビジネス書を読まないことに決めています。

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

全ては物語から。ビジネスも生き方も、フィクションに教えてもらった。

ビジネス書を遠ざけるようになってから、それまで以上に物語の世界に飛び込みました。

そこに書いてあることは全てフィクション、現実には起きていないことだらけです。すなわち、こういう語り方が面白い、とか、こうなったら平凡なこともドラマになる、とか、人の心を動かすエッセンスが凝縮されています。

物語にたくさん触れることで、日本語の楽しさも知りました。
一つ一つの感情を豊かな言葉で伝えることがどれほど楽しく、そして難しいかを知ったことで、咀嚼だらけの使いやすい現代語たちはなるべく使わないよう争うようになりました。言葉に説得力のある人になりたいと、最近は強く感じています。

そして何より、一度きりの自分の人生の中で、他人の人生の機微までのぞかせてもらうような物語の追体験。これは企画を考える際の一番のアイディアの源です。
どんな企画書のユーザー像やペルソナ像よりも、フィクションの登場人物は具体的で赤裸々だからです。

私を支えてくれる物語の力。
いつか書店を開くなら、取り扱う本は絶対に物語とエッセイを中心にすると決めてきましたが、今年、コロナの影響で図らずも本が売れたと聞き、その決断はより揺るぎないものになりました。

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

不要不急を削ぎ落とした2020年

今、世界中が不要不急を求めています。

エンタメはオンラインで楽しめるけれど、私たちは知ってしまいました。
リアルってすごい。全然違う!

挨拶で触れ合うことすら禁止された2020年。
ソーシャルディスタンスが解除されたら、世界中はこれまで以上に握手をしたりハグをするのかなと、道ゆくマスク姿の人々を見て思います。

コロナで本が売れたのは、そんな不要不急を禁止された私たちに残された、数少ない不要不急だったからじゃないかというのが、私の持論です。

本は、これからも爆発的には売れないと思います。
ただ、これからテクノロジーの進化がもっと早まって、便利さと快適さであふれる未来の世界がやってくるとした時、それは多分、今年世界中が感じている「不要不急」を求めるムーブメントと似た動きが起こると感じました。

便利で快適な未来の世界。
素敵な人と共有できる時間が増えたり、新しいことを考えるクリエイティブな時間が増えると思います。

それは素晴らしいことに思える一方、私のような独身無職30歳は、暇を持て余し、ぼーっとする時間が増える気もします、笑。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の傍ら、そんな未来の有り余る時間の楽しみ方を考えたり、余暇の楽しみを絶やさず継続するサービスもまた、私たちの生活にとっては欠かせないテクノロジーの進化の一部であると感じた今年、私はやっぱり書店を開きたいと改めて強く思ったのでした。

なんで今書店?この問いには私自身何度もぶつかっているし、今も答えはありません。
ただ現時点で出した答えは、書店という不要不急、さらには物語という不要不急を信じたいということです。


次週、いよいよ最終回。そして書店もオープンです。

最終回!第7話「ついに開店。みなさま、Chaptersでお会いしましょう。」は12月2日公開です。
 

新型コロナウイルスの影響で人生初の「無職」を経験した森本萌乃さん(30)。現在は書店主になることを目指し、オンライン書店のオープンに向けて全力疾走中です。失業からこれまでの日々を綴ります。

森本萌乃 1990年東京生まれ。株式会社MISSION ROMANTIC代表。
2013年に新卒で広告代理店に入社後、外資とスタートアップへの二度の転職を経験、スタートアップ企業在籍中に自身の会社である株式会社MISSION ROMANTICを2019年創業。パラレルキャリアで起業と会社員を並行し、2020年より自分の事業へ一本化。2020年中に自身の新サービスであるオンライン書店のオープンを目指す。

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