連載
#43 「見た目問題」どう向き合う?
「その髪色じゃ雇えない」アルビノの私が抱く「見た目採用」への疑念
「ふつう」と違う外見は、働く上で不利ですか?
生まれつき髪や目の色が薄い、遺伝子疾患アルビノの雁屋優さん(25)には、長年抱いてきた悩みがあります。就職の面接で、外見に過度な注目が集まることです。「その髪色では雇えない」。企業の担当者からは、そんな理由で不採用にされ続けました。ところが最近、「履歴書から顔写真をなくそう」という趣旨の署名活動を知り、社会の変化を感じたといいます。容姿にこだわらない、平等な採用活動の実現に必要なこととは何か? 雁屋さんに、思いの丈をつづってもらいました。
履歴書から写真欄が消えるかもしれない――。今年9月にネット上で始まった署名活動「履歴書から写真欄もなくそう」キャンペーンの情報を見て、私はうれしくなった。
発起人の一人・矢吹康夫さんは、生まれつき髪や目の色が薄い遺伝子疾患・アルビノだ。「すべての人が、外見ではなく、能力で公正に選考されるために、履歴書の写真欄をなくしましょう」。矢吹さんはウェブサイト上で、そう訴えていた。
矢吹さんと同じく、アルビノ当事者である私にとって、この動きは朗報だった。就職活動などの面接で、見た目が他人と異なる点を指摘されるうち、「履歴書の写真のせいで落とされているのではないか」という疑念を深めてきたからだ。
しかし迷わず賛同し、署名した一方、こうも思った。「これで、本当に問題が解決するのだろうか」と。
「その髪の色では雇えない」
「黒染めするなら雇える」
私は、これまで受けてきた企業の面接で、採用担当者からそんな言葉を聞いてきた。こうした外見に関する差別は、対面でなされることが大半なのだ。
どうせ見た目を理由に落とされるなら、早い段階であった方が労力が少なくても済む――。そう考え、履歴書を送る前に髪の色などを理由に落とされないか、企業側に電話などで確認するようになった。
たとえ書類選考に通りやすくなっても、面接で外見を理由に落とされてしまう。それなら、履歴書の段階で落とされた方がダメージは少ないかもしれない。そう考えることもあった。
だからといって、このキャンペーンには意味がないのだろうか。私は、そんなことはないと思っている。
今回のキャンペーンが始まったとき、インターネット上では、様々な反応が起こった。いくつかに目を通したところ、顔によって差別されてきたと感じている人々の共感の声以外に、否定的な意見も見られた。
その多くは顔写真をなくし、現状を変えることに対する抵抗感を示す内容だったが、「容姿を武器にしてきた人もいる」との意見に触れたときは驚いた。そんなことができるのは、一握りの人々だ。
もちろん、容姿が重視される職業があるというのは、否定しない。だが、世の中の仕事のほとんどに、見た目は関係ないのではないか。
適性や能力でのみ、採用の可否は決められるべきだと思う。だからこそ適性検査を行い、面接し、学歴や職歴・資格を確認する。そこで容姿を見る必要はあるのだろうか。
先日、ユニリーバ・ジャパンが採用活動において顔写真などいくつかの項目を削除すると発表したことは記憶に新しい。画期的だと話題になった。
私自身も、見た目に頼らない採用を体験したことがある。現在就いているライターの採用では、顔写真を必要としないウェブ上の応募フォームに入力し、面接まで進んだ。必要になったのはポートフォリオの提出で、顔写真は求められなかったのだ。
もう一つ、大事なのは、「落とされた側」がどう感じるかだ。私は、顔写真を必要としないエントリーフォームを採用している企業数社に応募したことがある。残念ながら採用されなかったが、こういった企業の選考に落ちた際には、「見た目で落とされたのでは」という疑念は当然ながらわいてこなかった。
それは、エントリーフォームに表れる〝外見で判断しない〟という「採用する側」の意識を感じられたからだと思う。
今の仕事において、私が見た目による差別を受けなかったのは、顔写真が必要ない応募フォームのおかげだろうか。それは、違うと思う。
むしろ応募フォームをつくる側、つまり採用担当者の側に、「外見を選考の対象としない」という意識がしっかりあったからだろう。だからこそ、私が経たような採用プロセスが出来上がったのではないか。
本当に大事なのは、容姿によって選考してはならないのだという意識が、企業の採用担当者の間のみならず、社会全体にまで広がっていくことだと考えている。
その前段階として、履歴書から写真欄が消えることには、一定の意味がある。履歴書で問うてはいけないものが明文化されれば、「顔で採用の可否を決めるのはいけないことだ」という認識が、今よりもっと浸透するだろう。
今回のキャンペーンを通じて、「顔差別」が完全に消えるとは言えない。でも、その解消に向けて、一歩進むことは確実だ。私はこの変化を後押ししたい。
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